攻略だ、攻略! 一緒にがんばろう!
エントランス攻略、おめでとう! いいぞ、ドロシー。いい調子だ! 魔法の使い方が様になってきたじゃないか。
まずは転移のプライマリでポイントを設置。それからダッシュで、ポイントから遠ざかる。ぎりぎりまで引きつけたところで、竜巻を発動。出来るだけ大勢のマンチキンを、可能な限りポイントから引き離す。
これが最も基本的かつ、重要な行動だ。これさえ身につければ、マンチキンたちなんか怖くなーい! ね?
うんうん、上手だ。上手。落ちついてやれば、出来るじゃないか。
エントランス攻略を祝して、私からひとつ、プレゼントだ。素晴らしい情報だよ。君の冒険に役立つ。
君は転移のプライマリを使いこなしている。だがこの先、それだけでは心もとない。どうしようもなく追い詰められてしまうこともあるだろう。
そんな、困った時にはセカンダリ! これを発動させる君はまさに台風の目だ。使い方は、これまた極めて簡単。踵のかわりに爪先でとんとんするだけ。そうしたら、君を包囲した連中は、家をも吹き飛ばす大いなる力によって、木端微塵だ! セカンダリでやられたマンチキンは肉片になって行動不能になるが、君はダウンをとられない。すぐに次の行動にうつることが出来る。
便利だろう? 最高だろう? 消費魔力はプライマリの3倍と、燃費は最悪だから「最後の切札」として、とっておいた方が無難だがね。
なぁ、ドロシー。私は少し君を過小評価していたようだ。君は少しばかり飲み込みが遅いかもしれないが、私の教えを自分のものにして応用することが、ちゃんと出来る。いいぞ、ドロシー。腕を上げたら、この遊戯がだんだんと、楽しくなってきたんじゃないか? そんなことはない? ははっ、またまた、ご謙遜を! おっと、そこそこ、魔力の泉があるぞ。魔力の補給を忘れないで。それが君の為だ。
君はめきめき上達しているよ。そろそろ、マンチキンどもじゃあ、物足りなくなってきたんじゃない?
そら、お誂え向きの奴が現われたぞ! 猛然なる追跡者、トトの登場だ!
食いしん坊の仔犬のトト。ご存じ、ドロシーの可愛い仔犬さ。追いかけっこが大好きだ。一番好きなのは、ドロシーを切り裂いて、お尻から食べることだよ。食べちゃいたいくらい、君のことが好きってことだね。
なんだって? こんな腐れ爛れた可愛げのないデカブツに好かれても、嬉しくないって? ははっ、ばりばりむしゃむしゃ食われていながら、そんな悪態をつけるなんて、成長したな、ドロシー!
なになに、奇襲は卑怯? あのねぇ、君。魔力の泉があっただろう? 私は親切にも、その重要性を前もって教えてあげたぞ。
補給物資があるってことは、何かしらの危機が近いうちに起こるってことだ。君はこの、ありきたりなセオリーを肝に銘じておくべきだぜ。
さて、城門に戻ってきたわけだが……うん、皆まで言うな。君の言いたいことはわかっている。なぜ、また最初からなんだ? エントランスを抜けたんだから、その続きから始めればいいんじゃないか? 君はそう言いたいんだ。図星だろう?
いいかね、ドロシー。君の言い分は、ちょっと虫がよすぎると思うよ。考えてもご覧。君は、さっき死んだんだ。トトにたっぷり味わわれてさ。それでも、こうして生き返った。生まれ変わったと言い換えることが出来る。だからほら、消費した魔力も元通りだ。
ドロシー、よくお聞き。さっきまでの君は死んだんだ。それなのに、どうして途中から再開出来るだろう? 生まれ変わったらまたはじめから。至極真っ当な理屈だと思うがね。
ほらほら、しょげていないで、次、行ってみよう! 大丈夫さ、君ならば、エントランスを鼻歌交じりで攻略可能だ。さくさく進んで、トトの攻略法を模索しようじゃないか!
