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最恐最悪の魔銃  作者: サコロク
王の再来
14/55

鳥籠の少女

少女は本を読んでいた。

英雄譚、それが彼女の唯一好きなものだった。

それに出てくる英雄は自分の立場など関係なくいつも世界を救ってしまう。しかし、その賞賛の声に耳を傾けることなくまたどこかへ旅立つ。まるで優雅な鳥のような存在……

彼女は何度も考えた、鳥籠の中に閉じ込められた鳥は、飛ぶ鳥を見て何を思うのだろうか?

……その答えはもう何度も自分の中で出ていた。

しかし、その答えとは裏腹に鳥籠の鍵は自分では開けられない。

では誰ならば開けられる?

わずかな希望を抱いた答えが、十年近くも現れなかった。


だが、鍵は希望の答えではなく最悪の答えとともに開けられた。

学園、それは彼女にとっては少し大きな鳥籠にすぎない。しかも、三年後にはあの小さな鳥籠にまた戻される。

そんな彼女が欲したのは、”答え” 。

この理不尽な自分の立場、それが彼女にとっての ”檻” であるならば、その檻を出るための ”答え” がそこにあるような気がしたのだ。


そして彼女は一つの ”答え” を見つけた。

出会いはほんの偶然。なりたくもないクラス委員にさせられうんざりしながらも夕日を眺めていた時、その答えは現れた。

彼は彼女の ”友達” になった。それは彼女にとっての ”答え” にすぎないものなのかもしれない。

だが、初めて見つけた ”答え” だった。

彼ならば連れ出してくれるかもしれない、この檻を壊してくれるかもしれない。


しかし、その硬く大きな檻はまたしても最悪な形で壊されることになった……



眠りから覚醒し、視界がはっきりとしてくる。

ぼんやりと見る限りでは、どうやらここは化学準備室のようだった。

完全に意識が覚醒していない中で体を動かそうとするが、どうやら縛られているらしい。

だが、自分が置かれている状況はすぐに理解できた。


(私は、またこの立場に苦しめられている……)


自分自身の存在が嫌になるくらい忌々しく思った。

何度も死にたいと思ったが、立場がそれを許されなかった。


「おや、お目覚めですか久城ミレイさん……いや、アリエス・メル・ローランス皇女殿下」


その言葉にミレイの表情が険しくなる。


「私をあの腐った王家のものと知っての誘拐ですか……あなたも随分と下衆ですね」

「おやおや、随分な皮肉を。まああなたにはこの学園のどの生徒よりも人質としての価値がある。いえ、そもそもこの学園はあなたという存在を閉じ込めるための檻でしたかね?」


