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英雄気取りの三番目  作者: 工藤ミコト
第八章【レイジー】
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96 Cried That Day ②


「う~ん、その刀とやらは重いの?」

「それなりに。鍛練さえ欠かさなければ扱うことは容易ですよ」

「あ、ねえねえ二人とも、ガム食べる?」

「そうだイクト、君の国にいるアレ! ニンジャ! あれってやっぱりものすごく強いのかい!?」

「見たことがないので何とも……」

「ああ、あれか。見ざる言わざる聞かざるか」

「それはまた別物ですね」

「そうだ、キャンディーもあるよ? 食べる?」


「……何故だ! 話が噛み合わないにも程がある!」


 一時間も話をしていれば、新たにイクトを含めた四人の仲はさらに深まってくる。イクトもマリーの隣に腰を置き、笑みまで浮かべるようになっていた。エリックは取り残されながらも、何とか突っ込みはしていた。

 四方八方に散った会話を終えると、四人は普通の遊びを始めた。

 マリーにとってのこの時代は、楽しい時間が一目散に過ぎ去るだけの印象だ。エリックもまた嫌いなものは嫌いで、好きなものは好き。正直で裏表の無い人間だった。イクトは固いものの、結局は同い年の男の子だ。

 そしてニケが、個性豊かな三人のバランスを取ってくれていた。

 鬼ごっこをすれば大人げないイクトが風のように駆け回り、一度かくれんぼが始まればニケは絶対見つからない。エリックはそんな二人に振り回され、マリーはそれを見るだけで楽しめる。

 笑い声の絶えない、そんな時間がこの日も新鮮に過ぎ去っていった。それから疲れも出始め座った頃、マリー達はまたおしゃべりを始めた。


「イクトは将来何になりたいんだい?」


 新参者に対してのニケの純粋な好奇心。採りたての木の実を片手に問いかけてきた。


「……僕ですか」


 受け取った木の実を拭いて一口かじってから考える。


「……特には」

「ふ~ん、そっか。俺は探偵になりたいんだ。部屋の隅に隠された小さな謎を見つけ事件を瞬く間に解決する! 俺の名は名探偵の称号と共に大陸中に響き渡るんだ!」


 両手を広げ大空を仰ぐ。空を見上げるその瞳には輝きのみが込められている。周りの空気を纏めあげるような野心に満ちていた。

 ただ、せっかく採った木の実を今の動作で投げ捨ててしまったことが勿体ないと感じていたイクトには、返答ができなかった。


「私はねパティシエになりたいの!」

「君と僕は軍人になるんだ。二大貴族なのだからそのくらい分かっているだろう」

「まあまあエリック、将来何になりたいかなんて、マリーの自由じゃないか。もしかしたら、マリーがお父さんに破門されるかもしれないし」

「うふふ、ニケったら、お父さんがハミングするだって、へんなの~」

「二人ともバカを言うな」


 ニケのフォローをマリーが笑う。エリックが呆れながらも突っ込みを入れる。数分に一回はあるようなやり取りも、気づけば夕暮れ時にまで行われていた。


「そろそろ行くよ。時間だ」

「そっか、じゃあねニケ」


 マリーが手を振りニケは返す。辺りは橙色に包まれ始め、気温も気分と共に下がっている。マリーの護衛として、イクトも帰宅を促そうとしていたところだった。


「じゃあ、また明日」


 ニケがそう言うと、継ぎ接ぎだらけの服から始まり、やがてそのくりっとした顔まで、消えたのだった。一瞬のうちに帰ったのでも、転移で飛んだのでもない。姿が、文字通り消えたのだった。


「えっ?」


 暗くなり始めているここだ。 もしかしたら、見失ったのかともイクトは思った。日々鍛練しているレイジー家のボディーガードが、そんな失態をするわけないと直後に否定したが、 とにもかくにも、その姿は消えていた。


