1-7 尾行
体調不十分でしばらく更新できませんでした。本日、ようやく更新にこぎ着けましたが、少し短めです。
どうか、今後ともよろしくお付き合いいただければと思います。
「しばらくは、あわてて何か行動を起こすことなく、じっくりと街でまわりを観察した方がよい、ということでしょうか?」
アクセルは当たり障りのない形でトニーの真意を測ろうとした。しかし、トニーは一瞬だけ鋭い目でアクセルを見ると、問いを投げ返してきた。
「アックスさんはパノバにどのくらい滞在のご予定ですか?」
「期間は考えていないんです。少し腰を落ち着けてみようとは思っていますが」
アクセルの答に、なぜかトニーはすぐに反応せず、考えこむそぶりを見せる。まとまった期間の滞在を示唆して、トニーからさらに具体的な情報を引き出せると考えたアクセルは、トニーの心中をはかりかねた。
「なにか問題でもあるのですか?」
「いや、失礼しました。その方がいいと思いますよ。それであれば、わたしもいろいろお付き合いがしやすいですからね。困ったことがあればご相談ください。連絡の取り方は、ゲドさんがご存じですので、おたずねください」
それだけ言うとトニーは立ち上がり、店主にひとことかけて出て行った。護衛らしき二人の女も、一瞬アクセルに目をやると、そのままトニーを追うようにして店を出て行った。
「旦那、念のために言っておきますが、あの男は困っている人間に対する同情心なんてカケラも持っていませんから、そこんところは十分に頭に置いといてくださいよ? 間違っても、街に慣れていない旦那を助けてくれようとしているなんてことはありませんから」
ゲドがそうアクセルに言ったのは、三人がアクセルの前から消えたあと、素早く飲み物をカラにしたアクセルとゲドが続いて店を出て、近くの広場に足を踏み入れてすぐだった。トニーは二人の勘定も自分につけて帰っていたが、小さなものでも借りを作るのは早いとアクセルは感じ、店主に金を押しつけて出ていた。
「それはさすがにぼくもわかってるよ。言っていることも、すべていろんな解釈が出来ることばかりだったし、たぶん半分は、勝手なことをすると命はない、という脅しだったと思う。そして、もう半分はぼくが使えるかどうかの値踏みだろう?」
アクセルは、あえて人の流れが濃い方向に足を向けながらゲドに言葉を返す。
「それがわかってりゃ結構です」
「それで、あの男は雇い主とした場合に、どれだけあてに出来るんだい?」
「役にたっている間はいい雇い主なんじゃないですかね。ただ、自分が役にたっていると思っていても、あの男から見てそうじゃないときもあります。知った顔がいつの間にかいなくなってたりしたのは、そういうことだったと思うんですよ。そのあたりが精神的にキツすぎたっていうのが、オレが早々にここを引き払った大きな理由でしたね」
数日前にゲドが「少しの失敗で簡単に死ねる」と言っていた真意が、アクセルにも少し見えた気がした。
(雇い主として上々だとしても、安易に近づくのは危険だ。つかず離れずの関係が理想的だけど、そのためにももっと情報が欲しいな)
そんなことを考えながら、アクセルは露店をひとつのぞき込んだあと、そのすぐ先の角を曲がって広場から離れる路地に入り、立ち止まった。
「どうしたんですかい?」
うしろをついてきたゲドが怪訝そうにアクセルに尋ねたが、アクセルは答えない。すぐに、ひとりの女が同じように路地に折れてきて、アクセルと正面から目を合わせる形になり、立ち止まった。身なりの良い、アクセルよりも少し年上に見える女だった。
「気がついていたんですか……」
女は逃げようともせず、肩をすくめて言った。そういう仕草がサマになるところを見ても、街の小者のたぐいではないとアクセルは感じる。
「さっきの店で、ぼくのうしろの席にいた人だね? なにか用かな?」
「トニーがとっておきの護衛を二人も連れて他人と会っていて、そこにこの国からだいぶ前にいなくなったはずの盗賊が一緒にいる、という場面に遭遇してしまったもので、つい気になって、子供のようなマネをしてしまいました」
できる限り穏やかに尋ねるアクセルに、女も取り乱すことなく応じた。あまり玄人臭を感じさせない女であったが、その落ち着き、そして、この状況で謝罪の言葉を一切口にしない判断に、彼は一筋縄ではいかないものを感じた。ゲドの方を見ると、顔がこわばっている。
「だ、だれだ、あんた? なんでオレが盗賊で、以前この国に来ていたことを知ってる?」
「それはこの後の話の流れで、必要なら教えます。今は、わたしの命がそれまであるかどうか、という状況ですので、些事はあとまわしに」
「些事……」
ゲドは、自分の動静がだれかに完全に知られていたという重大事を、些事と言われて絶句している。
アクセルは女の素性をはかりかねていた。外見からは大きめの商家の娘、あるいは武門の家の娘、という雰囲気を感じていたが、さほど大物とは思えないゲドの出国を把握していたとなれば、情報の取り扱いに深く関わっている人間である可能性もある。すると、アクセルの素性も知っているおそれが生じる。
彼としては、自分の所在がシェリルやジベットに伝わる可能性を少しでも残すわけにはいかない。一方で、この国で自分がどうふるまえば彼らが自分の動静を察知することを遅らせられるか、見極める必要もあった。
「それを決めるために、少し教えてほしいことがある。まず、トニーがああいう形で人と会うのは珍しいことなのかな?」
「滅多にないとは言わないけど、珍しいことは確かね。大博打を打つ前触れと考える人が多いんじゃないかしら」
「なるほど。では次だ。ぼくは今日がトニーと初対面だったんだけど、彼はぼくを知っていたんだろうか?」
「知っていたかどうかはわたしは知らないわ。あのふたりを護衛に連れて、あの店で人と会う、という時点で、知らないということは考えにくいけど」
「では、きみもぼくを知っている?」
「ご想像にお任せするわ」
「殺されるかもしれなくても答は同じ?」
「ええ」
アクセルはこの女が自分を知っているという前提で話を進めることにした。
「少し取引をしませんか? いくつかきみの知っていることを教えてください。そのかわり、ぼくはきみを素性を確認しないで解放しましょう」
その瞬間、なにも感じさせなかった女の目がぴくりと動いた。
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