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最恐最悪の魔銃  作者: サコロク
王の再来
11/55

潜入

謝辞

投稿遅くなって申し訳ありません。ここ3日ほど体調を崩してほとんど何もできていませんでした。年末に必ず一度は体調を崩すのでこれは恒例行事となりつつあります。今日の朝からやっと調子が良くなったのでこれからは毎日書いていくつもりです。今年中に一話を終わらせて二話の途中まで書く予定ですのでお付き合いいただければ幸いです。読んでくれているみなさん本当にすいませんでした。

転移魔法の光が収まり、視界が段々とひらけてくる。

ミコトがそこに見たものは、街を燃やし尽くさんとする炎。そして、それに逃げ惑う人々だった。


「遅かったか……」


物静かにそう言うミコトの表情はいつになく険しい。


『ミコト、今は潜入することが先決だ。くれぐれもバカな真似だけはしてくれるなよ?』

「わかってるさ……」


ミコトの心中を悟ったノーマがなだめるように言う。その声にミコトも己がやるべきことが何なのかを今一度考える。

目を閉じて深呼吸をし頭を落ち着かせる。

怒りで破裂しそうになった頭の中身が落ち着きを取り戻し、これからの作戦が頭の中で動き出した。


「……よし、作戦を開始する」


ミコトの目つきは暗殺する時のそれと全く同じの、感情を殺し目的のためだけに動く機械のようにどこか冷たい目をしていた。



ミコトたちの現在地は、市街地の外れの方の裏路地。最初の地下に入る入り口までは少し離れている。

直接そこまで飛ばなかったのは、その場所が中央広場だったからだ。

もともと中央広場の噴水の水を引くために造られた地下水道はこの国に広大に広がっている。そのため道のりさえ分かっていればどんなところにでもいけるのだ。

現在地からの最も近い潜入地点がその噴水だったのだが、敵の索敵も兼ねて少し離れた場所に転移してきたのだ。


(それにしても酷い有様だ。まさかここまでとはな……)


この国の魔法士がマリオンの魔法士に劣っているのは知っていたが、それでも簡単に侵入を許し、その上ここまで火の海にされているとなればマリオンの方に何か秘密があるのではないかと疑いたくもなってくる。


(もしかすると……いや、任務中に余計なことは考えるべきではないな……)


このミコトの中に一つの可能性が浮かんではいたが、あくまで可能性は可能性でしかない。その可能性に振り回されて作戦が失敗しては元も子もない。だからあくまで頭の片隅に止める程度で放置していた。

裏路地を駆け抜けること五分で目的の広場の近くまでやってきた。

ここで一旦足を止め索敵を始める。だが、ここで魔法を使い逆探知されては今まで隠密に行動してきた意味がない。そこでミコトはもう一つ方法を使うことにした。

建物の壁と壁を交互に蹴り上に上がっていく。片方の建物の屋上までたどり着いたところで自分の持ち物を取り出す。その中から逃亡用に用意していた煙幕を手に持った。

一度下を見下ろし敵の位置を確認すると、煙幕を躊躇なく投げる。

煙幕が落ちていく中ミコトは銃を抜く。

そして、煙幕が地に落ちた瞬間、


「…… ”眠れ” 」


煙幕が破裂し大量の煙が相手の視界を奪う。慌てて迎撃態勢をとったが、すぐにミコトの《ナイトメア》で眠ってしまった。

煙が晴れる頃には全てが片付いていた。

それを確認するとミコトは屋上からそのまま飛び降りた。落ちる途中で《ウィンド》を使い速度を殺してホバリングのように地面に降りる。


「ふぅ……いくらマリオンの魔法士といえど不意打ちくらえばこんなものか……」


周りには深い眠りに落ちたマリオンの兵士が五人寝転がっている。そのどれもが杖を装備していた。

杖は魔法を使う上で最も効率のいい武器であり、戦闘において剣などよりもよっぽど役に立つ武器である。

カナミのように、魔法を使えるのに剣術を使うのは普通はいない。それは杖の魔力制御のしやすさにもある。剣などの場合は魔法を放つというよりも魔法を付加させて戦うのが基本になるからである。こういう戦いをするものは《エンチャンター》と呼ばれる希少な存在であり、戦闘においては非常に貴重な戦力とされている。

