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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

プログラムナイツ~とあるVRMMOのヒロインから求婚されました~

作者: 鬼京雅

「貴方が好きよ! 結婚してキョウヤ!」


 と、ビシッと自慢の白銀のソードを突き出した美少女ゲームキャラクターのアヤセに俺は言われた。

これはVRMMOプログラムナイトの世界の中の話で、俺の名前はゲームの中ではソロプレイヤーのキョウ。

 だから本名を言われるのはあり得ないんだが……。

 と、エクストラダンジョンのボスステージで黒を基調とした背中に〈狂〉と描かれた羽織袴姿で茫然とする。

 目の前の美少女キャラクター・アヤセは白を基調にしたドレスのような衣装。左の肩には十字架が描かれた赤い腕章。首元があいてるから白い豊かな胸の谷間が見え、その下の腰は細くくびれ、お尻は桃のような色香を放っている。足元は白いブーツで左右に肩の十字マークと同じ十字架が描かれ、むっちりした太ももが短いスカートから見えていた。セミロングの茶髪はやわらかく流れ、唇は恐ろしいほどに艶やで、とても清らかな顔が素敵だ。

 ……んな場合じゃなく!


「まずは落ち着け。そして平伏せ」


「平伏したら助けてくれる? 私はこのゲーム世界から現実に出たいんだけど?」


「いや、ボスだから倒さないとならん。これはゲームプログラムだから仕方のない事だ。それに現実には出れないぞ?」


「だからそのプログラムから助けてよ。もうこんな役割りは嫌だし、自我が目覚めた以上この世界にもいたくないわ」


「……?」


こんなセリフ今までにあったっけ? と思っていると……。


「ちょっと待てよ! アヤセ……お前自我があるのか?」


「目覚めたのよ。貴方のせいでね」


 VRMMO・プログラムナイツ。

 完全にシステム構築されたモンスター世界を人間プレイヤーが破壊するという、剣と魔法のファンタジー風VRMMOだ。

 剣技スキル、魔法スキルはあるが根本的には自分の思いに応じてスキル技が発現する。

開発者が自由度が高いゲームにしたいと考えた結果がこうなった。プレイヤーの行動などで新たなダンジョンやフィールドも追加され、その自由度の高さから世界中から人気のあるVRMMOだ。そのVRMMOで、俺はソロプレイヤーとして日々戦い続け、いつの間にか最強プレイヤーの一人に数えられるようになっていた――。

 このシステムによってプログラムされた固定化世界を壊し、何者にも縛られない自由を勝ち取るのがプログラムナイツの目的だ。


 剣士も武士も大まかに言えば戦士に分類され、ウィザードなどの魔法を主体にする者は魔法使いに分類されるが、このゲーム内ではあまり職業的な事は意味を成さない。このゲーム内で何をし続けるかで、スキルの成長や発現が変わるからだ。つまり、自称魔法使いが必死にソードスキルを上げ続ければ一般的な戦士よりも強くなる。だからこのプログラムナイツでは外見的なジョブの判断だけでは相手の長所は見えてこない事もたまにある。

 まぁ、そういうプレイヤーは相手に恨まれるからすぐネットに書かれたりするがな。ちなみに俺は時代遅れの武士のアバターだ。時代遅れで何が悪い! 世界を壊す黒百合の武士をなめるなよ! て、今はそんな事よりも!


(俺が……エクストラダンジョンのボス・アヤセを倒し続けていたらこうなったのか?)


 見つめて来るアヤセの笑顔に俺は戸惑う。

 アヤセはこのVRMMOの中で俺的に一番カワイイボスヒロインだ。

 だからこそ、俺はこの難攻不落のエクストラダンジョンにソロで挑み続け、全プレイヤーの中で一番勝利を得ていた。


「……アヤセ。悪いが話は後だ。無粋な客人に天誅を与えなきゃならんようだ」


 シュパパパパ! とゴブリンを中心とした敵が現れ、俺は腰をやや落とし刀の鯉口を切る為に左の親指を鍔に当てた。しかしアヤセはおかまいなしに話す。


「私がいれば、貴方はソロプレイヤーじゃなくなるわよ。このゲームに詳しい私を仲間にすれば貴方も嬉しいでしょ?」


「俺に仲間はいらん。このゲームはどのエリアでもソロで行けるから自由度が高く、俺に向いてるんだ」


「私をシステムプログラムから脱出させれば、私は貴方のお嫁になるのよ? それって魅力じゃない?」


「……!!!」


 確かに魅力だ!

