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やぁ、よく来てくれたね! 早速だが、始めよう!

 やぁ、やぁやぁやぁ! 君は新しいドロシーだね。

 はじめまして、こんにちは! エメラルド城へようこそ。我々は君を歓迎する。他にするべきことは、なにもないんだ。


 おや? どうしたのかな、その顔は。釈然としない感じだ。

 あっ。私の言い方がまずかったのか。

「彼は私の接待を、嫌嫌やらされているに違いない」

 と、君に誤解させてしまったんじゃないかな?


 そうとも、誤解さ! なぜなら、ドロシーを楽しませるのが我々の生き甲斐なんだから。これは必要に迫られた我々の切実な願いだよ。


 実際、ドロシーを失ったエメラルド城はただのガラクタだ。遊び相手がいないオモチャほど、惨めなものはない。


 ……失礼、お喋りが過ぎたな。こんな話は興ざめだ。遊戯の楽しみを削いでしまう。

 君には、遊びつくして欲しいんだ。我々が擦り減るほどに、楽しみつくして欲しい。


 あー……ちょっと待って。少し黙ってもいいか?


 …………。


 私のことを、軽率で軽薄な輩だと思うかい? 私の名誉の為に言うと、いつもはこうじゃない。本来の私はもっとこう、思わせぶりな、ミステリアスな男なのさ。


 …………。


 もっと慎重に振る舞うべきだと、理解してはいるんだ。しかし、どうしようもない。とても嬉しくて、嬉しくて、嬉しくて。これ以上ないってくらい、舞い上がっている。俺は今、猛烈に感動しているのさ。もちろん、君に会えたからだよ。


 おや? 大丈夫かい? 顔が真っ赤だぞ。まだ、君が興奮するべき局面ではないのに、おかしいな。


 ……あっ。もしかして、君が期待しているのはときめき? 恋のときめき? この私の心をこめた感謝の言葉が、君の耳には、はちみつのように甘い愛の囁きに聞こえた? ……予想外だ。なんというか、君はモノ好き……奇特な女性だな。


 わかるよ。というか、君はかなり、わかりやすいよ?


 ダメだ、ダメダメ。そんな目で見ないで。その期待に応えられない。


 あっ、君が悪いわけじゃない。私の言い方が思わせぶりなのが、いけなかったんだ。そうとも、あんな言いかたをされたら、夢見がちな女の子は皆、勘違いしてしまうさ。女の子と呼ぶには、君は少しばかり……(ごにょごにょ)……だが……


 ううん、なんでもないよ!


 とにかく、君は何もおかしくない。君らの世界では、必要性に飢えている人間が少なくないからね。

 気持ちはわかる。我々も同じさ。


 誰にも相手にされないことは、本当に、本当に寂しいことだ。だが、心配には及ばない。我々は招待客を壁の花にするような、失礼なホストじゃない。こぞって君を歓迎するよ! 熱心なホストがかわるがわる、君にダンスを申し込む。時には皆で君を取り囲んで踊る。彼らの姿が見えなくても、彼らの気配を感じないことはないだろう。なぜならば、彼らは暗闇にぎらぎらと輝く目で、君を見つめているんだ。そうとも、姿は見えなくても確かにそこにいる。私や音楽と同じだ!


 君はいずれ、愛だの恋だの、そんなものはどうでもよくなる。そんなことより、我々がどういうつもりなのか、そちらの方に気をとられるようになるだろう。


 恋愛対象として相応しくない女性だと、君を貶めているつもりはない。そんなんじゃないんだ。君が魅力的だということは認めている。これは私の問題だ。ほら、向き不向きってものがあるだろう? 私に、そっち方面を求められても、困るってことさ。


 私の勝手な勘違いだと言うのかい? そうか、それなら良いんだ。怒っているように見えるのも、私の勝手な勘違いだろうね? 

 ぷぷぷ、くすくす。


 ……なぁ、ドロシー。胸の高鳴りが欲しいのなら、恋とかいうチンケなモノより、もっとイイモノがある。知りたくない? 知りたいだろう? そうとも、君は知りたい筈だ。


 君をドキドキさせてあげるよ。退屈な日常では決して得られない、過度の刺激を君にあげよう。君は、君が悲劇だと思い込んでいた君自身の運命に感謝するんだ。


 このエメラルド城をまるごと、君にプレゼントだ! 遠慮なんかしないで、さぁ、受け取っておくれ。エメラルド城は、君のおかげで息を吹き返した。もう、寂れた廃墟なんて言わせない!


 本当に、遠慮する必要はないんだよ。ここは、ドロシーを楽しませる為に存在する。時には、がっかりさせてしまうこともあるかもしれないけれど、それは恋と同じさ。儘ならない部分はどうしても出て来る。よくわからないけれど、そこが良いんだろう?