トトのあの、直視に堪えない不細工な面も見慣れると、ちょっと可愛く思えてこないか? そんなことはない? 君はまだあいつの顔を見足りないんだよ。え? もう十分すぎるほど見ている? 何を仰るウサギさん。トトが君にお目にかかったのは、まだ、たったの二十回だよ。その三倍見れば、奴のグロテスクな愛くるしさが、君にもきっとわかるさ。きっとね。
……なにか言いたそうだ。しかも、不満の類だろう。いいとも、聞いてあげるよ。ちょっと待って、いざと言うときの為に、耳を塞ぐ準備をしなきゃいけないから。
うん、うん……そうだね。あの狭い廊下のど真ん中で襲われるのは、君にとっては不利だ。あの状況でどうしろって言うんだ、と憤る気持ちは分かるよ。プライマリのポイントが設置出来るのは、同一マップ中のみ。エントランスに転移することは出来ない。廊下に入ってすぐのところにポイントを設置しても、君が転移後のダウンから立ち直るより、トトが追いつく方がはやい。八方塞だと、君は頭を抱えている。
だが、そこで諦めてしまう君じゃないだろう? どれ程困難な状況にも、必ず突破口はあるものさ。エメラルド城は乗り越えられない試練を与えはしない。頼むよ、私は君の可能性を信じているんだ。
よく考えて見よう、ドロシー。私が君の思考の手助けをする。まずは、状況を整理してみようじゃないか。
あの狭路では、トトの猛烈な突進を交わすことが出来ない。トトの巨体がみっしりと、進路を塞いでいるからな。それで、君はどのように対処しようとした? うん、来た道を引き返そうとしたね。なぜそうしたんだい? エントランスまで引き返そうとしたのか。何のために?
広い空間であれば、トトの突進をかわすことが出来ると、君は踏んだんだね。トトは物凄いスピードで突こんでくる。ぎりぎりまで引きつけて、ひらりと華麗に交わせば、奴は壁に突っ込んで自滅するだろうと、君は考えたのか。
なるほどなるほど。うん、素晴らしい発想だ。それしきのことで、あのデカブツが参るかどうかは疑問だが、必ず隙は生じる。
だが、エントランスまで生きて戻ることが不可能だと、君は思うんだろう。
ドロシー。君は間違っていない。トトを撃退するには、エントランスまで戻る必要がある。その考えに、私は同意するよ。要は、どうやってエントランスに戻る時間を稼げばいいのか。トトに遭遇した、廊下の真ん中から、エントランスへ続く扉へ向かって走る。扉を開く。その間をどうやってもたせるか。不可能を可能にするには、どうしたらいいのか?
そう、魔法だ! 不可能を可能にする不思議な力。魔法がすべての問題を解決する!
魔法は既に試した。しかし、うまくいかなかった。果たして、そうだろうか? 君は魔法の可能性を全て試みたのだろうか?
廊下を突っ走るのと、転移のプライマリを使うのは、どちらが早いかな? ……ダウンのタイムラグを差し引いても、プライマリを使う方が、少し早い。しかし、得られた少しの時間は、扉を開けるには不足している。もうひと工夫必要だね。
……なにを待っているのかな、ドロシー。まるで雛鳥みたいに、可愛い顔をして。答えは与えられるものではなくて、見つけ出すものだよ。
私は君のサポーターだ。君の痛快な冒険の手助けをする。私は道しるべだ。まるで黄色いレンガの道のように。彼らのように気まぐれではない、頼りがいのある相棒さ。
だが、出過ぎた真似はしない。これは君の冒険だ。突き放しているわけじゃないんだよ。最初から、私は適切な距離を間違えるつもりはないんだ。
さぁ、考えようドロシー。思考錯誤をしよう。何度も試して、何度も間違えて、何度も死んで、そして学ぼう。何度でも繰り返せる。それが君の最大の強みなのだから。
疑問に思うんだが、トトは目が見えているのかな? ほら、瞼が肉の房みたいに垂れ下がっているじゃないか。目玉は眼窩から零れ落ちそうだし……あれでちゃんと、見えているのかな? それにトトは、君のことを可愛い、可愛いって言っていたんだ。ドロシーのことじゃなくて、君の、前の体のことだよ。ほら、目が見えているのかどうか、疑わしいだろう?
