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楽園の魔鍵  作者: 喜怒 哀楽/Yu1
魔眼と魔鍵
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魔眼と魔鍵:エピローグ

 この世界は四つの大国によって構成されている。

 公平王、ノア=エーデンによって統治される軍事国家ノイタール聖国。

 暴君王、ガスタークによって支配される独立国家ガラム王国。

 創生王、ゼロ・マキュラによって創設された製造国家アラト新設立国。

 静寂王、フィアナ・シフォンによって守られる信仰国家シアラ神国。

 これら四つの大国を四大国家と呼び、そられらの国王を四王と呼ぶ。

 そして今まさに四王がノア=エーデンの呼びかけにより、とある場所へと集結し、円卓を取り囲みながら世界会議が開始される。

 

「えー、この度はどうもう皆様お忙しい中よくぞ集まってくださいました」


 純白のスーツを着込んだ金髪の青年、ノア=エーデン。

 その顔は丹精に整っており神々しさすら感じさせる美青年。

 残りの三席には曲者揃いの王達が各々待機していた。


「……おい、”不公平王”御託は良いんだとっとと始めろ」


 素肌にそのまま鮮血色のコートを纏い、袖を捲り上げ一際目立つ風貌の屈強な身体。

 この彼こそが文字通り世界最強の男。

 暴君王、ガスターク。

 真紅色のリーゼントを揺らし、腕を組み、円卓に足を乗せている。

 今回の会議の議題についてドスの効いた声で早く進行するように煽っていた。


「暴君か……。フ、猿は礼儀という言葉を知らんのか……よくそれで一国の王が務まるものだ。国民のレベルも知れるというもの」


 全身包帯だらけで最低限の衣類、黒いマントを羽織る男。

 包帯ではっきりとした姿はわからないが、その声からしてかなりの年輩だとわかる。

 彼は世界に多大なる技術を排出した創生王、ゼロ・マキュラ。

 包帯のせいで表情を読み取ることができない。

 だが明らかに怪訝な様子でガスタークのその態度を咎める。


「あぁんッ? ……てめぇオレ様に戦争売ってんのかぁ?」


 ガスタークは勢いよく立ち上がる。

 そしてゼロをまるで威嚇するように、四王が囲む円卓を粉々に叩き砕いてしまう。

 しかしこの場にいる王は誰一人としてたじろぐ様子を見せない。


「フフ、それは世界地図から国が一つ消える事になるが良いのか?」


 ガスタークとゼロの売り言葉に買い言葉が飛び交う。


「……上等だゴラァ! てめぇんとこの陰険な国が消えりゃぁ世界も少しは精々するだろうよぉッ!!」


「……」


 そんな二人の王の言い争いに、何ら興味も無くただ静寂を守る少女。

 彼女はフィアナ・シフォン。

 純白のフリルの付いたドレスを着込むその姿は王と呼ぶよりは、まさにお姫様と形容した方がしっくりくる。

 今にもゼロに襲い掛かりそうな勢いのガスターク。

 ここは他の王に手を出せばすぐさま戦争が起こる、緊迫とした場所だ。


「まぁまぁ、落ち着いてくださいよお二人方」


 それを制止するのは今回の招集者である、ノア。

 ノアの言葉にゼロはすぐさま冷静に戻るが、ガスタークは納得がいかない様子で喚き続ける。


「あぁんッ? オレ様に命令してんじゃねぇよ。てめぇの国から潰してやろうかぁッ?」


 本気で今から戦争でも起こすのかと思える程の、凄まじい覇気を放ちながらノアを睨みつける。


「いえ今日は戦争をしに来たわけではないしょう? ――魔鍵まけんの話を、有意義な話をしましょうよ」


 魔鍵まけん


 その単語にここに集まる皆が食いつくように反応する。

 ガスタークもそれは同じ。


「……ッチ」


 コートの両ポケットに手を入れ、不満気に荒っぽく椅子に座る。


「ご協力どうも」


 ニコリと微笑み、コホンと咳をし、


「それでは本日の議題、魔鍵まけんとその契約者への対処についてお話し合いをしていきましょう。では今より資料をお渡しします」


 兵士が一人、深くお辞儀をし入室してくる。

 その手には数枚の紙が用意されており、円卓が壊されてしまったので各王に手渡しされていく。


「さて、現在ですが肝心の魔鍵まけんは皆様もご存知だとは思いますが泥棒王ファウストと呼ばれる人物が所有し、契約しております」


 資料にはファウストの犯歴や事細かな情報が記載されている。

 すると沈黙を守ってきた意外な人物が口を開ける。


「魔眼……」


 フィアナが資料に目を通しながらポツリと呟く。


「……そうです彼は魔眼を、支配眼クロノスを有しています。更にただ魔眼の力を頼りにする連中とは違い、かなりの実力者でもあり捕獲するのは非常に困難かと。ここにお出でになられている方々は重々理解しているでしょう」