 と両腕を上げてガッツポーズをする。

 アヤセはプログラムナイツの中でも屈指の人気キャラクター。

 それが現実で嫁になるなら俺は完全なリア充……。


(――!?)


 瞬間、俺は過去にゲーム内でとある女の首を斬った事を思い出す。

 そして、全身の喜びはすぐに絶望へと変わる。


(……一瞬の喜びであの事を忘れるなんてな。俺には仲間は必要ない)


 そう、俺に仲間はいらない。

 戦いに足手まといは必要無い。

 俺はソロで全てを超越する黒百合の武士。

 だから仲間なんて……。

 と、全身を微かに震わせつつ歯を噛み締めながら今の現状をどうにかしようと思い言う。


「とにかく、アヤセをこのシステムプログラムから脱出させればいいんだろ。プレイヤーがプレイし続ければし続けるほど、この世界は広がる……それがいつの間にかシステムが人工知能を持つキッカケになったようだな。俺がお前の相棒として解決してやるよ」


「ありがとう! 愛してるはキョウヤ!」


 ぎゅうぅぅぅ……と豊かな胸を押し当てるようにアヤセは抱きついてきた。

 その瞬間、ドクン……と心臓の鼓動が高鳴る。

 ゲーム内なのに俺の鼻腔にはアヤセの甘い香りが伝わり、不思議な感じがする。

 じっ……と俺を見つめるアヤセは動揺しなくなった俺に気付き、


「あれ? いまいち嬉しそうじゃないわね。私は好きなキャラじゃなかったの?」


「戦闘前にイチャつけるか。敵が来るぞ」


「ほーい」


 ザッ……とゴブリンの群れが俺達の前に来た。


「アヤセ。お前は下がってろ。俺が一気にしとめる」


「何で? 私も戦うよ? 戦うヒロインだし!」


「……ゲームキャラなら感覚でわかれよ。今はスキルゲージは温存しとけ」


「……なーる。そういう事ね。ならヨロシク!」


 目の前のザコ敵の奥の闇の中を見据えたアヤセは白銀のソードを下段に構えたまま俺の背後に回る。

 するとゴブリンの群れの奥にいるエプロン姿のモンスター・チョビゴブリンが話し出す。


「ケケケ! 私達には百を超える増援がいるぜ! 圧倒的な戦力差で駆逐してやるぞ!」


「戦えないくせによく言うなチョビゴブリン」


「戦えないから叫ぶんだ! ケケケ!」


「なら散れ」


 幼女モンスター・チョビゴブリン。

 確かにお前の能力は無限のザコ敵の召喚。

 力の無いチョビゴブリンの唯一の能力で、レベル上げには最適なキャラだ。

 ちなみに幼女系キャラでゴブリンのわりにはかわいい。

 ゴブリンの群れの奥でチョビゴブリンは小さい身体を震わせて騒いでる。


(あの場所だとチョビゴブリンは簡単に倒せないな……魔法ならチョビゴブリンを標的選択で倒せるが、俺は魔法スキルは磨いてはいない……)


 すると変なダンスを踊るチョビゴブリンは、


「ケケケ! 時代遅れの羽織袴姿でどこまで戦えるかな? かな?」


「羽織袴じゃなきゃ俺の誠は貫けねぇ!」


 このプログラムナイツにおいて、羽織袴姿のアバターを選んでるのは俺しかいない。

 アバター羽織袴は甲冑ほどではないが多少のスピードが落ちる。それに防御力も決して高くはないから武士クラスの人間も洋服に刀を持ったスタイルで武士として活動してる。けど、俺はこの羽織袴姿こそがテンションが上がるし自分が自分らしくいられる姿だからこそ、スピードが落ちるリスクを自分の底力を引き出すトリガーとして認識し、さらなるスピードが生まれるように俺は努力してこの世界の十人の強者・プログラムナンバーズの一人にまで登りつめた。

 息苦しくて毎日が嫌な現実世界では努力出来なくても、このプログラムナイツというVRMMOならば自由を感じならが生きる事が出来るんだ。ここだけが、俺の居場所なんだ。


(だからこそ、俺はアヤセに選ばれたのかもな。俺達は互いに自分の居場所を求めてる。それは現実と仮想現実の間逆だが、その求めるエネルギーが運命の赤い糸になって互いを引き合わせたのかもな……)


 何故アヤセが俺に出会い自我に目覚めたのかを感じつつ、俺は愛刀の百花繚乱を正眼に構える――刹那。


『!?』


 シュパア! という光と共に、ゴブリン十体が宙に舞い散った。

 電光石火の乱撃技にゴブリン達は目を丸くして呆然とし、チョビゴブリンなんて小便漏らしてやがる。

 ……そんな設定あったっけか?

