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最恐最悪の魔銃  作者: サコロク
王の再来
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崩落

作戦開始から一時間、三度の戦闘をへてミコト達 ”霧影” は遺跡の入り口にたどり着いた。

そこはフィルフェリア平原の中央より少し南の祭壇のようになっている地帯だった。昔何かに使われていたのかもしれないが詳しいことは未だにわからない。

その祭壇の中央に地下に降りる階段がある。いつもは階段の前にマリオンの兵士がいるのだが今回に限っては誰もいなかった。そしてそれこそがミコトの抱いていた疑問でもあった。


「それじゃあ調査を開始するがその前にもう一度段取りを確認する。」


ゴウシが地図を開き説明を始めた。


「まず俺たちは三人が先に入り索敵をし敵がいたなら殲滅、敵を引きつける。その隙にカナミとミコトが隠密に調査だ。いいか、敵に鉢合わせても絶対に応戦はするなよ、自分の命を優先するんだ。分かったかカナミ」


そう言われたカナミはまるで『子供扱いするな』とでも言いたげな顔をしている。だがそれをこらえて素直に『了解』とだけ言った。


「よし、じゃあ作戦開始だ。シオン、エイジ、準備はいいか?」

「問題ありません」

「バッチリっすよ!」


陽動隊の二人はゴウシとともに遺跡へと入って行く。遺跡の入り口にから見える中は真っ暗で、まるで三人は闇に吸い込まれて行くかのように見えなくなった。


「 ”暗視ブラインドサイト” を展開しておけよ。今回は火の魔法は使えないからな」

「わかってるよ、五分後に潜入開始だな」

「暗いからってちびんなよ? お前のおしめを替えてやれる余裕なんてないからな」


小馬鹿にするように言ってきたが、カナミなりの気遣いだったのだろう。おかげでミコトは少しだけ気が楽になった。

そして数えること三百、カナミとミコトは動き始めた。



遺跡に入ってまず ”暗視” を展開する。これで周囲十メートルまでの範囲の地形、生物などを把握できるようになる。もともとこれは光魔法の中の初級魔法の部類に入る、いわば身体強化魔法のようなものだ。どの属性も上級になるとを武器として用いたりすることもできるが残念なことにミコトはどの魔法属性も適正がなかった。だからこそミコトは ”魔法銃” を使っている。魔法銃に必要なのは適正ではなく ”イメージ” だ。つまり想像力さえあればどんな魔法でも使える。無論、魔力は相応に消費してしまうが。

一方で、カナミの方はなにかを展開した素振りもない、というより必要ないのだ。剣の道を極めると ”剣の領域” というものができるようになるらしい。相手との間合いを正確に割り出し、自分の有効射程に相手が入った瞬間に一瞬で斬る。それは ”暗視” よりも強力な、いわば触ると死ぬ結界のようなものだった。


「……やけに静かだな」


カナミが警戒するように言う。


「確かに、先に行ったにしては明かりが見えないし戦闘している感じもない。さすがにやられているということはないと思うが……」

「まあ私たちは私たちの仕事をするしかない。あっちは任せよう」

「……そうだな、こっちもさっさと終わらせて合流しよう」


不安に思いながらも動き出す。カナミの表情までは見えなかったが少なからず心配はしているようだった。



進むにつれて足場は少し悪くなってきた。しかし、幸運なことに敵を見かけることもなく調査は進んでいた。

だが、行けども行けども奥にたどり着く気配はない。肉体的疲労より精神的な疲労が積み重なってきたので、休憩することにした。とは言っても敵を警戒しつつなのであまりのんびりもしていられない。こういう時のためにミコトは一応携帯食料を持ってきていた。味はあまりおいしくはないがないよりはマシだ。

ブロック状のそれを半分に割るとそれをカナミに渡す。


「携帯食料か、助かる。何か食べないとイライラしてこの遺跡を崩壊させかねなかったからな」


冗談交じりに言っているのだろうが、カナミが本気になればやりかねないのであまり笑えなかった。


「それにしても、おかしくないか?」

「ああ、そうだな。……敵がいなさすぎる」


今までの調査は最低でも三回は戦闘になっていた。ローランスからは ”霧影” しか調査に来ていないのに対し、マリオンは合計百ほどの魔法師を部隊にわけて調査に差し向けていた。五人の時ならば撃退することもできるが二人ならばわからないからと、今回はいつもより慎重に進めていた。しかし、結果はこれだ。人どころか生き物すら見かけることなくここまでたどり着いた。