おーい、ドロシー? どうしたんだい、むっすり黙り込んで。怒ったのかい? ごめん、ごめん。あんなバラバラの生ごみになった体のことなんか、もうどうでも良いかと思ったんだ。今の君の体。ドロシーの体はとても可愛らしいよ。君の二番目の体。一番目ではなくて、二番目だよ。あっ、二番目以降か。
おーい、おいおい、おーい、ドロシー? 無視しないでくれよ。いや、無視をしてもいいが、私の話はちゃんと聞いてくれ。君がトトに126体目のドロシーを捧げる羽目になっているのは、一重に、私の話をちゃんと聞かないからなんだぞ。
地団駄を踏んだって、どうしようもない。魔法を無駄使いして、まったくもう……。
なぁ、ドロシー。だいぶ煮詰まっているようだから、少し、気晴らしをしては如何かな? マンチキンどもに当たり散らして、すかっとするのはどうだろう?
ほらほら、転移の魔法のセカンダリだよ。教えてあげただろう? 踵でとんとんすると、発動する竜巻の攻撃魔法さ。マンチキンどもを木端微塵にしたら、すっとするんじゃないかな。
……なんだって? 私を木端微塵にしてやりたいって? なぜ、そんなことを言うんだ!? 本当はうんざりしているのに、それをおくびにも出さず、上機嫌を装って君を気遣いつつ、さり気なくヒントまで出してやっている、そんな私に殺意をもつなんて! ……君は、君ってヤツは……本当は……素晴らしい素質の持ち主かもしれないな。
実現不可能な願望はぽいっと捨ててさ。せっかくだから、試してご覧。転移のセカンダリは、まだ使ったことがなかっただろう?
おおっ。お見事さま。たくさんのマンチキンをバラバラに出来たね。上出来だよ。
……そうだな。トトの奴もこうやってバラバラにしてやれたら、楽だよな。でも、そんな簡単に猛然なる追跡者をやっつけてしまえたら、面白くないぞ。
……ああ、そうだね。君はもう、うんざりするくらいトトにやられたからね。そろそろ、ご退場願いたいと。そうだろうね。
トトをバラバラにするのは難しいだろうが、転移のセカンダリを食らったら、流石のトトでも、目を回すだろう。
そう! そうだよ、ドロシー! セカンダリだ! セカンダリを使うんだ! よくぞそこに気が付いた! 素晴らしいよ、ドロシー! 長かった、長かったなぁ……その鈍い鉛みたいな頭で、よくぞ答えに辿りついた! これはもう、奇跡としか言いようがない!
んん? なになに? 攻略法を編みだした? ぜんさい、ぜんさい! 君のプランを聞かせてくれ。
ふむふむ。廊下へ出て、すぐのところに、転移のプライマリでポイントを設置。廊下の中腹でトトと遭遇。すぐさま、転移のセカンダリを展開。トトがダウンしている隙に、転移のプライマリを発動。扉までひとっ飛びでもどり、トトに追いつかれる前に扉を開けてエントランスへ引き返す。
……ご、ごめん。違うんだ。君のプランに異を唱えるつもりはない。君のプランは完璧だ。ただ、なんというか、こう……感慨深くてね。あんなにおバカだった君が、こんなに成長したと思うと、俺は感無量……。
さぁ、打つべき手は決まった! あとは実践あるのみだ! はりきって行こう!
……もしもし、ドロシー? もしもーし? あー……大丈夫かい? さっきは、なんというか、その……残念だったね。とても気の毒だ。君に同情するよ。
まさか、あそこで黄色いレンガに邪魔をされるとは、流石の私も、予測出来なかった。彼らが、ドロシーの足をトラバサミのように挟んで潰したり、三角木馬のようにドロシーの足の間にせり上がったりして妨害してくるのは、もっと先のことだと思い込んでいた。
まだ進行は序盤だが、君はもう200回以上やり直しているから……黄色いレンガの道の我慢が限界に達しても、おかしくなかったんだな。
でもさ、ドロシー。君は間違っていない。さっきのプラン通りにやれば、トトをエントランスにおびき出せるはずだよ。
えっ? 黄色いレンガの道への対策? それは、あれだ……ぴかぴかの黄色いレンガ様にお願いすればいいんじゃないかな……。
ドロシー。この遊戯を攻略するのに大切なことを教えてあげよう。それは積み重なる死による、圧倒的な経験と豊富な知識、さらに幸運だ。
なぁに、次はきっとうまくいくさ! さぁ、ドロシー、気持ちも新たに始めよう!