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楽園の魔鍵  作者: 喜怒 哀楽/Yu1
魔眼と魔鍵
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魔眼と魔鍵:4話

 ここはダンプラーにあるジルによって招かれたあの小屋だ。

 そこには呆れ果てるジルの姿と、息を荒げる泥棒王の姿があった。

 ボロボロのソファーに座り、静かに瞳を閉じているジルが口を開く。


「で、意気込んで偵察してきたものの、肝心の依頼品である魔鍵まけんに返り討ちにされてきたと……はぁ、泥棒王の名が泣いてるよ」


 親友の情けない姿にジルが皮肉っぽくそう言い、からかう。


「……う、うるさいですねぇ」


 汗まみれで逃げ帰ってきてボロボロになったファウスト。

 疲れきったとばかりに、疲労感顕に地面に座り込んでいる。


「別に疑っていたわけではなかったんですが、中々どうして思いの他かなりやりますよあの魔鍵まけんちゃん……」


 ファウストの疲れきった様子を目にして、不安そうな表情になるジルが事の重大さを告げる。


支配眼クロノスを今の時点であまりスパンを空けず使い続けて本当に大丈夫なのかい? さっきも説明したけど、明日の夜にはあのイカレタ考古学者がギルバルドの邸に訪れる。君も知っての通り楽園エデンの解明に人生を注いでいるあの男さ。きっと……楽園エデンの場所についても何か知っているに違いない。そんな奴と魔鍵まけんを持つギルバルドが接触してしまえば依頼達成は絶望的なうえにもしかしたら世界が本当に改変されるかもしれないんだぞ……」


 イカレタ考古学者。

 楽園エデンの考古学者と呼ばれるその男を、ファウストやジルはよく知っている。

 ファウストも思わず顔をしかめてしまう。

 そう、ジルの言うとおりだ。

 ただ魔鍵まけんを持っていようと、契約をしていようと、その使い所がわかなければ楽園エデンには辿りつけない。

 あくまで鍵は鍵。

 それ単体では意味を成さない。

 そしてその楽園エデンの手がかりを知っている者は世界にごく僅かしかおらず、ギルバルドはその僅かなあの考古学者を邸に招き接触するつもりらしい。 

 その日時は明日の夜。

 事は一刻の猶予を争う現状の中、ファウストのこの有様にジルも不安を隠しきれないでいる。

 それにあまり悠長にしていると魔鍵まけんの情報が外部に漏れ、ますます依頼の達成が困難になりかねない。

 四大国家が総力をあげて敵に回るという最悪の事態も想定されてくる。


「今回の短いスパンだけで12秒……、支配眼クロノスの使用時間の制限も考えるとちょっとしんどいですねぇ。いやぁ、ンフフ。魔鍵まけんちゃんの実力があまりにも想定外でしたもので」


 眠た気な深いクマが刻まれた両眼を細め、魔鍵まけんの少女の事を思い出す。

 ファウストはあの少女が気がかりだった。


「……勘弁してくれよ。魔鍵まけんの彼女はそれこそ普通の少女と見分けがつかない。……だがあれは人外だ。妙な感情は持たない事だね。人間のフリをしているただの物だ。そしてその実力はあのガラムの一般兵にも引けを取らない。僕がわざわざ忠告してあげたというのに君って奴はどうせあの見た目で油断したんだろう……」

 

