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最恐最悪の魔銃  作者: サコロク
王の再来
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始まりの日の始まり

肌寒い日の出前、町はまだ眠りから覚めていなかった。

だがそんな中をミコトは疾走していた。その速度は風のように早く、常人には目視できないほどだ。

向かう先は城壁を超えた先、フィルフェリア平原の端の方にある古びた小屋だ。そこが ”霧影” の集合地点となっている。

街並みがスクロールするように流れていき、目の前に城壁が見えてくる。城門を守る兵士が見えたが、どうやら城門に背を預けてうたた寝をしているようだ。

好都合だと思いミコトは音を立てないようにし兵士の目の前を通り過ぎる。もしミコトが敵兵だったならこの兵士は間違えなく打ち首だろう。だが今だけは目を瞑っておくことにした。



城門を抜けるとそこには広大な平原が広がるはずなのだが、今は戦時中ということもあって城門からすぐのところに自陣が敷かれていた。しかし、目的地はそこではない。もっと南西の少し樹林帯になっている所の入り口に目的の小屋はある。ミコトはいつもと同じように自陣を迂回するように移動を始めた。

一時間も経った頃、樹林帯の一部分が見えはじめた。そして目的地の古小屋が見えた、その時。

ミコトの足が止まった。


「敵か?」


隠密に動いている分、敵の察知には敏感でなければいけないのだが、先に到着した味方の可能性もある。だからこそ下手に動けなかった。

時間にしておよそ十秒、状況が動く。先に動いたのは相手の方だった。それに合わせてミコトも腿に装備してあるリボルバーに手を添える。そして相手がミドルレンジに入った瞬間、ミコトの頬を何かが掠める。


「まさかこれは!」


そう思った時にはすでにクロスレンジにフードを被った相手がいた。だが、ミコトは銃を抜かなかった。

そして、ミコトの首筋に剣が突き立てられた。


「減点だな、ミコト。もし私が敵だったらお前は死んでいたぞ」

「お前と分かってたから抜かなかったんだよ。女に武器を向ける男なんて最低じゃないか。だろう? カナミ」


目の前の相手が突き立てた剣をしまいフードを取る。するとそこには青色の髪の女性がいた。


「久しぶりだなミコト、三ヶ月ぶりか?」

「そんなだったか? それよりも元気にしてたか?」

「まあ、見ての通りだ。相変わらず呼び出されては、収穫の見込みのない調査に駆り出されて、もううんざりだな」

「それは言えてるな」


彼女は、三葉カナミ。一応ミコトの先輩にあたり、その剣の技術は異常なまでの力である。魔法使い相手に魔法無しで勝ってしまうほどに恐ろしい剣技なのだ。 ”霧影” の紅一点ということもあり暗殺と潜入でカナミの右に出るものはいなかった。


「とりあえずミーティングだ、さっさと行くぞ」


踵を返して小屋の方に歩いて行くカナミに慌ててミコトはついて行った。



小屋に入るとそこには三人の男がいた。机の上で地図を眺めている中年の男が、隊長の岩倉ゴウシ。いかにもインテリのようなメガネをかけて、本を読んでいるのが四ッ谷シオン。武器の手入れを入念にしているのは冬坂エイジだ。いつもと変わらないメンバーがそこにはいた。


「おう、着いたかミコト。遅かったな」

「久しぶりだねミコト君、元気だったかい?」

「おっせーな、こっちは準備万端なんだぞ」


三人から挨拶を受け取るとミコトは机の上にある地図を眺めた。それは調査中の地下遺跡の地図だが半分以上が白紙状態だった。それがいかに調査が進んでいないかを意味している。


「潜入までのルートはいつもと一緒だ。戦火に紛れて進入、そこからの段取りを今から決めるんだが……」

「この状況ですからね、今回も現地で状況に応じてって形になりますかね」

「そうだな……誰か他に意見はないか?」


全員一様に考えてはいるようだったがそれ以上の案が浮かんでいる様子はなかった。だがその沈黙を破ったのはカナミだった。


「……今回は二グループに分けて調査にしてはどうだ? 敵の戦力もある程度把握しているから大丈夫だろう」


その提案に皆渋い顔をしたが、確かに現状で一番効率的な案であったために否定もできなかった。


「メンバーはどう分ける?」

「私とミコトで先行調査、残りで迎撃しつつ調査って形でどうだ?」

「うーむ……」


ゴウシとしてはリスクを抑えて調査したいと考えているのだろう。だがそれでは調査が進まないのも事実だ。それ故に慎重に決めなければいけない。それがゴウシを悩ませる。


「……仕方がないな。今回はそれで行く。だがカナミ、的に遭遇したら間違っても戦うなよ? 多少の迎撃ならいいが本気でやると遺跡が崩壊しかねん」

「了解。ってことでミコト、くれぐれも足を引張てくれるなよ?」


カナミはいたずらっぽく笑うが、内心本気で言ってる気がするのでミコトは思わず苦笑いしてしまった。


「ではあっちが動き次第こっちも行動開始だ、それまでに準備は完璧にしておけよ」


ゴウシのその一言で解散となり、全員各々の準備をはじめた。

ミコトは特に準備するものもなかったので外の空気を吸いに行くことにした。




外に出ると日は登りすっかり朝になっていた。樹林帯からくる空気は澄んでおり、不思議と落ち着いた気持ちになる。

ふと自分の装備を確認する。仕込みナイフに煙幕、自害用の毒に回復用の魔石。そして ”二丁の銃” だった。

この ”二丁の銃” は貰い物だった……死んだあの女性からの。

彼女が死ぬ間際、ミコトは寝たきりの彼女に呼び出された。その時彼女は『私は果たせなかった。だから頼む。』そういってこの銃をミコトに渡しその後すぐ息を引き取った。その後色々調べたが特に何の変哲も無い魔法銃でしかなかった。彼女の形見として今でも使い続けているが特に何も無い。