「敵はここまでたどり着けてないのかもしれないな、もしくは陽動に乗ってくれたか……」

「わからない、だがとにかく今まで進めていなかった地点に私たちはいるということは確かだな」


以前は入り口から一キロ周辺ほどしか調査できていなかったが、今回はだいぶ奥まで進んで来ている。今までの調査に比べればだいぶ進展していた。


「それにしても、何のために造られた遺跡なんだろうな?」

「国は《魔銃》に関連していると思っているみたいだが、片鱗も見えないな」


確かに今まで何どもこの遺跡に調査に入ったが、行けども行けども岩しかない。正直入っている側からしてみればそこらへんにある遺跡がちょっと大きくなった程度としか思えないほどになにもない。


「まあ、俺らはあくまで調査隊だからな。この戦争が終わりさえすれば俺たちはお役ご免さ」

「それはそうだが、これだけ駆り出されておいてはいおしまいじゃ納得できないだろう」

「カナミの言い分もわかるけど、今の俺は学生だぞ? それを入学早々に呼び出して戦場のど真ん中での調査任務を命じるなんて普通じゃありえないな」

「お前が普通じゃないんだろう?」


カナミは笑いながら言うが、せっかく手に入れた平穏を軍の手紙一つで失われてはたまったものではない。それにこれを機に血なまぐさいこの戦場からしばらく離れたかったのだ。思わずシズカの泣き顔を思い出し複雑な感情になる。


「その言葉そっくりそのままお返しする」

「言っておくが、この隊の中で一番強いのは多分お前だ」

「……買いかぶりすぎだ」

「謙遜するな。現に私ではお前に勝てないし、私が勝てないのならこの隊の他の奴らではかなわないだろうさ。だからこそお前を信頼しているし、同時に敵視もしている」


ミコトが ”霧影” に入ってカナミとは百回以上戦った。最初はカナミの剣技に圧倒されていたものの、五回目あたりからは完全にミコトのワンサイドゲームだった。だが、それはあくまでカナミが魔法を使わなかったからで魔法を使われていたなら間違いなくミコトの百敗となっていたはずだ。


