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最恐最悪の魔銃  作者: サコロク
王の再来
3/55

始まりの日・前日

生徒会室から戻ったあと、特に用事もないので教室に戻ることにした。シズカには寮に戻るといったがあれはあくまでも逃げる口実だったので少しの罪悪感がミコトの中にあった。

ミコトが生徒会室に来たのは学級のレクリエーションなどが終わった後だったので今はもう夕方近くである。そのためか生徒会室から教室までの道のりにはあまり人がいなかった。窓の外からは帰宅する生徒、魔法訓練をするものなど様々な人たちがいる。

そんな風景をぼんやりと眺めながらミコトはさっきの手紙を読み返していた。


「 ”霧影” か……」


手紙には送り主の名前は書いていない。だがこの手紙の差出人をミコトは知っていた。知っていたと言うよりもその ”隊員” なのだ。

”霧影” はこの国の軍の中の影の部隊、いわば裏の仕事を担当する部隊である。調査任務をはじめ、暗殺、工作、潜入などその仕事内容は様々だ。

その ”霧影” の調査任務と言うと一つしかない……《魔銃》の探索任務だ。

近年、戦争が過激化しそれに伴い様々な魔導兵器が生み出されている。そんな中、国が着目したのが失われたとされていた《魔銃》の調査だった。伝承では一丁で国を、全てが揃うと世界を滅ぼすとされていた。しかし、その実態を見たものはいないし、そもそももう何年も前に失われたと言われているのだ。

それでも国が調査に乗り出したのは、 ”地下遺跡” の発見だった。

三ヶ月前、隣接国のマリオン教国とローランス皇国のちょうど境目に一つの地下遺跡が発見された。それが今起きているマリオンとローランスの戦争の原因でもあった。互いに所有権を主張して譲らず、その結果戦争まで発展してしまったのだ。

だからこその ”霧影” への調査任務なのだ。表では戦争をさせながら裏で隠密に調査をする。確かにそれに関しては ”霧影” が適役だった。

だが、そう簡単に調査できるわけではない。敵だってそう考えたのだろう、遺跡にたどり着いては敵との戦闘が当たり前だった。長引けば表の兵たちが気づくため長居はできない。だから調査は殆どと言っていいほど進んでいなかった。


「入学早々か……面倒に巻き込まれたかな……」


ミコトとしてはごく普通の生活を送りたかった。だが断ることができない。それが辛いと言うわけではないが、シズカに申し訳なくなってしまう。シズカはミコトの身を案じて特別にこの学院に招待してくれたのだ。それなの入学早々休みとなっては元も子もない。

しかし、そんなことばかりも言っていられないのが現実だった。


「やるしかないよな……」


考えるのをやめて教室へ足を向けて歩き出す。夕日が差し込む校舎内は妙な静けさがあり不吉な感じがした。


「もうすぐ黄昏時か、早く帰って準備するか」


黄昏時は同時に逢魔が時を意味する。だからこそ今の状況にぴったりの言葉なのかもしれない。ミコトの後ろに伸びている影が大きくなり、闇が大きくなる。それと同時に ”魔の時間” が始まりを告げようとしていた。




