6■お金で買えないもの
音大受験のころの話し。
音楽をやっている限り、仕方がないことではあるがとにかくお金がかかる。
まず音大を受験するのに、ピアノや声楽のレッスンは勿論、ソルフェージュやリトミックや楽典などを習いに行かなければならない。
それも月謝制ではなくて、一回ずつのレッスン代がかかる。
たとえばピアノのレッスンの場合、普通にお月謝を払うとなると、月に(だいたい4回分で)7、8千円くらいのところが多い。格安の先生もいるし、もっと高いところもあるが、まあ平均でそのくらいと思っていて良いと思う。
ところが、受験生のピアノのレッスンともなると、月謝で2万円くらいしてしまう。
月謝で2万円ならまだ安い方で、ワンレッスン(1時間)で1万円というのがだいたいの相場である。
ワンレッスン1万円で、ピアノ、声楽、楽典、ソルフェージュ、リトミックまで習ってみるとする。週に一度通うと一週間で5万円!ひと月で・・・!?
という世界である。
(楽典、ソルフェージュ、リトミックは個人レッスンのことは少ないので、月謝制がほとんどです)
私の先生は非常に良心的な方だったので、もう少しお安くしてくださった。
そして、大学生になっても週一回の個人レッスン(専攻科目のみ)は続くのである・・・
だけど自分で学費を出して、自分でレッスン代を捻出している苦学生も結構いる。そうすると毎週レッスンなんて通えない。
でも、通わないと上手くならない。これは本当。
それで、私の先生は心を痛めていて、
「一回1000円でも良いから、毎週通いなさい」とおっしゃってくださった。
こんな先生いないよ!?
なんて良い先生なんだ!
さすがに私は一回千円はしなかったけれど、門下生にはそうして通っている人もいたのだった。
ところで、私の友だちが通っていたピアノの先生はとても有名な先生だそうで、レッスン代も高いと聞いた。
ワンレッスン30分で3万円。
3万円!?
それは通えない。と私は思ったけれど、友人は必死だった。何が何でも音大に入り、ピアニストになるのだと夢見ていたのだ。
練習もものすごくする人で、食事以外はずっとピアノを弾いているような人だ。
ところが、(音大)受験の直前に彼女から電話がかかってきた。涙声だった。
「マロン、ごめんね。音大受けるのやめたの」
信じられなかった。
あんなに音大に行きたがっていたのに。一緒に音大に行こうねって言ったのに。
彼女の腕は、練習に耐えられず、疲労骨折を起こしていた。何度も何度も骨折を繰り返したらしい。
「これ以上弾けなくなっちゃったの」
それを聞いて二人で泣いた。
彼女の腕はお金では買えない。悔しくて悲しくてたまらなかった。
私も病気で、色んなことを諦めたことがある。彼女の気持ちは痛いほどわかった。
お金なんてなければ、3万円のレッスンに通うこともなくて、骨折もしなかったかもしれないと、ずっと悔しくてたまらなかった。
だけど、彼女は精一杯やったのだ。だからもう悔いないと言った。
今は、ピアノの上手な保育士さんになって、元気に働いている。




