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君のこと、好きになっちゃった……

……ドロシー。

ドロシー、ドロシー、ドロシー。

ドロシー!


何故、立ち上がらない! どうして!? マンチキンとトトに、寄ってたかって、あれだけこてんぱんに熨されても、めげなかった君が! 何故、あの脳無しにたった一度、たった一度だけ! けちょんけちょんにやられただけで、再起不能になってしまう!?


 なんだと? 『私がどんなに酷い目にあったか知らない癖に』? 知っているさ! 私は神の視点から、この世界で起こる全ての事象を監視している! 君の頭が開かれて、ほかほかと湯気をたてる脳みそが摘出されるさまを、しかとこの目で見ていた! 吐きそうになりながらな! 


あの程度のことが、どうした!? 生きながらマンチキンやトトに食われることに慣れた君が、何故これしきのことで怖気づく!?


は? なんだと? それよりも、恐ろしいことが起こった? 


途中でトトが乱入してきた? なんだい、それ? 聞いていないぞ? トトが君の下半身を掘り出して? マウント……え、え、え? なんだい、それ? マジで? ……なにやってんだ、あの犬っころは!?


……どうしようか……かける言葉も見つからない……なぜ、トトはそんな破廉恥な真似をしたんだ? この遊戯は恐怖遊戯。お色気要素は、恐怖遊戯には欠かせないスパイスということで、取り入れてはいるものの……ドロシーの衣装と、時々のパンチラ、その程度だった筈。それがなぜ……?


…………


おかしなことになっている。確かに君のことは気に入っていたが……だからって……そんなバカな……。


あー、あー……ドロシー、ドロシー。不愉快な思いをさせてしまい、申し訳ない。だが、あまり気にすることはないと思うよ。ほら、やられたのは、ドロシーの体だ。それも、切り離された下半身。君自身が汚されたわけじゃない。そうとも、そうだとも!


そんな欲求があったなんて、思わなかった。私も驚いているんだ。今度からは、気をつける。二度と、こんなことにはならない。約束するよ。


……そうだ! お詫びとして、一肌脱ごう! なぁに、気にするな。今回のことは、この遊戯を取り仕切る私に落ち度がある。落とし前をつけるよ。


……いやいや、脱ぐっていうのは、そういう意味じゃなくてだね……君はあれなの? バカなの? ああっ、違うんだ! 反省しているよ、本当だ! バカになんて、しないないさ! 私がいつ、君をバカにした?

……いっつも、バカにしていたね。はははっ、こりゃ失敬!




待たせたな、ドロシー。少々、手間取ってしまってね。なにせ、このような便利機能は本来、この遊戯には存在しなかった。急ごしらえだが、出来栄えには自信があるぜ。


私の謝意と誠意を君に捧げよう。受け取ってくれ。じゃーん、マップだ! それも、マッピングするマップじゃない。最初から完成されているマップだぞ! 案山子の迷宮攻略の虎の巻さ! こいつを頭に叩き込めば、案山子の庭園の攻略なんてもう、欠伸が出るくらい簡単だぞ!


ありゃ……ドロシー……これでもまだ、ダメなのかい? 機嫌を直してくれないのかい? 立ち上がっては、くれない?


終わり? 終わりが見えない? この難関を突破したところで、次の難関にブチ当たるだけ? また怖い思いを、痛い思いをするだけ? それが耐えられない?


…………君も、終わりが欲しいのか?


これまでのドロシーたちもそうだった。いつになったら終わるんだ? どうしたら終わるんだ? 終わってくれ、はやく終わってくれ。終わらないなら、もう、諦めることで終わりにしてしまおう。そんなことばかり、繰り返していた。


君なら、この遊戯を楽しんでくれるのではないかと、期待していたんだ……また、期待外れか。


いいよ。期待を裏切られることには慣れている。君がダメでも、次がある。そのうち、きっと巡り合えるさ。私の遊戯を楽しんでくれるドロシーが。マンチキンを、トトを、カカシと、ライオンを、ブリキの樵を退けて……最後に私の許へ辿り着くドロシーが、いつか、きっと……。


あれ? ドロシー、どうした!? 何故、いきなり走りだす? おおい、待ってくれ! 私を置いて行かないで!


……わお、凄まじい靴捌き! 可哀そうなマンチキンたち、まったく歯が立たない! もう、エントランスを切り抜けただと? うおっ、ドロシーの一連の動きがあまりに早過ぎて、トトが困惑しているぞ! おっとぉ、ドロシーがトトの股間を蹴りあげた! この色ボケ犬がと罵って蹴りあげた! なんて、冷たい目をするんだ……! 素敵だ……。

  

何が彼女のやる気に火をつけた? わからないが……嬉しい。嬉しいよ!