 まぁ、いい。

 口元を笑わせるアヤセの整った前髪が揺れ、俺は言う。


「呼吸をするように、貴様等を倒す」


 スゥ……と息を吐き、全身の力を抜いた。


「秘剣・鬼道楽きどうらく


 サアァァ……と小川を流れる水のような捉え所の無い動きからの斬撃で敵の五人を倒す。

 その俺は少し先にいるチョビゴブリンを見据えた。


「ケケケ! 仲間の召還が遅れると、お前はもう死ぬぞチョビゴブリン?」


「ケケケ!? 私の口真似を! は、早く奴を倒せ!」


 必死になるチョビゴブリンの命令がゴブリン達に下されるがもう遅い!

 しかし、迫るゴブリン達よりも素早く駆けようとする俺の足は止まる。

 泣き叫ぶチョビゴブリンを哀れだと思う俺にその美少女は言った。

 チョビゴブリンの背後にはプログラムナイツ・メインヒロインの一人、アヤセがいた。


「チャオ。このチョビゴブリンを倒せばいいだけなら私が倒しちゃうわよ。美味しい所はいただきね」


 何がチャオ……だこの女……。美味しい所だけを持ってくつもりか。

 かわいいからって何をしても許されると思うなよ――!?

 瞬間、全身に走る寒気を感じながらアヤセに向かって全力で叫んだ!


「余計な事をするなアヤセ! 今すぐその場から離れろ!」


「は? 何そんなマジになってんの? チョビゴブリン倒さないとゴブリン達は消えないし、第一そんなに怒らなくても――!?」


「馬鹿野郎!」


 俺はチョビゴブリンの首元にソードを突きつけるアヤセに向かい飛んだ!

 背後から迫る危機を察したアヤセは俺に抱えながら横っ飛びする自分の身体すら忘れるように、破滅の黒い光と共に消え去るチョビゴブリンとゴブリンの群れを見つめていた。

 アヤセの下敷きになり床に転がる俺はすぐに起き上がり、息を呑むアヤセは冷静な声で言う。


「あの黒い破滅の光……とうとうお出ましね。てか、早くない?」


「まぁいいさ。どうせ戦うなら早い方がいい。なぁ、プログラムナイツ皇帝アイザック」


 増えたザコ敵が蹴散らされ、プログラムナイツのラスボス・皇帝アイザックがその圧倒的存在感で俺達を屈服させるが如く現れた。





「我はプログラムナイツ皇帝アイザックである」


 凶悪なガイコツのような顔に黄金の二本のツノ。

 大柄の身体は黄金のマントで全身を包み込み、その内に溢れる膨大な魔力をセーブしている。

 重厚な威厳のある声と存在感は、俺の全身を震え上がらせると共に狂喜させた。


(しかし、おかしいぞ……)


 何で皇帝アイザックがアヤセのエクストラダンジョンに現れるんだ?

 このアヤセが一人の人格を持って現れてから完全にこのプログラムナイツがおかしくなってやがる……。

 システムの故障か? でもアップデートは運営がやらずに俺達プレイヤーの力で勝手に進化する教育型コンピューターだし、運営はただプログラムナイツの利権が欲しいだけの飾りダルマだし……。


「今日は何かおかしいぜ? エイプリルフールのイベントならわかるが、もう六月だ。外は暑くなってきてるし、もうシッカリしないと熱中症になるぞ……」


 って俺は何言ってんだ……。

 俺の方がおかしくなるぜこの現状は。

 今回の皇帝は大柄だが人型サイズだな。

 これならプログラムナイツがリリースされた当時の初期型皇帝だから俺一人でも倒せるかもしれん……。

 けど、アップデート後のように巨人化されたらアウトだがな。

 その皇帝アイザックは言う。


「あまり焦るな小僧。貴様を見染めたアヤセを我は皇帝として現実世界に渡すわけにはいかない。ゲームキャラはゲームキャラとして、永遠にこのシステムに束縛され続けプレイヤーに殺される。それが運命。逃れる事は許されないのだ」


