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最恐最悪の魔銃  作者: サコロク
王の再来
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再会

一週間前……

シルドラント大陸の東、ローランス王国の魔法学校では入学式が行われていた。

新入生はすでに講堂に入り、これからの生活や新たにできた友達との話に花を咲かせている。


だが、そんな生徒の中に一人、誰と会話するでもなく気持ち良さそうに眠る生徒がいた。しかし、そんなこと気にするかでもない周りは話に夢中だ。それ故に彼は何も気にすることなく寝れていた。


「間も無く、入学式が執り行われます。生徒の皆さんは静粛に」


この魔法学校の先生であろう人の声で騒がしかった講堂が静まり返る。

だがそんな声でさえ眠っている彼の元には届かない。そして、式が始まった。


式は開会の辞、校長の長い話と進み生徒会長からの話となったところですでに三十分を過ぎていた。

新入生はおろか在校生ですらうんざりする校長の長話はもう何人かを眠らせていた。

そんな中、ステージに上がってきた人物は、誰が見ても見劣りすることがないくらいのとても美しい女性だった。


「新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます」


その美しい声で、眠っていた生徒たちが目を覚ます。しかし彼は依然として起きる気配はない。


「皆さんの入学を心からお待ちしていました」


そう言って微笑む彼女の姿にすでに何人もの男子が心を奪われていた。男子に限らず女子からも憧れの眼差しが向けられる。


「私はこの学園の生徒会長、時崎シズカと申します。私を含めた在校生一同皆さんの入学を歓迎いたします」


シズカは新入生を見渡しながらそう言った。そして、寝ている一人の生徒を見つけた時思わず微笑をこぼした。その微笑みの裏には少しの悪戯心も含んでいた。


「私からももう少し歓迎の辞を述べたいのは山々なのですがどうやら入学式が楽しみで昨日眠れず長話に疲れた生徒もいるようなので私からの歓迎の辞はまた日を改めてとさせていただきます」


