2■お父さん至上主義
ピアノ教室でのことです。
ピアノ教室で手を焼く生徒さんには、手を焼く親御さんがいることが多い。
うちのお教室にはそんなモンペっぽい方はあまりいないのだけど、実は、まったくいなくはない。
時々見かけるのが、パワハラ系のお父さん。
ピアノが弾けるお父さんというのは、子どもに厳しいらしい。
お家で一生懸命練習をする我が子のピアノが耐えられないようなのだ。
「なんだそのピアノは!」
「お前、何年やってんだ!」
「下手くそ!やめちまえ!」
「できるまで100っぺんヤレ!」
みたいなスパルタになるらしい。(生徒さんが教えてくれた)
私だって、あんまりできない(きかない)生徒さんだとイラっとすることもあるけれど、イラっとしたからと言って、強く言ったり脅して弾かせても、上手くなることはないことを知っている。
しかしお父さん世代は“怖い先生”に習っている。自分がされたようにしか教えられない。しかも我が子が下手くそなら、聴いていられないだろう。
わかるけれど、お父さんが怒ると怖いんだってば。
ピアノが弾けるお父さんから見ると、弾けない我が子は耐えられないのだろうが、自分の子どもの頃をぜひ思い出してほしい。
小学校にあがる前の自分の姿を客観的に思い出せる大人はいない。
幼稚園児というのは、まだまだ霧の中。なーんにもわかっていないものだ。
「なんだそのピアノは!」
「下手くそ、ちゃんと弾け!」
と言われて弾ける子どもはいない。どんなに賢い子でも「ちゃんと弾け!」と怒鳴られて「ちゃんと」弾ける子は絶対にない。(大切なことなので2回言いました)
むしろ、ピアノの練習をしていて怒鳴られればピアノを嫌いになってしまう。
小さければ小さいほど、嫌いになる。覚えておいてくだされ。
誤解のないように言うと、お家で指導してくださるのは良いことだと思う。
我が子に何かを教えるのは親として当然のことで、親がピアノが弾けようが弾けまいが、できることを教えてあげるのは(子どもが小さいうちは特に)必要なことだと思う。
教えるからには厳しくすることも大切だと思う。
ただ、時々それが行き過ぎたり、違う方向に逸れてしまうことがある。そうなると本末転倒。
そこだけ気を付けてもらいたい。
それからもうひとつ。
親として怒鳴らなければならない時もある。
それは、危ない時や言うことを聞かない時。
しかし、ピアノの練習の時、子どもは座っている。そんな時に怒鳴る必要は全くない。
もう少し静かに教えてあげてほしい。
しかし、パワハラなお父さんは、ある意味単に熱心なだけだから、子どもさえ耐えられるのならば、そんなに悪いことはない。
それよりもヒドイ、熱心なお父さんというのがいる。
ものすごくピアノが上手なお父さん(自己申告)で、リストは最高だと思っている人がいた。
そして、子どもも小さなころからよくピアノが弾けた。同じ年の子の中ではまあ、弾ける方だっただろう。だからといって、ずば抜けていたかというと、そうでもない。
ところが、その子はお父さんが大好きで、お父さんの好きなリストも好きだった。
リストが弾けるピアニストが本物のピアニストだと思っていた。
「先生、リスト弾ける?」
と聞いてくる。生意気なガキだ。
「弾けないよ」
と、(それもどうかと思うが)答えると、威張って
「ウチのパパは弾ける」
先生よりパパのほうが上手だと言いたいらしい。
先生よりパパのほうが上手だと思っているので、私に対する態度もよくない。
それは、父親のほうもそうであった。
そういう空気は、普段話している時に、ふと感じられる。
口先では「先生は留学もされていて、素晴らしい演奏家ですね」などと
言っておきながら、「でも、ピアノ科じゃないだろ」というのがありありとわかる。
じゃあ、父ちゃんに習え。
知るか!
て、わけにはいかない。
「リストの曲弾かせて」
と言ってくる。
はあ?ナニ寝ぼけてんの?
その生徒さんはリスト以外に価値はないと思っているため、何かっつーとリストを弾きたがった。
あほか。
子ども向けの簡単なリストの曲もなくはない。レベルに合ったものがあれば弾かせてやることもやぶさかではない。
しかし、それよりも大切なことがあるんだよ。
「バッハとモーツアルトとベートーベンとメンデルスゾーンとハチャトリアンとショパンは、リストよりも簡単だから、それが弾けないうちはリストは弾かせられない」
と言ったらお教室を辞めた。
お父さん、子どもでもリストばかりを弾かせてくれるピアノ教室を探して、そこ行ってください。