魔眼と魔眼:エピローグ
とある場所。
暗がりのそこには、世界の改変を目論む集団が集結していた。
「ククク、お待たせしました……」
その集団の中に、千里眼を持つアイズの姿がそこに現れる。
そして周囲を見渡し確認する。
「おやおや、私が最後かと思っていましたが。まだ来ておられない方がいらっしゃる様ですね……」
アイズの眼に映る人影。
そこには三人の少年少女の姿があった。
玉座に座る無表情の白髪の少年。
そのすぐ側で大人しく待機する少女。
そんな二人の前方に立つ、背丈の小さな黒髪の少年がアイズを睨みつけている。
「他の奴らは彼の命令で各国で活動してる。これで全員だ。それよりも……ファウストに対する今回のてめぇの評価はどうだったんだよ」
黒髪の少年が喧嘩を吹っかけるような乱暴な口調でアイズに言う。
少女も、アイズの報告を今か今かと待ちわびている。
「そうですねぇ……。ククク、実力もさる事ながら、とても素晴らしい眼をお持ちでしたよ。貴方達が彼を欲している理由がわかりました。一度本格的に暴走した彼と戦ってみたいですねぇククク」
危うく支配眼を暴走させかけた不死身の男がそう告げる。
すると、白髪の少年の前で大人しく待機していた少女がアイズのその発言に鬼の形相で近づき、アイズに詰め寄る。
「……っ、あなたっ!! よくもッ!!」
そんな怒り顕にする少女の眼にいつもの余裕の態度で接する。
「ククク、……貴女も良い眼をしてらっしゃる。ぜひ私のコレクションに加えたくなりますねぇ」
眼帯越しの眼で見つめ、そんな挑発まがいな発言をするアイズ。
険悪なムードが漂う。
しかし、それを制止するように黒髪の少年が言葉を続けた。
「止めとけ二人共。……ファウストはオレらの仲間になる奴だ。お前がどうしてもその実力を知りてぇって言うからオレらもその行動を認めたけどよぉ。……あんま不用意な発言してると本気で消すぞ不死身野郎」
黒髪の少年が異常な殺意を放ち、両眼に潜む魔眼でアイズを睨みつけた。
その殺気はアイズにとって、とても心地よく感じる。
「私としては、とても大変魅力的なお誘いですが、……あくまで私は観察者。今は遠慮しておきましょう、今は、ね。ククク」
「ッチ」
不気味な笑いを浮かべるアイズ。
この少年少女達とアイズは協力関係にある、が。
それは利害が一致した表面上によるものに過ぎない。
未だ、アイズがこの集団のメンバーとして加わる事を認める者は少ないでいる。
アイズもそれに対して特に気には止めていなかった。
だが白髪の少年は違った。
ゆっくりとその口を開く。
「……アイズ、我々には……君の力が、必要だ……」
白髪の少年は、たどたどしくそう言葉を紡ぐ。
その発言に対し、この場にいる他の三人は頭を冷やすように溜息を吐き、肩をすくめる。
「……とにかく、これでアイズもファウストの実力には納得したようね」
ファウストの実力が認められた事にどこか嬉しそうに声を弾ませる少女。
その発言に対し、アイズが口添えする。
「しかし、彼が我々に協力するとはとても思えませんでしたが」
黒髪の少年は寂しげな表情で反応を示す。
「やっぱ、力ずくで連れてくるしかないのか……。何でだよ……ファウスト……ッ!!」
過去に何度かこの者達はファウストに接触している。
そして仲間になるように勧誘してきたがそれは尽く断られていた。
中には好戦的なメンバーが戦闘を挑み、強引に連れてこようとするも、ファウストに返り討ちにあっていた。
「……我々、……七人の小人の、残る空席は……ファウスト、だ……変更は……ない……」
七人の小人。
それが少年少女達の組織名であり、世界の改変に暗躍する者達の名前。
所属メンバーは現在、六名という少数組織。
しかしその全てが魔眼を持つ者で構成されており、絶大な力を誇る集団。
七人の小人は決して表舞台に姿を現す事はなく、世界でもその存在を知る者はごく僅か。
彼らはひたすら”彼女”の目覚めの時を待っている。
「私……一度、ファウストに接触しようと思うんだけど。ファウストだってちゃんと話せばわかってくれると思うの」
そう希望的観測で物を言う少女に、かつて接触を試み、現実を知らされた黒髪の少年が悔しそうに反対する。
「どうせ無駄だ、オレらと違ってファウストは変わっちまった。……もう実力行使に出るしかないかもな」
アイズを除き、この少年と少女達はかつてファウストと同じ魔眼の実験施設で育った子供達だ。
ある人物によって引き起こされた歴史史上最悪の大事件によって世界に放たれた子供達なのだ。
「ファウスト……」
特に実験施設でファウストと仲が良かった少女はそれでもその気持ちが諦めないでいた。
そんな少女の様子を、玉座から無表情のまま見つめる白髪の少年。
「……心配するな……ファウストは……必ず……来てくれる……」
少女を気にかけたその言葉。
少女は涙を浮かべ、白髪の少年に抱きつき、悲しみを熟れいた。
「……ククク、私は少し休ませてもらいます。今回は無駄に死にすぎましたものでね……千里眼もかなり使ってしまったのでせっかく集めた目が全てパーです。私はしばらく大人しくさせてもらいますよ。それでは……」
そう言い残し、この場からアイズは姿を消していった。
「オレらもそろそろ次の行動に移ろう。魔鍵の存在が世界に大っぴらになったおかげで思いの外忙しくなってる」
黒髪の少年の言葉に少女も険しい表情になる。
そして白髪の少年が表情を変えず言う。
「……聖鍵が……動き出している……」




