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開拓騎士団  作者: 山内海
第一話
2/92

海峡 Ⅰ

   

   

「この辺りの木々は、葉を落とさないのね……」


「ふん! 物事を知らぬなグレタ。これは寒い地方の木だ。王都の近くでも山の上の方に生えておるぞ!」


「そしてローヴェにある代々の王の奥津城所おくつきどころにも立ち並んでおるぞ。もの知らぬグレタよ」


「ダイモン! カロン! 寄ってたかって、やかましいね! しゃーないだろ! あたしゃ王都の外に出るのは初めてなんだから!」


「かかかかか、そしてわしらは、もう王都へ戻ることは無いのじゃ。これからは、これらの樹木に慣れ親しみ、おぬしらの子は、葉を落とす木を見て腰を抜かすのかもな」


「しかしグレタよ、王都に居た頃は、社交場の華と謳われていたお前が、変われば変わるものよ。なあカロン」

 

「ワシは白亜はくあの塔に引き篭もっておったので、今のグレタしか知らぬ。じゃが今のお主を見て、北領公の姫君だったとは誰も思わんだろうのう」


「そんな気位、この三月の旅で木っ端微塵さ! 領主の娘なんてお題目、なんの役にも立たなかった。父上も死に、北領南方の寸土も、『新王』に取り上げられた。今じゃあたしは文無し娘さ、文無し、土地無し、てて無し、無し無し無し……」



 

 北へと向かう街道は、左右から覆い被さるように茂る木々が、天蓋のように空を隠し、昼だというのに薄暗く、影ばかりだった。


 とぼとぼと進む、百人ばかりの人の連なりから、少し離れ先を進む3騎。

 

 先頭を進むは、大きな体躯の黒い軍馬にまたがる武者。

 銀色の甲冑は傷だらけで、戦場から落ち延びたままのような姿をしている。

 

 その後ろを、元は白かっただろうドレスの裾を、腿のあたりでちぎり取り、下に乗馬ズボンを履き、手甲足甲をつけるという、かなりチグハグな格好をした、赤髪の若い娘が続く。そのドレスが降ろしたてだった頃は、娘も、その美しさを褒めそやされていたのかもしれない。

 今は薄汚れ、顔も、生来色白だったのだろうが、日に焼けて赤くなり、鼻の辺りにはソバカスが目立つ。しかし、時折見せる笑顔は活き活きとし、今の出で立ちに相応しく、王都にいた頃より、親しみやすく感じる者も多い。

 

 二人の後ろを行くのは、茶色の幅広帽とローブを纏った老人。鞍の後ろには、小袋が沢山ついた大きな鞍袋が付いていて、その鞍袋の上に大きな本が数冊、括り付けられている。

 幅広帽でも隠しきれないのか、大きな鼻だけ日に焼けて赤くなっている。

 

 彼らの他に馬に乗っているのは、数少ない護衛の兵たちだけで、ほとんどの者はかちで行く。

 

 他にも大きな荷物を積んだ馬車が数台。

 王都を出た頃はもっと多かった。人も馬車も荷物も。

 車軸の折れた馬車を打ち捨て、荷物を移して重くなった馬車は、またすぐに壊れる。

 とうとう食べるもの以外は全て、街道沿いの宿場町で売り払い、売ることを拒んだ者たちとは、荷物ごと別れた。

 

 そうやって身を削りながら三月みつき北へと進んできたのだ。

 元々は北領の実質的な全領土、『ワラグリア』と呼ばれるこの辺り一帯は、二年前の政変で新王北方領と名を変えて、王家の直轄地に編入された。

 そのワラグリアも、ここまで北に来ると人家は絶えて無く、あとは北の果の港町まで、尖った木々の連なりが続くばかりのようだ。


 森林にしがみつくように建つ、開拓民の丸太小屋を最後に見たのが三日前、それからは野宿が続いた。

 開拓民から狼の話を聞いてから、夜は街道に馬車を四角く並べ、荷台に不寝番を置いて警戒している。

 

 付き従う者たちの疲労の色は濃い。

 

「どこか開けた土地があったら、何日か休もうかのう」

 

「いや、港までもう少しで辿り着けるはず。先を急がねば! 冬になったら港から北に向かう船は無い。春まで港は閉ざされてしまうぞカロン」


 灰銀の鎧武者ダイモンは、赤鼻の老人カロンに、先を急ぐよう促す。

 しかしカロンは首を縦には振らなかった。

 

「ヤシン王兄の容態が思わしくない。何処かでお休みいただかなくては」

 

 三人は揃って集団の中心にある、屋根のある大きな、馬車に目を向ける。

 そこには彼らの君主、王都を追われ、新たな北領の領主となった新王の兄が乗っていたのだった。

 

 


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