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最恐最悪の魔銃  作者: サコロク
王の再来
13/55

真実

シズカを囲む男達は、マリオンの一般兵だ。その顔は全員下卑た目に満ちている。

そして、そんな目でシズカを見ている兵達をミコトは心底軽蔑し、それとともに大きな怒りが中で膨れ上がる。


「…… ”消し飛べ” 」


ミコトが小さくそう呟いた瞬間、全ての兵士が爆発とともに後ろに吹き飛ばされた。

規模自体は小さいものの威力は禁忌級で受けた兵士は全員瀕死状態になっていた。

何が起きたか理解できないシズカは驚きで瞬きを繰り返している。


「シズカっ!!」


その声にシズカはミコトの存在に気づいた。

そして、嬉しそうな顔に涙を流しながらミコトに駆け寄ってくる。

ミコトもシズカに駆け寄り、その細い体を壊れそうなくらいの力で抱きとめる。


「よかった……もう会えないかと思った……」


ミコトの胸に顔を埋めながら、消え入るような声でポツリと言った。


「……約束、したからな。もう絶対にいなくならないって」

「うん……」


弱々しい声で言うシズカは子供の頃のように小さく見えた。

いや、そもそもあの頃から何も変わっていないのだろう。シズカはシズカらしく、何も変わっていない。


「それよりもミコトはなんでそんな格好?」

「え、ええとこれは……」


不意打ちのような質問に思わず反応できない。そもそも霧影の事はシズカにも話していないのだ。身内にも内密となっているため話すわけにはいかない。


「さ、さっきちょっと戦闘になった時に制服が破けてね、相手が着てたのを借りたんだ。こっちの方が動きやすそうでもあるし……」

「ふーん、でもそういえば今日の昼も会いに来なかったよねぇ? いったい何してたのかな?」


ジト目で見上げてくるシズカに負けそうになりつつも霧影の事は話さない。


「今日はちょっとクラスの用事でね、委員長に力を貸して欲しいって言われて……」

「……まあ、納得はしたわ。で、その子は女の子なんでしょう?」

「え? ああ、そうだけど……」

「ふーん、女の子なんだー。ふーん……」


疑いの眼差しはいっこうに解けない。ノーマに助けを求めようとしたが、余計なことになりかねないのでやめておく。


『お前はそんなに女たらしだったのか、正直呆れたぞ……』


(お前まで勘弁してくれよ……)


だがここで本来の目的を思い出し、真面目な顔に戻ってシズカに質問した。


「シズカ、中の状態はどうなってる?」

「……生徒達は講堂に立て籠もって生徒会メンバーが護衛にあたってる。先生達は敵の迎撃をやっているけど人手不足で、だから私も駆り出されてたの」

「そんなことに……」

「うん……でも、講堂もいつまで持つか分からない。だから私は講堂に戻ろうとしたところで敵に……」


つまり今の状況は完全に学園側が押されている形となっている。しかも、生徒と教師が一緒にいないという状況は、生徒達に精神的不安を与えかねない。その結果パニックにでもなってしまえば元も子もなくなってしまうだろう。

そして、その状況になっているという事はミコトの不安が的中しているかもしれないということでもあった。


「……シズカはこのまま講堂に向かってくれ。合流後一時間経って敵の様子がなかったら正門から脱出するんだ」

「待ってミコト、なにを言って……」

「俺は、確かめたいことがある……」

「だめよ、そんな危ない場所に! しかもミコト一人でなんて……」

「聞いてくれ……まず間違えなくこの学園に、”裏切り者” がいる」

「え……」


ミコトの一番の不安要素、それは学園内部の内通者だ。

そもそも学園内部に敵が入って来れるタイミングが早すぎた。いかに敵が強いと言ってもここは学校なのだ。門を簡単に突破されるわけがない。それに合わせてあの地下水道の出来事、あの道は学園の生徒さえもほとんど知らないのだ。あの道をリークした者がいて、その道から学園に侵入し門の看守を黙らせ開門する、おおよそこんな形だろう。


