仲直り
翌朝、俺は普段通り憂鬱な気分で学校に登校した。
未だに遠坂の言葉が耳から離れない。
「よぉ!ってお前すげぇ顔だな。」
「うるせぇ、元からだよ。」
隆史に付き合う気力もなく、そのまま席で沈没してしまった。
「遠坂に何言われたんだ?」
「お前には関係ないだろ。」
ふぅ〜と隆史は大きなため息をついて、俺のそばから離れていった。
思い出したくない、封印したはずの過去がよみがえる。鮮明に、昨日よりも鮮明に。
同じ思いを味わうのか…。辛い辛いあの思いを…。
もうたくさんだ。俺の事を勝手に好きになって…
俺の気持ちも考えずに、そんなに俺を苦しめたいのか!!
俺はみんなに悟られないようにひとり涙した。
俺を揺り動かす小さな手。
ドコか小さいとき同じ事をされていなかったっけ?
淡い幼稚園の頃の記憶…そうだ、思い出した。
あのとき、閉じこめられて出られなくなって、一人で泣いていたときだ。
ふいに暗闇から手が伸びてきて、俺を揺り動かしたんだ。
この感覚は…
「さっちゃん?」
「あwおはよう。」
いつの間に寝ていたんだろう。もう、授業が終わっていて、誰もいない教室に如月と俺の2人っきり。
「なんでこんな所にいるんだよ。」
「ようちゃんが心配になって。でも、ビックリしたよ。いきなりさっちゃんって言うんだから。」
「う…うるさい。忘れろ。」
俺は恥ずかしさの余り赤面してしまった。
「アハハ。ようちゃん昔っから何一つ変わってないね。私には何考えてるか分かるよ。」
「当ててみろよ。」
「西城さんのこと考えてたんでしょ?」
「う…。」
どうしてコイツは人の気にしてる過去を…って言うか何で分かるんだ?
「何で分かるんだ?って思ってるんでしょ。分かるよ…。ずっと見てきたから。」
「ずっと?」
「うん。ずっとw」
突然教室のドアが開いて、隆史と遠坂が入ってきた。
「遠坂には西城のことを話した。」
「そうか…。」
「ごめんね…。本当にごめんね…。私、何もしらなくって…。ただ、小谷君だけを見ていたくて…。」
「もういいさ。」
「でも…、でも…。」
「しつこい。」
「ごめん…。」
気まずい沈黙が流れた。俺は遠坂のこういう所が嫌いだ。全部自分で背負い込もうとする。
「さて、陽介も起きたところだし帰るか。」
「うん。そうしよ。ようちゃん起きて!遠坂さんも一緒に帰ろう。」
俺たちはそれぞれの思いを胸に抱きしめながら明日に向かって歩き始めた。