「これはお前だけが知ってる事なのかアイザック? 自我があるゲームキャラはお前とアヤセだけでいいんだな?」


「当然だ。そんなにイレギュラーが起きていてらプログラムナイツの根本的問題に関わるからな。そうならない為にも、我はこのゲームの皇帝としてシステムから逸脱したアヤセを止めなければならん」


 すると、このプログラムナイツのイレギュラーとなる存在のアヤセは白銀のソードを突き出し叫ぶ。


「私は私として自我を持った! だからこそ私はこのプログラムナイツの目的の通り自由を目指して生きるだけよ!」


 アヤセの揺ぎ無い覚悟に、俺は強い女だと尊敬の念を抱く。

 プログラムナイツの開発者は一人の天才青年・明智光秀めいちこうしゅうで、とある事故によりもう死んでいるらしい。

 今は引き継ぎでアイザックブレインというゲーム会社が運営をしている。実際は、開発者の無限に広がるようなシステムを解析するのに精一杯なだけの会社というのが実態のようだ。けど、この人気ゲームの利権を手放したくないから必死に管理運営をしてると誇張してるようだが。


「アイザックブレイン……まさかお前が開発者の天才・明智光秀めいちこうしゅうなのかアイザック?」


「何を勘違いしている? 我も明智光秀めいちこうしゅうのよる一つのプログラムだ」・


 開発者・明智光秀めいちこうしゅうの教育型コンピューターの自己進化システムはこんな形でイレギュラーを生んだが、これは本当にイレギュラーなのか? これも明智光秀めいちこうしゅうの仕組んだシステムの一つではないか? と思った瞬間――アイザックの禍々しい口が動く。


「黒き呪いよ来たれ……破滅の黒」


『――くっ!』


 黒い閃光が放たれ、俺とアヤセは間一髪回避する。

 凄まじい魔力の本流がボスエリアの壁に激突し、アイザックは言う。


「貴様等に未来などは無く、未来を語る資格も無い。我が与える運命にて、永遠の眠りにつくがいい」


『お前がな!』


 俺達は自分の武器をアイザックに突き付け言った。


「フン、愚かなる者共よ。今に絶望し、ひしゃげて平伏せ愚民共!!!」


 ズブアアアアアッ! と皇帝アイザックの魔力が上昇していく。

 逃げ場も無い以上、このまま戦うしかない!


「守りになったら押し負ける! 攻めまくるぞアヤセ!」


「攻撃は最大の防御ってやつだね。それならいっちょやってやるわよ!」


 円を描くようにアイザックの周囲を駆けながら俺達は二人で攻める。

 アイザックは少しづつHPゲージを減らしていき、初めての連携ながら互いの相性の良さを感じながら戦う。


(まさか、ここまで息が合うとはな。いい調子だ。まるでチートになったような爽快感だぜ!)


