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X'mas LOVE  作者: X'mas LOVE 短編集プロジェクト
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僕と彼女のクリスマスデート(潮崎レオル)

 ビルに囲まれた広場、その中心のビッグツリーの下。僕は寒い首に白い毛糸のマフラーを巻いて、もうすぐ来るだろう人を待つ。見上げると狭い濡羽色の空が、赤や黄色の光で、いつもよりも霞んでいる。

 ヴー、ヴーと、ズボンの尻ポケットに入れていたスマートフォンが振動した。振動時間から推測して、電話じゃなくてメール通知。それでも別に構わない。取り出して画面を見てみると、そこには彼女の名前があった。

 メールを開くと、彼女からのメッセージが入っていた。『ビッグツリーの所に来てるよ。どこに居るの?』

 メールじゃなくて電話してくれると助かるのだけれど、彼女は声を聴くのは会った時が良いといつも言って聞かないので、仕方ない。

『そこから動かないでね。探すから』と僕は返信し、スマートフォンを今度は群青色のコートの右ポケットに入れて、ツリーの裏側へと向かった。よく考えると僕と彼女の家はこの広場を挟んで真逆、ツリーと言えばここなのは間違いないのだけれど、待ち合わせ場所が裏になってしまうのは当たり前と言えば当たり前なのかもしれない。


 裏側も変わらず華やかだった。ツリーの電飾は仄暗い辺りを色鮮やかに、明るく照らしている。

 そんな光と、ツリー目当ての人々の中、不安そうにきょろきょろと辺りを見渡す、黒髪の少女が居た。彼女だ。僕は彼女に向かって小さく右手を振る。それを合図としてか彼女は僕の姿を認めると、彼女の表情はぱっと明るくなり、僕に向かって大きく手を振る。

僕は少し微笑を浮かべ彼女の傍へ近づいた。いつもながら美人だ。少し白いけれど健康な肌色、墨色のつぶらな眼。肩ほどまでの光沢のある漆黒の髪は、ポニーテールにまとめられている。やはり思わず見とれてしまう。

「ねぇ、顔ばかり見てないで、ちゃんと服装も見てよ」

 彼女に見惚れていた僕は、彼女の言葉にハと我に返って、ごめんごめんと謝った。彼女は拗ねているのか、それとも照れているのか、頬を少し膨らせている。かわいい。

 僕は少し彼女から離れて、彼女の服装を見てみた。薄いグレーのコートに、緑と黒のチェックの膝丈のプリーツスカートを履いている。その下に履いてある黒タイツがまた何とも……ゲフンゲフン。ベージュ色のブーツは新調だろうか。まだ全く汚れていない。

 文句なしにかわいい。そして美しい。流石、高校の頃に『絶世の美女』と同学年の男子女子、そして先生たちに囃されていただけのことはあると思う。けれど、パッと見て深緑色のスカートにベージュのブーツ。これって……

「どう? クリスマスツリーっぽいでしょ」

 僕の思ったことを、彼女は胸を張って自慢げに言った。僕はそれに苦笑すると、彼女は少し不満げな顔になった。コロコロと表情が変わるのも可愛らしい。

 そう思いながら彼女を見つめていると、彼女が急に、僕の手をギュッと握った。驚いて彼女を見ると、まるでいたずらっ子のようにニッと笑っていた。

「今日は二人きりだね!」

 とても明るい笑顔でそう言って、彼女は僕の腕をグイッと引っ張った。


 僕は彼女に引っ張られて、商店街に入った。普段はレトロと言うかなんというか、近頃にしては地味な景色が続いているそこは、今日は赤や黄色の輪が連なった輪飾りや、ツリーにもあるような電飾などが飾られていて、想像以上に華やかだった。彼女は今日はこんな所を通ってきたのか。ツリーまでの道がいつもと変わらず質素なビル街だった僕は、少し羨ましく思えた。

 きょろきょろと商店街を見ていた僕は、ふと彼女のほうを見た。前を歩いている彼女の髪は、いつもなら黒か紺色の髪ゴムでくくられているのだけれど、今日はその上に赤色のリボンがついていた。

「今日、めずらしくリボンなんだ。かわいいね」

 そう言った僕に失笑して、彼女は肩越しにこちらを向いた。

「今更気づいたの? 遅いよ~」

 明らかに僕をからかう声。それに僕はムッとする。彼女は前を向いてまた、カラカラと楽しそうに笑った。そんな彼女を見て僕は、意味もなく顔を綻ばせた。どんなにウザったくても、どんな表情も、動作も、それが彼女のものなら、『かわいい』の一言に尽きる。

