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最恐最悪の魔銃  作者: サコロク
王の再来
9/55

王の帰還

剣のぶつかる音がその空間にこだましていた。凄まじい威力でぶつけられているのが分かるくらい大きい音が鳴り響く。

その音を発生源は……カナミである。


「おい、クソ男。そろそろしんどくなってきたか?」

「それは、私のセリフだと思うのですが?」

「ふっ……ほざけ、そんなものに頼らないと戦うこともできないくせに口だけは一人前だな」


カナミは強気でそう言うが、その体はすでにボロボロだった。

もはや剣で体を支えていないと倒れてしまうというほどに消耗しきっている。

それでもカナミが戦い続けるのは二つの ”約束” があるからだった。


(まだ剣は死んでいない……そして、あいつも必ず生きている)


それは約束云々というよりもミコトに対する ”信頼” とカナミ自身の願望でもあった。


「……あいつが生きているなら、私が先にくたばるわけにはいかないか……」

「おや、やっとお終いですか? 女にしてはしぶとかったですがやはりこの程度ですか……」

「ああ、終わらせるさ…… ”お前の命” をな」


カナミは一つの約束を破り、一つの約束を守るために動き出した。

剣を突き立て、詠唱を始める。これはカナミは自信が自分自身で課した誓いを破る行為ではあったが、それよりも大切な約束を守るための、新たな ”誓い” の証でもあった。


「……聖域にありし剣の丘、我が望むは究極の一、絶対の一なり。我が呼び声にその姿を現せ ”報復者フラガラッハ” 」


眩い光とともに光の剣がカナミの前に現れる。


「ほう、これは面白い……」


現れた剣には鞘がなく、その刀身からは恐ろしいくらいの魔力が放出されていた。


「お前を殺すのには十分だろう……」

「よもや今の時代でこのようなものを見られようとは……それは、《魔法剣》ですね?」

「ああ、私のオリジナル魔法さ。《宝剣の祝福(ミニュ・エルメラ)》とでも言っておこうか」


カナミは魔法を普段使わないため魔力の貯蓄が普通の人間の何十倍にもなっている。

その膨大な魔力で過去に失われた聖剣達を具現化させたものが《宝剣の祝福》の仕組みだった。

だがこれは、剣の構築と維持の時点で普通の人なら一生分の魔力を消費してしまう。だからこそカナミにとってもこれが切り札でもあった。


「では、私も少し本気を出すとしましょう。……復讐の女神(イザベラ)よ、我が血と魔力をもって、彼の者に慈悲を与え給え」


ジルバは自らの腕にナイフを当て血を出すと、それを ”飲ませた” 。


「魔術的契約を強めたか……だが、そんなものなど関係ない!!」


カナミが動く。フラガラッハを突き刺すようにジルバに詰め寄る。

そして、その刀身がジルバの障壁に触れた瞬間、見えない何かがジルバの障壁を切り裂いた。


「なっ、まさかその剣は……」

「 ”報復者” はどんなに硬いものだろうと切り裂く。そしてその輝きは相手の戦意を喪失させる。お前の障壁など容易く斬り裂けるぞ」

「……いいでしょう、ここからは小細工なしでいかせてもらいますよ!」


ジルバがこの戦いで初めての詠唱を始めた。


「……光を喰らいし死神よ、彼者の命もろとも喰らい尽くせ《ブラッディロア》」


黒き闇がジルバから溢れた。それはやがて異形のものとなりカナミを襲う。

だが、カナミ迎撃するどころかさらに前進する。


「その程度か? 興ざめだな…… ”消し飛ばせ”」


カナミに触れかけた闇が直前で何かに切り刻まれた。そのまま前進しジルバのクロスレンジまで詰め寄った。


「……かかりましたね」

「なにっ!?」


直後、カナミの鼻先を何かが掠めた。思わず踏みとどまる。

そこにいたのは、どす黒い鎌を持った復讐の女神だった。その姿はまさに悪鬼のような姿である。


「ほう、その距離から避けますか。ですが、次はそうはいきませんよ……」


鎌とカナミの ”報復者” がぶつかり合う。

接近戦でカナミが遅れをとることなどほとんどない。だがそんなカナミを苦しめていたのは、復讐の女神の ”鎌” だった。


「くっ!……この鎌、面倒な……」

「ええ、その鎌は触れたものから魔力を吸収します。今のあなたのその剣は魔力をそのものと同じようなものですからねえ、接近戦はあなたには分が悪い」


確かに、カナミは二、三回打ち合っただけでも結構な魔力をもっていかれていた。いくら魔力量が多いとはいえ《宝剣の祝福》を維持するのには大幅な魔力を消費する。戦いが長引けば長引くほどカナミの不利になるのは目に見えていた。