ちょっと含んだ言い方でそう言い切ると、見事なまでのお辞儀をしステージを去ろうとした、が何か思い出したかのようにステージに戻ってきた。


「言い忘れておりました、新入生の天月ミコトくんは後で生徒会室にきてくださいね。用件がありますので。お時間をとらせて申し訳ありませんでした」


多くの生徒がシズカが去っていくことを残念がりながらも呼ばれた生徒の事を気にしているようだった。

そして呼ばれた当の本人は、名前を呼ばれてはじめて目覚めるのだった。






生徒会室の前に来たミコトは少し気分がどんよりとしていた。それは怒られるかもしれないという事に対してではなく今から会う人物との関係にあった。

だがそんなことを気にしていても仕方ないと、覚悟を決めてドアをノックした。


「失礼します、先程呼ばれた天月ミコトですが、在室中でしょうか?」


正直返事が返ってこない方がミコトとしては嬉しかったのだが、そんな期待とは裏腹に透き通った声で『どうぞ、入ってください』、と返ってきた。

気落ちしながらも入るとそこには見慣れた一人の女性がいた。紅茶を飲みながら微笑を浮かべるその女性は、普通の男などイチコロで落としてしまうであろう美しさであった。


「久しぶりね、ミコト」

「お久しぶりです、シズカ ”先輩” 」


ミコトが皮肉を込めてそう言うと、案の定シズカは頬を膨らませていた。だがそんな仕草ですら愛らしさがあり不覚にもドキッとしたことは心の内に留めておく。


「ふーん、お姉ちゃんにそんな態度取るんだー、ふーん……」

「ここでの立場は俺は後輩、あなたは先輩でしょう?」


少し突き放すようにそう言うと、シズカの顔が段々涙目になっていく。

そんな反応をされるとは思っていなかったミコトは思わず動揺してしまう。何かかける言葉を考えようとするがその間にもシズカの目元は今にも涙が溢れんとしていた。

さすがにそこまでされると負けを認めざるを得ないミコトは観念したように


「じょ、冗談だよシズカ、本当に久しぶりだね」


と言いながらシズカの頭を撫でる。内心では少しハラハラしていた。こんな状況を誰かに見られでもしたらどんなレッテルが貼られることか……


「心配だったんだから、ここ最近は手紙も寄越さないし……」

「それは、その……ごめん、忙しかったんだ……」

「あまり心配させないでね? 大切な ”家族” なんだから」


そう言うシズカの顔はもういつも通りの顔に戻っていた。それはたった一人の家族に向けられる心からの微笑みだった。

だが、正確に言えばシズカとミコトは血は繋がっていない。どちらも親の顔さえ知らない。二人は幼少期にある女性に拾われそこで本当の姉弟のように育った。シズカはミコトよりも二歳年上でミコトが泣けばあやすのはいつもシズカの役目だった。シズカがミコトに過保護なところもそこで芽生えた家族としての絆そのものである。物心がつくと拾ってくれた女性は二人に生きる術を教え、また本当の家族のように二人を可愛がってくていた。

しかし、その幸せな生活もミコトが十三の時に拾ってくれた女性の死によって終わりを告げた。二人は互いに別々の家に引き取られることになり、シズカは貴族の家へ、ミコトは拾ってくれた女性の知り合いに引き取られた。

そこからは手紙でしかやりとりはできなかったが、生きていると分かっているぶん大きな心配はしていなかった。シズカはこの学園に入り、ミコトは引き取ってくれた知り合いの人に様々なことを学んでいた。

それから二年後、シズカの家からの特別招待としてミコトはこの学院へ入学を許されのだった。


「ごめん……でも、これからはここの寮に住むし、会えないことはないだろう?」

「そうだけど……しばらくあってなかったからなんか寂しいの……」


そう言ってまたうつむいてしまった。言葉ではなく行動で示さないと多分ずっとこれの繰り返しだ。そう思ったミコトはシズカを抱き締めた。


「大丈夫、俺はどこにもいかないよ。必ずシズカの元に帰って来るよ」


優しくそう言ってシズカの顔を見るとそこにはいつも通りの微笑があった。

だが、こんな再会のためにわざわざステージで名前まで出さなくても良かったのでは? と思ったが、それは心の内で留めておいた。


「でも用件はそれだけじゃないんだろう?」


シズカを体から離しながらそう尋ねると、シズカは生徒会長としての顔に戻った。


「ええ、実はミコト宛に手紙が届いているんです」


シズカは机の引き出しの中から一枚の封筒を取り出しミコトに渡す。


「さすがに私でも中身を開けるなどと言う無粋なことはしてませんよ?」


心配そうにそう言うが、そんなことは微塵も思ってなどいない。それは家族としての心からの ”信頼” であった。


「これは誰から届いたの?」

「さあ、私も校長から渡しておいてくれと言われたに過ぎないからそこまでは……」

「入学早々に俺に手紙か……」

「開けてみればわかるんじゃないかしら?」

「そうだな……」


手紙は皺一つなく、丁寧に扱われていたようだ。

封の部分を丁寧に剥がすと中には、一枚だけ紙が入っていた。

シズカは気を使ってくれたのか中身が見えない位置に離れてはいたが、その目は好奇心に満ちているようだった。

手紙以外には何も入っておらず、とりあえず中身を読んで見た。

そして、それを見たミコトは、驚きを隠せないようだった。


「どうかしたのミコト?」

「いや、なんでもないよ。それより寮の準備が終わってないんだ、だから寮に戻ってもいいかな?」

「……わかったわ。でも一応毎日顔は見せてね? 心配だから……」

「ああ、わかってるよ。」


そう言うとシズカは満面の笑みになる。その笑顔はあの頃から変わらない、いつもの優しい笑顔だった。

『じゃあ』、と言って生徒会室を出て行く。ドアが閉まるまでシズカは手を振り続けていた。


「 ”霧影きりかげ” か……」


ドアが閉まるとため息ひとつにポツリと漏らす。手紙には一文だけ『調査につき至急来られたし』、とだけ書かれていた。

それが運命の戦いへの幕開けであることは誰も予知していなかった……


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