「……やっぱり魔法は使わないのか?」

「言っただろう、 ”約束” があると」

「そうだったな……すまない……」

「……だが、目の前で仲間が危機に陥っていたなら問答無用で使うさ。もうこれ以上仲間が死ぬのは勘弁だからな」


カナミの ”仲間” という言葉に少しだけ救われた気がした。だからこそミコトもなにがあろうとカナミを守るつもりでいた。


「……おいミコト、何かがこっちに来るぞ」

「ああ、どうやら味方じゃないようだな……」


暗闇の向こうから迫って来る気配を二人は察知していた。ミコトの ”暗視” が認識したのは一人の人間だった。


「人間? しかも一人か……」

「どうやらただの人間ってわけでもなさそうだな。嫌な気配がプンプンしている」


相手との距離が段々と縮まる。そして、五メートルまでその距離が詰まった時、


「おや、ここにもローランスの犬がいましたか」


闇の中から男の声が聞こえて来た。


「死に顔のみ見てもつまらないですからね、自己紹介でもしておきましょうか」


男がそう言った瞬間視界が一気に明るくなる。闇に慣れすぎていたせいか思わず目を瞑ってしまう。

段々と目も慣れ始めゆっくりと目を開けると、そこにはローブをまとった一人の男がいた。


「初めまして、私はマリオン教国軍のジルバ・ベルディオンと申します。以後お見知りおきを」

「ずいぶん丁寧な挨拶だな。今から殺しあう相手に自己紹介か?」


ミコトは強気にそう言ったが、男から感じる殺気をひしひしと感じていた。


「人と話す時のマナーみたいなものですよ。ところで私の自己紹介は終わりましたのでそちらの名前も伺いたいのですが?」

「語ることなどない。まあ、語っとしてもどうせ私の剣で切り裂かれるのだから意味などないがな」

「淑女か剣ですか……無粋ですね」


その一言にカナミは怒ったようでジルバを睨みつけていた。


「私を淑女と言ってくれたことに免じて土下座するならば許してやってもいいぞ。まあその後どうせ斬るがな」

「これはこれは失礼。しかし今の時代に剣で魔法に立ち向かうなど、ずいぶん面白いことをするのですね」

「お前に詫びるつもりがないことはよく分かった。だからさっさと終わらせるぞ」


次の瞬間、カナミが一気に加速する。ジルバとカナミの間が一瞬で詰まりカナミがクロスレンジに入る。 これはカナミの十八番とも言える ”縮地” だ。通常の ”縮地” よりもはるかに低姿勢で行くカナミのそれは、目視させることなく相手を惨殺する。それはこの男も例外ない……はずだった。


「……ほう、これが ”縮地” ですか。恐ろしい速さですね、あと少し判断が遅れていたら死んでいました」

「っつ!」


カナミは一気につめた間を今度は一瞬で離れる。


「……どういうことだ、お前なにをした」

「なにもしていませんよ……私はね」


その言葉を聞いたミコトはすぐに ”暗視” を展開する。


「やはりか……お前 ”召喚術師ディコネクター” だな」

「おや、バレましたか。あなたなかなかいい目をしてますね」


ジルバは笑いながらそういうが、ミコトとカナミは全然笑えなかった。


「おいミコト、冗談で言ってるんじゃないんだな? もしそうだったらお前をまず斬るぞ」

「俺も嘘だったらいいと思っているがどうやら嘘じゃないらしい、本人も言ってるだろう?」

「ええ、その通り私は ”召喚術師” ですよ。しかし、なぜ分かったのですか?」

「単純に言えば、お前の体には防壁魔法がされていないにもかかわらずカナミの本気の攻撃を止めた。たとえ防壁魔法が張られていたとしても、カナミの剣を防ぎきれる奴などまずいない。となれば残る可能性は ”召喚術師” の ”憑依” しかありえなかったからな」


”召喚術師” は魔物や神を呼び出すことができるこの世界にほんの一握りしかいない人間である。その召喚術師が使う技に ”憑依” というものがある。これは、魔物や神の特性を召喚術師の体に憑依させ、その特性を召喚術師が扱うという恐ろしい技である。以前読んだ書物に書いてあったが見るのはミコト自身初めてだった。


「そこまで分かった人間はあなたが初めてですよ。私が戦場に出ると皆『化物』と言って逃げていきますからね。ちなみに、私が今憑依させているのは ”土の怪人(ゴーレム)” です。人間のそれではどうにもできませんよ。」

「それはやってみないとわかんないかもしれないぜ?」

「ほう、何か策があると?」

「まあな、だが召喚術師と戦うなんて初めてなんでな探り探りやらせてもらう。カナミはしばらく動かないでくれよ」

「……分かった、だが流石にやばいと思った時は参戦するからな」

「ああ、それでいい。すまないな」


そう言ってジルバを見据える。 ”暗視” で見える憑依は隙がないくらいに密で、崩せる場所すら見つからない。

だが、ないのなら作ればいい。ミコトはリボルバーを抜いた。


「 ”リフル” 」


二丁のリボルバーからテンポよく弾が発射される。交互に撃っているがまるで同時に撃っているかのような早撃ちだった。


「無駄ですよ、いくら銃とはいえ ”土の怪人” の堅さの前には無意味です」

「そう判断するのは早計かもな……」

「なにを……むっ、あなた何をしました?」

「ただ銃を撃っていただけだ……一点にずっとな」


ミコトはデタラメに銃を撃っていたわけではない。いかに ”土の怪人” が堅かろうが、同じ場所にひたすら弾を撃ち続けられればダメージは蓄積されいずれ綻びが生まれる。ミコトはそれを狙っていた。


