慰め
『元気ないな、なんかあったのか?』
『西城と別れた。』
『なんで?』
『西城がもう、つき合えないって。仕方なしにつき合ってあげてたんだって。誰も一生好きになることなんてないって。』
『そっか…。大変だったんだな。』
『……』
『どうせ、暇なんだから明日俺の家に来いよ。』
『そんな気分じゃない。』
『いつまでも落ち込んでたって仕方ないじゃないか。』
『だけど…だけど…』
『だけど何だよ?うすうす気づいてたんじゃないのか?』
『……』
『覚悟出来てたって辛いよな。』
『……』
『明日、朝迎えに行くから今日はゆっくり寝ろよ』
隆史は用件だけ伝え、俺の返事を聞こうともせずに切った。
『ツー…ツー…ツー…』
いつまでも聞こえるその音は、俺の胸に必要以上に響いて耐えきれなくなって。携帯を閉じた。
いつの間に寝ていたんだろう。目が覚めると朝で、俺の目の前には隆史の顔があった。
「朝からうぜぇな。」
「人が心配して来てやったのにそういう風にいうのかよ。」
「うるせぇよ。てか、何勝手に俺の部屋に入ってんだよ。」
「叔母さんがイイって言ってたぞ。」
「本人の許可を得るのが普通だろ。」
隆史の抗議の声を無視してさっさと着替え始めた。
「…さっさと顔洗えよ。最悪だぜ。」
「マジで?」
「目なんか充血してるし。こりゃ、化けモンだぜ。」
「うるせぇ。顔洗ってるからおとなしく座ってろ。」
洗面台の鏡を見て驚いた俺、確かに化けモンだ。ひでぇ顔。
目尻とかをマッサージしながら念入りに顔を洗った。さっきよりかはだ大分ましになったな。
「おい、コラ。なにいじってんだよ。」
部屋に戻る隆史の奴が引き出しの中を物色していた。
「エロ本の一冊でもあるのかなぁ〜なんて。」
言い訳だっ事がすぐに分かった。西城に関係する物でも探してたんだろう。ま、全部捨てたけどな。今では苦い思い出ってことししてる。
「んなもんねぇよ。ほら行くぞ。」
俺は強引に隆史を引っ張って、家からでた。
「お前が車なんて珍しいな。」
「二人でゆっくり話したかったからな。」
そこには黒塗りのベンツが停めてあった。
「乗れよ。行くぞ。」
半ば強引に俺を乗せ、隆史は運転手に合図した。
「思ったより元気そうだな。」
「ガラにもないこと言うなよ。」
「もっと沈んでるかと思ってたんだかな。初めて好きになった相手だったんだろ?」
フ…、何もかもお見通しか。
「……。」
「でもな、俺の恋いも叶いそうにないんだよな。」
「なんで?」
俺は驚いた。初めて弱音を吐いたのだ。
「如月はどうもお前の事が好きみたいでな。俺がどんなに振り返って貰おうとしても、お前しか目にないみたいだからな。」
「そうか…。気付いてたのか。」
「まぁな。」
「……。」
「……。」
「お前…、辛くないのか?」
「そりゃ、辛いよ。どんなに尽くしても絶対振り向いてくれないんだからな。」
「強いな、お前。俺もそんな強さが欲しいよ。」
「俺よりお前の方が強いだろ。俺なんか振られたりしたら生きて行けそうにない。」
「でも、生きてたらいつかチャンスが巡ってくるかもしれないだろ。」
「それもそうだな。」
なんだかんだ言って、隆史の奴は俺のこと心配していてくれたんだな。どうせ、アイツのことだからセッションの誘いだろ。今日は久しぶりに本気で弾いてみるか。