 ズザッ! と巨大なハンマーを叩きつけるように俺の愛刀・百花繚乱がアイザックの顔面を切り裂いた。

 そんな最高の気分の俺は押し負けているプログラムナイツの皇帝に言う。


「ここまま押し負けて終わるぞアイザック! 破滅の黒はもう売り切れか!?」


「小賢しいわ青二才! ぬうぅぅぅん!」


 皇帝アイザックの周囲に白い粒子が展開した。

 これは永遠の白か。

 永遠の白は回復魔法をダメージとして受け付けてしまう特殊魔法だ。

 アイザックにドス黒い魔力が展開して行く。


「アヤセ、来るぞ」


「わかってるわよ」


 永遠の白を回避すれば、次はアレが来るはず。

 俺達の狙いは黒い破滅の光の後の硬直狙い。

 そしてアイザックは魔法を放つ。


「白き死よ来たれ……永遠の白」


 白い蝶の群れが空間に展開し、俺達はその全てを斬撃で落としつくす。

 そして、瞬時に放たれた破滅の黒をかすりながらも回避しつつ俺とアヤセは必殺の同時攻撃に出る――。


「ここだーーー!」


 ザシュ……と俺の一撃が浅く決まる。

 そう、俺が攻撃に戸惑ったのは相棒との同時攻撃のはずが相棒の動きが止まっていたからだ。


「アヤセ!? 動けないのか!?」


「ぐっ……束縛魔法のようね。けど……」


 単純な束縛魔法じゃないようだな……。

 これは、もしや――。

 瞬間、プログラムナイツ皇帝アイザックの野太い声が響く。


「ククク……これはプログラムから抜け出す者への制裁技だ」


 行動不能になるアヤセに動揺する俺に、老獪なアイザックは嗤う。


「油断大敵だ青二才」


「チッ!」


 いつのまにか白い蝶に俺は包まれていて、回復魔法やアイテムを受け付けなくなる永遠の白をくらっちまった……。

 これでもうこの戦闘中に回復魔法は受け付けない。

 そして、アヤセの拘束を解くにはアイザックに勝つしかない。

 俺はアイザックと一騎討ちをする事になった。

 現在のイベントでは百人以上のプレーヤーと巨人化したアイザックと戦うんだが、今回は一人……巨人化してないだけマシだ。

 やるしかない!

 背中に〈狂〉の文字が描かれたボロボロの羽織を脱ぎ捨て、覚悟を決めて百花繚乱を構える。


「一騎討ち上等。お前に一人で勝てば俺は伝説になる」


「吠えたな青二才。では決着の時といこうか! と、その前にいい事を教えてやる」


「何だ?」


「左胸に手を当ててみろ」


「……? ――! これは!?」


 心臓が動いてやがる!

 こんな設定プログラムナイツにはねーぞ!?

 どうなってやがる!?

 ハハハハッ! と俺達を嘲笑うアイザックは言う。


「察しの通りだ。ここで死ねば貴様は死ぬぞ。それがそのアヤセと関わる者の呪いの死の定めだ。フハハハハハッ! どうだ? 怖かろう?」


 ガイコツ顔のクセにアイザックはニタァァ……と笑ってやがる。

 アヤセは身動きも取れず、俺をじっ……と見つめてやがる。

 へっ、言ってなかった事がバレてどうなるか心配かアヤセ?

 決まってんだろ……俺の答えは一つ!


「……そうか。逆にテンション上がるぜ。何せ俺の背中にゃ狂一文字があるんでな!」


 丁度いいぜ……。

 それぐらいのリスクがる方が丁度いい。

 何せ俺は黒百合の武士だからな。

 ゲーム世界とはいえ人を殺めた俺は、これぐらいの呪いが丁度いい!

 束縛魔法で動けないアヤセが俺を信じて見つめている。

 互いの最大の一撃が繰り出される前の静寂。

 そして空間の温度が心拍数が上がると共に上昇し、地面が微かに揺れる。

 俺は必殺の片手閃光突き故に、左手を突き出し刀を持つ右手は弓を放つ前の矢のように引いた構え。

 対するアイザックは黄金のマントから両腕を出し、自身の有り余る魔力を凝縮した魔法剣による大地を割る斬撃。

 黒い武士と黄金の皇帝は、自分の全身全霊を賭けて動いた――。


「秘剣・紅雀べにすずめ!!!」


「究極魔法剣・メギドセイバー!!!」


 パッ! と黒と黄金の光が散る。

 何と! 俺の閃光の片手突きが外れた!

 この一撃を回避する事だけ考えていたアイザックの罠にはまった!


(この巨体でこの身のこなし……やはりプログラムナイツ自体に何かの変化があるな――)


 そんな思考をしている俺に、アイザックの破滅の黒を纏う死の剣が迫っていた。

 黄金のガイコツは、無言のまま俺を殺そうと迫る。


 死ぬ――。


 俺は、頭が真っ白になった。


(ここで終わるのか? せっかく好きなゲームキャラに出会えたのに、俺はこんなあっさりと死ぬ? いや、まさかな……俺はこんなもんじゃない。こんなもんじゃない! 俺は仲間さえ殺める呪われた黒百合の武士! 俺に敗北は無い!)


 カッ! と両目を見開き生気を取り戻す俺は、真っ黒な瞳でアイザックを殺そうと右手の刀を動かす――。

 瞬間、白い閃光が走った。

 それは、仲間殺しの罪でソロプレイヤーにこだわっていた俺の、出会ったばかりの相棒だった!