「多分それは教師陣の誰かのはずだ……シズカ、教師陣と生徒に分けて行動すると提案したのは誰だった?」

「確か化学担当のリオ先生だったはず、今年新任の先生なんだけどちょっと人気のある先生よ。私は苦手だけど」

「その人は今どこに!?」

「確か正門の迎撃に向かったはずよ」

「くっ! 遅かったか……」


多分その教師が裏切り者だろう。正門に向かったのは看守の殲滅、そして手引きだ。

だが、ミコトにはその相手の顔がわからないため倒しようがない。つまり、そいつと鉢合わせしても相手かどうかすら分からないのだ。


「シズカはさっき言った通りに講堂に行ってくれ」

「でもミコトが……」

「安心してくれ、必ず無事に帰る。それと……」


ミコトはシズカの耳元でもう一つの頼みを口にした。

それは、先ほどの不安と同時に浮かんできていたもう一つの考えだった。


「え、でもそれってこの学園に……」

「まあ、とりあえず頭の片隅に置いておく程度でいいよ。でも一応注意して見ておいてくれ、もしの場合があると関係ない生徒が危ないから。それと一応のためいなくなった生徒がいないかの確認を」

「分かったわ、でも本当に気をつけてね。もう離れ離れは嫌だから」

「ああ、俺もだ……」


不安そうな瞳を取り払うようにシズカの髪を優しく撫でた。

十秒ほど撫で続けた頃にはもうすでにいつも通りのシズカに戻っていた。


「……よし、じゃあ行こう。もうこんな争いごとに巻き込まれるのはこりごりだ。この戦いが終わったら二、三日はなにもしたくないな……」

「うん、だから行きましょうか。お互いの戦いに」


ゆっくりと立ち上がりお互いの顔を見つめ合う。二人の強い覚悟が宿った瞳は、亜夜から貰ったものだ。

お互いの約束のために必ず生きて帰らなければいけない。

なぜなら、この約束は ”家族” の約束なのだから。


「ミコト、顔を少し下げて」

「ああ……」


目線をシズカの目の位置より少し下に合わせる。

するとシズカがゆっくりと顔を近づけてきた。と思ったら、額に暖かい感触が伝わった。それは先ほどのリンの時にも感じた感触。柔らかい唇の感触だった。

三つ数えるほど暖かい感覚が続きそしてゆっくりとその熱が鎮まっていく。


「約束ね、遅くならないうちに帰ってくのよ?」


まるでお母さんのように言うシズカはあの頃の亜夜の面影があった。厳しい言葉の中にも優しさのある亜夜の言葉は、もう何年も聞いていないはずなのにずっと覚えている。


「ああ、また後で会おう……」


その言葉とともにお互いの行くべき場所を見据える。そして、約束という枷とともに歩き始めた。

お互い一度も振り返ることはない。振り返れば枷は消え、約束は破れる。

だがそんなもの本当は必要ないのだ。言葉の誓いの前に目には見えない家族の誓いがそう告げているから。目には見えない鎖は錆びることなく今まで繋がり続けている、いや誰にも切ることはできないのだ。

それがたとえ己自身でも……


「……ノーマ」

『安心しろ、”煉獄の竜騎士(レギオン)” をつけておいた。あいつに身の危険が及ぶようならば、その因子となるものを跡形もなく消し去るさ』

「すまない、世話をかける……」

『その通りだぞ、全く私に別の女の守りをさせるなどお前は本当に女たらしだ』

「全くだな」


思わず自分がやっていることにミコトは笑ってしまう。これではノーマが言っている通りだ。


「じゃあ俺たちも成すべきことをやるとするか……」

『ひと暴れだな……』


ノーマが人の形をとる。魔装ファフニール炎帝の聖鎧(エンプレスドレス)を身に纏うかと思ったがいつもの真っ赤な綺麗なドレスのままだ。


「その姿でやるのか?」

「私の魔装ファフニールはまだしも炎帝の聖鎧(エンプレスドレス)などそうやすやすと見せてたまるか。言ってしまえば下着を見せるようなものだぞ。私はそんなに安い女じゃない」

「なんかその……すまない」


この謝罪にはあの試練の時にどちらも見せて貰った時のことに対してだ。ミコトはノーマに見合う人物になれているのか自分では分からない。それは他ならぬノーマが決めることなのだ。


「謝るな。言ったはずだお前に ”惚れている” と。それすなわちお前の力、いや全てを受け入れているということなんだ。私もそれ相応のものをお前に示したに過ぎないんだ」

「……ありがとう、じゃあもう少しだけ俺のわがままに付き合ってくれ」

「もう少し、じゃないだろ?」

「そうだったな……これからもよろしく頼む」


改めてお互いの繋がりを確かめ合ったミコトとノーマは、お互いが少し臭いことを言っていることに思わず笑うのだった。


「それでだ、ここからだが……」

「私は、囮だろう?」

「ああ、頼む。そして俺は少し作戦を変更する。地下水道が使えないなら俺も生徒を気にすることなく動ける。シズカに煉獄の竜騎士(レギオン)が付いているとなればなおさら動きやすい。俺は黒幕の野郎を討ちにいく、リオってやつはどうもきな臭い。顔は分からないがそういう輩は一言交わせば大体わかるはずだ」