教室の前まで来たが日中のような騒がしさとは一変して、気味が悪いくらいに静かだった。

さすがに全員帰っているだろうと思ったが、その予想は見事に外れた。教室のドアを開けると、窓側の列に一人たたずむ女子生徒がいた。


「あっ、やっと戻って来た」


そう微笑む女子生徒の名前は、久城ミレイという。このクラスの委員長だったのでミコトも名前を覚えていた。


「久城さんか、まだ残ってたんだ」

「天月くんのバックが残ってたから、もし忘れて帰ってたのなら届けないといけないとおもって」

「そうか、ごめんなんか迷惑かけたみたいで」

「ううん、全然いいの。 だって ”委員長” でしょ?」


窓から差し込む夕日が、にっこり笑う彼女の美しさを強調させていた。ミコトは思わずドキッとしてしまった。


「それよりも聞きたいんだけど、天月くんと生徒会長ってどういう関係なの?」

「えっ? なんで?」

「だって入学早々指名で呼び出されるって、今日問題を起こさない限りなにかしらの関係があるとしか思えないよ?」

「ずいぶん鋭いんだね」

「女の勘ってとこだよ」


あまり軽々と話したくはなかったが、先程の裏のない笑顔を思い出し正直に話すことににした。

話を聞いた彼女は同情するでもなく、ただ微笑んで


「じゃあ天月くんのにとって生徒会長は大切な人なんだね」


その言葉に、驚く同時に救われた気がした。

こんな話をして笑顔でそう言える彼女は本当に裏のない人なんだろう。それが嬉しく思えた。


「でも、このことは他の人には……」

「わかってる、二人だけの秘密ね」


人差し指を口に当てていたずらっぽく笑う彼女はとても綺麗で、ミコトは頬が赤くなっていることに自分自身では気づいていなかった。


「ありがとう、それともう一つ……」


ミコトは委員長である彼女に明日から何日か来れないということを伝えておくことにした。彼女ならばなにも聞かずに受け入れてくれる、そう思ったからだ。


「実はある用事で何日か学校に来れないんだ」

「……その用事ってのは聞かないほうがいいんだよね?」

「うん……ごめん……」

「……分かった、クラスのみんなには上手く言っとくから。気にせず行ってきて。」


追求することなく送り出してくれる彼女に少し申し訳なった。今日クラスメイトになったばかりで、しかも今初めて喋った人をどうしてこんなにも信じられるのだろう。その人の良さに助けられつつも疑問に思ってしまった。


「その代わり一つお願いを聞いてくれる?」

「できる限りのことならなんでも」

「じゃあ……ミコト君って呼んでもいい? 私のこともミレイって呼んでくれていいから」

「……えっ?」


もっと大きな要望が来ると思っていたため驚きを隠せない。そもそも女性を名前呼びなどシズカ以外したことがない、というよりも人とあまり関わってこなかったため彼女のこの要望は意外中の意外だった。


「えっと……呼ぶのは全然いいんだけど、さすがに俺が久城さんを名前で呼ぶってのは……」

「ダメ?」


そう上目遣いでこられて断れる男はいるのだろうか。ましてや容姿も人間性も完璧なまでの彼女なのだ勝てるはずがなかった。


「……分かったよ、ミレイ」

「うん、ミコト君」


満足そうに彼女も美しく、照れ臭くなって思わず顔をそらしてしまった。


「それじゃあ俺は先に帰るね」

「あっ、待ってミコト君。ミコト君寮暮らしでしょ? 一緒に帰らない?」


それはさすがに、と思ったが彼女には借りができてしまったのでそれを思うと断りづらかった。


「分かったよ、じゃあ帰ろうか」

「うん!」


そう言うと鞄を取り教室の中を見回して、戸締りのチェックをすると二人で教室をでて寮に向かって歩き始める。

こんなところを他の生徒に見られたらと考えると急ぎ足になりそうになるが、そんなことすれば彼女に失礼だと思ってしまい歩くペースを彼女に合わせてしまう。

十分ほど他愛ないおしゃべりを続けながら歩いていると寮の門が見えてくる。


「じゃあここでお別れかな」

「うん、楽しかった。だから早く戻ってきてね」

「わかった、今日は本当にありがとう。ミレイのおかげで少しだけ気が楽になったよ」

「そう言われると嬉しいな。私も話せてよかったって思ってる。また戻ってきたらお話しようね」

「ああ、必ず。じゃあまた」

「うん、無理しないようにね」


別れ際手を振る彼女は少しの不安を持ちながらも笑顔で不安を隠していた。

そしてその不安は、この後見事に当たってしまうのだった。


運命の日が幕を開ける……


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