嵐の前
俺と如月が付き合うことになって数日。彼女は俺の心の支えになってくれていた。
俺の気持ちは西城だけど、西城は俺の気持ちに応えてくれずにいる。正直なところ、この関係は息苦しい。隆史との約束もあり、如月を泣かせるようなことはしまい、と思っているんだけれどやっぱ本気で好きにならなくちゃどうしても傷つけてしまうんだな。
そんなある日、またしても西城が校門にいた。
「もぅ!陽介のバカ!!」
俺の顔を見るなりいきなりそういってきた。俺は何のことか全く分からずにあたふたするだけ。
「大会の日取りメールしてくれなかったじゃん!!」
あぁ〜…。
「忘れてた。ごめん。」
「信じらんない!!バカ、バカ。バカ!」
「明日香さん、そんなに怒らなくても…。」
「一週間も待ってたんだよ?!怒らずにいられないじゃん!」
「ようちゃん本当?」
「……。」
俺は知らんフリしてあらぬ方向を向く。
「もう!明日香さんごめんね。」
「なんで早紀ちゃんが謝るの?」
「ようちゃんの…彼女…だから…。」
顔を真っ赤にして如月は告げた。
「えぇ!!本当?!良かったじゃん。昔っから想ってたんでしょ?」
「うん。」
「にしても陽介は幸せ者だな。」
唐突に後ろから隆史が声を掛けてきた。隣には遠坂。
「うわぁ!エミちゃんじゃん!」
西城大興奮。
「え…、あぁ。ファンの方ですか。」
遠坂も慣れた物。軽くあしらう。
「陽介もいいなぁ〜。トップアイドルと同じ学校・同じクラス・同じバンドだもんなぁ〜。」
「小谷君の知り合い?」
遠坂は怪訝そうに聞いてきた。
「西城 明日香。俺の元カノ。」
「え!西城さん?!」
「え?何、何?陽介私のこと話しててくれたの?」
何も知らない西城は大喜びしていたが、遠坂の目は憎しみで一杯だった。
「西城、こんなとこじゃ邪魔だから歩きながら話そう。」
「しょーがないなぁ〜。」
まずいことになってきた。隆史と如月は西城の事を理解できてるけど、遠坂は俺との別れ話しか聞いてないからな…。
「ほら、行くぞ。」
俺はあの二人を引きはがすようにして西城を引っ張っていった。
「なによぉ〜。少しぐらい話させてくれたっていいじゃん。」
「遠坂は初対面でなれなれしくされるのが嫌がるんだよ。」
「へぇ〜、トップアイドルなのに変わってるんだね。」
取りあえず、その場を取り繕う。この言い訳だったらしばらく効果を期待できそうだ。
「早紀ちゃん呼んでこなくても良かったの?」
相変わらずの上目使いで少し首をかしげて言う。
「大丈夫だ。分かってくれていると思う。」
「そーなんだ。ラブラブなんだね。羨ましいなぁ〜。」
「相変わらず、アタックされてるんだろ?」
「女子校に逃げ込めばそんなこと無いと思ってたんだけどね、電車でしか会ったこと無い知らない子がいきなり告白してきたり、おじさん達の目がね。」
「大変なんだな。」
「私より、陽介の方が大変でしょ?私見てるエミちゃんの目、すごかったよ。」
「気付いてたのか?」
「あったり前じゃん!あの時のこと、話したんだ…。」
「あぁ。転校してきて一週間ぐらいでアイツ告ってきたからな。」
「マジで?一目惚れだったんだぁ〜。やるねぇ色男!」
西城は肘で俺の脇腹をつついてくる。なんだかくすぐったい。
「その時に仕方が無く話したんだよ。」
「ふ〜ん。あ、じゃあたしコッチだから。」
「お、おぉ。じゃな。」
「バイバイ、今夜ちゃんとメールしてよ!」
「分かってるって。」
俺は初めて西城とドキドキせずに話すことが出来た。如月に感謝しないとな。
その晩俺は忘れずに用件だけ西城にメールした。