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最恐最悪の魔銃  作者: サコロク
王の再来
16/55

長き一日の果てに

お互いの温もりをゆっくりと感じあったミコトとノーマはもう一度だけお互いの顔を見た後、やるべきことのために動き始める。

まずやらなければいけないことはミレイを安全な所まで運ぶこと。

その際に、リオーネの使っていた ”裏切ジュデッカ” も回収することを忘れない。

この槍については知らないことが多すぎることと、誰かの手に渡りミコトの身に危険が及ぶのを鑑みての判断だった。

しかし、このままの状態で持ち歩いていては何か言われかねないので、転移魔法を使い ”ある場所” に隠しておくことにした。


「あの槍に関してはもう少し調べる必要がありそうだな……」

「私としても興味深いものだ。だが取り扱いにだけは注意しておけよ?」

「ああ……」


ミコトはまだしもノーマを斬り裂いた槍なのだ。

リオーネ自身が言っていた通り ”託宣” という物の力は絶大だ。

そして、それに神器が組み合わさった時はもっとタチが悪い。

相性云々ではなくその神器フェーデ単体が恐ろしいものである。

今回ミコトが勝てたのも運が良かったとしか言いようがない。


「……あの時の力は一体?……」


暗い海の底で救ってくれた青い何か、それがミコトを死の淵から救い出してくれたのだ。

だが、意識がはっきりとしていなかったため何も思い出せない。


「……いや、それよりも今は後処理だ」


戦争の後処理は ”霧影” の一番の仕事でもある。

その主な仕事は証拠の抹消と、つじつま合わせである。

表向きは戦争としているが、それの根本となっていることについての証拠は微塵も残さない。

今回で言えば学園にマリオンの内通者がいたという証拠の隠滅だ。

当の本人はミコトのせいで体の細胞すら微塵も残っていないが、この学園に居たという証拠も全て抹消する。

”存在していなかった” と思わせるぐらいに何も残さない。それが霧影のやり方だった。


「だが、動くにしてもミレイはどうにかしないとな……」


ここに放って行くのも危ないためとりあえず移動させなければいけないのだが、ミレイは眠っているためミコトが運ぶしかない。

すると必然的に抱っこかおんぶになるのだが、ノーマのオーラが少し恐ろしいものになるため躊躇してしまう。

だが、こうしたままでは何も進まないので背中におんぶして運ぶことにした。


「よし、行くか」

「なあミコト私も疲れたんだが、疲れたんだけどなあ?」


ジト目で見てくるノーマの瞳が痛々しく、背徳感がこみ上げてくる。


「……終わったらゆっくりどこかにでも行こう」

「 ”二人きり” でな……」


ノーマの表情は明るかった。

出会った時とは違うノーマの表情を見れることが嬉しく、ミコトは思わず顔が赤くなる。


「そ、それよりも、あっちの方は無事なのか?」

「他の女の心配とはちょっと思うとこがあるが、大丈夫だ。”煉獄の竜騎士(レギオン)”が付いていて危険はまずない。あいつらは相当驚いていると思うがな」


クスクス笑うノーマに少し乾いた笑いで返し、心の中では『冗談じゃないないんだよな』と思いながらも口には出さない。

だが、ミコトも戦って実力は痛いくらいに知っている。

ノーマに聞いたのは安心を得るためだったにすぎないのだ。


「そういや、俺が起きた時なんでリオーネはボロボロだったんだ?」

