百鬼 喜劇の演者
ワイン色のベッド。石造りの暖炉。窓から見える白い景色。
私が覚えている限り、これが最初の記憶でした。
「おはよう、我が娘よ。」
そう言って白髪で貴族のような格好をした
背の小さい青年が歩いて来た。首には
包帯が巻かれていた。
「気分は良いよね。」
その人。父は淡々と話しかけてくる。
確かに気分は良かった。
(何を基準に言えば良いか分からないが。)
「君も目が覚めたことだし、
今年は楽しい年になるだろう。」
父は嬉しそうだった。
「今から夕飯なんだ。
着替えたら下に降りて来なさい。」
そう言って部屋を出て行った。
父に言われるがままにクローゼットを開け、
適当に服を取り出し服を着た。
この部屋には鏡がない。父は間抜けなのか。
女の子の部屋には鏡が必要なのに。
ちょっと可笑しな私の父と二人暮らしだった。
そんなことを思いながら着替えを済ませ、
下の階に降りて、食卓の席についた。
そしてだされた食事にかぶりつき血を吸った。
そこで一つ思い出した。私は一度死んでいた。
まぎれもない鬼劇の始まりの記憶である。