紳士的な微笑みでそう言う男は表には出していないが心底嬉しそうだった。


「そうですね……この檻を破ってくれたことについては感謝していますよ。まあおかげでまたあの小さな鳥籠に閉じ込められるんでしょうけどね」

「あなたがご希望でしたら連れ出してあげても構いませんが? まあしかるべき役目を果たした後で、ですがね……」

「ありがたい申し出だけど、遠慮させてもらうわ」

「ほう……なぜですか? あなたは心底自分の立場を嫌がっていたのでは?」

「……そうですね、私はあそこが嫌いだった。でもね、未だに夢見てるんです……」

「皇女のあなたが夢を……して、その夢とは?」

「それはですね……」


その瞬間、準備室の扉が爆発した。


「…… ”英雄が私をここから連れ出す” って夢ですよ」


ミレイはその爆風の中に立っている人物に、他の誰にも見せたことのない微笑みを見せた。

彼女の夢が、求めた答えが初めて正しい形で現れた瞬間だった。




遡ること二十分前……

校舎の中をミコトは走り回っていた。


「くっそ! この校舎広すぎだろ……」

「人間は非合理的すぎるな、空間を行き来さえできればこんな面倒に移動しなくてもいいのに……」


そう言いながら悠々と空中を飛んでいるノーマに、現在進行形で走っているミコトはちょっと呆れた目になる。

ノーマが今使っているのは人間では不可能とされている《飛行魔法》だ。風属性ならば近いこともできるが不完全すぎてやるものなどもはやいないだろう。


「なあ、俺もその力を使えるのか?」

「お前は無駄な質問をするのが好きなのか? それともバカなのか?」

「聞いてみただけだ。まあ、使わないがな」

「それはお前が人間であるため、か?」

「違うな、人ってのがそれを望まないからだ……」

「ほう……お前の考えは面白い」


なぜ人が飛行魔法を使えないか。それは、神が人間をそう創ったからだ。

だからこそノーマ達には使える。そして神に対して牙を剥いたミコトも同様だ。

だがミコトは使わない。それが人間の根幹から揺るがない人としての仕組みだからだ。

人間に翼がない理由は飛ぶ必要がないから、魚が水中でしか過ごせないのは水中でしか生きられないから。

これはそれぞれの生物が進化しない限り揺るがない事実だ。

飛行魔法が使えないのは、必要がないからということになるのだろう。


「……まあ、いつかは飛んでみたいっては思うがな」

「案外お前も子供なんだな、可愛いじゃないか」

「一応 ”学生” だからな」


それは皮肉でもあり、事実でもあった。

学生という身でありながら軍に入っているミコトは ”変わっている” 。

だがそれを嫌と思ったこともなかったし、気にしたことすらなかった。

しかし、この学園に来てシズカに再会して、自分のいるべき場所がここではないのかもしれないという思いを持ちはじめた。


「……なあノーマ、この戦いが終わったら俺は元の生活に戻れるだろうか?」

「それはお前が決めることだ……だが、お前がそれを望むならば私はお前についていくさ。そこが私の ”居るべき場所” だからな」


その言葉はミコトの気持ちを安心させるには十分すぎるほどの言葉だった。

今まで誰も言ってくれなかったその言葉は、ミコトが戦いの中でいつも自問自答していた問いの一つの答えでしかない。

だが、その答えがミコトの ”大切なもの” から言われたことに大きな意味があったのだ。


「……もう血生臭い戦場はこりごりだ。しばらくはのんきにノーマの仲間達でも探してみるのも悪くないかもな」

「探すのはいいが手当たり次第に手を出したら痛い目にあうのはお前だからな」

「おい、その女たらし発言をいい加減にやめてくれ。シズカに聞かれでもしたらお前が殺されかねないぞ?」

「いや、その時はお前も一緒だ」


満面の笑みでノーマはそう言うが、冗談じゃないというのがミコトの素直な気持ちだった。

シズカは普段は優しそうに見えてミコトの女との関係に関しては、タチの悪い姑よりさらにタチが悪い。

ミコトの半径三メートル以内に女が近づいただけでも視線が冷ややかなものになる。

もちろんミコトに対してではなく、その ”女” に対してだ。

亜夜と暮らしていた時、近くの町に出向くことがしばしばあり、その時に仲良くなった女の子と遊んで居る時もなぜかシズカは不機嫌そうにしていた。


「まあ、とりあえず今はミレイのことだな……」

「ミレイ? お前まさかその王族って女か?」

「言ってなかったか?」


その言葉と同時にノーマからおぞましいオーラが出始める。


「おいミコト……流石にそれは私も殺意を抱くぞ。お前は自覚が無いようだからな、一度矯正する必要がありそうだ……」

「いや、それはマジで……シャレになんないから!!」


ノーマの右手に恐ろしいくらいの魔力が集まっていた。それがミコトに放たれれば黒焦げどころか消し炭も残らないだろう。

しかし、そんなノーマの恐ろしいオーラが一瞬で消え去る。


「……ミコト、この廊下の一番奥の部屋、何か感じるぞ」

「何かあるのか?」

「人、だな。しかも、”二人” だ」

「……行くぞ、ノーマ」


ミコトがさらに加速しその部屋へ一直線に向かう。


「ミコト、扉に障壁が展開されて開けられないようになっているぞ」

「中に被害が出ないように障壁のみ破壊できるか?」

「ああ、了解した……」


扉の五メートル前でノーマが右手を扉にかざした。

瞬間、爆風とともに扉が見事に消え去った。

そして、その中にいたのは、


「ミレイ!!」


そう呼びかける声にミレイは儚げに微笑んで、


「……なぜか君が来てくれるって信じて疑わなかったの」

「 ”友達” だろ?」


その言葉にミレイは無自覚に瞳から涙が流れてきていた。

それはミレイが今まで誰にも見せたことなかった星のように美しい綺麗な雫だった。


「あれ?……なんでこんなに視界がボヤけてるんだろう? こんなの、こんなの初めてだよ……」

「それは今までミレイの中に溜まってた、吐き出しきれなかったその想いの全てなんだよ」

「私は、私は……」


ミレイはそういうと同時にあふれんばかりの涙を流しはじめた。

鳥籠の少女は今初めて、初めて ”鳴く” ことができたのだ。それは今まで鳥籠の中で燻っていた弱い鳥が初めて助けを求めた瞬間でもあった。

しかし、それを邪魔するものがまだ残っている。


「おやおや、感動の瞬間を申し訳ないですがあいにくまだこの方にいなくなってもらっては困るのですよ」

「……それ以上言葉を発するようならその唇を溶接して二度ど喋れなくするぞ」


聞くものを凍えさせるような冷たい声。それはミコトの怒りが最大限近い証だった。


「……ふむ、ではどうしましょうか。いっそ貴方も人質に……」


男の言葉を遮るように千度を超える熱が男を覆った。ノーマの加護のあるミコトとその近くにいるミレイにはその熱は全く届かない。

男は火の中で悶え苦しみ死ぬ……はずだった。


「おや、これは想定外。貴方はちょっと危険ですね」


消え去った炎の中から現れたのは、さっきと何も変わらない男だった。


「……お前、何者だ?」

「そうですね、名前を名乗らないのも無粋でしょう……」


男がかけていた眼鏡を外すと、さっきとは別人になっていた。

それは ”魔法” 。正確に言えば眼鏡自体が魔具である。


「では、自己紹介を。私はマリオン教国《神託の騎士(エフィラム)》が一人、《異心いしん》のイリージュ・リオーネです、よろしくどうぞ」


裏切り者と影で動く者、水面下で動く者同士の戦いが幕を開けた……



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