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最恐最悪の魔銃  作者: サコロク
王の再来
12/55

暗雲

「えっ……えーーーーー!!」

「あら、可愛い反応。ますます興味が湧いてきたわ」


リンの妖艶な瞳がミコトの目の前にあった。その引き込まれそうな瞳に艶のある唇を目の前にドキドキしない男はいないだろう。

ミコトも思わず顔が真っ赤になる。


「あ、あの……それでリンさんはなぜここに?」

「リンでいいわよ、堅苦しいのは嫌いなの。ここにきた理由は……そうね、気ままにって感じかしら」

「……え?」


リンは笑顔でそう言うがミコトからしてみれば何を言っているのか全く理解できない。


「気にするなミコト、こいつはいつもこうなんだ。自由奔放っていうのかなんて言うのか……」

「いいじゃない、誓約に縛られて生活するのも退屈だし、私にはこの生活の方が性に合ってるわ」

「だからっていきなり出てくるな……」

「いきなりってわけではないのよ? …… ”王” の力を感じたからそこに向かってきたらあなた達がいた。つまりこの子が王ってことなのよね?」

「私はこいつに負けた、 ”あいつ” がこいつを王と認めたんだ。なら私たちは従わざるを得ないだろう? まあ私は少なからずこいつを評価しているがな」


ノーマの言うあいつとはヴァン・エドワーズ、この銃を創った最初の王のことだろう。

その王が認め、女王の一人がミコトを認めている。つまりミコトには王としての力が一つはあるということになる。


「今回の王は随分と可愛らしい男の子じゃない。……でも、その瞳には強い意思がある。何があろうと大切なものを守り抜かんとする力がある」

「ああ、こいつは確かにあいつ程強くはない。だが強くなろとするその意思だけはあいつをも凌駕する。それが私がこいつに惹かれている理由でもある」

「ふーん、ノーマにそこまで言わせるなんて面白い子。私も契約しちゃおうかしら、って言いたいところなんだけど……」


ここでいきなりリンの表情が真面目な顔になる。その目は先ほどとは比べ物にならない程凛としている。


「他の奴らがか……」

「ええ、捜索も兼ねて旅をしてたんだけど……全く力を感じないの。居そうな場所はほとんど回ったわ、でもどこも居た ”痕跡” だけ……」

「封じられるような奴らでもないし、とすると例のアレか?……」

「ええ、多分……特殊な ”神器フェーデ” かもしれないわ」


またもやミコトは会話についていけなかった。そもそもミコトはこの銃のことも星天十二界のこともほとんど知らないのだ。


「えーと、何の話をしてるの?」

「ん? ああ、他の奴らの動向についてだ。私はずっと籠っていたからな、情報というものが全くない。だがこいつの言うところによると、お前にも関係ない話ではなくなっているぞ」

「つまり?」

「それについては私が説明するわ……」


リンは淡々と語り始めた。


「私はここ百年、他の消失を絶った他の仲間の探索をしていたの。私たちはねそれぞれに特殊な魔力を持っていて人それとは違うから微かな魔力でもすぐに分かる。でもね百年、百年も探し回ったのに何も感じられなかった。それがどういうことを意味するか分かる?」

「いや、全く」

「あなたの寿命が一気に半分以上 ”なくなるのよ” 」

「え……」


リンの突然の宣告におもわず言葉を失う。それと同時に一つのことを思い出した。


「前のその銃の持ち主はそのせいで短命だったはずよ。王の魔力のみでは必ず身を滅ぼす、それ故に私達女王の力が必要なの。だけどその女王がを一人もいないなんてなれば、その銃はただの諸刃の剣。いえ、その銃を使わずとも魔力を使えばそれと同時に命を削っているのに等しいの」

「まさか!? それで亜夜は……」


亜夜は自分の年について語ったことはなかったが、ミコトから見る限りは二十代後半ぐらいだった。

元は軍人と言っていたが多くは語らなかったし、それを聞こうとすることもなかったので昔のことについて詳しいことは知らない。亜夜についてはシズカの方が詳しいはずだ。


「その方の不幸はその銃を手にしてしまったこと。……いいえ、それ以前にその銃は今の時点では誰の手にも渡るべきではないわ。だけど、あなたはノーマを従えた。少なからず人並みの寿命は生きられるはずよ」