「私の ”鮮血の乙女(デネブラ)” がボコボコにしたが、その後お前を庇ってからの記憶が曖昧なんだ。だが、あの時あいつはまだ動ける余裕はあったはず……」

「鮮血の乙女?」

「ああ、私の使い魔だ。煉獄の竜騎士と同じようなものだと思ってくれていい」

「なるほど……」


ミコトもノーマも何が起きたのかが分からず、その疑問が二人の頭の中で渦巻いていた。

当の本人はスヤスヤと眠っているのを知らずに……


「まあ、難しいことは後回しだ。とりあえず今は……」

「……まて、ミコト。何か強いオーラが何処かから伝わってくる」

「なんだって!?」

「これは……屋上か? だが、おかしい。動く気配もない」

「くっ!……とりあえずミレイを保健室に避難させるぞ!」


人目を気にすることも後回しに転移魔法を発動させミコトは保健室へ向かった……



一方その頃……

シズカ率いる生徒達は目の前でありえないものを目にしていた。


「……嘘でしょ、なんなのこの強さは」


目の前で繰り広げられていたのは、”殺戮” だった。

敵は千人近く、立ち向かうのは一人の ”竜騎士” 。

時は、ほんの五分前に遡る……



ミコトと別れてからシズカは予定通り脱出を開始した。

とは言っても生徒数は五百以上、移動するにしてもすぐにとはいかなかった。


「皆さん、落ち着いて行動してください。列を崩さずに、ゆっくりで大丈夫ですからね」


先頭に立つシズカは会長としての責務をしっかりとこなす。

だが生徒達の動揺は予想以上に大きかった。


(まずいわね……急がないと、せっかくミコトが開いてくれた道が……)


シズカも少しの焦りを感じる。

だが、ゆっくりと深呼吸をし ”詠い” 始めた。


「…… ”In silentio et in amore autem puerum dormire somnum perdidit et nos” 」


今では誰も喋ることができない ”忘却せし詠(ロストワード)” 。

それは、 ”詠う” 事によって最大の力を発揮する。

ノーマの ”言霊ことだま” とは違いその力は ”万能” 、すなわち言葉を紡いで出来上がった ”詠” こそが力になるのだ。

シズカの詠によって生徒達の心が次第に鎮まっていく。


「聞いてください。私達が今すべきことはここで止まることではなく、前に進むことです。ここで止まればあなた達の時もここで止まってしまうかもしれません。いいですか、皆さんは必ず私達生徒会が守ります。だから信じてついてきてください」


その一言に全ての生徒の不安が払拭された。

全員の顔つきが変わったのを確認するとシズカは先導して正門へ歩み始める。

が、それを良しとしない輩が現れた……


「お前らをここから出すわけにはいかない。大人しくしておいてもらおう……」


千人近くのマリオンの軍人の先頭に立つ男がそう言うのと同時に、魔法が詠唱され始める。

唱えているのは ”フォースフィールド” 、おそらくシズカ達を閉じ込めて身動きを取れなくするためのものだった。


(まずい、これじゃ守りきれない!!……)


シズカの ”忘却せし詠” がいくら万能とはいえ限度はある。

現状をシズカ一人でどうにかすることはできる。

だが、それをすれば少なからず犠牲が出るだろう。

シズカに求められるのはここを脱出することではない、生徒を無事に守り抜くのが生徒会長としての責務なのだ。

敵の言う通りに大人しくすれば命までは取られないだろう。


(でも、それじゃあミコトの……)