「……なるほど、そういうことですか。面白い、では一段階レベルをあげましょうか」

「なに!?」


”暗視” に変化が生じ、ジルバの憑依が分厚くなる。


「では、仕切り直して二回戦といきましょうか」

「召喚術師がここまでデタラメだとは思わなかったぜ」

「まだまだ序の口ですよ」


正直策がないわけではないが完全にジルバのペースだった。一歩間違えばどんな技が出てくるかわからない、それ故にミコトは動けずにいた。


「どうしたのですか? 何もしないならこちらから行かせてもらいますよ」


こう着状態から先に動いたのはジルバだった。召喚術師にもかかわらず間合いを詰めてくる。憑依させた ”土の怪人” の堅さを生かして戦うつもりなのだ。一撃でもくらえば骨の二、三本は軽くへし折られるだろう。近づくのは危険だと判断し間合いを取るためにバックステップで避けようとしたが、わずかにジルバの拳がミコトを掠める。その瞬間凄まじい痛みがミコトの体を貫いた。


「っつ! 嘘だろ、掠っただけでこんな威力かよ……」

「素晴らしい反応速度ですね、でも次はそうはいきませんよ」

「ああ、俺だって何もせずに終わるわけにはいかないからな」

「では、行きますよ……」


またジルバが間合いを詰めてくる。しかし、今度はミコトは避けなかった。そしてクロスレンジにジルバが入った瞬間


「…… ”破砕バースト”」


突如ミコトとジルバの間に爆発が起きる。だがそんな攻撃ではジルバには通用しない。しかし、ミコトがこれを撃った意味は別にあった。


「無駄ですよ、その程度の爆発では外壁どころか傷一つもつけられませんよ」

「ああ確かにそうだな……外壁ならばな」

「なにっ?」


次の瞬間ジルバの体が爆発する。ミコトが ”破砕” を撃った理由はこれだった。爆風による視界の妨害、そしてジルバに憑依しているゴーレムの内部に威力を何倍にもした時限式の ”破砕” を仕掛けていたのだ。ジルバ本体に仕掛ければ反射魔法アンチスペルで弾かれてしまうのであえて防壁を削ぐことに全力を尽くした。それが効いたようで、 ”暗視” に大きな変化が生じていた。 ”土の怪人” の防壁の胸あたりが、えぐられたように破壊されている。最初に言った通りに無い隙を見事につくりだしたのだ。


「カナミ! 追撃を頼む、俺の威力だけじゃ押し切れないかもしれない」

「了解だ! さっきの借りは倍にして返してやろう」


カナミが先程とは比べ物にならない速度で加速する。そして剣に全ての体重を乗せジルバの胸に突き立てた。それと同時にミコトもカナミに当てないように弾を撃ち込む。


「憑依さえなくなればただの人間に変わりないくらい弱い。勝負あったな。」


勝ち誇ったようにカナミが言い切った。多分、先程剣を馬鹿にされたことが相当悔しかったのだろう。だが次の瞬間、聞こえるはずのない声がミコトとカナミの耳に入ってきた。


「……ええ、そうですね。確かに憑依がなければ私はただの人間です。だから ”そのもの” 自体を呼び出すとしましょう」


ジルバの体に変化が生じ ”土の怪人” の憑依が消える。が、その直後ジルバの前に光が収束しはじめた。そしてそれは次第に形を取り始める。小さな光が集まってできたそれは、書物に出てくる天使のような形になった。


「まさか……お前、神格フェーダ級のやつを召喚したのか!?」

「ご名答、これは復讐の女神(イザベラ)の一部です。さすがに全てを召喚するとなるとそれなりの対価が必要ですからね」


確かに、ジルバの召喚したそれはまだ完全とは言い難いものだったが、ぞれでもそのオーラは異常である。人間などちっぽけな存在にしか思えないほどの存在感がそれにはあった。


「……とんだ隠し玉持ってやがったな」

「ここまで見せたのはあなた方が初めてですよ。まあ、冥土の土産のようなものです、出し惜しみする必要もないでしょう」

「じゃあ、お礼に俺も全力を出すとするよ。……カナミ、前衛は俺がやる。フォローを頼むぞ」

「……了解した、死ぬなよ」


ミコトは深呼吸をし相手を見据える。今の状態では相手の情報がにもない。迂闊に動けば間違いなく死ぬだろう。だが、ジルバが動く気配は全くなかった。


(俺が動くしかないのか……)


