16■門下生
大学時代の話し
芸事の世界には、「門下」という言葉がある。
その道の師匠に弟子入り(入門)することである。他の芸事だと内弟子などというところが多いか。
さて、音楽の世界では基本的には(音大に入った時点でプロを目指しているから)音大でついた先生が師匠となり、生徒はそこの“門下生”になる。
なので、音大に入った時に振り分けられる先生はかなり重要でもある。
いわゆる大学の「ゼミ」に近いものと思われる。
勿論、大学に入る前に○○先生に習いたいからと、ツナギを作っておいたりすることも多い。
私は中学からX先生に習っていたのもあり(そのころは門下生とは言わず、単なる生徒)大学でX先生に取ってもらうことが約束されていた。
この時点で私はかなり恵まれている。
音大に入って、ただ単に振り分けられてX先生のところに来た生徒さんは“門下生”である自覚がない。
地元で通っていたピアノの先生などと同じように考えている場合もある。
そうすると、お客様感覚が満載だったりする。
それを、先輩たちが「ウチの門下はこうあるべき」という、門下生の心構えなどを、小さな声で教えてくれる。
大きな声ではないので、空気を読まないといつまでたっても“門下生”にはなれないこともある。
卒業するまで、自分は○○門下生だと名乗っていても、実質は門下生になれていない場合も多い。
では、いつから門下生になるのだろうか?
明確な線引きはない。先生もきっと、門下生だろうが単なる生徒だろうが、ちゃんと教えてくださっている。
こればかりは、生徒側の心構えの問題かもしれない。
私の感覚では、師匠は母(または父)のようなもの。門下生は兄弟(家族)のようなものだと思う。
こういう感覚が芽生えてくると、門下生になれている気がする。
年度初めの、門下生顔合わせの時、新入生(大学1年生)の子が、自己紹介の最後にこう言った。
「X先生ってぇ、ちょー、歌、うまいっすよねえ」
門下生一同、唖然。
え、なに!?先生に向かって、上から目線!?
普通こういう時は、新2年生がその生徒さんを連れ出してお小言を言ったりするのだけれど、その時、大学院1年のOさんが
「あなたね!なんて失礼なことを言うの!」
と、ビシっと叱っていた。
後輩の指導は先輩がする。
Oさんは私のひとつ下の学年。
これだけちゃんと言えれば、私の後輩指導の義務は果しただろう。
これが門下生のあり方である。
まあ、この新入生は、きっと学部(大学)を卒業しても“門下生”とは認められないのだろう。