「……話してくれてありがとう。すまない、嫌な話をさせて」


そのミコトの言葉にリンは少し驚いていた。だがすぐに妖艶な微笑みで、


「ふーん、これがノーマが惚れた理由ね。思わず私の心も持ってかれそうだったわ」

「おい、あまりちょっかいを出すな。まだこいつは女の扱いについて素人だ。お前の目を長く見ればころっと落ちてしまう」

「あら、妬いてるのノーマ? でも取られたくないからって私を焼かないでね?」


挑発するようにリンがそう言うと、ノーマの頰がみるみる真っ赤になる。


「だ、黙れ! もういい、行くぞミコト。どのみちもう敵は消えたんだ、急いだ方がいいだろう」

「え? でも……」

「いい、どうせこいつにはまた会える。力はその時に貰えばいい」


ノーマはリンに見向きもせずにミコトの手を引いて歩き出そうとする。その手はその白い肌とは裏腹にほんのり暖かく、どこか安心感があった。


「あ、待って。ここで会えた縁に今回だけのプレゼントをあげるわ。ミコト、こっちに来て」

「ああ、分かった……」


ミコトがノーマ手をゆっくり離しリンに近づく。


「手を出してくれる?」

「こうか?」


右手をリンに差し出した、その瞬間……

その手を勢いよく引かれたかと思うと、ミコトの頰に何か柔らかいものが当たった。

それは、リンの柔らかな唇だった。


「なっ、何をしているんだお前は!!」

「だからプレゼントをあげたのよ。私の熱いキスをね」

「そんなことを聞いてるんじゃない、なんでキスしたんだって聞いているんだ!」


さっきにも増して頰を真っ赤に染めたノーマが激怒してくる。ノーマと会った時のデジャブを見せられているかのようだった。

そしてその間に挟まれているミコトからしてみれば、リンの行動は余計に時間を取らせる行動でしかなかった。


「それはもちろん、ミコトが可愛かったからつい……と言うのは置いといて、今回限りの一時的な力を貸したの。だから使えるのは今日が終わるまでね」

「それならば別にキスじゃなくてもよかったじゃないか!」

「まあまあ、重い女は嫌われるわよ?」

「うっ!……」


とどめの一言と言わんばかりにリンが言い切る。それ以上はノーマも反撃できないようだった。


「でも、その能力って一体どんなものなんだ?」

「ふふ、心配しないでいいわ。その力はきっと今のあなたに役に立つものよ」


と、リンがミコトの唇に人差し指を置き、蕩けるような目で見つめてきた。

どの視線にミコトはたじたじになってしまう。


「……そいつの能力は二つ名の通り《幻想》、相手の見えるものを全て ”捻じ曲げる” 。まあ、簡単に言えば透明になると思えばいい」


少し怒り気味でリンの手を払いのけながらノーマが間に入る。


「私が説明しようと思っていたのに、残念ね」

「ちなみに言っておくとミコトが見ているこいつの姿も幻想かもしれないぞ……」

「あら酷い、これが本物の私よ? まあ、私を見るためには私と同じくらい見えないといけないんだけど……」

「それってどういうこと?」

「そうね……」


それからリンはその能力について語り始めた。


「まず、私は空間を ”屈折” させて捻じ曲げるの。それはさっきノーマが言った通りに、相手の視界すらもそう。つまりね、私の姿を捉えるためには正確に魔力の道筋を辿らなければいけないってこと。でもそんなことできるのは私と同じくらいの魔力を持った人間か相当目の良い人間しか無理なのよ。ちなみにさっきの相手を呑み込んだあれはそれのちょっとした応用で、捻じ曲げた空間で相手を包み込んで圧縮したものを転移魔法で私の魔力の領域に取り込んだってわけ。今回ミコトに与えたのは時間制限付きの刻印型魔法で私の魔法が使えるようにしているわ。わからなかったらノーマに聞いてね」

「はあ……」


突拍子も無いことを次々と言われ少し困惑するミコトを気にすることなく説明しきると、リンは自分の魔法を使い空間を捻じ曲げた空間を出した。


「さ、私はそろそろ行くわね。また今度会った時には熱いキスをあなたの唇にあげるわ。その時まではこれで我慢してね……」


リンはそう言うと自分の唇に指先を当てるとその指先をミコトの唇に当てた。

瞬間、ミコトの顔が沸騰しゆでダコのようになる。


「おい、リン……何をしている?」


ノーマの後ろに恐ろしいオーラが目視できるほどにひしひし伝わってくる。


「あらあら、鬼が出てくる前に早く行かないと……じゃあねミコト。ノーマもまた会いましょう」


お礼を言う間も無く逃げるように去って行ったリンを唖然とした表情でミコトは眺めていた。


「なんて言うか、凄かったな……」

「それは女としてか、ミコト?」


さっきにも増して殺気立っているノーマに思わず震えてしまう。


「い、いや違うって。だから怒らないでくれよ……」

「ふん……私は怒ってなどいないぞ? ああ怒っていないとも……」

「……怒ってるじゃん」


顔をそっぽ向けるノーマに思わず苦笑いしながらも、本来の目的を思い出す。


「でもこの能力は今の状況にうってつけだな……」

「ああ、あいつのあの性格は置いといて能力に関しては一級品だ。あいつが序列五位なのも、あの応用ありきだろうしな……」

「で、これってどうやって使うんだ?」

「……まず魔力を自分の周りに纏わせるイメージをしろ」


ミコトはゆっくり目を閉じる。

頭の中に浮かべるのは、自分を包み込むような魔力の衣。この空間とは切り離された別次元の障壁のようなものだ。


「じゃあ、次はその魔力にあいつの魔力を重ね合わせるんだ。そうすればあいつの魔力が重なってお前の姿は他の奴には見えなくなるはずだ……」


球体の中に入っているようにミコトの魔力が隙間なく周りを覆っている。それとは別にリンの魔力でその魔力を覆いながらミコトの魔力に織りまぜた。

すると、ミコトの魔力とリンの魔力の間が捻れ始めた。やがて全ての合わさった部分が捻れ、内部と外部の空間が別の物となった。


「おお、なんか凄いな」

「それで普通の人間ならば絶対に目視できない。あとお前が ”キス” して貰った刻印型の魔法は擬似的に物体を作り出せる物だ、使いすぎは禁物だがな。そもそも魔法なんて私たちは使う必要も無いんだがな……」