開けてくれた活路が無駄になる、それがシズカを苛ませていた。

シズカが悩んでいる間にも詠唱は完成し、結界が張られていく。

結界が完成しようとした、その時だった。

張られていた結界が ”切り裂かれた” 。


「えっ?」


何が起きたのか理解できなかった。

いや、理解するいとますらなかったのだ。

それは唐突に始まりを告げたのだから……


「ぐぁーーーーー!!」


目の前にいた兵士たちが ”燃え始めた” 。

あまりの熱さに兵士たちは武器を捨て悶え苦しむ。

なんとか鎮火した兵士たちは武器を構え直すが、すでに遅かった。

赤の竜騎士は、すでに兵士の目の前にいた。

その赤き剣は目にも見えない速さで斬り裂く。

それはもう人間の動きではない。人知を超えた速度、魔力、それは見るものを恐怖させる何かがあった。


「何なの、これ……」


生徒達はただ呆然とそれを見ていた、まるで夢を見ているような顔で。

兵士たちは絶望していた、恐怖に満ちた顔で。


「人間技じゃない、これはもう……」


”化け物” そう言いたかった。

だけど、助けてくれているかもしれないのにその言葉はあまりに酷すぎる。

だからシズカはこの隙を活かし今度は自分達を守るための結界を張る。


「…… ”Shi lux custode tueri se in templum sanctum in benedictionem” 」


フォースフィールドより強力な結界が生徒達を包んだ。

その間も竜騎士の殺戮は続いていた、千人近くいた敵はもう半分以上戦闘不能だった。

そして、竜騎士の動きが ”止まった” 。

と思った瞬間、竜騎士の剣が消える。

いきなりのことに、この場にいた全員が目を見開いた。


「い、今だやれーーー!!」


これを期にと、敵は一斉に詠唱を始める……が、遅かった。

竜騎士の武器がなぜ消えたか、彼らは何も理解していなかった。

彼らがそうであるように竜騎士も ”詠唱” していたのだ。

しかし、その言葉は誰にも理解できない。

シズカの ”忘却せし詠” よりも複雑な言葉。

人には唱えることのできない言葉が次々に紡がれ、やがて一つの魔法になった。

赤より赤く、その炎は盛大に燃えた。


「ギャァーーーー!!」


詠唱をしていた兵士たちは業火を前に為すすべを失っていた。

水属性の呪文を唱え鎮火しようとしたものもいたが、火に油を注いだようにさっきにも増して炎は強くなる。

二十秒、それだけで残っていた兵士たちは全て灰になった。


「終わった、の?……」


答えが返ってくるはずもない問いをシズカは無意識に口にしていた。

案の定、と言うか当然のように竜騎士は ”消えた” 。

だが、その現象はシズカを含めた全員にとっては ”異常” である。

誰もがその光景に唖然としていた。

そんな中シズカは、


「ミコト……」


ここにいるはずのない大切な人のことを思い祈り続けていた。


「…… ”Carissimi obsecro, qui in se benedictionem” 」


その小さな願いは届いたか届かなかったかは分からない。

それでもシズカは祈り続けるのだった……



そんな祈りをされているとは知らない当の本人はミレイを保健室に寝かせたあと、屋上に向かっていた。


「ノーマ、さっき言ってたオーラはどんな感じだ?」

「動いていない、と言うよりもこいつはどうやらお前を ”待っている” らしいぞ」

「……どうやら今日は人生で一番の厄日なのかもしれないな」

「そうでもないだろう?」


得意げに言うノーマの顔を見てその言葉の意味を理解する。


「そう、だな。さっさと終わらせるか」

「ああ、私も疲れた。久しぶりの地上は慣れない。だが、ベットというもので寝てみたいな」

「いいんじゃないかそれぐらいの贅沢。働きは十分すぎるくらいしたしな」

「じゃあ、お前と同じベットで寝るとしよう」

「え?……」


ミコトの思考回路がフリーズした。


「ふふ、やっぱりお前は女の扱いに関してはお子様だな」

「……勘弁してくれ、まだ後始末が残ってるんだ」

「そうだな、待たせるのも悪いだろう。さあ、行こう……」


二人は屋上の扉の前に来ていた。

この扉の先にいるのが敵なのには間違いはない。

だが、どんな敵が現れようとミコトは負けないだろう。

隣に、ノーマがいるのだから。

扉のドアノブが回りゆっくりと扉が開いていく。

ミコト達の前に現れたのは……一人の ”女性” だった。


「随分待たせてくれるじゃないか……」


年はミレイと同じくらいかそれより少し下。長い黒髪を後ろで一本で束ね、腰にはカナミと同じように剣を下げてはいるがどうやら普通の剣ではない。東方の国より伝わりし ”刀” と呼ばれるものだ。