「……そうか、ならば ”当たらなければいい” 」

「なにを……」


瞬間、カナミが消えた。と思った時には、”復讐の女神(イザベラ)” が斬り裂かれていた。


「な!? まさか魔力すら断ち切ったと言うのですか!?」

「 ”瞬光” ……私の剣術の一つだ。まあ、”報復者” のおかげで断ち切るまでの威力を出せたわけだが……」


”瞬光” はカナミの得意とする剣術と体術の組み合わせである。縮地で一瞬で近づき、その時に生じた推進力を使ってもう一段階加速する。だが今回はカナミは剣が当たる瞬間、魔力をさらに注ぎ込み爆発的な威力を出したのだ。


「……ですが、まだ甘い」

「ほう、流石にこの程度ではくたばらんか……」


復讐の女神はカナミの一撃を受けてなおそこに立っていた。その手に持っている鎌からはさっきよりも更におびただしい魔力を放たれている。


「あなたが斬り刻めば斬り刻むだけ ”復讐の女神” は魔力を増していく。それが名前の由縁ですよ」

「……だが、攻撃はさせないさ」


直後、カナミが詠唱を始めた。


「……破邪の光、烈火の炎、我は絶対の勝利を望む者なり、その光炎を我が手に ”光剣クラウ・ソラス” 」


”報復者” とは別にカナミの前に剣が現れる。光る刀身には全てを薙ぎ払う勝利の炎、絶対不敗の剣がそこにはあった。

光剣クラウ・ソラス” を右手、”報復者フラガラッハ” を左手に持ち二刀流の構えを取る。


「さあ、殺戮の時間だ……」


二つの剣の剣閃のみが走り、カナミの姿はもはや目視できない速度まで上がっていた。

そして、その光が全てをを切り刻んでいく。


「二刀流は久しぶりなんだがな、存外悪くもない……」

「……聖剣を二本も顕現するとは、まったく恐れ入る……」

「その割には、余裕そうな顔をしているな? お前自身も斬り刻んでやろうか?」


カナミは狙いを変更し速度を維持したままジルバに斬りかかる。

だが、その剣はあり得ないものによって阻まれた。

ジルバは、手をかざしてカナミの剣を止めたのだ。そしてその手の中には……ペンダントが握られていた。


「まさか、それは ”神器フェーデ”!?」

「ええ、私も出し惜しみできる状況ではなくなってしまいましたからね」

召喚術師ディコネクター相手でも面倒なのに、よりにもよって ”神器” とは……まったく、さらに面倒ごとが増えてしまった……」


ため息まじりにそうは言うものの、正直手詰まりになりつつあった。

《神器》はその名の通り神からの祝福受けた装備品である。その力は召喚術師と同様、物によってはそれ以上の物だってある。ジルバが持っているのは攻撃型ではなく防御用のではあるが、その硬さは ”報復者” と ”光剣” をもってしても貫くのは難しい。

しかも、時間を取られればカナミの魔力は尽き《宝剣の祝福》は維持できなくなる。それ故に今の状況においてジルバのこの神器は最悪の物であった。


「これで本当にお終いですね……いや、久しぶりに楽しませてもらいましたよ。いい殺し合いが……」

「暗技・二刀流《影結び》……」


ジルバの言葉を遮ってカナミが右手の ”光剣クラウ・ソラス” を逆手に持ち替えた。

その瞬間、おぞましい連撃が始まった。切り裂いた先から次の斬撃が、それがコンマ単位で繰り出されていく。その姿は掴むどころか、斬撃すらも目視させない。まさに ”影” の連撃だった。