だが、今回の敵のメンバーは全員普通の魔法士だ。階級も低く使える魔法もある程度わかる。

しかし、それでもローランスでは中の下くらいの強さなのだ。それだけローランスは苦戦させられていることになる。


「……悠長にもしていられないな」


マリオンの兵士を放置して入口の蓋を開け地下水道に潜入を開始した。



地下水道の中は暗く、あの遺跡と同じくらいに視界が悪かった。

だが、今回に関しては敵の心配はしなくていいので明かりをつけることができる。


「足元が全然分からないな。暗視ブラインドサイトでも……」

『私が導いてやろう』

「え? いや待て、最初に言った通りにお前は……」

『黙っていろ、その方が少しぐらいは心にゆとりを持てるだろう……』


その瞬間、最初に会った時のような美しい焔がミコトの前に現れた。


「綺麗だな……」


思わず見とれてしまいミコトがそう言った瞬間、焔が激しく揺らめき出す。


『……うるさい。ほら、さっさと行くぞ……』


どこかしら焔がさらに赤くなった気がしたが、ノーマの言葉通りに先に進み始めた。

予想通りに地下水道は酷い匂いで、進むたびに匂いがいっそうひどくなっているような気さえしてしまう。

それに、道も複雑で迷ってしまいかねないほどに道が分岐している。

それを間違えないように慎重に進んではいるが、たどり着く気配は全くない。

ミコト自身道は知っているが実際に歩いたことはなかった。そのためどの程度歩いたかの距離感すらあやふやだ。


「しかし、酷い匂いだな。大丈夫かノーマ?」

『ああ、そもそも私達は人間と違って感覚の操作をできる。嗅覚を遮断してしまえば問題ないし、聴覚を操作すれば一キロ先の音など簡単に拾える』

「なんていうか……ハイスペックなんだな……」

『人間ではないからな』


ノーマは冗談まじりにいうがミコトにしてみればこんな奴が相手だったらと考えると恐ろしくて思わず身震いしてしまう。


『だから安心しろ、もし道が分からなくても私の感覚さえあれば正しい道かそうでないかなど簡単に分かる』

「その時は頼むよ……」


ミコトの前を照らしてくれるその焔は暖かく、まるで誰かに包まれているかのように優しい暖かさであった。

この焔がなければ多分今頃自分はここにいなかっただろう。ミコトはそんな感慨にふけっていた。

と、急にミコトの足が止まる。


「……なあノーマ、今の感じ取ったか?」

『当たり前だ、今は聴覚を強化しているからな……呻き声だったな。獣の類か?』

「ああ、しかもこの気配は……」

『そうだな……かなりデカい』


ミコトとノーマが感じたのは……魔力。

正確に言えば、大きな魔力を纏った人ではない何かだ。

距離からして五百メートル、だがその膨大な魔力を故にミコト達の元まで気配が伝わってくる。


「学園までの道はそこを通らなくちゃならない……やるしかなさそうだな」


銃を抜き警戒しながらも前に進む。

一歩一歩進むごとに感じる魔力は倍増していく。その魔力は二百メートル地点で分かる限りでは、魔法士が集団で使う戦略魔法以上の魔力をもっている。

そして、百メートルまで近づいた瞬間、猛烈なプレッシャーのようなものがミコト達を襲った。


