地獄のテスト
「遠坂さんコッチ、コッチ。」
山口が気を利かせて遠坂を俺たちの所まで案内した。案の定、その後ろには部長と羽柴それに野次馬どもが付いてきていた。
「小谷、どういう事か説明してくれるかな?」
部長はいつもの傲慢な態度でしゃべり掛けてきた。
「遠坂が俺のバンドで歌いたいって言うからちょっとテストしてみようと思って。」
「おかしいねぇ。遠坂さん、軽音部に入ってさえいないのに…。もしかして小谷、お前が頼んだんじゃないの?」
ウチのバンドに来てくれ!アイツの所なんかに行かせないぞ!っていうのがバレバレだ。俺は都合良くその話に乗っかることにした。
「俺は頼んでいま…」
「私が言いだしたんです。」
よ、余計なことを!!
「遠坂さん、コイツに一体どんな弱みを握られているか知らないけど、この機会だ。僕たちのバンドに来ないかい?普段お互い見知っているから、すぐに合うと思うよ。」
横から羽柴が出てきた。おぉナイス羽柴。
「羽柴さん、すいませんが小谷君のところが先約なので…。それにどうも、ループ×ループの曲風と合わないみたいなんで…。」
だんだん尻すぼみになっていって「私嫌いだし。」っていうのを俺はかろうじて聞き取れた。
芸能界でもすんげぇ嫌われてるんだな、俺同情したよ。
「仕方ないですね。それじゃ、さっさと初めて貰えませんか?私たちの練習の邪魔になるんで。」
そういうと羽柴はギャラリーにとけ込んでいった。言うだけ言っておいて逃げやがった。
「陽介、んじゃ文化祭で歌う予定のサンシャインで行くか。」
「だな。それじゃ、俺が弾きながら1回歌うから、歌詞見ながらでもいいんで後から歌ってみて。」
俺と隆史は目で合図して、少しもずれずに同時に演奏し始めた。
その時点で周囲の驚く目。もちろん遠坂も。
ズンズン、隆史のドラムが印象的なパートで俺は唐突に歌い出す。
煌めく太陽
立ち上る陽炎
そう夏真っ盛り
気温が高くて
暑苦しいけど 息苦しいけど
行こうぜ 夏祭り
The summer festival
夜空に輝く花火
太陽のごとく光 照らす
哀愁漂わせる僕らを一掃する
夏の風物詩
恋人達の物語
全てはこの時のために…
輝くファンタジスタ
夢のような夏を超えて また一つ思い出を創るんだ
未来に続く夏物語り
また来年も創れるかな?
叶わない儚い恋も
叶わない儚い夢も
叶わない儚い明日も
ボクらが変えて行くよ
その思いでは永遠の詩となり 少年達の記憶に
刻まれる
永遠に〜♪
またこの場所できっと会おう
歌い終わると万雷の拍手。まだまだ試作段階なのにこんなに受けるってこいつらの感受性を疑ってしまう。隆史は得意そうに笑っている。ま、試作とはいえ拍手を貰えたら嬉しいけどな。
「それじゃ、歌ってみて。」
俺は遠坂に手書きの歌詞を渡して隆史と弾き始める。
今度は目も合わさずに。
ズンズン
少し遅れて遠坂が歌い始める。ボロみっけw
俺は自然と細く微笑んでいた。おっと、真面目に講評しよう。
遠坂の声はまずまず。音程も所々怪しいところがあったけど、周りの連中は気付いていない。音程で攻めるのは難しいだろうな。
歌い終わると俺たちよりも拍手が凄まじかった。ギャラリーにはタダで生聞けて良かったってうれし泣きしてる奴もいる。大したことないだろうに。
「やっぱ、合わないな。」
俺は拍手が鳴りやまないうちにボソッと告げた。
「音程合ってないところがあまりにも多すぎる。」
「僕はあなたの所に入って欲しくはないのですが、音楽をやっている者として言わせて頂きます。完璧に合っていたと思いますが?」
羽柴の奴がしゃしゃり出てきやがった。予想はしてたがな。
「一般論だろ?俺も隆史も主旋律の音程、楽器で鳴らしてたんだぜ?それを聞き分けることも出来ない結果、音程が外れるっていうことになったんじゃないか?」
「そんなの、聞こえませんでしたが…。」
「強調して弾いてやる、良く聞いておけ。」
俺は隆史に目で合図して他の音を下げて、主旋律のメロディーをギャラリーの奴らにも聞こえるように弾いてやった。
「さっきと同じだろ?」
「はい…、そのような音が入っていました…。」
ループの羽柴が折れて誰も反論する者はいなかった。
「と、いうわけだ。残念だが、諦めてくれ。」
「いや…です…。」
「嫌って言われても…、合わなかったんだからしょうがないだろ。」
「来週、もう一度チャンスをください。今度は必ず歌えるようにしますから。」
熱心な眼差しで言われたらさすがの俺も断りきれず…
「来週がラストチャンスだ。もうすぐ別の曲出来る予定だからそれをテスト材料にする。」
俺は帰る用意をしていたので、荷物を持ち帰り際遠坂にそっと耳打ちした。
「明日、俺の所へ来い。」