「くっ、この速さ……あなた本当に人間ですか?」

「……私自身そうでありありたいと思っている。が、お前を殺すためならば鬼でも悪魔にでもなってやるさ……」


カナミの連撃は終わらない、”神器” を打ち砕かんと更に加速していく。

そして、その連撃が終わりを迎えた…… ”神器” が砕けたことによって。


「この程度か……大したことはないな」

「ええ、確かに ”神器” は破壊されました……ですが何か忘れてませんか?」

「……しまった!?」


反射的に後ろを振り返る。そこには、”復讐の女神(イザベラ)” が鎌を振りかざしていた。

ギリギリで剣を出しなんとか受け止める。が、それが失敗だと気付いた時にはすでに遅かった。


「ぐぁーーー!!」


受け止めた剣から魔力が奪われていく。すぐに後ろに距離をとるがもはや魔力はゼロに近かった。

カナミの ”報復者” と ”光剣” が消失し始める。


「流石にこれ以上魔法は使えませんよねえ? これで私の勝ちです」

「ふっ……ならば早く殺せばいい、それともできないのか?」

「……最後まで傲慢な方だ。では、お望み通り殺してさしあげましょう」


鎌が高く振り上げられる。


(終わり、か……アオイ、約束守れなかったな。最後の最後で約束破ってしまった……)


カナミが思い出したのは学生時代唯一の友と呼べる存在だった。

彼女は一人だったカナミになぜかつきまとってきてきた。最初のうちは鬱陶しく思っていたカナミだが次第に話すようになり、それからは何をするにしても彼女が一緒だった。

だが、そんな彼女は今はもうこの世にはいない。殺されてしまったのだ。そしてその犯人を殺すことがカナミにとっての生きる意味だった。


(やっとお前のところに行けるのか……約束破ったからって怒らないでくれよ……)


だが、その時カナミはもう一つの約束を思い出す。

隊の仲間で、少し生意気で、約束を絶対に破らない、弟のような存在。

カナミが初めて屈辱を受けた男、カナミが心から信頼できた男、カナミが……初めて心から惹かれた男だった。


(ミコト……私は結局どっちの約束も守れなかったな……)


死の鎌がゆっくり動き出す。


(お前は、死ぬなよ……)


カナミの目には鎌がスローモーションのように動いて見えた。それはコンマにも近い短い間隔で刻まれる死へのカウントダウン。カナミはゆっくり目を閉じた。



『おいおい、勝手に死んでんじゃねーよ……』



その声と共に瞳がゆっくり開き始める。

するとそこにあったのは……見慣れた男の後ろ姿だった。その男は ”復讐の女神” の鎌を銃で受け止めている。


「……ふっ、やっぱり生きてたか……」

「ああ、あいにくな……」


それはカナミが信じていた存在、絶対に死んでいないと信じ続けていた存在だった。


「ミコト、私は少し疲れた……寝ている間に終わらせておいてくれ……」

「我が儘なやつ……でも、頑張ってたんだよな。ゆっくり休んでてくれ……」


カナミはフッと微笑むと静かに瞳を閉じた。その顔は安心したように幸せそうな顔をしていた。


「……さあ、ここからは俺が相手だ。カナミに負わせた傷の対価はお前の死で払ってもらう」

「おや、生きていたのですか。……いや、それよりも一体どうやってここまで戻ってきたのですか?」


その瞬間、ミコトが消えた。と、次の瞬間ジルバの後ろに現れた。


「 ”こうやって” だよ……」

「っつ!?」


ジルバは避けようと身を翻すが、もはや手遅れだった。


「 ”最大装填ロードマキシマ” 《ウィンド》」


突如、暴風がジルバを吹き飛ばし、壁まで叩きつけた。それはジルバが知っているそれとは比較にならないぐらいの威力だったために驚きを通り越して、恐ろしく思えた。


「ぐっ!……一体どういうことですか? 落ちる前のあなたよりよっぽど元気のように見えますが。それとさっきの消える魔法、あれは一体……」

「答える必要はない……ただ、俺はもう負けない。いや、負けられない」


ミコトはジルバに銃口を向けながら近づいていく。その瞳は落ちる前より鋭く、そして恐れを抱くほどに深かった。


「くっ、”復讐の女神(イザベラ)” !! 私を守りなさい!!」


その瞬間ミコトの前を復讐の女神が阻んだ。だが、そんなものなどミコトにとってはそこら辺に転がっている石となんら変わりない。


「…… ”爆ぜろ”」


その瞬間、復讐の女神(イザベラ)が大爆発する。その後には何も残らない。そもそも召喚術師に召喚されたものは力尽きれば《神格の領域(グランドフェーダ)》に強制帰還させられるので残るものなどないのだ。