だが、そんなことよりもミコトを驚かせたのは彼女の ”瞳” だった。

計り知れないほどに深く澄んだ瞳。その奥に隠されたものはミコトですら分からない。


「……あんた、どんだけの死線を越えて来たんだ?」

「ふっ……あははははは、面白い。お前、名は?」

「天月ミコト、だが?……」

「お前が、”新しき王(ロストロード)” か……」


そう言うと彼女はまじまじとミコトの顔を見つめる。隣にいるノーマは関係ないと言わんばかりにミコトの隅々を調べるように見ていた。


「ふむ……どうやらまだ未完成、みたいだな」

「それはどういう意味だ?」

「なに、そのままだよ。お前は王として完成しきれていない。まあぶっちゃけ弱いって事だな」


悪びれもなく笑う彼女にミコトはちょっとイラっとしてしまったが冷静を保つ。


「あの、そんなことよりあなたは……」

「ああ、自己紹介がまだだったな。私は綺堂怜悧という。一応、マリオンの軍人って事になってる」

「一応?」

「私にはちょっとした目的があってな、それのために軍の肩書きを利用させてもらっているに過ぎない」

「はあ、と言うよりかその名前は……」


ミコトが気になったのは名前についてだった。

マリオンの国の人間としては非常に珍しいと言うよりか歪だ。


「それについては簡単だ、私はマリオン生まれの人間ではないからな。この刀を見れば分かるんじゃないか?」

「まさか! あなたは東方の国の!?」

「ああ、そんなところさ……」


この大陸とは別の大陸に謎に包まれた大陸があると言う。

そこは技術が発展し、この国など比べ物にならないくらい繁栄しているらしい。

そこで使われている文字が ”漢字” と呼ばれ、この国の人間も上の名前に漢字が使われていることがほとんどだ。

一部の伝承では、もともとこの国はその東方の国から来た人々の渡来によって繁栄したとも言われている。

だが、その名前の例外が、ミレイ達王族の人間だ。

だから、必然的にミレイの名前は偽名だと言うことになる。


「だが、そんなことは関係ないんだ。おい、ミコトよ……私の元へ来ないか?」

「あんた、何を?」

「お前は不完全過ぎるから力を完全に制御しきれていない。だからあんな奴ごときに殺されかける」

「それは……」

「まずもって、お前は何も知らなさ過ぎるんだ。その無知がいずれお前を苦しめる事になるだろう」


怜悧の物言いに、ミコトは自分が知っている事は本当に正しい事なのかと考えさせられてしまう。


「……そこまでにしてもらおうか」


それを制したのはノーマだった。


「ミコトをあまりたぶらかすな。こいつの道はこいつが決める。もしこいつが迷うのならば私が導く、それが私の道だ」

「あんたは……そうか、あんたが ”女王” 、ね……」


ここで初めて、怜悧はノーマの存在を認識する。

と同時に、表情がさっきよりも険しくなる。


「あんたが、正しいという保証がどこにある?」

「それは私やお前が判断するわけではない。ミコトが判断した上でどうするかだ」

「そんなの……チッ、潮時か……」


怜悧は遠目に正門の方を眺めると舌打ちをし、踵を返して歩き始めた。


「いつか……興味が出たならいつでも来い。私はマリオンの南東にあるサリサの森に住んでいる」

「え、ああ……」

「お前が知らなかった真実もその時に教えてやるさ」

「俺の知らない真実?……」


怜悧の言葉は濁したものが多くはっきりとした事は闇に隠れたままだ。


「ではな……亜夜の忘れ形見よ……」


最後の言葉はミコトの耳には届かなかっただろう。

だが、そんなことも気にせずに怜悧は見向きもせず片手をあげると、一瞬で消え去った。

取り残された二人は呆気にとられていた。


「何だったんだ一体?……」

「さあな、私の記憶も完全ではないからな。私だって昔のことは詳しくは覚えていない。だが……」


不意にノーマがミコトの左手をそっと握った。


「私は ”今” を大切にするさ……」


そこには嘘のない満面の笑みがあった。

怜悧が言った通り、ミコトはいつか怜悧の元へ行く日が来るのかもしれない。

だが、今はこの笑顔だけで十分だった。

ミコトは空を見上げる。

煌めく星々が輝き夜空を彩っている。

あの日、三人で暮らした小さな家で見た星空。

それには及ばないが、それとは別の美しさがそこにはあった。


「綺麗だ……」

「ああ、何年ぶりかに見るが悪くない……」


地下に籠っていたノーマは感慨深かそうにそう呟いていた。


「きっと俺達人間は無数にある星に何百年、何千年経ってもたどり着けないのかもしれないな……」

「そうでもないさ……」

「え?」

「お前が手を伸ばす限り、お前が信じ続ける限りあの星が消えることはない。確かに時間は有限だ。お前の寿命だって永遠じゃない。でもな……」


ノーマの手の平がミコトの頬に当てられた。

心地よい温もり、それは触れているだけで心の奥から暖かくなる。


「私は ”お前ならば” 、きっと届くと信じているさ……」


その優しい微笑みが何度もミコトを救った。

その言葉一つ一つが何度もミコトを優しく包んだ。

もはや掛け替えのない存在になりつつあるのだろう。

亜夜が遺した銃から始まり、様々な戦いを経てミコトとノーマは出会った。

因果というものはどこまでも繋がっているのだろう。

あの星達が一つ一つ線で結ばれ、星座となるように。

その星々をここではないどこかで亜夜が見ているように、どこまでも、どこまでも……


「……朝になればあの星達は見えなくなる。でも、見えないだけでちゃんとあるんだ」

「ああ、そうだな……」


二人はその後、しばらく星を眺め続けた。

戦火が鎮まっていく中でそこだけはまるで時間が止まったかのように。


長き一日が、遂に ”終わった” ……


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