覚悟を決めて銃をしっかりと握り直す。そして、ゆっくりジルバの額に狙いを定め一発だけ撃つ。

弾は狙い通りにジルバの額に向かっていき、頭を撃ち抜く……はずだった。

次の瞬間、ミコトに向かって何かが飛んできたが、間一髪でそれを躱した。


「……タチが悪いぜその能力」

「もう ”復讐の女神” の能力を見破りましたか、その洞察力に関しては尊敬に値しますよ」


復讐の女神、その名の通り受けた攻撃を反射させてくるのだ。厄介なのはそれだけではない、反射されるものは全てを倍で返ってくる。つまり、魔法自体を撃っても意味がないのだ。


「カナミ、少し手を貸してもらえるか?」

「何をするつもりだ?」

「お前の剣技の中に真空波を飛ばせるものがあっただろう? それをあいつに撃ってくれ」

「 ”衝波” か……いいだろう、いくぞっ」


カナミが抜刀の構えをする。これはカナミ自身のオリジナルの剣技だ。

そして抜き去ると同時に物凄い勢いの真空波が生まれジルバに飛んでいく。

だが、その真空波もミコトの銃弾と同じように弾き返され恐ろしい勢いでミコトたちに返ってきた。

かろうじて避けたもののあまりの威力に絶句する。


「……カナミ、もう一つだけお願いがある」

「……なんだ」

「逃げてくれ」

「断る」

「別にカナミだけ逃げろと言ってるんじゃない、俺が時間を稼ぐからその間に逃げてくれと言ってるんだ。お前の剣は威力が高すぎて反射されるものの威力も尋常がないんだ、正直俺も危ない。」

「それでもだ。お前はビビってるのか? 私はこいつに私の剣を馬鹿にされた、その上尻尾を巻いて逃げるなど死んだほうがマシだ」


カナミには ”約束” があり、今ここで逃げればそれを破ることになる。それほどにその ”約束” は破れないものであり、それがカナミの剣の全てであった。


「……分かった、じゃあ俺も ”あれ” を使うか……」


ミコトは目を閉じ頭の中でイメージを始める。

思い浮かべるのは、鋭い氷と全てを燃やし尽くす炎。そのイメージがくっきりとした時、ミコトは銃を構えた。


「 ”装填ロード” 、《マキシマムフレア》《フリーズランス》」


二つのリボルバーにそれぞれ弾が込められる。それは火属性と氷属性の上級魔法を銃弾化した、いわゆる魔法弾だった。


「うまくいってくれよ……」


ミコトは祈るように二つの銃弾を同時に発射した。弾道はさっきと同じようにジルバの額めがけてぶれることなく進んでいく。そして弾がジルバの額から十センチまできた時、二つの弾がぶつかり合い大量の水蒸気をまき散らした。 だがそんなものでどうこうできるほどジルバは甘くない。


「目くらましですか? ずいぶん舐められたものですね」

「いや、まだだ! ”装填” 、《フリーズ》《サンダー》」

「なにっ!?」


ジルバが驚くのも無理はない。なぜならこの二つの魔法はそれぞれ初級魔法で威力は皆無に等しいのである。


「血迷いましたか? それとも負けを認めたのですか?」

「さあな、自分で判断しろ」


ミコトは迷うことなく弾を撃つ。しかし、さっきとは打って変わってタイミングはバラバラ狙いもそれぞれ上下に大きく逸れていた。


「ふ、やはり負けを認めたととってよかったようですね」

「……いや、そうでもないさ」


そう言った瞬間、凄まじい衝撃がジルバの体を貫いた。いきなりのことに何が起きたのかジルバは理解できていなかった。


「ぐっ! あなた、一体何を……」

「……やはりか。お前が召喚したそいつ、お前が『一部』って言った時少し引っかかったんだ。完璧に俺たちの攻撃を反射してきたそいつのなにが欠けているんだろうと。そして一つの可能性が浮かび上がったんだ。もしかするとそいつは、何かと何かが干渉した結果発生したものならば防げないのかもしれないってな」