 そう四大国家全て、既に泥棒王の被害に遭っているのだ。

 一時期に比べればその被害は少なくなってきたが、それでも各々思う所がある。


「フン、またあの盗人か。しかし奴だけではなく、魔眼を持つ者にはろくな奴らがおらんな。悪戯に世界を引っ掻き回しおって……まさに生きた災害そのものだ」


「……ま、奴らなりに思うことでもあんじゃねぇの知らねぇけどよぉ。それより今はこの泥棒王と魔鍵まけんだろ」


 魔眼を持つ者は今まで世界に多大な被害を与えてきた。

 忌み嫌われる存在。

 世界中に魔眼を持つ者は僅かながら存在する。

 一時期、魔眼狩りと呼ばれる行為があったがそれでも根絶やしにする事はできなかった。


「まぁ、彼に関しては……過去の犯歴、魔眼、魔鍵まけんの契約者という危険因子の塊のような存在です。この存在は世界からしても脅威です。見つけ次第その命は絶つべきだと私は考えますが皆様はどうでしょうか」


「フム、確かに野放しにしておくにはあまりに危険だ。わしも見つけ次第その命を奪った方が世界の為だと考える」


「ケッ! どのみち魔鍵まけんの契約者ならぶっ殺すしかねぇだろぉがぁ」


「どちらでも……」


「では泥棒王ファウストは見つけ次第、始末する、という事で決定します」

 

 こうしてファウストへの処遇の行方はあっけなく四王によって簡単に決められた。

 それもそのハズ。

 今では世界を騒がす泥棒王よりも魔鍵まけんについての方が重要なのだ。


「ではこれより最も重要な事を皆様で決めたいと思います」


 改めて咳き込むノアに場が静まる。

 残りの王も気づいているであろう。


魔鍵まけんの所有国についてです」


 そう、世界を改変する力を持つ楽園エデンへの鍵。

 神に等しき力を得る事ができるその鍵を無事、自国が手にしたとしても他国が黙っているわけがない。

 この場でハッキリと決めておくべきなのだ。


「私の国で預かります」


 すると真っ先に静寂を破り、声を上げたのはフィアナ。


「ふッざけんじゃねぇッ!! 何でてめぇの国なんかで保管すんだぁッ!?」


「それにはわしも同感だ。……何故、主の国なのだ」


 ノアがニコニコと涼しい笑顔で眺める中、二人の王の反感に物怖じせず静かに答えるフィアナ。


「そもそも、魔鍵まけんとは我々シアラ神国で発見された神の遺物。遥か遠くの時代、始祖アダムと呼ばれる神が崩壊に落ちた神々の楽園エデンから何とか逃れる為にこの世界との繋がりである扉を作り、鍵を作りこの世界に訪れてきたのが始まり。その最後の終着点であったシアラ神国にて最初に発見されたのです。という事は当然、本来は我々の国が保管するべきだと考えますが」


 魔鍵まけんの出所がシアラ神国なのだからその所有権、保管場所は当然自国だと饒舌にそう主張する。

 だがノアがここで一つ意見する。


「……やはりこうなる事は皆様もわかっていたんじゃないですか? 一応召集しておいて私が言うのもなんですが。魔鍵まけんの所有は必ず世界の争いの火種

になる。ここは公平王と呼ばれる私の国に任せてくださいませんか?」


 「ざっけんなァッ!!!!!」


 ガスタークが地面を激しく踏みつける。

 するとその周辺は崩壊し、部屋が揺れる程の地震が起きる。


「何が公平王だ、あぁッ!? てめぇの国でまんまとあの盗人に魔鍵まけんを盗まれた挙句に逃げられたんだろうがぁッ!! てめぇの国が一番ねぇんだよッ!!!」


 各国の王が静かにガスタークの怒号に耳を傾ける。


「……確かにこのままじゃラチがあかんな」


 そんな様子に一切表情を変えず相変わらずニコニコとしたノアがゆっくりと口を開く。


「そこまでおっしゃるならわかりました。……やはりここは最初から公平に早い者勝ちにするべきですかね」


 三人の王がそれぞれのリアクションを見せる。


「……あぁん?」


 世界を改変させてしまう力の道標である魔鍵まけんの所有を武力に訴えるという。

 それこそ戦争が起きかねない。


「……フフ。あまり私はこのような野蛮な方法は好ましくないと思うのですが、やはり仕方ないですね」


 ノアは三人の王を見つめる。


「しかし、私は公平がモットーの人間です。くれぐれも四大国家として恥ずべき行為は自重してくださいね」


 そう釘を刺す。

 四王それぞれの目は野心に満ち溢れている。


「……私はかまわない。魔鍵まけんは必ず我が国へと還ってくる。……それではお先に失礼」


 そう告げるとフィアナは部屋を後にし、自国へと帰還していく。


「フ、なるほど面白い。良かろう、これ以上の解決策は無さそうだしのう。わしもこれにて失礼するぞ」


「……」


 二人の王は提示された内容に同意し、その場から速やかに退出していく。

 しかし、ただ一人。

 ガスタークだけは不信感剥き出しで部屋に残り、ノアに詰め寄る。


「……おい、てめぇ。……急にどいうつもりだぁッ?」


 胸ぐらを掴み鋭い眼光でノアの瞳を覗く。


「……はて? 一体何の事ですか? ……暴君王、貴方も急がないと先を越されるかもしれませんよ?」


「いけ好かねぇ野郎だ、何を企んでやがるッ……!!」


「……ふふ、以外と思慮深いんですね。私はただ皆様が納得いく解決策を提示しただけにすぎませんよ」


 妙な予感が胸をよぎる。


「ッチ!!」


 ノアを解放し、背を向け自国に帰還する。


「……フフ、お気をつけて」

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