「では私は存分に楽しむとしよう。もし危険だったならすぐに私を呼べ。私は多数の人間の命よりお前の命の方が大切なんだ。すまん、そこだけは割り切れない……」


初めてみるノーマの苦笑いだった。

本能的に王の命は他の万物よりも大切なのだろう。それはたとえ ”己の命” であっても。


「それについては大丈夫だ、俺が問題なく黒幕を殺せればいい、そうだろ?」

「お前……いや、そうだな。私もお前を信じている、だから絶対死ぬなよ」

「ああ……じゃあ頼むノーマ。また後で合流しよう」

「承りました我が主、主に祝福があらんことを……」


片膝をつきこうべを垂れるノーマは、王に忠誠を誓う女王そのものだった。

そのまま立ち上がるといつもの微笑を浮かべたあと、転移魔法に包まれ消えてしまった。

消えて十秒も立たないうちに遠くで大きな爆発が聞こえてきた。


「頼んだぞノーマ……」


爆発の聞こえてくる方向を向きそっと目を閉じ祈る。


「……さあ、俺も行動開始だ」


ミコトも転移魔法を発動し移動を始めた。


移動した先はこの学園全部を見渡せる場所、屋上だった。

まず優先するのは戦況の確認、その後それに応じた作戦を立てるというのが戦争の十八番だが今回に関しては作戦自体は決定しているのでミコトがやっているのは戦況の観察のみに過ぎない。

それを見る限りは、教師陣はスリーマンセルでの行動が基本となっているようだ。今の状況では最も理にかなった戦法だろう。

全て見渡したところで一つの部分に違和感を感じた。


「おいおい、まさかとは思ったが嫌な予感が的中したみたいだな……」


ミコトが示唆していた教師陣の裏切り者、それの算段はすでに始まっていたのだ。

この学園の西には植物園のような場所があり、木々が生い茂っている。

そしてそこに火が放たれていたのだ。しかし普通それだけでは教師陣は焦らない、はずだった。

教師陣は敵を放置し急いで鎮火にあたり始める。その理由は簡単だった。

講堂の裏に植物園があるのだ。植物園が燃えれば煙が出る、その煙がもし講堂内にまではいれば中毒に陥って死人が出てしまうかもしれない。かと言って外に出てしまえば敵の待ち伏せを喰らう。万が一煙が入らなくても、風属性の魔法さえ使えば気流の操作など造作もない。