復讐の女神を石ころを蹴るように退却させると、ジルバにゆっくり狙いをつける。

ジルバの顔は絶望に満ちていた。もはや抵抗する気力すらないようにも見える。


「これで本当にお終いだな……」

「……」

「もはや喋る気力すらないか……」

「……う……しょう」


ジルバは何かボソボソとつぶやいている。だがその声はミコトには届かない。


「……でしょう……いいでしょう!! 私を愚弄したその罪、あなたの死であがないなさい!!」


狂気に満ちた目で立ち上がると、ローブの中に手を入れ何かを取り出す。

出てきたのは……小さな箱のような物体だった。


「ふふっ……あはははははははは!! この中には天空神ウラノスの聖遺物の一部が入っている、止められるものならば止めて見せよ!! 来い!」

「……最初の神殺しの相手には丁度いいか……」


ミコトは動じることなくジルバを見据える。そこには眩い輝きを放つ大きな男の神がいた。


「ウラノスは星を纏いし者、あなたごときの攻撃など塵一つも触れさせることはできない!!」

「……だそうだぞ、 ”ノーマ” 」

『ほう、それは面白い。私が遊んでみよう』


その瞬間ミコトの銃が光り始める。その光は銃から離れるとミコトの隣で形を取り始める。

光が収まったかと思うと、そこにノーマが現れる。


「案外すぐの呼び出しだな……まあ、私たちを差し置いて星がどうたらこうたら言われるのも癪だ。星天十二界セレスティアルをそんな弱っちいのと比べられても困るしな」

「ああ、じゃあさっさと終わらせて地上に戻るか」


最初に動いたのはノーマだった。長い詠唱を始めている。おそらく一発でウラノスを潰すつもりなのだろうう。ならば、ミコトがやることはノーマの護衛だ。


「あなた、まさか召喚術師ディコネクターだったのですか!? それにその女の詠唱、普通の魔力じゃない……」

「悪いが今回はあいつとお前のそのデカブツの戦いなんでな、邪魔はさせないぜ?」

「……まあいいでしょう、ですがこちらが攻撃してはいけない理由にはならない。やりなさいウラノス!!」


ジルバが右手を掲げた瞬間、ミコトたちに向かって光が降り注ぐ。


「ふっ……確かに神ってものは案外大したこともないかもな」

「何をっ!!」

「言ったはずだぜ、俺はあくまで護衛だノーマの邪魔はさせねーよ…… ”リフル” 」


無数に降り注ぐ光を正確に一発ずつ撃ち落としていく。人間とは思えない超人技にジルバの顔が凍りつく。


「ウラノス!! 全力を持って彼を叩き潰しなさい!!」


その言葉に反応したウラノスが左手を振り下ろした。

瞬間、大量の大きな隕石が降ってきた。しかし、ミコトは一つ笑って見せると、


「おいおい、それが全力か? ずいぶん弱い切り札だな…… ”高速回転フルスロットル” 」


二丁の銃のシリンダーを太腿で回転させると同じように撃ち始める。

しかし、その指は引き金を引いていない。だが、シリンダーは回り続け、銃弾もさっきよりも早い速度で撃ち出されている。

そして、ジルバを一番驚かせたのはその威力だった。


「なぜ、そんな禁忌級の威力を……魔力切れで死にたいのですか!?」

「一応言っておくが俺が撃ってるのは《ファイアボール》だ。魔力切れとかありえねーよ」

「なにを馬鹿なことを!? その威力が火属性の初級魔法などあり得るはずがない!」

「そうかい、じゃあそう言ってろ。いい加減撃ち落とすのにも飽きたんだ。そこのデカブツには黙ってもらうぜ」


ミコトの動きが変化する。降りかかる攻撃を一丁のみで捌いてもう一丁を撃っていない。

そして、ウラノスの動きが一瞬止まる。


「貫け!!」


その瞬間を待っていたかのようにもう一丁の銃を撃った。

弾丸はまだ撃ち落としていない隕石を含めて丸ごと薙ぎ払った。そしてそのままウラノスを吹き飛ばす。


「あ、あなた一体どこからそんな力を……」

「さあな、俺は普通に魔法銃を撃っているにすぎない」

「ありえません、たかが魔法銃ごときに神が、神が吹き飛ばされるわけなどない!」

「だが、これが現実だ……」