「え? それってどういう……」

「なんだミコト、今まで分からずに私の力を使っていたのか?」


さっきのリンの魔法ですらあんまり理解できていないのにこれ以上説明されると頭がパンクしそうになっているが、これからのために聞くことにした。


「頼む、教えてくれ…」

「ふむ、じゃあまず私達の魔法の仕組みについてだ。まず言っておくが、私達が使っているのは魔法では無い」

「……は?」

「言った通りだ、私たちは魔法は使っていない」

「じゃあ何を使ってるんだ?」

「その前に一つ聞くが、お前は魔法をどんなものだと認識している?」


魔法……己の魔力をそれぞれの思い描いた形で利用し、使用する魔力量、構築の仕方によって規模は様々。

魔法の基本的な概念はどこでもこのように伝えられている。


「そうだな、お前たちは魔法を使うから制限がかかる。いいか、”魔力” を使うんだ」

「え、それって当たり前の事なんじゃ?」

「違うぞ、魔力と魔法は別物だ。魔法は魔力を用いてそれを構成し行使するものだが、そもそもそれが無駄な行為なんだ。いいか、魔法ってのは属性が細かく分かれているが魔力には属性はない」

「……冗談だよな?」


ノーマのこの発言は魔法の概念そのものを壊しかねない一言だ。


「これがお前たちの思い違いだ。魔力という原動力を使って属性を限定し魔法を使う。この、魔法を構築する部分にお前たちは属性という概念を取り込むんだ。だがそれこそが一番の無駄、お前はそうではなかったようだがな……」

「そうなのか?……」

「お前が使っている魔法銃は魔法を使っているようでそうではない、正確には魔力の塊をぶつけているんだ。だからお前は魔法を使うのが得意じゃないだろう?」

「ああ、まあ昔からな……」


ミコトが魔法単体で使わない理由は構築する魔法陣の構成が得意でなかったからだ。それに比べ魔法銃はイメージさえあれば一瞬で叩き込める、スピーディかつ一瞬で膨大な魔法でも使えるので不都合がない。


「いいか、それこそが私達の魔法のようなものの原理だ。私達がお前たちと違うのは媒介を利用せずに魔力そのものを撃ち出せることにある。お前は体術でそれをやれるかもしれんが人間には負荷が多すぎて使えるという段階にたどり着けるものはいないだろう……」


ミコトの秘技《震痛》はまさにそれだが、ノーマの言った通りに負荷が大きすぎてまともに使えるのは数回程が限度だ。


「でだ、私達の魔法のようなものの正体は、分かったかもしれないが膨大な ”魔力の塊” だ」

「……なんだか、途方も無い話だな」

「まあ信じられんかもしれないがな、だが実際にはそうだ。私達は魔法の構築という段階を魔力を取り出す段階で既に終えているから詠唱というものが基本的にはいらない」


だがここで一つの疑問が浮かぶ。

なぜ最初に会った時やさっきも詠唱をしていたのか、と言うことだ。


「お前の疑問は分かっている。私の詠唱は魔力を一つ一つの言葉に分散させているにすぎない。そうでもしないとうっかり国を滅ぼしかねないからな」

「さらっと怖いこと言うな! そんなヤバイことしてたのかよ……」

「まあ、その制御を誤るなどまずありえないがな……おっと、話が長くなってしまったな。詳しい話は救出を終えてからだな」

「あ、ああ……」


そう言って会話を打ち切るとノーマは銃の中に戻る。

それと同時にミコトも進みだした。


道を間違うことなく走り続けること十分、目的の出口の下まで来た。そのまま地上への扉を開け外に出る。

そこは、学園の端にある水道設備の建物だった。

と、その時爆発音が遠くに聞こえる。


「まさか、相手はここを攻め落とす気なのか!?」


ミコトは一つの可能性を捨てていた。それは、戦闘員になり得るものの抹殺。つまり、この学園を潰すことだ。

それと同時にもう一つの可能性が浮かんで来たが、今の状況で考えていても何も始まらない。

作戦の変更はする必要もないので問答無用で動き出す。


扉を開け外に出た瞬間


「やめなさい!!」


見知った声が近くから聞こえて来た。ミコトが聞き違えるはずのない声。

ミコトは何も考えずその声の元へ駆け出す。

そこにいたのは、数人の兵士に囲まれたシズカの姿だった……




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