 今日は誘ったのは僕だ。けれども、彼女に『君の好きなようにして良いよ』と言って誘ったので、主導権は彼女にある。これで自由に行動するかわいい彼女をしっかりと見物できる。


 5丁目商店街、そこにはゲームセンターがあった。懐かしいなと思ってみていると、彼女はその前に停まった。

「ここ、今日限定でラビット様のサンタコスがユーフォーキャッチャーでもらえるんだよ! 行こう!」

 『ラビット様』とは『放浪騎士ラビット』とかいう冒険系ライトノベルの主人公、青色の鎧を着て水色のマントをした、マントを左肩辺りで青い薔薇のコサージュで留めている結局のところ白うさぎなのだけれど、白馬に乗って登場したり、レイピア一本で自分より大きい敵とか、小部隊とか倒したり、城の塔に幽閉されていた(人間の)お姫様を助けたりと、女子受けを狙ったような……ゲフンゲフン、格好良い人(うさぎ)だ。

 僕じゃ物足りないかと言いたくなるけれど、彼女が好きなものを追いかけている姿もまた無邪気でかわいい。微笑を浮かべた僕は彼女と一緒に、そのゲームセンターに入って行った。


 当のユーフォーキャッチャーを見つけた彼女は、早速自分のお金でプレイする……のだけれど、下手だ。見ていて悲しくなってくるほど下手だ。年甲斐もなく悔しがっている彼女もまたかわいいのだけれど、ちょっとこれはどうかな。

 何回も失敗して、それでも諦めようとしない彼女に僕は苦笑して、彼女の手を払ってレバーを握った。

「どれがほしいの? 取ってあげるから」

 僕自身この手のゲームは苦手なのだけれども、それでも彼女よりは巧い自信はある。彼女は私がやるから良いよと遠慮をするが、これ以上彼女の財布からお金が飛んでいくのを黙って見てられるほど僕は『大人』じゃない。僕が取ると決めたら僕が取る。

 彼女はしぶしぶ承諾して、ほぼ中央にある青鎧にサンタ帽をかぶってプレゼントの袋を持った『放浪サンタラビット』のぬいぐるみを取ってほしいと言った。僕はそれに照準を定め、左手でゆっくりとレバーを倒していく。左右を微調整しながら目標に近づいて行って、その真上に来たら右手で下降のボタンを押した。アームはゆっくりと開き音を立てながら下りて行き、閉じる。今度はゆっくりと上がってきたそれには……彼女の欲しがっていた『放浪サンタラビット』がしっかりと挟まれていた。

 落ちてしまうこともなく、最終的に取り出し口から出てきたぬいぐるみを彼女に渡すと、彼女はとても幸せそうにそれを抱きしめて笑った。

「取ってくれてありがとう!」

 彼女の笑顔に僕は少し頬を赤く染めてしまった。少し横に目を反らすと、彼女はふふっ、と笑った。

 それから、ヒロイン『ユーリア姫』、『騎士ラビット(放浪騎士の過去の姿、金色の鎧に赤いマント)』などなど、計十点を頼まれて……三千円が飛んだ。どれも一発で取れたからまだ良かったのだろうか。それにしても一回三百円って……

 彼女は店員さんにグッズを紙袋に入れてもらって、両手に持ってホクホクしている。お金が飛んだのは悲しいけれど、手持ちはまだあるし、かわいいから許す。

 腕時計を見てみると、二十三時四十五分だった。今度は僕が彼女の手を引っ張って、速足でビッグツリーの所へ向かう。


 ツリーの下に着いたのは二十三時五十九分。ぎりぎり間に合った。僕たちは手頃な広さの所に出て、手を繋いでツリーを見上げた。

 突然辺りの光が消えて、空間は暗闇に包まれた。そして西洋風の鐘の音が鳴って、今度はクリスマス定番の『Jingle Bells』のBGMが流れ出した。

 ツリーにはピカピカと電飾が光り、その光を反射したベルや星がキラキラと輝いている。

 十二月二十五日午前ゼロ時ゼロ分、ビッグツリーの最終点灯開始時間で本番の開始時間。僕たちは今日、これを見に来たんだ。

「綺麗だね」

 彼女は僕の隣でそう呟いた。僕はそんな彼女を見、微笑むと、またビッグツリーを見上げた。

「そうだね」

 ツリーの頂上では、未来に幸せのあるようにと願うように、今日だけしか飾られない、金色の大きな星が煌めいていた。

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