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王の道と王殺し  作者: 茶虎
第一章 逃避行
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1-10  コプラ

休暇、仕事の期末進行等で、気がつけば前回の更新からひと月も経過してしまいました。ほかのことに気を取られると書けなくなる自分が情けなくなってきます。

「それで、わたしになにをお望みですか?」


 アクセルの目の前に座るアンソニーは、初対面の時とはいささか違った、探るような目で彼を見つめる。アクセルはその視線をあえて無視してニッコリと笑ってみせた。


「仕事の紹介を受けたいのですが、この国に来たばかりのわたしとしては、あいにくなんの仕事の実績もありません。困ったことがあれば相談を、と言っていただいたのを思い出しまして」




 オルランディアには「コプラ」という組織がある。雑用から荒事あらごとまで、人手が臨時に必要になったものが適当な人物の紹介を依頼し、仕事を求めるものがそこにつなぎを求める。職業紹介所ともいえるが、一部の依頼を除いては単発の仕事が多く、荒事の比率も高い。手っ取り早く金を稼ぐには向いているが、腰を落ち着けて生活するための糧を得ようとする者が頼るにはいささか不向きな組織である。


 人手が必要な者は、具体的な仕事と必要とする人材を成功時の報酬とともにコプラに伝える。適当な人物をコプラが紹介し、対象となった仕事が完了したときに、コプラは予定報酬額の二割を徴収する。仕事を求める者はコプラに登録して紹介を待つか、公開されている依頼の中から適当なものを選ぶ。


 登録にはオルランディア銀貨一枚が必要で、三十日間有効である。アクセルがパノバに到着してから使っていた宿はいずれも標準的なランクだったが、一泊が銅貨五枚、二泊で銀貨一枚ほどであった。三十日で二泊分の宿代というのは手持ちの金の乏しいものには多少厳しいが、身元の確認が比較的緩いことを考え合わせると、登録者を最低限選別するためにやむを得ない、ということであろう。ただ、仕事の紹介は金を払っている間しか受けられないが、いちど登録をしたものの実績はそのままコプラが保存し、次に登録をした際には実績として仕事の紹介において考慮される。逆に言えば、最初の登録をしたばかりのものは、実績ゼロとしてそれなりの仕事の紹介しか受けられない。




「仕事の紹介をお望みですか?」


 トニーの視線は鋭いままだ。アクセルはその視線を、アンソニーがアクセルの器を見極めようとしているものだと受け止めた。


「いえ、まだまだこの街で右も左もわからないわたしが、いきなりトニーさんのお手伝いのようなことを出来るわけもありません。コプラで紹介してもらうつもりです。ただ、あそこで実績が全くない状態からはじめる、と言うのも、わたしのような流れ者にはいささか気長に過ぎます。困ったことがあったら相談を、とおっしゃっていただいたのを思い出しまして、ひょっとしたらトニーさんになにか便宜を図ってもらうことが出来るのでは、なんてムシのいいことを思いついてしまった次第です」


 アンソニーはそこではじめて視線を緩めた。


「これはまた、微妙なことを思いついたものですね。コプラは独立性の強い組織ですし、なかなか特別な配慮はしたがらないんですがね」


「面目ありません」


 そう答えつつ、アクセルは自分の期待する方向にアンソニーが反応してくれたことを感じ、内心で安堵した。




「コプラへの登録ですか? そりゃ難しくはありませんが、最初はほとんど実入りのない仕事しか出来ませんぜ? 実績を積んで、それだけで生活できるぐらいの仕事が舞い込んでくるようになるまでにはずいぶんかかりますよ? どうしても仕事が必要なふところ具合でなければ、もう少し様子を見た方がよくないですかい?」


 コプラから紹介を受けて仕事をしようと考えていることをアクセルがゲドに伝えると、ゲドはあまり良い顔はしなかった。


「いつまでも、と言うわけにはいかないけど、金の方はもうしばらくはなんとかなるね」


「だったら……」


「そろそろ、もう一段この街に踏みこんでみようと思ってね。いつ追っ手が来るかわからないし、ぼくにはそんなにたくさん時間はない。だけど今のままじゃ、これ以上ブラブラしていても時間を無駄にするだけだ。そして、ぼくみたいなよそ者が踏みこむには、正攻法でコプラ経由で仕事をするか、ゲドが昔そうしたようにアンソニーを頼るかのどっちかだろ?」


「そりゃそうですがね……。コプラで人探しや薬草取りなんかを紹介してもらうつもりですかい? それも時間の無駄じゃねえですか? 踏みこむことが目的なら、危険を承知で思い切ってアンソニーを頼るのもひとつのテだと思いますよ」


「頼るよ。今のところ、この国と一段深く関わっていくきっかけはアンソニーと、ぼくたちを着けてきたあの女だけだ。女がどこの誰かわからない以上、道はひとつしかない」


 ゲドは狐につままれたような表情で、ポカンとアクセルを見た。


「じゃ、なんのためにコプラに登録するんで?」


 アクセルにとっては、そこが今回の行動の肝となる点だった。いまの段階でああんソニーの側にハッキリと身を置くことを避けつつ、アンソニーとの関わりを深めるにはどうしたらよいか、この数日アクセルは頭をひねっていた。


「コプラでの特別扱いの斡旋をトニーに頼んでみようと思う」


「そりゃちょっと……。出来ないとは思いませんが、結構デカい借りを作るかもしれませんよ?」


「作るだろうね。借りを作るための頼みごとだもの」


「意味がわからんです」


「ぼくがいま売れるものは、剣の腕しかないからね。借りを作れば、それを自然な形で売り込みやすくなる。うまく売れれば、アンソニーの方から仕事を持ちかけてくる可能性もある。いくつかこなせば、逆に多少の貸しに出来るかもしれない」


「素直にトニーに仕事を紹介してもらうのと、なにが違うんで?」


「貸し借りの関係なら、あの女とも同じような取引が出来るんじゃないかと思ってね。少し様子を見るためにも、どちらかにドップリ浸かるのは避けたいのさ。とにかく、ここを出るときにアルネルカのシェリルたちに売り渡されないようにしないとね」


「はあ、わかるようなわからんような……」


 ゲドは依然として、納得したような表情はしていない。アクセルとしても、これが博打であることは承知していた。王道のみを歩いてきた彼が、トニーのような人間と裏のかきあいをすることが危険であることもわかっている。ただアクセルは、、危険を覚悟した行動に出ないと自分の状況を改善することは出来ない、とも確信していた。


 


「ご想像いただけると思いますが、信用がコプラの仕事の基本です。コプラの紹介なら間違いない、と依頼人が考えなくなったら終わりですからね」


 アンソニーは、場所を彼の事務所のある建物に移し、執務室で改めてアクセルと向かい合っていた。


「それはもう。ただ、わたしは剣に多少自信があるくらいで、ほかにはあまり能はありませんが……」


「では、その剣の腕を確認させていただいても?」


 アクセルが頷く前にアンソニーは机をとんと指先で叩き、直後、部屋にひとりの女が入ってきた。先日、アンソニーの護衛についていた二人のうちの一人だ。


「地下の広間に行きましょう」


 そう言った時には、アンソニーは既に立ち上がり、扉に向かって歩き出していた。


お読みいただいた方へ。心からの感謝を!


見放さずにお読みくださったかたがたには、上の言葉では足りないくらい感謝しております。頑張って更新していきますので、今後ともよろしくお願いします。

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