9■人種差別
留学中の話し
海外留学に行くと、差別にあってひどく傷つくという話をよく聞く。
私はそんなにひどい差別にあったことはなかった。
田舎の町の学校だったし、町の人たちは留学生のことを喜んで受け入れてくれていた。
ただ、日本人と中国人の区別はつかなかったらしい。
しばらくは中国人だと思われていた。
差別というほどではないが、留学中に日本人は、嫌がられることがあった。
昼食で町のレストランに行った時のこと。
イタリアの食事は、一皿目にパスタ。二皿目がメインで、お肉(または魚)のことが多い。
日本でいうパスタ一人前を食べた後に、メインの肉料理がドーン!
それからデザートに、ティラミスなどが豆腐一丁分くらいガッツリ出てくる。
日本人のピアノ科の人は、その量は食べられないらしい。
みんな一皿目のパスタしか食べないので、お店の方としても困る。それで日本人が来ると嫌な顔をするのだ。
しかし、声楽科の生徒は日本人でも、パスタもメインもデザートも喜んでペロリとたいらげる。
初めの一回こそ日本人で嫌な顔をされたが、声楽科の子たちならばいっぱい食べてくれるというのを覚えてもらい、それからは嫌な顔をされることはなくなった。
まあ、そんなもんだ。
私がいた町(かなり田舎)では、そんな感じだったので、差別をそんなに気にしていなかった。
しかし、買い出しで大きな町に行ったとき、はっきりと差別を見かけた。
日本人数人でお店に入ろうとしたら「日本人は入るな」と言われたのだった。それもかなりヒドイ言葉だった。
悪意のある目。
悪意のある言葉。
日本人は金持ちで、横柄な態度をとるのだろうか。
私たち声楽家は声が大きくてうるさいからだろうか。
女の子たちの中に一人だけ男の子がいたからだろうか。
何度考えても、私たちがあんなにひどい言葉をかけられる意味が分からない。
それが、差別というものだろう。
ちなみに、逆パターンもある。
ニコニコと握手を求めてきたイケメン(イタリア人)君がいた。
握手を求められたのは、仲間の日本人留学生S君だ。
S君は頭にハテナをくっつけながら、握手を返そうと手を出した。
S君の手を握ったイケメン君の人差し指にご注目。(見れないって)
その人差し指を中に折り曲げている。
S君はそれが何だか分からず、(なんでコイツ、人差し指折り曲げてるの?気持ち悪い~)と思っていたらしい。
そのままイケメン君は去って行った。
そばで見ていた私たちは親切に教えてあげた。
「人差し指を曲げて握手するのは同性愛者の合図。両人とも人差し指が曲がっていれば、カップリング成功って意味だよ」
「げっ、マジで?気持ちわりい!」
S君はイケメン君に握られた手をゴシゴシと拭っていた。
気持ち悪いって、それ差別だよ?
ちゃんとお伺いたててきて、相手がノーマルだったら去って行ったじゃないか。
差別はいかんよ、差別は。