驚異的な記録が出てしまった……。マップを与えたとは言っても……はやすぎる。あまりにあっさり突破されたものだから、カカシは最初から、何事もなかったかのように振る舞っているぞ。それでいいのか、カカシ……君の自慢の庭園は、ドロシーという竜巻に蹂躙されて、もう、滅茶苦茶だぜ……?


まぁ、ドロシーがすごく楽しそうだから、私はそれで構わないよ!


さぁ、ドロシー! お次は謁見の間だ。はりきって行こう! 

ひゅー! 豪快だねぇ、ドロシー! 扉を蹴破って謁見の間に入るなんてさ! 本来ならば不敬罪にあたるが、私は許そう! いいんだ。君は特別なドロシーだから!


……ん、どうかしたのかい? 視線を感じる? ほー……既に気が付いたか。流石は君だ!


お察しの通り。ここでは玉座を離れた王が君を待ちかまえているのさ。


怖がりのライオンだ。とってもとっても怖がりでね。いつも影に隠れてドロシーの様子をうかがっているんだ。怖がりだから、隠れるのが上手なんだよ。それに、逃げ足がとっても早い。ドロシーが思いもよらないタイミングで、まさかと思うようなところから飛び出して、首を引っこ抜いて、身体をばらばらにするのが、彼の狩りのスタイルだ。臆病なうえに心配性だから、ドロシーがぐちゃぐちゃの挽肉になるまで、安心出来ないらしい。


……その筈なんだが、あらら? どうしたことだ、一向に襲いかかってこないな?


はっ!? ……ドロシー、君のせいだ!


何もしていないって? そんなに殺気を放っておいて、何もしていないって言い分は通用しないぞ! 凄まじい殺気だ。純度が高く、結晶化している。肌を突き刺す無数の針のようだ。ドロシー、君はいったい何者なの……?


ああ、ドロシーが今、謁見の間を素通りします……弱虫のライオンは……ああ、いたいた。天井の片隅にはりついて震えてやがる。役立たずの屑奴が。少しはこのドロシーを見習ったらどうだ?


ドロシー、鳴り物入りで登場する筈のライオンが、あんなザマで……拍子抜けしたんじゃないかい? すまないね、こんな筈ではなかったんだ。あの弱虫、本当はとても手強い難敵だよ。これまでに、たったひとりだけ、謁見の間に辿りついたドロシーがいたんだが……ライオンには歯が立たずに、心をくじかれた。


……すまない。何を言っても言い訳だ。申し開きの余地がない。


だが、安心して欲しい。あんな奴だが、あれでも一応、エメラルド城の仲間だ。臆病な暗殺者。奴はきっと、また現われる。君が忘れたころにさ。その時こそ、ライオンの真価が発揮される……筈だ。それを願うばかりだよ。


さて。気を取り直して、次に行こう。次に向かうのは地下だ。そこで待ち構えるのは、無感動なエンターテイナー。これまでの連中とは、一味違うぜ。ふふふ、楽しみだろう?

……えっ、いやらしい笑い方なんかしていないよ。下心がありそう? よせよ。君なんて、ごめんだよ。


おいおい、自分から仕掛けておいて、むくれるのかい? 君ってヤツは……ははっ、本当におかしな奴だな。




ずりずり、ずりずり。ずるずる、ずるずる。

おっとっと、カリカリするなよ。君の集中を邪魔しようとしている訳ではない。この暗がりで、君が唯一、頼りになるだろう聴力を研ぎ澄ませているのは、わかっているからな。

ただ、その頼みの綱が、あまりにもポンコツだから……おせっかいを承知の上で、口出しさせて貰っているのさ。

……もう、遅かったみたいだ。




おっ、気が付いたね、ドロシー。良かった、良かった。ブリキの樵がおっぱじめる前に目を醒ましてくれて。彼の紹介がまだだったからね。素状の知れない奴の良いようにされるのは、君も嫌だろうと思ってさ。


暗くて、わかりにくいだろうがね。今、君の右斜め前方で、錐のようなものを研いでいるのが、ブリキの樵だ。迂闊な君を背後から襲い昏倒させ、このヒミツの部屋へ連れ込み、手足の自由を奪った張本人さ。


ああ、気が付いた? そうなんだ。君は殆ど無傷だよ。がつんとやられた後頭部が痛むだろうが、その他は傷ひとつない。不思議に思うかい? エメラルド城の連中ときたら、ドロシーを一目見るなり、待てが出来ない駄犬みたいに飛びかかってくるからな。でも、彼は違う。


心のないブリキの樵。心がないから、恐れも痛みない。手に入らないものほど、欲しくなる気持ちは、私にはよくわかるんだ。君はどうだい?


