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「可憐さ……。そう、志津、今のあなたに欠けているのは可憐さよ」
と、藤野七香様は見つけた答えに一人で納得した様子でそう言った。
先週のことだ。
突然お茶会に招待され、お茶会の作法をまるで知らないことに気づいた志津は、あわてて七香様に稽古をつけてもらっていた。
七香様は、志津のお茶の師匠であり、志津も所属している五葉会でお茶掛長を務めている。
「可憐さ、ですか?」
「そう。初めてお茶会に招待された一年生が酸いも甘いも知り尽くした貴婦人のように堂々と振舞っていたら、興ざめだと思わない?」
一週間とちょっとで、お茶会の作法を一通り覚えなければならない。
最初の稽古は歩き方だった。
先ず姿勢を正すこと。これは比較的簡単だった。
わかり易い。
少しの練習で、七香様に志津はのみこみが早いと褒めてもらえた。
辞書を頭に載せたままで障害走だってできそうだ。
というのは思っても口にするべきではなかった。七香様が笑い止まなくて稽古が一時中断してしまった。
それはともかく、正しい姿勢で歩けるようになったところで終わりというわけにはいかなかった。
もっと優雅に、との指示が出た。
優雅にというのは、なんとなくだがわからないでもない。
何度か練習して優雅に歩けるようになっただろうかと思えてきた頃に出てきたのが「可憐さ」だった。
いったい可憐に歩くにはどうすれば良いのだろうか?
それでも七香様が見せてくれたお手本は、なるほど確かに優雅で可憐な歩き方に感じられたので、文句は言えない。
見よう見まねで歩き続けてへとへとに疲れた頃に、今のは良かったと褒めてもらえるまでになった。
「今の感覚を忘れないようにね。まだ完璧ではないけれど、一旦ここまでにしましょう」
そう言って七香様は椅子に腰掛けた。
「次は座り方よ」
先はまだまだ長いようだ。