そして鎮火に専念するゆえに防御が疎かになる。それこそが敵が作り出した ”穴” だった。


「ちっ! 作戦変更だな。聞こえるかノーマ!?」


銃に向かって話しかけると、銃がほのかに光始める。

この銃はミコトとノーマがリンクしている証でもあるのでこれを媒介にして遠くにいても会話ができるようになっている。


『なんだ? ダンスパーティーの途中だぞ……』

「すまないな、どうやら敵が問答無用で関係ない奴らを殺そうとしているらしいからな。ならばこっちも全力でやる」

『ほう、ならば……』

「ああ、全力を持って全ての敵を殲滅してくれ。火加減なしで燃やし尽くしていいぞ、どうせ誰がやったかなどバレないからな」

『仰せのままに、我が主……』


途端、正門に大きな火の花が咲いた。その威力は正門を軽く吹き飛ばす。


「まあ、盛大にやってくれた方が陽動にはなるか……俺もやるべき事をやるだけだな」


もう一度転移魔法を使い講堂前に移動する。

一対五百の理不尽な虐殺の始まりだった。無論、殺されるのはミコトではなく五百の儚い命なわけなのだが。


転移魔法の魔法陣は講堂に攻め入ろうとする敵のすぐ目の前に現れた。

いきなりの出来事に敵も慌て一時停止する。

光溢れる魔法陣の中から現れたのは、一人の男。だが敵兵が驚いていたのは男に対してではなく、転移魔法というものを見た事にあった。


「なっ! これはまさか転移魔法!?」


そう言った男はその言葉を言い終わるとともに絶命した。そして、そこからがたった三十秒にも満たない虐殺の始まりだった。


「…… ”爆ぜろ” 」


その無慈悲な言霊にのべ三十人が絶命する。わずかコンマ一秒の出来事だった。


「 ”最大装填ロードマキシマ” 《ウィンド》」


気まぐれの鋭利な風が踊るように敵の体を切り刻んでいく。まるで風の精霊シルフィの踊りのように風は弾むように切り裂いていった。


「あ、ありえねえ……あんなのが初級魔法なんて絶対嘘だろ……」


驚嘆を通り越して絶望に染まったその顔は次々に消えていく。


「お、おい相手は一人だ全員でかかれば問題ねえ! やっちまえ!!」

「遅い……」


十人ほどの敵が一斉に魔法を撃つ。それはどれも中級以上の魔法である。

が、その瞬間にミコトはその全ての魔法を飛び越すように宙を舞う。

そして空中でミコトの視界が上下反転した瞬間、


「 ”高速回転フルスロットル” 」


回転しているシリンダーから無慈悲にも銃弾がばら撒かれる。だが一つたりとて無駄撃ちはなかった。


「お前、何もんだ!?」

「……語る必要もないし、そもそも聞いたところでお前らには冥土の土産にしかならん。それならば喋る必要もないだろう」

「くっ、死ねーーーーー!!」


その言葉は自分に返ってくるとも知らずに男はミコトに魔法を放つ。

当然のごとくミコトは避け回りながら照準もつけずに発砲する。その銃弾は吸い込まれるように男の額を撃ち抜いた。

十秒、それまでの間に半分の敵が死んでいた。死んだ敵にしてみれば痛みを感じる暇さえもなかっただろう。

その光景を見せられた敵は茫然自失だ。しかし意識が戻ったのか、目の前にいる悪魔に恐ろしさを覚え逃げ惑うものもいれば、錯乱して立ち向かってくるものもいた。

だがミコトには一人として逃すつもりはなかった。


「…… ”喰らい尽くせ” 」


逃げようとする人間の目の前の空間が ”歪んだ” 。

これは地下水道でリンが使った技と全く同じものだった。

ミコト自身試す程度で使ったのだが予想以上に上手くいった。だが制御の方はリンのように上手くいかず思った以上の広範囲の空間が歪んでしまった。

しかし、多い分に越したことはなく五十以上の人間が吸い込まれていく。

この空間の中に入っていった人間たちは圧縮され分子レベルにまで小さくなりやがては消滅する。魔力は圧縮していく過程で吸収されるのだがミコトの魔力量に比べたらアリほどの価値もない。


「な、なんなんだ今のは?……」


ミコトはその発言に全く興味もないように向かってくる敵、否、的に容赦ない銃弾を浴びせる。

そして二十秒、敵は残り十人になっていた。しかし、どうやらその十人は他とは違うようだ。


「へへ、いかに速かろうと動けなくなれば意味がない!! 喰らえ《メデューサの瞳》」


それはジルバが使っていたものよりは規模の小さいが ”神器フェーデ” には違いなかった。形はエンブレムにかの魔眼を持ちし蛇女の顔が彫られている。

《メデューサの瞳》の力は石化、その光に当たったものはその部分から石化していく言うがそんなものミコトにとっては問題外だ。

なぜなら ”当たられなければ” いいのだから……


「おいなんだあれ!?」


本来は隠密用に貰った力だったが今はそれ以上に都合がいい場面だ。

魔眼から出る光は見えない障壁に全て防がれ別次元に消え失せる。

そして刹那……全ての終わりが告げられた。たった一言によって。


「…… ”散れ” 」


十人の体が捻れ始め、そして…… ”散った” 。

言葉通りに全てが捻れたまま弾け飛んだのだ。普通の人ならば吐き気を覚えるような光景だが、それをやっている立場のミコトの目は静かに澄んでいる。まるで死を見慣れたかのような色のない目だった……

三十秒、講堂前は四百程の敵の死体によって埋め尽くされていた。誰一人として五体満足に死を迎えられた者はいなかった。残りの百体に至っては体すらこの次元に残されることを許されず別次元に消えてしまった。

時間にしてみれば僅か三十秒。だがその十数倍近くの敵がその間に死んだのだ。たった一人の青年の手によって。


「終わりか……でも流石にこの光景を見せるわけにはいかないよな……」


これから講堂にいるシズカに脱出の先導を任せなければいけないが、一般の人にとってはこの光景はあまりいい気持ちになれるものでもないしトラウマにもなりかねない。

その為せめてもの弔いにと、火葬くらいはしてやることにした。

広範囲に死体が散らばった為、広域魔法を唱えなければいけない。広域魔法は威力の問題のせいで詠唱を必要とする。魔力を一つ一つの言葉に込め、それが紡ぎ合わさった時 ”レクイエム” が完成する。