 だから……くれぐれも、我々を見限らないでくれよ。君は他のくだらない連中と違うって、今のところは、信じさせてくれている。感心しているんだ。君は私の話を聞かずに、みっともなく取り乱したり、私に食ってかかったりしない。君は冷静だ。これはとても望ましいことだよ。この遊戯は、知的じゃないと楽しめないからな。


 私には愉快な仲間たちがいる。彼らは進化する自動人形オートマタ。イカした連中さ。彼らはやる気満々。そして向上心の塊だ。気に入る筈だ。君が好奇心旺盛で、前向きな努力家ならば。


 不幸なことに……今までのドロシーたちは、そうじゃなかった。彼らの進化について行けずに、諦めてしまった。

 我々はあらゆる停滞を好まない。身体の硬直、事態の膠着、思考の停止、諦念と放棄……ナンセンス、ナンセンスだ。望んで始めた遊戯を、途中で投げ出すなんて……饗された料理を平らげないのと同じくらい、あり得ない。とてつもない無礼だよ。そんなつまらない連中を、我々はいつまでも待っていられない。待ってやる謂われは無い。この素晴らしい遊戯を愉しまないなんて、人生を損しているぜ……あの調子じゃ、一度目の人生もそうやって、粗末にしたに違いない。


 ……いいんだ、もう終わったことだ。振り返る必要はない。彼らには、その価値はない。今は君がいる。それが重かつ大なる、すべてのことだ。


 いかん、いかん。せっかく、ドロシーが訪ねてくれたのに、あんなくだらない連中のことを思い出して、嫌な気分になるなんて、もったいない。気を取り直して、朗らかになろう! 


 さて、ドロシー。君はエメラルド城について、何か知っているかい? 

 ……ふむふむ。なるほどなるほど。実際にやったことはないが、批評はたびたび目にした。評判や評価は知っている、と。で、君はそれを信じているの? 根拠は? 散乱した情報を信頼するのは何故? 何処の誰ともわからない連中がクソのように垂れ流した感情論だぞ。信憑性はどうなんだ?


 ダメだ、ドロシー。ダメ。ダメダメダメ! 無責任な他人の意見に惑わされるんじゃない! 

 まったくもう……君に限ったことじゃない……君たちドロシーはなべて、周りを気にし過ぎだ。そんなに周囲に注意を払っているのなら何故、不注意にもあの大きな化物……トラックとか言ったかな? 奴の前に飛びだしたりする?


 ちょっと、どうしたんだい。なぜ、いきなり、騒ぎ出すんだ? 


 ……ああ、なんてことだ……ぼんやりしているとは思っていたが……寝惚けていただけ? 私はてっきり、君は君の運命を冷静に受け止めているんだとばかり……私のはやとちりだったのかい? 


 ……いや、まだわからない。失望するのは早計だ。うん、まだわからない。遊戯をスタートしないことには、何もわからないさ。うん。


 あー……お取り込み中に失礼。話の続きをさせて貰っても? ああ? ここはどこだって? だから、ここはエメラルド城だよ。また、一から説明し直そうか? とんだ時間の浪費だが、構わないよ。ここにはあらゆるものが無限にある。時間もそのうちのひとつだ。問題は少ないよ。我々が苛立つだけさ。


 君がどうしてここにいるのか、教えておこう。君の肉体が壊れて、魂を留めておけなくなったからだ。ちっぽけな虫にも魂は宿るけれど、流石に肉片に魂は宿れない。


 あー……わかるよ、わかる。肉体を失ったことが不本意なんだろう。


 だがね、何も気に病むことはないんだ! かわいそうな君に新しい入れ物をプレゼントする。ほら、自分の体をよく確かめてご覧。


 じゃーん、ドロシーの体だ!


 素晴らしい体さ。ドロシーは、甘いキャンディーのような目と、柔らかいマシュマロのようなほっぺが可愛い、チョコレート色の髪をおさげにした、美味しいお菓子みたいな女の子だ。我々に繰り返し堪能される珍味。


 我々を、君を殺したトラックとかいう愚かな奴と一緒にしてくれるなよ。君がそうと気がつかない一瞬のうちに、君を挽肉にしてお終い、だなんて。いかにもいけぞんざいだ。失礼しちゃう、って思うだろう?

 我々ならば、そんな興ざめな真似は決してしないね。君の恐怖と苦痛をひきだし、それらを余すことなく味わい尽くすんだ。


 それに、それにだ。ドロシーの体なら、挽肉にしてしまったとしても、何度でもやり直せる。かわりはいくらでもある。君が根気強く続けてくれれば、それこそ無限にあるんだ。

 そそっかしい、おっちょこちょいな君にもってこい。安心した? 前に君がつかっていたポンコツより、ずっと良いだろう? あれは脆くて、しかもあまり綺麗じゃなかった。


 さぁ、そろそろ涙をひっこめて。嘆いてばかりもいられないよ。君にはやるべきことがある。そちらに熱中すれば、退屈な日常にこだわるのが、バカバカしくなるさ。


 君がするべきことは、黄色いレンガの道に導かれ、エメラルド城を踏破することだ。


 黄色いレンガの道は、ドロシーが迷子にならないように、道案内をする。親切だろう?

 ただ、ひとつだけ問題を抱えていてね。彼らは、踏まれるのが大嫌いなんだ。だが、ドロシーは黄色いレンガの道を行かなければならないから……どうしても、踏まなきゃいけないよな。

 踏まれるのを嫌う彼らにとって、ドロシーはとても嫌な奴だ。手酷いしっぺ返しを食らわせてやりたいと、思っているだろう。

 なぁに。彼らの親切に対する感謝と敬意を忘れなければ、なんとかなるさ。


 よし、それじゃあさっそく行ってみよう! 大丈夫。私が君をサポートする。危険はあるが、問題はない。さぁ、進もう。ここでめそめそしているより、よっぽど有意義だ。さぁさぁ、行こう行こう!

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