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開拓騎士団  作者: 山内海
第二話
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越冬 ⅩⅥ




 ミールは晩ごはんをほんの少し食べて寝ちゃった。

 僕はミールが物を食べているところなんか、今まで見たことがなかった。

 食べなくても平気だって、ミールは言ってたんだ。 


──まあ、そうだろうねえ。魔力で動く人形だったからね。

──でも、これからは、エダインの体になったんだ。

──お腹も減るし、飲み食いをしたら、出すもの出さないと。


 ミールはお料理を作ったりするのは得意なんだ。


──へえ。


 離宮に居た頃は、僕のご飯はみんなミールが作っていたんだ。


──味もわからないのによくやるよ。


 ……。とにかく、人間の体になってから、ミールは元気がない。

 僕もなんだか調子が悪い。


──おやまあ! 大変!


 昨日、オーマの館でククーシカと一緒に、ベッドに寝ているきれいな白い女の人を見た辺りから記憶がなくて、気が付いたらミールと船の船室で寝ていて、ミールが人間になって……、船の中にはミールの妹達が沢山沢山乗っていて……。


──目まぐるしい一日だね。

──ところで疲れてないかい? 

──そろそろ寝たら?


 …………。

 調子が悪いって云うのか、なにかお化けみたいなものに取り憑かれたと云うのか……。

 

──あらま! 怖いねえ。


 …………。

 初めは、何て言うか、よくあるじゃない。

 自問自答?

 心のなかに別の人がいるような感じで、相談してみたりするの。

 あれかと思っていたんだけと。


──人生は悩みが付きもの。迷った時は心の中の言葉に従おうね。


 僕の場合、僕の心の声ってやつは、ちょっと度が過ぎているというか、個性が強すぎるみたいで、ホントに頭の中に別の人が入っているみたいで……。


──不思議だねぇ。

──ところで寝ないのかい?


 こんなこと、他の人に相談したら……、


──ダメダメ! 相談駄目!


 みんなに気味悪がられるかなぁ?


──特にミールにはナイショだよ。


 …………。


──昨日は役に立ったでしょ?

──魔道人形の修復魔法を教えてあげたでしょ?


 僕は意を決して、この頭の声に話しかけてみようと思う。

 周りを見回す。

 ここは北の灯台塔。

 灯台って云っても、昨日の夜に灯台の搭の部分が崩れ落ちたみたいで、今はその土台しかない。


──まったく! アホ海竜め! 後で直しておこう。


 灯台の土台って云っても、王都の大聖堂よりでっかいし、その土台の下には町がすっぽり一つ収まるような洞穴と、町ソノモノのような、色々な建物が収まっている。


──一万人が一年立て籠ることが出来る地下都市になっているんだよ。


 僕とミールと方舟の姉妹達は、オーマの崖にあったエルダランのお屋敷によく似た建物を、一つまるごと借りている。

 今いる部屋は僕とミールの部屋。


──ちなみにミールの強力なゴリ押しで、この子とミールは同室になりました。


 …………。

 寝ているミール以外、この部屋には僕しかいない。


──寝ないのかい? そろそろ時間が……。


「あのー。あなたは、誰ですか?」


 僕は窓際の机に着席して、小声でそう言った。

 自分の頭の中にいる誰かに話しかけてみる。


──何を今さら! 声に出す必要なんかないことはよく判っているだろう?

──私は、君の頭の中にいる愉快な知恵袋的な存在さ。

──そう、夜な夜な開く知恵袋。


 …………。


──あ! ゴメン! 引かないで! ついて来て! もう時間がないんだ。


──……正直に言うとね、私は、実は君のお父さんなんだよ。


 僕のお父さんは二年前に死んだよ。


──それは違う。それってゴンドオル王の事でしょ? ゴンドオルの王様ってのは、私の三番目の妻だったワルラ・グリュネアの姫君との子供から家系が続いているんだ。

──アルティン・ティータの卵は私がオーマに滞在しているときに生まれた。

──つまり、ゴンドオル王は、君の腹違いの弟の子孫って事になる。


 弟の子孫……? た、卵?!


──まあ、詳しいことは追々教えてあげるから、今は急いで出掛けよう。


 何処に?


──ここから北に行ったところで、ワラグリアの兵と下エルダールの戦士達が戦おうとしている。

──まずはそれを止めにいく。


 う、うん。

 でも、どうすればいいの?


──昨日みたいに教えてあげるから、とにかくあったかい格好をして行こう!


 ミールは?


──ミールはそのまま寝かしといて! 

──……いや、その前にちょっとイタズラしてやろう。

──今なら、チョットやソットでは覚醒しないよ。

──ミールの新しい体がどんな具合か、診察診察! 触診しまーす!


 ええ?! 駄目だよ! 怒られるよ!


──怒られるわけないでしょう! エロイタズラして怒られた事あるの?


 ……無いけど、って、云うかイタズラした事なんてないよ。


──見なさい我が息子よ。この部屋にはベッドが一つしかないぞ。ミールは一緒に寝る気満々だ! 据え膳食わぬは男の恥。ミールは待っているよ! 多分。


 ……駄目だよ……。僕の魔力が暴走する。


──へ?


 ……僕には、6年前以前の記憶が無いんだ。

 ミールは魔力が暴走したからだって……、だから魔力が暴走しないように僕はミールの近くにいないと駄目なんだ。


──……んー?


 それでもね、最近ミールとくっついたり、服を脱いだところを見てたりすると、……僕、何だかソワソワしちゃってね。ミールに相談したら、『それは魔力が暴走する兆しかも知れない』って言うんだ。


──(何を言っているんだあの娘は?)


 だから、『魔力を抜く』必要があるって……。


──あのー。『抜く』って、それは具体的にどんなことを……?


 言えない! ミールと約束したんだ! 誰にも言わないって!


──……。何だかこれ以上追求すると、とんでもない事になりそうだし、時間がない。

──仕方がない。ミールの探検は後日としよう。さあ出掛けようか!


 こうして、僕は一人で(頭の中にお父さん(?)がいるから二人?)、灯台搭から抜け出して、北に向かう事になった。

  

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