ブリキの樵はドロシー、君を通して、恐怖と苦痛を感じたいんだ。斧はあまり使わない。だって、斧を使ったら、一瞬で終わってしまうじゃないか。爪先から削るみたいに、徐々に徐々に、ドロシーを追い詰めなきゃ、意味がないらしいんだ。


色々、試したくてウズウズしている。エメラルド城がリニューアルして以来、君が最初の犠牲者……もとい、お客様だ。さてはて、どうなることやら……。


おっ、噂をすれば影。準備が整ったようだ。奴が来るぞ。始めるつもりだ。


まずは健を切るんだってさ。それくらい、意識がないうちにやってしまえばいいのに……可哀そうなドロシー。苦痛のフルコースをアペリティフからデザートまで、強制的に付き合わされる。


ああ……悲痛な悲鳴だ。心が痛いよ。ブリキの樵が痛む心を持ち合わせていれば、良かったのに。

さて、下準備は出来たようだ。さてさて、ブリキの樵は、君をいったいどのように料理するつもりかな?


うわぁ……これはこれは……ああ、ああ、ドロシー。君が鳥目だってことを、神さまに感謝した方が良い。こんなものを見せられたら、やられる前に、もう……。


あああ、あああ、あああ! うげぇ……なんてことだ……酷い……。


おいおい、ブリキの樵よ。せっかく可愛らしくモデリングされたドロシーに、なんてことをするんだ。いや、お前の好きにするが良いさ。だが、いきなり顔の皮を剥ぐって、お前……。ああ、可哀そうなドロシー。そんな無残な姿になって……もう、君がなんて言っているのかよくわからな……うん?


……はははっ! おいおい、聞いたか? 聞き逃した? だからお前はダメなんだ!

彼女は今、こう言ったのさ。『放せ。痛みを知りたいなら教えてやる』ってな!


この状況で憎まれ口を叩くんだから、素晴らしい。実にすばらしい。やっぱりこのドロシーは良いぞ。最高だ!


……おいおい、今、彼女の滑らかな舌を褒めていたところだろうが。なのになぜ、舌をちょんぎった? ああ? 料理して食わせる? そう言えば、腹も開いているな……。ああ、舌も内臓か。料理して、盛り付ける……ああ、いいよ、詳しいことは説明しなくても。気分が悪くなる。

だから、良いって言うのに……よせ、やめろ……。


おえっ!




お疲れ様、ドロシー。……今度のは……うん。かなり、大変だったよな。大丈夫、ドロシー? 強い心は健在?


挫けそうになることもあるだろう。あんな目にあえばね。

そう言う時は、気分転換をするのもいいだろう。今となっては、マンチキンたちは君のオモチャみたいなものだ。奴らを弄んで楽しんだらどう? ああそうだ。謁見の間をしつこく探しまわって、ライオンを引っ張り出してやろうぜ! そうだ、そうしよう!


……頑張るの? そんな、真っ青な顔をして……大丈夫かい? 無理をすることはない。もう少し経験を積んでから、出直すというのもひとつの手だ。せいては事をしそんじると、昔のひとは言ったものだよ。


え? 完全攻略? クリアすれば、解放されるだろう、だって?


……ああ、そうか。そういうことね……。













   



もちろんだよ、ドロシー! エメラルド城を完全攻略した暁には、君は晴れて自由の身だ! どこへでも行ける。君が望むなら、君の日常に帰還することも出来るんだ!


おおう、そうと聞いたら、俄然やる気が出てきたみたいだね! そうだ、その意気だ! 奮い立て、立ち向かえ! 私は君を応援するよ! 君がエメラルド城を攻略するその瞬間まで、私たちはずっと一緒だ!


よし、そうと決まれば……やはり、回り道をするべきだろうな。今のままリベンジマッチを申し込んでも、同じ轍を踏むだけってことが、目に見えている。君はそれでも良いかもしれないが、私は嫌だな。あれをまた見せつけられるのは……。


まずは、暗闇に慣れることだと思うんだ。その為の訓練をしよう。良い場所があるんだ。案内するよ。順路からは逸れるんだが、そこもなかなか興味深い場所でね……というのも……




…………




ああ、楽しいな、ドロシー。本当に楽しい。君といると、ちっとも退屈しない。ずっと、こうしていたいくらいだ。


だが、君はそれを望まないのだろう。一刻も早く、私に引導を渡してしまいたい。そうだろう? 私の想いは一方通行で、それが少し……辛いような気がする。




『あなたのこと、嫌いじゃないよ? 確かに、イライラさせられることが多いけど……話し相手はあなたしかいないし……それになんだかんだ言っても、あなたはわたしの味方、してくれるでしょ。あなたがいなかったら、私、どうにかなっていたと思う。ずっと、ここにいるのは嫌だけど……あなたと一緒にいるのは、嫌じゃない。攻略するまで、そんなに長居したくないけど、それまでよろしくね』




またまた、そんなこと言っちゃって……君はやっぱり、ちょっぴりおバカさんだね。


俺の勝手な意見だけど……君はちょっと、優しすぎるぜ。


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