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楽園の魔鍵  作者: 喜怒 哀楽/Yu1
魔眼と魔眼
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魔眼と魔眼:4話

 泥棒王ファウストが見事、アーニャ=ハウルージュの下着を盗む事に成功した少し前に時は遡る。


 ノイタール聖国の中央街にバッドエンドとリアの姿がそこにあった。

 ノイタール兵の鎧を脱ぎ捨てたリア。

 そして一応、変装したバッドエンドがとある場所に向かっている最中だった。

 いつもと違い、綺麗な黒髪の長髪を両サイドで結い、ポニーテルを揺らし上機嫌なバッドエンド。

 今時の可愛らしいピンクのワンピースを着るその姿は少し幼く感じる。


「ほらほら、早く来ないと置いていっちゃうぜ~?」


 茶髪のオールバックに、胡散臭いサングラスをかけた青年。

 そんなリアが勝手に動き回るバッドエンドの後を走って追う。


「ちょ、一人じゃ危ないッスよ!! 何の為に俺が一緒だと思ってんスか、待つッス!!」


 まるで子守をしているかのような気分になる。

 しかしそれも仕方がない、これもリアがシルビアに提案した事だったのだ。


 バッドエンドの護衛。


 万が一にもアイズ以外の者が、バッドエンドを狙った場合、全力でそれを阻止する為にリアはこうしてバッドエンドと共に行動している。

 バッドエンドが一人でアイズの確保へと向かう事を禁じたシルビアに、リアは自分が護衛をする事を提案したのだ。

 リアもファウストやシルビアと同じく魔眼を持つ者。

 そしてその実力は決してシルビアは口に出さないが認めている。

 必死に土下座までして頼み込むリアにシルビアは呆れ、二人のアイズ追跡を許した。


「でさぁ、この辺だろ?」


 無邪気に子供のように赴くままのバッドエンド。

 中央街からそこそこ距離が離れたその場所。

 ようやく追いついたリアと二人、肩を並べて歩いている先にはダンプラーへ続く人気の無い道があった。

 ずらりと廃墟の小屋が並ぶ。

 過去に栄えていた宿泊街だ。


「えぇと、ダンプラーに続くルートまで距離もあるし、住民達もこの辺までは出て来ないだろうし……そうッスねぇ、もう良いッスよ」


 リアが辺りを見渡しながらそう言うと二人は足が止める。

 この人気の無い場所でバッドエンドを囮にし、アイズを誘い込む作戦だ。


「俺はそこの小屋で待機してバッドエンドを見張ってるッス。バッドエンドはそこの少し離れた木の側で適当に昼寝でもしといてくれッス。くれぐれも無茶はしちゃ駄目ッスよ?」 


「あいあいさ~、ちゃ~んと守ってくれよ~?」


 リアの肩に手を回し、からかうようにウィンクするバッドエンド。

 思わずその可憐さにリアの胸が高鳴り、顔が熱くなってしまった。


「じゃ、また後でね~、ふぁ~……」


「り、了解ッス」

 

