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窓に掛かるレースのカーテンを通して、午後の傾きかけた日差しがやわらかく差し込んでいる。
部屋の中央やや窓よりに小さな丸いテーブルと、並べて置かれた二つの椅子。その横にサイドテーブル。
部屋の隅にはゆったりとした弦楽曲を奏でる蓄音機が一台。
壁には、色とりどりの花が咲く丘とその上に建つ城館が描かれた絵が一枚だけ。
居心地の良さそうな部屋だな、と柏崎志津は感じた。ただし、これが気楽な席ならば、だ。
鴻嘉女学院高等科には、茶寮と呼ばれるお茶会専用の建物が三つある。
その中の一つ、西茶寮と呼ばれる建物の二階の一番奥の部屋。
ここで催されるお茶会に、この学院の生徒なら、誰もが一度は招待されてみたいと願っている。
だが、実際に招待状を受け取ってみれば、多くの生徒は戸惑うことになるだろう。
ちょうど今の志津のように。
だいたいお茶会なんて、気心の知れた同士で集まって、お茶を飲んで、お菓子を食べて、おしゃべりして。そういうものではないのだろうか――
「どうしたの? そんなところに立っていないで、早くお入りになって」
声をかけられて、志津は我に返る。
「このお部屋があまりに素敵だったので見とれてしまいました」
少し声が震えてしまったことを気づかれただろうか?
覚悟を決めて、志津は何度も練習した正しい歩き方を思い出しながら、部屋の中央に向かって歩を進めた。