新メンバー?
歌詞も決まったことだし俺たちは順調に練習を続けていた。もちろん歌詞作りにも余念がない。
青春の一ページ♪
おっとそうそう。遠坂に落とし物のこと聞かないとな。今、教室の中で二人っきりだし声掛けてみるか〜
「遠坂?俺なんか落としてたっけ?」
「え?」
ま、当然の反応だわな。
「いや、隆史の奴、遠坂が俺に話したそうにしてるって言うんで。ちょうど、歌詞書いた紙無くした所だしさ。」
「歌詞については知らないけど…。傘なら…。」
「傘?」
入学してから一度も雨なんて降っていないのに傘なんか落とすはずがない。俺は遠坂が別の意味で心配になってきた。中途半端な時期に転校してきたのも分かったような気がする。
「うん…。」
「そう言われてもねぇ。雨降ったことないじゃん。大丈夫?」
「そうじゃなくて、私のライヴ見に来てくれた日に…。」
あぁ〜そう言えば女の子に傘あげたような…。え?ちょっと待て。なんで遠坂が持ってんの?
「あれって遠坂だったけ?」
「うん…。」
恥ずかしそうにうつむく遠坂。トップアイドルなのにこんな事ぐらいで恥ずかしがるなよ。
「そっか。ありがとうな。」
俺は礼を言って傘を受け取った。ずっと傘返したかったんだろう。
「小谷くんって軽音楽部なんだよね?」
「そうだよ。俺と隆史の2人だけ。人数全然足りないから俺がボーカルすることになってさ。部長達の視線もやけに冷たいし。」
「よければ、私がボーカルしようか?」
はい?今なんと?
例によって恥ずかしそうにうつむく遠坂。少しだけ愛おしさがこみ上げてくる。あ、恋愛感情とかは関係ないからw
「でも…、遠坂仕事とかあるでしょ?」
遠坂を引き込んだらさすがに部長とか羽柴の奴がうるさそうなので、遠回しに断っておく。
「それは大丈夫だよ。二人の伴奏ダビングして楽屋とかで練習すればいいんだし。」
そんな笑顔で言われたら断る物断れないし…。仕方がない、ちょっと辛いかもしれないが現実を見て頂こう。
「俺たちに合うかどうか一回試してみるか。放課後、部室に来て。」
俺はこれ以上、何か言われたら困るので足早にその場を立ち去った。
移動教室 美術
先ほどのことを隆史に話すと案の定、ニヤニヤしだした。殴り倒しそうになるほど腹が立つ。
「あのアイドルがねぇ。良かったじゃんか。」
「良くない。正直迷惑だし。また部長とかに言われるだろ?」
「そりゃぁそうだが…。」
「それに羽柴の奴に『ボク達を恐れて遠坂さんに頼み込んだのでしょう。』とか満面の笑みで言われたらムカツいて仕方ない。」
「でも、当の本人は本気なんだろ?どうやって断るつもりだよ。」
「わざと合わないような曲を弾いて諦めて貰う。+部長と羽柴の嫌味も混ざれば効果覿面だろ。」
「むごいこと考えるんだな。」
呆れたような顔をされても俺は断固として遠坂を受け入れない姿勢を保つ。
そして運命の放課後、部室。
いつも通り俺たちは隅のほうに追いやられ(いつか必ず部長を叩きのめす!)練習をしていた。周りの連中も俺たちのことなどお構いなしに、弾きまくる。何が何の音だか分からない状態だった。
「今日って遠坂さんくるんでしょ?」
この女、ドコでその情報を入手したんだ。
「そうだよ。」
おれは素っ気なく答えた。
「小谷君もなかなかやるわね。他の男子に邪魔されたでしょ?」
「いや、あいつが来たい、やりたいっていうから仕方なしに。ホントはやらせたくないんだがな。」
「え?どうして?彼女トップアイドルなのよ。当然歌もそこらの人より断然上手いはずじゃない。」
「遠坂だから気にくわない。羽柴や部長にまたブチブチ嫌味を言われるだろ?」
「それもそうね。ま、頑張ってね。」
どいつもこいつもニヤニヤしやがって。
と、騒音が鳴りやんだ。遠坂のお出ましか。あんまりやりたくはないんだがこれも諦めて貰うため。いっちょ、いじるか。
俺は重い腰を上げた。