「まさか!……」

「ああ、お前の察している通りだよ。俺が起こしたのは ”雷” だ」


雷は条件さえつくってしまえば簡単に起こせる。

水蒸気が冷やされることによって雲ができ、その中で氷の粒が擦れ合う。そして、擦れ合うことによって静電気が発生する。雲の中で電気を帯びた氷の粒はプラスとマイナスで上下に分かれ、この時すでに雷自体は多少は起きている。あとは地表のプラスの電気と雲の中のマイナスの電気が引きあえば雷の完成だ。

ミコトの場合は小さい規模でやったものであるため、死に至らしめるほどの威力は出なかったが、一つの突破口を見出したことを考えれば、そんなのは些細なことだった。


「……どうやら私はあなたを見誤っていたようです。いいでしょう、私も全力を出すとしましょう」

「させるかよっ!」


ミコトは詠唱を始めようとするジルバの頭上にある岩を撃ち抜く。


「くっ、小癪な!」


ジルバは岩を避けるために詠唱を中止し後ろに飛ぶ。詠唱を邪魔されたことにより、ジルバは思わず歯噛みしていた。それは、この戦いで初めて見せたジルバの焦りだった。


「……私を忘れるなよ」

「なにっ!」


ジルバが飛んだ真後ろにはすでに、カナミがいた。


「 ”風爆” 」


それは初めて見るカナミの魔法だった。風を閉じ込め相手に当てることにより爆発させ風の刃で切り刻む。だがカナミはその風の塊に自らの剣をぶつけた。その瞬間、凄まじい風圧がジルバを襲い容易く吹き飛ばした。


「カナミ……」

「あくまで暫定的なものだ。どうやら出し惜しみしてる暇もなさそうだからな」


非常時とはいえ誓いを破って魔法を使ったカナミになぜか申し訳ない気持ちになってしまった。

しかし、カナミの言葉の通り、あれだけの攻撃をくらったにもかかわらずジルバは立ち上がってきた。


「……いいでしょう、あなた方には絶望を与えてあげましょう。イザベル! ”嘆きの歌” を聴かせてあげなさい 」


突如 ”復讐の女神” から人間の言葉ではない言葉で歌が歌われる。その瞬間ミコトとカナミは思わず膝をついてしまった。


「くそっ! 力が……」

「くっ! なんだこの歌は、体が重い……」

「これは ”復讐の女神” の恨みの言霊が積み重なってできた呪いのようなものですよ。そのうち精神崩壊を起こして死に至ります。聴きすぎるのも毒、ですが耳を塞げば私が、選択肢はもはやありません」


ジルバは傷を負った体を起き上がらせてミコトに近づいてきた。

ミコトは考えた。この状況で最善の策は? どうすればこいつを倒せる? そして、一つの考えが浮かぶ。

歌で重くなった右腕を力を振り絞ってどうにか動かし、そしてカナミに向かって叫んだ。


「カナミ!! 退がれ!!」


そう言うと同時に銃を上に向ける。


「死ぬのは勘弁だが、そうも言ってられないんでな。悪いがお前も道連れだ。 ”破砕” !!」


ミコトの放った銃弾は天井に当たると同時に大爆発した。そして上から大量の岩がミコトとジルバめがけて落ちてきた。ジルバも傷を負っていたせいか動けないようだった。


「……すまないカナミ、約束を果たせそうにないな……」


だが一番初めに落ちてきた岩が地面に落ちた瞬間、地面が揺れ始める。

そして、ミコトの足元がなくなった。

下に見えるのはどこまでも深い闇。ミコトは暗い闇の底に飲み込まれるように奈落の底に落ちていった。

その最中、遠くからミコトの名前を大声呼ぶカナミの声が聞こえたが、その姿は大量の岩に隠れて見ることはできなかった。


(俺は死ぬ、のか?……)


その瞬間、走馬灯のように昔の記憶が蘇り始めた……


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