「……ンフフ」


 四大国家の一つガラム王国。

 遥か遠い昔から、ガラム人と呼ばれる人種には特別な血がながれていた。

 その血がもたらす効果は絶大で、並みの人間では太刀打ちできない程の戦闘力を子供ですら持っている。

 個々の単純な強さで見れば世界一に位置づけられる程。

 それと同等かそれ以上の力を持つ魔鍵まけんの少女。


「いやぁ~、想像を絶する美少女だったんで完全に油断してしまいました」


 ニヤニヤと少女の事を思い出す。

 だが、もっと違う部分が気になって仕方なかった。

 時折見せるあの儚げな表情。


「はぁ……シルビアもシルビアなら君も君だよホント」


 呆れてそこから言葉が出てこなくなるジル。

 ようやく体力が回復したファウストがその場から立ち上がる。

 そして意を決した様に、真剣な声でジルに言う。


「ンフフ、貴方も実物を見れば共感してくれると思うんですがねぇ。……さて、そろそろ準備でもしますか」


「君のその女好きだけは本当、直すべきだと思うよ」


 ファウストは大の女好きだった。

 その結果、今まで何度も危険な目に遭ってきた。

 今もこうしてシルビアに良いように使われる駒となっている原因の一つでもある。

 そんな親友が心配でもあり、諦めているジルが、ファウストの言葉に溜息をつきながらソファーの側からある物を取り出す。

 それはファウストからの預かり物と、調達を頼まれていた物だ。


「ほらっ、ちょっと重いぞ」


 立ち上がったファウストに向けて一つの長細い大きな袋が投げ捨てられる。

 それを両手で掴み、早速中身をチェックするファウスト。


「そこに預かってた物と武器が全て入ってる、それで足りてるかい?」


 ジルの言葉の中、袋の中には漆黒の卸したてのスーツが上下セット、古びたピエロの仮面、有名な職人によって仕上げられた剣が四本入っているのを確認する。


「まぁ、剣なんて何でも良いんですが……んー、やはりこいつが有るのと無いのとではヤル気が全然違ってきますねぇ」


 古びたピエロの仮面を手にし、それを顔にあてがいジルの方を見る。

 世界を騒がす泥棒王、狂った道化師の顔がそこにあった。


「気をつけろよファウスト。……世界をどうにかできてしまう鍵だ。魔鍵まけんを盗み出したとしても、それを依頼主やどこぞの組織に渡してしまえばどのみち危険な代物だ」


 世界を望むように改変し、全ての願いを叶える為の鍵。

 それ単体では意味を成さないとしても危険な代物に変わりはない。

 シルビアは何故そんな物の依頼を受けたのか。

 とても金だけが理由ではないように思える。

 ファウストはシルビアの考えに疑問を持っていた、しかし――――


「私に盗めないモノはこの世にありません。私は泥棒王。ただ盗むだけ、後の事なんて知りませんよ……ンフフ」


 それに、と付け加え。

 古びたピエロの仮面越しに不気味に微笑み。


「どのみち魔鍵まけんは依頼主の手には渡らないと思いますよ」


 その言葉にジルは、確認が難しい程の笑みを微かに零した。


「僕はただ君に情報を売るだけだ、盗みも、その後の事も君に任せるよ」


 ファウストに対し、絶大な信頼を持つジル。

 だからこうして託したのだ。

 運命を。


「……、ま、なるようになるでしょう」


 ジルの言葉を確かにその胸に刻み、ファウストはそう告げて細長い袋に古びたピエロの仮面を仕舞い込み小屋を跡にする。


「……」


 一瞬、ファウストは視線を背後に逸らしゆっくりとその姿を消していく。

 ジルが無言のまま静かにファウストを見送る。

 ファウストの姿がそこから消えると暗闇から一人の人物が現れる。


「はっはっは、とんだ嘘つきだ君も。それにしてもあの泥棒王も大した事ないようだ。なぁ? Mrジル」


 黒いコートを身に纏う人物は、ボロボロの痛んだソファーに座るジルの側にやってくる。

 それをよそに廃墟の出入り口をジッと見つめながらジルが言う。


「あまり泥棒王をナメない方がいい」


「んん? この俺の存在に気づかなかったガキをかね? 正直あの生きる伝説、泥棒王だ。どんな野郎かと思えばただの魔眼を持ったガキじゃないか」


 先程からずっと、気配を殺し潜んでいたこの人物。

 自分の存在にまったく気づく様子を見せず去っていったファウストを、そう得意げに評価を下した。

 しかし、ジルの評価は違う。


「……いや、気づいていたと思うよ。気づきながらも無視をしていた。恐らくはこちらの計画にも大体気づいているんじゃないかな」

 

 困った表情を浮かべる、だが何故か笑みが自然と出てしまう。

 両手を組んで地面に視線を静かに置き、色々と思考を巡らせ今後の展開を予想してみる。

 そんなジルを、肩をすくめ小馬鹿にするように断言する。


「買い被りすぎではないかねMrジル? 俺は完全に気配を殺していた。それに奴は今、不用意に魔眼が使えない。ならば俺の存在に気づくわけないだろうに」


 ファウストへの評価を一向に変えようとせず、面白くなさそうに出入り口の先を見つめる。


「君だって泥棒王の伝説は何度も耳にした事があるだろう? そんな君達以上に僕みたいな人間の元には嫌という程、彼の情報が入ってくる。よく魔眼を持つ者を人々はバケモノと呼ぶが……彼はもはやそういう枠では納まらない存在だよ」


「……ほぅ、実に面白いことを言うではないか。ならば明日が楽しみだ、泥棒王のそのお手並み、ぜひ拝見しようではないか」


 不穏な動き、数多の思惑が交差する中、間もなくそれらが衝突する。


 そしてこれから世界が大きく改変される。

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