「くっ!」


ノーマの焔も先ほどとは違う激しい揺れを見せていた。


「どうやらむこうはやる気みたいだな、こっちできる限り静かに終わらせたいのにな……」

『私が捻り潰してやろうか?』

「いや、思わずこの地下水道自体壊しそうだからやめておいておこう、ここは俺がなんとかする」

『なんだ、つまらん……』


拗ねるような口調で言うこの神のような存在は、気分一つでこの国ごと吹き飛ばしかねない威力の魔法を軽々と使う。

冗談では済まないどころか、下手をすれば一人で世界征服をしかねないだろう。

だが、現在それを従えているのはミコトだ。それはこの国の命運はミコトが握っているということでもある。

だからこそ力の使い道は考えなければいけない、それがミコトの ”責任” だった。


「……だが、多少の力は借りるかもな」

『じゃあ貸し一つだな』

「まだ借りるとは言ってないぞ?」

『いや借りるさ、間違いなくな……』


その瞬間、暗闇の先から何かが恐ろしい速度で飛び出してきた。


「っと、あぶねーな……」

『ほら言った通りだろ? おとなしく力を借りろ』

「まだ何もしてないのに借りれるかよ!」


ミコトが駆け出す。同じように飛んでくる何かを紙一重で回避しながら通路を突き進む。

距離が縮まるごとに飛んでくる数も増えるがそれを全て避けきり、とうとうあと十メートルまできたところで急に何も飛んでこなくなった。


「終わりか? ……いや、まだか」

『視界程度は確保してやる。安心しろ、これは貸しにはしない』

「ありがとな、あとで少しのお礼はするさ」


ノーマの焔が明るくなり視界がはっきりする。

飛んでくるものの先にいたのは……この世のものとは思えないおぞましい形をした死霊のようなものだった。


「な、なんなんだあれ?」

『なんだミコト、怖いのか?』

「そ、そんなことないし!? 気持ち悪いだけだし!?」

『え、お前にそんな弱点が? 可愛いじゃないか……』


ノーマは茶化すように言うがミコトは恐怖に少し足が震えている。


「と、とりあえずあいつは何なんだ!?」

『あれはここに漂う霊と魔力が組み合わさってできた ”魔物” だ。もともと水の近くには霊がたまりやすいと同時に霊は魔力と結びつこうとするんだ。それが蓄積された結果があれだ。救う手段は倒して浄化するしかない。が、ここはお前の話では相当使われていないらしいからな、魔力量はなかなかだぞ』

「まあいい、とっとと倒して先に進むぞ……」


ミコトの目つきが変わる。さっきの恐怖の目とは打って変わって元の暗殺者の目に変わる。

静かに深呼吸をし身体中に酸素を行き渡らせる。全ての体の部位の感覚がしっかりと分かる、足の指先一本一本でさえ動かせるほどに感覚を研ぎ澄ます。

そして、ゆっくりと瞼を開き相手を見据える。


(あいつは俺の道を阻むものだ。ならば…… ”殺す” まで)


時がスローモーションのように動き出した。

否、ミコトのみは違った。死霊から無数の刃がミコトに飛んでくる、がそのことごとくを銃弾で撃ち落とす。今のミコトの目には雨の一粒一粒でさえ目視できるだろう。これがミコトの ”感覚操作” だった。