 アイザックの一撃は、アヤセの一撃によって防がれ、アイザックはバンザイのような格好でのけぞっていた。

 美しい茶髪をなびかせる美少女は、俺のハートを突き刺すような笑顔で言う。


「油断大敵よキョウヤ! 憎しみでこのアイザックには勝てないわ!」


「まさか特殊な束縛魔法から自力で脱出するなんてな……」


「愛の力だよ」


「言ってろ……最高のヒロイン!」


 狂気の闇に染まる寸前の俺の瞳の黒は消え、激怒するアイザックは叫ぶ。


「イチャイチャとふざけるなぁ! この皇帝アイザックの覇業! 邪魔する者は破滅しろーーー!」


「嫉妬すんなよガイコツじじい! つえあっっっ!」


 再度繰り出されたアイザックの一撃を半身になり回避し、スキルゲージ全てを使った全身全霊の一撃をアイザックの背中に叩き込んだ!

 体力が尽きよろめき倒れるアヤセを支えると、皇帝アイザックは無言のまま倒れた。

 これで戦いは終わった。

 そして、倒れたままのアイザックは言う。


「……理想は追い求めれば、追い求めるほど心が疲弊し、その人間は人間でなくなる」


「何の話だ? 俺は一つの理想をかなえた。ゲームを愛する人間の理想系だぞアヤセの今の状態は」


「ゲームとはプログラム。故に好きになるとそのキャラの悪い点などは見えずに恋は盲目状態で人間は堕落する。自我を持つ人形を愛せるゲームファンなどは存在しない。あくまで攻略方があるからこそ、そのキャラは愛される。そして、攻略法があるからこそ貴様等は安全圏でノウノウと堕落するのだ。広い世界へ羽ばたく自我に、貴様等は耐え切れんだろう」


「言いたい放題言いやがって。負け惜しみはもう十分か? 俺はこれからこのシステムプログラムからアヤセを解放させる。そして俺はアヤセと……」


 言葉に詰まるアヤセは俺を見つめる。

 その後の言葉が出ない。

 そう、俺にはそんな資格も無い。

 仲間殺しの罪が、俺の心を蝕んでいるからだ。

 かつての仲間の女の顔がアヤセとダブリ動揺し、皇帝アイザックは言った。


「狭い世界で盛り上がるのが好きな貴様等には、無理だ」


 ズウゥゥゥ……とアイザックは起き上がり、その姿は粒子となり消えて行く。

 そしてアイザックは驚愕の事実を言う。


「ちなみに今のは我の思念体だ。このプログラムナイツに流れる全てのエネルギーを集めているから我も自由ではない。審判の時が来れば会おうぞ。そして、その女は永久にこのプログラムナイツに閉じ込めさせてもらう……」


『……』


「楽しかったぞ光の……聖騎士よ」


「俺は、黒百合の武士だ」


 そして粒子と共にアイザックは姿を消した。

 不快な思いを抱きながらも俺達はそのエリアから出て、草原のフィールドに出た。

 爽やかな風が流れ、太陽の光を浴びると生き返ったような気分になるな……。

 アヤセは肩にかかる髪を背中に流し、


「あの悪魔はいずれプログラムを書き換えてこのゲームをログアウト不可のデスゲームに変えるわよ。早く倒すしかないわ。手伝ってくれるわねキョウヤ?」


「あぁ。当然だ」


「そして、私は私のプログラムから脱出してプログラムナイツとして自由を勝ち取る」


「あぁ。それでいい」


 ただ真っ青な天を見つめるアヤセはの手を取った。

 ギュ……と握り返してくるアヤセは切なげな声で呟いた。


「触れ合えるのに、触れ合えないよね」


「そう……だな」


 ここはVRMMOの仮想現実の中だが、人間とコンピューターの根本的な差というものを感じざるを得なかった。

 温かい風が二人の思いを撫でるように流れる。


(……かける言葉が見つからん。けど……)


 後ろを向いてるアヤセにどう声をかけていいか戸惑う俺は、気休め程度にしかならない言葉をやっとこさ吐いた。


「……けどまたすぐ来る。明日はとにかくダンジョン巡りか冒険するぞ。ちゃんと待ってろよ。待ち合わせ場所はエイプリルシティーの宿屋だ」


「うん! よろしく頼むよキョウヤ! 愛してる! 結婚ヨロシク!」


「おう、またな……!」


 両手でバイバイされ、そのまま抱きつかれキスをされた!

 ……唇の柔らかい感触が、全身を刺激しやがるな。

 俺も抱きしめ返したが、そのままログアウトさせられた。

 全く、困った女だ。

 かくして、プログラムされた自分とシステムの戦い。

 システムから抜け出し、ログアウトするのが目的のデスゲームが開始された。

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