 そんなリアを他所に、指示された場所に足を進めていくバッドエンド。

 その姿を見送り、朽ちかけた廃墟と化した小屋の中に今度はリアが隠れていく。

 バッドエンドは木の根元に移動し、座り込むと、大きく背伸びをして胸を張り、あくびをする。


「ん~~……ふぁ~~……、あとはリアに任せてワタシは寝~てよ」


 木にもたれて両手を頭の下にやり、足を組んで清々しい気分で瞳を閉じて昼寝を始める。

 そんなバッドエンドと対照的で、こちらのリアは薄暗い埃まみれの廃墟の中で咳き込んでいる。

 そして神経を、視線を鋭く尖らせ、バッドエンドに集中して待機する。

 余裕を見せ、本当に寝てしまっているバッドエンドの様子に思わず乾いた笑いが出てくる。


「流石は魔鍵まけんッスねぇ、よくこんな場所で平気で寝れるッスねぇ……」


 冗談で適当に寝とけと言ったものの、本当に寝るとは思わなかった。

 魔鍵まけんであるが故の自信の現れなのか、それは定かではない。

 だがリアはそんな暢気な少女の姿を観察し、見張り続ける。

 黒のニーソで包まれたスラリと伸びるむっちりとした太もも、ワンピースで隠し切れないその程よく実った胸、あどけない女神のような寝顔。

 それはもう全身舐めまわす様に観察し、見張る。


「って俺は馬鹿ッスか!? な、何を考えてるんだ俺ッ!!!」


 煩悩を絶とうと、自分の頬を全力で殴り、その反動でそのまま小屋の奥に吹き飛び余計と埃が舞う。

 あまりの美貌に、ついつい我を忘れて見惚れてしまった。


「けほっ、けほっ、フゥ……何してんスか、俺……」


 砂埃の中、立ち上がり元の位置に戻ろうとするが。

 背後を突き刺す不穏な気配に気づく。

 リアの表情が強張っていく。

 こうも早く現れるとは思いもしなかった。

 汗が額を伝い、地べたに落ちたその瞬間。


「……へッ!!」


 すぐさま振り返り、背後の気配に仕込みナイフを投げつけた。

 しかし、まるでそこに投げられる事を予め知っていたかのように、気配を放つその人物に投げられたナイフは虚しく宙を通り過ぎ、見事に避けられてしまう。


「ククク、そちらからお呼びになっておいて随分なご挨拶ですね」


 茶髪の髪をなびかせ、両眼を眼帯で覆い、黒い修道服を着る神父のような男がリアの前に現れた。

 その只ならぬ気配に少し圧倒されてしまう。


「……アンタが、アイズッスか?」


 ここに来る前に、リアとバッドエンドはシルビアからある警告がされていた。

 度重なる人間業とは思えぬ所業から、もしかするとアイズは魔眼を持つ者かもしれないと。


「ククク、そう私がアイズです。シルビアさんの言う通り私は魔眼、千里眼アリスフィアを持つ者です」


 リアの心を全てを見透かし、発言する。

 そして、両眼の眼帯を見せつけるように外していく。

 その無数の眼を凝縮した塊のような眼球、千里眼アリスフィアでリアを見つめる。

 リアは納得する。

 千里眼アリスフィアを持つという事は未来を覗く事ができる。

 こうして、リアやバッドエンドがここに訪れ、アイズを待ち伏せしている事もわかっていたのだ。


「貴方も、中々良い眼をお持ちのようですね。楽しみです」


 貴方も、それは自身の事を指しているのか。

 しかし、そんな事はリアにとってどうでも良かった。

 千里眼アリスフィアを持つアイズには、全てがお見通しなのだ。

 なら勿体ぶって隠す必要は無かった。

 リアはサングラスを大人しく外して、その呪われた両眼でアイズを見据える。


「バッドエンドじゃなくて俺を狙ってきた事、後悔させてやるッスよ!!」


 魔眼を、神殺眼ヘラクレスを秘めるその両眼でアイズを睨みつける。

 そんなリアに、自然と笑みがこぼれるアイズ。


「ククク、神殺眼ヘラクレス……。良いですねぇ……ですがまだ未完成なようですけど?」


 リアの神殺眼ヘラクレスに、ルーン文字で刻まれた円が浮かび上がっていく。

 戦闘体勢へと移る。


「ヘッ!! 御託はいいッスよ!!!」


 リアが懐から取り出したのは、銃。

 それは最近、アラト新設立国家で創られたばかりの遠距離武器。

 その銃口をアイズへと向ける。


「これはこれはまた珍しい物をお持ちで。……ですがそれで本当にこの私が倒せますかね」


「……フン、なら、避けてみる事ッスね!!」


 アイズの千里眼アリスフィアが紫の禍々しい光を発する。

 それと同時に、銃口から発砲された弾丸。

 放たれた弾丸がアイズの身体を貫こうとするが、アイズは予め決まっていたとばかりに身体を交わしリアの元に飛び出した。

 全てを覗く千里眼アリスフィアの力。


「クッ!!」


 二発目、三発目と放たれる弾丸の軌道を、同じく千里眼アリスフィアによって事前に予知し、避けていく。

 そして四度目に発砲された弾丸も避けようとする、が。


「ッ、……ほう」


 突如、弾丸の軌道が予知できなくなり、自身の反射神経で何とか避けようとする、が。

 それでも間に合わない。

 ついに弾丸がアイズの肩をかすった。

 肩を押さえ、一瞬動きが止まるアイズ。

 そんなアイズに容赦なく弾丸の嵐が放たれる。

 多くの弾丸が発砲される、それに対して千里眼アリスフィアを発動させて全て避けようとするが。


「まだッスよ!!!」


 神々しい光を発する神殺眼ヘラクレスでアイズを睨みつけたまま、リアは銃の狙いを定め、弾が無くなるまで打ち続けた。

 

 魔眼、神殺眼ヘラクレス


 この世界で唯一、魔眼に対抗する魔眼とされる神殺眼ヘラクレス

 別名、魔眼殺しと呼ばれる場合もある。

 その視界に入った魔眼の力は、暴走前であれば全て無力化されてしまう。

 アイズが途中から千里眼アリスフィアの力を発動できなくなったのは、神殺眼ヘラクレスの力による現象。


 しかし、リアの神殺眼ヘラクレスはアイズが言うように不完全である。

 それ故に使用できる回数と、魔眼の無力化できる時間が極端に少ない。

 底知れない不気味さを感じさせるこの男。

 千里眼アリスフィアを持つアイズには出し惜しみは厳禁。

 最初から全力でいく必要があった。 

 最初で最期のチャンスとばかりに、千里眼アリスフィアの力を封じられたアイズに無数の弾丸が容赦なく襲い掛かる。

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