「……死の国を彷徨えし屍人の焔よ、忌火を持って汝の魂を清らなる焔へ導かん、全ては火に始まり全ては火へと帰らん、回帰せよ全ての迷える命の焔よ《セイクリッドフレイム》」


広範囲がきらびやかな炎に包まれる。全ての罪を浄化し全ての魂を元の焔へと導く、四百近くの魂が浄化され帰っていく。始まりの焔(レグサリア)へと……

幻想的な光景だった。光り輝く炎は見るもの全てを魅了させるほど美しかった。

そして、五分が経ち全ての魂が帰っていった。それと同時に炎も消え去る。


「……俺は謝らないし、憎まれようが構わない。だが、どうか安らかに眠ってくれ……」


ミコトに信じる神などいないし、もともとそんなものなど信じてなどいない。そもそもミコトの使命は ”神殺し” なのだ。

だがそれでも、死せる人たちへの冥福ぐらいは祈っておく。


「よし……急いでシズカに合流しないとな」


講堂に向き直り、その扉をノックする。

すると、中から短い返事が返ってきた。


「誰だ?」

「一年の天月ミコトと言うものです。時崎シズカ生徒会長にお話が……」


すると中で何やら話している様子が聞こえてきたかと思うと、


「ミコト! 無事だったのねっ!!」


中から飛び出してきたのはシズカだった。急なことに思わずシズカの体ごと倒れそうになるがなんとか耐えきった。だが、それよりも困ったのは、


「なあシズカ、その一応ここでは、な?……」


その言葉の意味に気づいたのか後ろを振り向いたシズカは、顔を真っ赤にしながら距離をとる。

後ろの生徒たちは何やらヒソヒソ嘘か真かもわからない噂話をしているようだ。


「シズカ、外の敵は全員どうにかしたから今ならば正門からでも脱出できる。戦える者は市街地に残っている敵の迎撃、他の者は教師陣と合流して安全な場所まで脱出したほうがいい。ここは裏に王城があるから間違えなく危険地帯になる、その前にできる限り離れてくれ」

「敵はどうにかしたって、あれだけの数を!? それよりも正門付近にも敵は沢山いたと思うんだけど……」

「それはまあ、大丈夫だ。さっき何か大爆発が起きてたからな、多分魔法が暴発したんだろう」


苦し紛れに言い訳をするが、どうやらシズカは疑っているようだった。だが、なんとか納得してくれたようで、


「……わかった、そういうことにしておくわ。後でしっかり聞かせてね、”本当の事” 」

「うっ、分かった……それとシズカ、頼んでいた事なんだけど……」


ミコトが依頼していたのは講堂内に全生徒がいるかの確認、と言うよりもいない生徒がいないかが本当に知りたい事なのだ。


「……一人だけいたの」

「それは誰なんだ?」

「あなたと同じクラスの子。名前は確か、久城ミレイさんだったかしら。でもミコトが言っていることが本当だったとしたら……」


シズカの言葉を最後まで聞かずに校舎に向かって走り出す。


「ちょっとミコト! どこいくの!?」

「野暮用だ! シズカはさっき言った通りに行動してくれ……」


シズカが何かを言っているがミコトにはすでに聞こえない。代わりにノーマに連絡を入れる。


「ノーマ、そっちは終わったか!?」

『なにをそんなに焦っている? まあこっちはとうの昔に終わっているが……』

「……一番最悪の事態になった」

『ふむ、というと?』

「話している余裕がない、こっちを手伝ってくれ。この学園の校舎は広すぎて時間がかかりすぎる」

『分かった……』


その返事とともに銃が輝き出し、ノーマが現れる。


「で、何が起きている?」

「……生徒が一人連れさらわれた」

「お前の知り合いか?」

「まぁ、ちょっとな……だがそれが問題という訳ではない」

「もったいぶらずに全部話せ」


ミコトは思わず険しい顔になる。それは一番当たって欲しくない推測が八割がた当たっているからだった。


「連れ去られた生徒が普通の人質程度の価値なら良かったんだがな、そうじゃなかった」

「そういうことか……」


ノーマはその一言に全て察したようだった。


「連れ去られたのは、”王族” の人間だ……」



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