そして、全てを撃ち落とし終わると同時に死霊まで一気に間を詰めた。


「…… ”爆ぜろ” 」


突如、死霊が内部から破裂する。それはノーマが使っているそれと同様の破壊力を生み出していた。


『おい、真似するな。それは私のだぞ』

「いや、ただ言葉を発しただけなんだがこれに特許とかあるのかよ……」

『そんなに私が好きならもっと使ってもいいぞ』

「そこはもっと厳しく言うとこなんじゃないのか?」

『なに、お前にならいくらでも使わせてやるさ、もともと私の魔力だからな。だが、相応の対価は払えよ?』

「何払えば……おい、ちょっと待て。なんで死んでないんだよ、”こいつ” 」


ミコトはとっさに後ろに飛ぶ。

次の瞬間、飛び散ったはずの死霊たちが集まり始める。そして、十秒も経たないうちに元の姿に戻った。


『ほう、これはこれは……』

「ノーマなんか知ってるのか?」

『ん? ああ、あいつはただの死霊じゃなくて、誰かが操っている死霊だな。その操り手は……どうやらこの地下水路にはいないみたいだな』

「じゃあこいつは ”死霊使い” に操られてる死霊ってことか!? まてよ……ってことはこの道は相手側にバレてる?……」

『だな、それよりも構えろミコト。あいつ私たちの魔力も喰らって増幅しているぞ』

「そんなこと言われたってなこっちには色々……って、言ってるそばからかよ!!」


死霊はさっきにも増して恐ろしい速さの魔法を撃ってきた。なんとか凌いではいるが速度も増しているその攻撃はタチが悪い。


「くっ! 面倒だ。もういい、力を借りる、ノーマ頼む」

『ふっ、やっとか。これで本当の貸し一つだな』

「もともとお前には返しきれないくらいの恩があるんだ、今更そんな貸し作ろうが関係ないさ」

『それもそうか。では、存分に暴れるとしよう……』


小さな焔が光り輝き始め、やがて人の形になる。

光が収まる頃にはそれは美しい女性の姿になっていた。


「やれやれ、本当に汚らわしいやつだな。そして、それを操るものはもっと下衆だ。……魔力もろとも燃やし尽くしてやろう」


ノーマが詠唱を始めると、それを止めんと死霊が魔法を放つ。が、全てミコトが捌ききった。


「その汚い魔法でノーマに触れれると思うなよ……」

「ほう、私を俺の物宣言か? 存外悪くないな」

「おい、詠唱中に冗談はやめてくれ。正直しんどいんだ、早く終わらせてくれ」

「つまらんな、まあいい……火天に燃え盛る花弁よ、その死の餞けに鮮血の薔薇を《ディア・ローズ》」


小さな一つの焔が死霊に飛んでいく。

そして、それが死霊に触れた瞬間、爆炎とともに花が咲いた。

それは美しく気高い薔薇、血のように赤く、萎れることのない大きな花弁。それは死人には勿体無いくらいの美しさだった。

しかし、それでも死霊の全てを葬り去ることはできなかった。


「ふむ、魔力のカスが残ったか。まあいいこれで終わりだな」


ノーマが指を鳴らそうとしたその時、


「なっ!? 嘘だろこいつらここに溜まってる魔力をかき集めやがったのか?」

「まあ、それでも私を止めることはできないさ」


躊躇なく魔法を発動させようとするノーマのその指は、指と指が離れる直前で止まった。

その理由はミコトの目の前にあった。

ミコトの前の空間が…… ”歪んだ” のだ。


「これはこれは珍しい。ミコトお前は運がいいな、ここで ”あいつ” に会えるなんて……」


歪んだ空間から何かが出てくる。

それは一人の女性、全身を黒のドレスで包み込んだノーマのように美しい女性だった。


「あらあら、こんなところで思わぬ物と出会っちゃったわ。ふーん、美味しそうな魔力ね。じゃあそれは私が ”頂くわ” ……」


瞬間、死霊の周りの空間が女性が出てきた時と同じように歪み始める。

そして、その空間に吸い込まれ始めた。微塵も残さない勢いで死霊は歪みの中に吸い込まれていく。いや、これは ”喰って” いるのだ。死霊ではなく ”魔力” を。

時間にして約十秒、そこには何も存在していなかったかのように全てが消え去っていた。


「ふぅ、ご馳走様。悪くない味だったわよ」


謎の女性は満足げにそう言った。が、そんなものを見せられたミコトからしてみれば恐怖しかない。


「……久しぶりだな、リン。まさかこんな再会になるとは思ってなかったけど」

「あら、ノーマ久しぶりね。百年ぶりかしら、元気だった?」

「それはこっちのセリフだ、お前こそずっと旅してたのか?」

「ええ、ちょっと調べることがあってね。……それよりもその男の子はもしかしてあなたのボーイフレンドかしら?」


ここで初めてリンと呼ばれた女性の目がミコトに向けられた。その目はどこか妖艶で、吸い込まれそうになる。


「まあ、そんな所だな。だから手を出してくれるなよ」

「ふーん、ますます興味が湧いてきたわ。あの男に全く興味のなかったノーマがね……」

「お、おい、変なことを言うな! どうでもいいだろうそんなこと……」

「だって、遺跡に籠った理由も弱い人間に興味がないからだったじゃない、あなたぐらいよずっと引きこもってたのは」


一人会話についていけていないミコトはずっとぽかんとしている。そもそもこの女性が誰かすら全く理解できていなかった。


「あの、あなたは……」

「ああ、自己紹介がまだでしたね。私は星天十二界セレスティアル序列五位、《幻想》のリン・ヴェリウスよ、よろしくね」


ミコトは顔を驚愕の表情に染めていた……




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