魔眼と魔眼:5話
リアの持つ銃に込められている全ての弾丸。
それら全てがアイズに放たれた。
神殺眼によってその力を封じられた千里眼。
未来を予知できる、その力を使用する事ができなければこれ程の弾丸の嵐を避ける事はまず不可能。
しかし、リアはここで更なる追い討ちをかける。
「まだまだッス!!!」
神殺眼のもう一つの能力である身体強化を発動させる。
その瞳が神々しく光を発すると、リアの身体をその光が覆い包み込む。
そして一時的に人知を超えた、神をも思わせる凄まじい身体能力を発揮し、光を纏ったリアが弾丸と共にアイズに襲い掛かる。
「ほう」
眼を見開き、リアの怒涛の攻撃に、成す術も無くその身体で受け止めるアイズ。
数多の弾丸はアイズの身体を貫き、リアの重い拳が無慈悲にその身体にめり込んだ。
「かはッ……」
身体中を弾丸で貫かれ、血飛沫をあげ、口から血を吐き、アイズはそのまま廃墟と化したいくつもの小屋の壁を突き抜け吹き飛ばされてしまう。
まさに神殺眼の名にふさわしい猛威を見せつける。
「はぁ、はぁ、……くっ」
しかし強大な力には代償がつきもの。
神殺眼の凄まじい反動の中、地面に膝をついてしまう。
だが、確かな手応えはあった。
身体が反動で震える中、リアは確信し、笑顔を見せた。
「俺の勝ちッス!」
勝利の確信。
壁に空いた大きな穴の先を見つめるリア。
そしてその場を立ち上がり、アイズの死体を確認しようと身体を引きずり進む。
だが、その先から、こちらに向かう足音が聞こえてくる。
おかしい。
リアの表情は絶望に打ちひしがれる様にどんどん青ざめていく。
神殺眼によって千里眼の力は確かに封じていた。
いくつもの弾丸がその身体を貫き、強化されたはずの自分の一撃も確かに食らわせた。
なのに、何故。
「ククク……久しぶりに少しは楽しめましたよ。しかし……やはりその程度なのですね」
弾丸を受け、ボロボロとなった黒い修道服を着た男が、リアの元までゆっくりと近づいてくる。
その姿はさながら死神。
驚愕するリアの背後に、アイズは物凄い速さで回り込んできた。
神殺眼の反動によって体力を奪われ、限界に達そうとしているリアはされるがまま、背後から抱きかかえられるように首を片手で絞め上げられる。
「かはっ、……ぐっ」
表情を苦痛に歪ませ瞳を大きく開けるリア。
それを愉しむようにアイズは語りかける。
「ククク、確かに貴方は私に致命傷を与えた。しかし、私はこうして余裕を見せ生きている。……何故だと思います?」
その問いも今のリアにはもう届いていない。
首を絞められ酸素を絶たれ、意識が遠くなる。
必死の力を振り絞り、抵抗するが、今のリアではアイズを引き離す力が残っていない。
薄れゆく意識の中、アイズの不気味な笑い声だけがこだまする。
首を絞める力も強まっていき、完全に意識が消えようとした、その時だった。
「てやぁッ!!!」
魔鍵、バッドエンドが両腕を刃に変化させ、小屋の窓をぶち破りアイズ目掛けて飛び込んできた。
アイズはすぐに千里眼を発動させ、禍々しい紫色の光を発するとリアから瞬時に離れる。
そんなアイズに攻撃の手を一切緩めず、そのまま斬撃を放ち続ける。
片腕の刃を突き刺し、もう片腕の刃で斬り払い、軸を残した片方の足も鋭い刃に変化させて追撃の手を緩めない。
しかしアイズもその連続攻撃に負けじと、千里眼の力と身体の駆動部分を全力で使い、避けてみせる。
両者の攻防はまるで舞踏の様に繰り広げられていた。
「へぇ、君、やるじゃないか」
少し距離を取り、刃と変化した部分を元に戻すバッドエンド。
自分の動きを完全に見切り、尚且つその動きに反応してくるアイズの尋常ではない身体能力にニッと笑ってしまう。
「ククク、いえいえ魔鍵のお嬢さんこそとてもお強いですね……」
まだまだ余裕の表情を見せるアイズ。
バッドエンドは地面に倒れ、夢中で呼吸するリアに目をやる。
「なに絶望的な顔してんのさ、大丈夫かい? まさか昼寝してたらこんな風にナイト様がボッコボコにされてんだもん、びっくりしちゃったぜ」
明るい笑顔でそう言いながらリアの腕を引っ張り、立ち上がらせる。
「……へっ、ホント、情けねぇ限りッス。……気をつけるッスよ。……奴は千里眼っていう全てを覗く魔眼を持ってるッス。未来すら覗くあの魔眼の前じゃ全ての攻撃は避けられてしまうッス」
未来を覗く魔眼。
それを聞くと、バッドエンドは全ての斬撃を避けてみせたアイズの実力に納得した。
その助言にバッドエンドは一切表情を変えず、ツインテールを揺らし、力強い笑顔で言ってみせる。
「なら避けられない早さで斬ればいいだけの話だろ? 簡単な話じゃないか」
お互い全力では無かったにしろ、支配眼を持つファウストとも渡り合っていたバッドエンド。
リアはバッドエンドの今の戦いを実際、こうして眼の当たりにして希望が見えてくる。
だが、それでも一つの懸念が残る。
「あいつ……さっきから致命傷のダメージを与えてたのにビクともしてないんスよ」
実際に体験した恐るべき事実、それをバッドエンドに告げる。
もし攻撃を与え続けても、アイズを倒せないと意味が無い。
しかし、なんともバッドエンドらしい言葉がリアに返ってくる。
「なら死ぬまで、斬る。ただそれだけだぜ」
この愛らしい少女の姿からはとても想像できない力強い覇気を込め、そう答えた。
「は、はは……」
そんな勇ましい姿を近くで見せられ、リアの表情からも絶望が消えていく。
「ククク、さて……。彼が来るまでもっと楽しませてもらいますよ」
身体を揺らめかせ、不気味なオーラを放つアイズがその距離を縮めてくる。
「良いッスか、バッドエンド。……恥ずかしい話なんスけど、俺はもう動けそうにないッス。でもあと一回だけ、神殺眼で奴の千里眼を封じれるッス。一か八か、その瞬間を逃さず奴に致命傷のダメージを与え続けてみるッス」
「あー、リアの魔眼だっけ? オッケ、オッケ、バッドエンドちゃんに任せてそこで待機しておきたまへ~」
何とも軽い返事。
しかしリアはそれを信じ、その場に座ったまま、神殺眼でアイズの姿を捉え続ける。
そして、バッドエンドは両腕を刃に変化させ、戦闘態勢に入った。
千里眼から怪しい光を揺らめかせ、そんなバッドエンドを見つめるアイズ。
「ククク、どうやらお嬢さんとはあまり長くは続かないようですね……」
未来を覗き、そう宣言するアイズ。
そんなアイズに片腕の刃を向け、バッドエンドが自信たっぷりと声高らかに告げる。
「そりゃぁ、ワタシに負けるんだからそう長くは続かないだろうね~!」
その発言にアイズが愉快に笑う。
「ククク、本当に楽しい方達だ……」