ミコトは言った通り、魔法銃を普通に撃っているだけだ。

違うのはその魔力であるだけで、今のミコトは常人のそれとは本質的に全く違うものを使っている。


「さあ、そろそろあちらさんの詠唱も終わったみたいだ……」


ミコトが指す方向を見ると、膨大な魔力を用いた詠唱を終え、最後の一文を詠み始める。


「……静かなる森を焼き払いし獅子、死してなお汝の焔は星を統べ、全てを燃やし尽くすさん ”焔の獅子(レグヌス)” 」


それはひとつの光だった、それはひとつの焔だった、それはひとつの ”星” だった。

眩い閃光、煌めく炎、そこには見るものを虜にする何かがありミコトも思わず見惚れる。

長い詠唱の末、ノーマが呼び出したのは大きな炎を纏った ”獅子” だった。


「ふふっ、なんだミコト、思わず見惚れてしまったか?」

「……ああ、眩しいくらいにな」

「そうか、では触ってみるか?」

「いや、それはまた今度な。とりあえずあいつを倒してカナミを運ぼう……」

「なんだ、せっかく頑張ったのに他の女の事とは……女心が分かっておらんな」


ノーマは少し不機嫌そうな顔になる。

だがミコトの言うことに納得したのか、ウラノスに向き直った。


「たかがそんな神ごときにこいつを使うのもなんだが、私の大切なミコトをあそこまでボコボコにしてくれた返礼には足りないからな。せめてもの慈悲だ、一瞬で燃やし尽くしてやる」

「なんなんだ……なんなんだお前らは!? この私が、この私が負けるはずなどないんだっ!!」


ウラノスが動き出す。だがこの時すでにジルバの敗北は決定していた。


「……微温い。”焔の獅子(レグヌス)” 、お前の楔を解き放つ、存分に燃やし尽くせ……」


飼い主の手綱を離れた獅子が向かってきた神に向かって右手を振り下ろした。

その瞬間、尋常ではないほどの熱が恐ろしい風圧とともにミコトたちに吹きつける。

幸い、ミコトにはノーマの加護があり無傷だ。ノーマの後ろにいるカナミにもノーマが加護を一時的に与えているようだった。

だが、加護を受けていないジルバとウラノスは……完全に燃え尽きていた。初めからなにもなかったかのような焼け跡。それすなわちミコト達の勝利を意味していた。


「……すまなかったなノーマ、お前に任せてしまって」

「いいんだ、久しぶりにこんな力を消費したがな。帰ったらマッサージでもしてくれ」


すこし意地悪顔をして言うノーマのデコを少しこつくと、カナミの様子を確認する。


「……息はあるから大丈夫だな。魔力が切れて寝たのか……」

「一応怪我は私が治癒をかけておいたから大丈夫だ。さすがに魔力までは戻せんがな」

「いや、十分だ。ありがとうノーマ……」


カナミの寝顔は初めて見たが、元が綺麗なので思わずドキッとしてしまう。しかし、それを悟ったのかノーマがまた少し不機嫌になる。


「お前は本当に色男だな……」

「なっ、なに言ってるんだ!」

「顔に出ておったぞ、お前の弱点だな。感情に素直なのはいいことだが、女から見ればただの色男にしか見えないからな、気をつけておけ……」

「うっ……ま、まあとりあえず遺跡を出よう」


そう言ってカナミをお姫様抱っこするとさらにノーマが不機嫌になるがあえて気づかないふりをする。


「そういえば、出口までの道のりって分かるか? 今の状況じゃ方角すらわからないからな」

「なんだ、そんなの簡単ではないか。私の ”あれ” を使えば一瞬だろう。言っておくがあれはお前が望んだ場所に何処へでも行ける。必要なのはその場所のイメージだ」


イメージはミコトの得意分野であるため転移魔法はミコトにとって簡単な原理だった。


「じゃあ戻るか、地上へ……」


転移魔法の光がミコト達を包む。ノーマはすでにミコトの銃の中に戻っていた。

やがて光が全身を包み込み転移が始まった。

こうしてミコトとカナミは半日ぶり、ノーマは数百年ぶりの地上に戻った。

だが、王の帰還は歓声で迎えられないことをミコトはまだ知らなかった……

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