魔法銃の原理はイメージした魔法を打ち出すことによって発動する仕組みなので、想像力がないと扱うことが難しい。その点ミコトには扱いやすい武器であった。

死ぬ以前、彼女はミコトとシズカに一般教養とは別に魔法も教えてくれた。その時に一番言われたことが『魔法とは自分が想像したものを具現化したものでしかない。それ故に魔法と想像力はイコールの関係にあるとい言っていい』、と常々言っていた。はじめのうちは言っている意味がわからなかったが、魔法を使っていくうちにその意味が理解できた。想像力に関してはミコトよりシズカの方が得意だったため魔法のみでは負けていたが、そんなミコト見かねて体術を教えてくれたのも彼女だった。


「あの時が一番楽しかったな……」


思わずポツリと呟く。


「なーに感慨にふけってんだ」


暇を持て余していたのかカナミはつまらなそうな顔をしていた。


「ちょっと昔のな……」

「そういや、お前の過去の話ってあんまり聞いたことないな」

「別に話すようなことでもないさ」

「そうか……」


カナミはそれ以上追求してこなかった。それがミコトとしてはありがたかった。

だがここで気まずい感じで終わるのも嫌なので、カナミについて聞いて見ることにした。


「なあ、カナミは何で剣しか使わないんだ?」

「ふむ…そうだな。 ”約束” だからってところかな」

「 ”約束” ?」

「ああ、昔の話だ……」


カナミの昔話を聞くのは初めてだった。 ”霧影” のメンバーでさえカナミの入隊前の経緯を知らない。それだけにカナミ自身から話すということにミコトは少し驚いていた。


「私はこの隊に入る前はお前の在学している魔法学校に居たんだ」

「そうなのか?」


カナミとミコトの年の差は五つほどしかない。つまり卒業したのはつい最近ということになる。しかし、ここまでの剣の使い手ならば少しぐらい噂なってもおかしくないのにそれらしい噂は一つも聞いたことがない。


「ああ、だが途中で退学になった。 ”ある事件” のせいでな。」

「ある事件?」

「……それについては聞かないでくれ。とにかくその事件のせいで私は学校を去ることになったんだ。だがその時、仲が良かった一人の女子が私に言ったんだ『あなたの剣はきっと何者にも負けない。だからあなたは剣に生きて、私はその剣が好きだから』、とな」


カナミにもカナミなりの生き方があり、その生き方を今でも貫いている。それがミコトには羨ましくもあり憧れに近い感情を抱いた。


「その女子生徒とはそのあと会ってないのか?」

「……死んだよ」

「えっ?」

「あいつは軍に入って最前線で戦って死んだ、一年前の話だ」


この戦争が始まって少なくともまだ半年近くだ。一年前ということはマリオンとの戦争が始まる前に命を落としたことになる。しかし、軍が駆り出されるような出来事はマリオンとの戦争が始まるまでなかったはずだ。


「あいつは小隊を組んで今の私たちのように調査任務にでていたらしい。簡単な遺跡調査で少なくとも一週間で終わるはずだった。だが一ヶ月経ってもあいつは帰ってこなかった。さすがにおかしいと思った軍は遺跡に別の調査隊を向かわせた。そしてそこで、皆殺しにされた小隊を見つけたそうだ」

「……何が起きたんだ?」

「さあな、だが調査隊の話では、全員撃ち殺されていたらしい。全員同じ ”魔法銃” でな」

「なに⁉︎」


魔法銃は一対一ならば圧倒的優位に立てるが一対多数では間違いなく分が悪い。それも相手が魔法師ともなれば必ずと言っていいほど負ける。ミコトが一対多数でも渡り合えるのは想像力の高さと体術を併せ持っているからである。そんなミコトでも相手が全員魔法師であるなら勝つのは容易いことではない。

それなのにそいつは一人で魔法師複数人を一人で殺しているのだ、相当の強者と言えるだろう。


「それから私はそいつを殺すためにこの隊に入った。まあ今まで一つもそれに関する情報はないがな」


カナミは唇を噛み締めながらそう言った。それがカナミの強さでもあり弱さでもあることをミコトは少なからず理解した。


「そうか……じゃあ、生きて帰らないとな」

「ああ、だから足を引っ張ってくれるなよ? お前に死なれても目覚めが悪くなるからな」

「わかってるよ、カナミこそ簡単に死ぬなよ。俺たちは運命共同体のようなもんだからな、お前が死ねば間違えなく俺は死ぬぞ?」

「善処するが期待はするな……そろそろ時間だな、ぼちぼち行くとするか」

「そうだな、よろしく ”相棒”」

「 ”相棒” にふさわしい働きをしろよ?」


カナミは満足げに拳を突き出した。それに合わせるようにミコトも拳を突き出しカナミのそれに合わせる。


そして開戦の音とともに ”霧影” の作戦も始まりを迎えた。

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