3■手が出る
オペラ関係の話です。
手が出る先生がいた。
いつのなんの先生と言うと、分かってしまうので細かいことはここでは話せないのだけど、オペラを作るうえで必要な先生である。
通し稽古では、指揮者、演出家などの先生が前に座り、私たちの演技を見て指導するわけだが、それは学生時代でもプロになっても同じ。
その、前に座っているH先生は、とにかく手が出る。
私たちが歌っていると、
「下手くそ!」
と言って、手元にある物をなんでも投げつけるという、手。
怖いんだってばー!
ペンのような軽い小物ならばまだ良い。(良くないけど)
灰皿になると危険である。それを避けるわけにもいかないので、当たってしまったらグッと我慢するしかない。
時々隣の人が怒られているのに、違う人にぶつかってしまうこともある。
怒っているためコントロールは期待できない。
稽古にH先生が来るという日は、それを聞いただけで痩せ細りそうなほどに怖くて緊張した。
(安心してください、痩せてません)
そして、H先生の手の出るところはそこだけではない。
オペラ公演が終わり、打ち上げなどに行くと、好みの女性に手を出すのだ。
げっ。
その先生に嫌われると次の仕事はない。次に役をもらうためには気に入られたいという歌手の弱み(?)に付け込んで、結構やりたい放題である。
打ち上げの席で、H先生の隣に座りたがる女性歌手たち。
トイレに立つとき、その後ろ姿を見たら、H先生のお手がお隣の女性歌手の背中やお尻をなでなでと。(勿論このあとお持・・・)
うげ~!
そうまでして次につなげたいか!?
私は嫌われるのはイヤだけど、好かれたくもないので大人しくしていた。
こういう時、目立ちたい人、好かれたい人がいる陰で、絶対に目立ちたくないと思っている私のような人間もいるのだ。
だって目を付けられたら大変だから!断れないから!
おっと、取り乱した・・・
汚い世界だと思うかもしれないけれど、実際こういうことは(あまりないけど)時々ある。
目にしてしまうと、ゲーっとなる。
ちなみにH先生は悪い人じゃない。
オペラを創り上げる上で、気に入った(女性)歌手だけを贔屓して、その他の歌手を虐めるというようなことはしない。
先生によっては、贔屓でない歌手に嫌がらせをする人もいたりする中では、H先生はまあ、節度があると言うか、公演に対しては熱心だと思う。
それに色んなところで活躍していて、門下生からも絶大な人気を誇っている。
普段は厳しいけれど面倒見がよく、素晴らしい音楽家を育てている。
そして何よりイケメンである。
そのイケメンが色んな方面で災いしている気がしないでもないが、本当は良い人なのだと思う。




