15■歌いたいあまり
大学時代によく聞いた話し。
音楽はお金がかかるという話を何度もした。
お金が無くて音楽の道を諦めた人というのも結構いると思う。まあ、よっぽど実力があれば、誰かがパトロンになってくれて、コンクールや何かで結果を出せば歌い続けることはできるだろうけれど、どん底の貧乏で音楽を続けていくのは難しい。
では、逆に実力はなくともお金がある場合はどうだろうか。
この場合の実力がないというのは、音大に行くほどの実力がないというくらい。ということにしておこう。
音大に行く実力がないって、かなり下手な部類だと思う。
つまり、とても人前に歌って聞かせるレベルにはなれない人で、ひと様に聞いてもらってお金をとるだなんて、とんでもない、という人。
私は一応声楽家ではあるけれど、自分がソロで歌っているCDは出していない。幾人かで歌っているものは(企画モノだけど)あることはある。
自主制作をする人は、時々いるかな。ちゃんと舞台を経験している人ならば、自主制作CDでも、かなり良いものだと思う。
だけど、CDを作るのは大変なので、自主制作はよっぽど根性がないとやらない。
しかし!
CDを作る根性とお金がある人がいる。
根性とお金、そして情熱がある。
情熱はある。
歌いたい。
CDも出したい。
けれど、実力はない。
けどね、こういう人は、作っちゃうんだな。
音大の授業で聞いたことがある。
どうしても「夜の女王のアリア」が歌いたくてレコード出しちゃったお金持ちのオバサンの歌。
そりゃーもう、聞くに堪えないすごい声。
ハイソプラノの超絶テクニックのコロラトゥーラのアリアが素人に歌えるはずがないのだ。
勿論、プロにレッスンをしてもらったのだろう。
伴奏者も一流だろう。
お金がかかっている。
レコードにもなった。
しかし、下手!
もう、教室中大爆笑だった。
この方、その情熱を買われて、何度も舞台を踏んだらしい。
・・・という話が、ひとつふたつじゃないんだ。