「ああ、そっかイクト君今日が初めてだもんね」

「は、はあ」


 一方の、マリーとエリックは冷静に帰る準備をしていた。


「ニケはね、姿を消す魔法を使えるんだ。魔法がスッゴい上手でね、私よりもすごいの!」


 マリーがにこやかに教えてくれる。


「平民がこの敷地内に入ることは許されない。警備の目を潜り抜ける力は嫌でも身に付くさ」

「えへへ、エリックったら呆れながら感心してる。おもしろいムジョンだね」

「矛盾ですね、お嬢様」


 この辺りは全てレイジー家の敷地。レイジー家の領地はまた別の場所で、ニケはそこの民でもない。同じ二大貴族のエリックや、ボディーガードのイクトは話が別だが、平民という身分に収まる彼には処罰ものだ。

 最悪死刑にだってなりかねない。

 その為、このように集まって遊ぶ場合はニケの魔法を何としてでも上達させなければならない。上手くなるのも当然だった。魔法の才はこの時既に英才教育を受けているエリックさえも、見下している程だ。


「う~ん、やっぱりブドウ味じゃないかな?」

「え~、オレンジだよ」

「僕はリンゴです」

「ハッカを知らないとは……不幸な者共め」


 その日から数週間経とうとも、四人は仲良くいつもの場所に集まっていた。エリックが持ってきたドロップ飴一つで一時間の議論を交わしている最中、マリーの目に留まったのは走るメイドさんだった。


「あれうちのメイドさんだ」

「何故こんなところに?」

「そんなことより、ニケ」

「うん」


 いつもの休憩所で呑気に笑っていると、その人が横切っていった。咄嗟にニケは得意の魔法で姿を消したが、マリー達には目もくれずにどこかへ走り去っていってしまった。

 ひどく慌てているような様子で、マリー達のことは気づいていない。強化魔法を最大限に使って一秒と掛からずに消えた。


「なんかあったのかな……」

「そんな感じだな。マリーは聞いていないのか?」

「あの人はパパの近くで仕事してる人だもん。そう言うエリックは?」

「僕が知るか」


 二大貴族とはいえ二人はまだ十歳。その歳ではたいしたものは教えてもらえない。コネ作りのためのパーティーにさえ数回しか出たことの無いマリー達は、二大貴族と言うには不十分すぎるのだ。

 そしてそれはイクトも同じだ。天才剣士とも呼ばれた実力を誇るものの、結局は十二歳。レイジー家に来てからの仕事はほとんど雑用だった。


「臭うね……」

「やだ、エリックったら」

「ぼ、僕は何もしてないぞ!」

「その臭うじゃないよ。事件のかおりさ」


 ニケはくりっとした瞳を輝かせながら遠くを見つめていた。変人探偵の名に恥じない頭の回転速度が今まさに発揮されている。突っ込みも雑なものだ。


「メイドが急いでいる。彼女はマリーの父親のメイドをしていてマリーとの接点はない。イクトにも知らされていないとなると、本当に何も無いか大きな何かがあるか」


 一人言が増え始め、ニケの魔力が少しだけ高まっていく。顎に手を添えて周りをすたすたと歩き回り始めた。


「……だめだ、情報が少なすぎる」

「考えすぎじゃないか? 買い物の忘れとか」


 エリックが身近な部分で攻めていく。しかしニケは首を横に振った。


「だったら【転移(トランスファー)】を使えばいいよ。レイジーのメイドさんなら使えるだろうし、その方が断然早い」

「じゃあ何で使わなかったの?」

「わからない。ただ、“使わない”のではなく“使えない”んじゃないかと思う」

「でもニケ、さっき使えるって言ったじゃない」

「それは技術的な問題だ。しかしそれだけでは魔法は使えない。俺はこの場所に来るまでに魔法を“使わなければならない”。そういう場面での魔法の使い方っていうのがあるんだ」

「へ~」


 マリーには伝わっていないことがわかっていたが、ニケは思考を止めなかった。メイドが走っていただけの些細な違和感ではあるが、ニケにとっては大きな違和感。


「まさに神秘的な謎だね」

「スイッチ入っちゃった」

「はあ……いつもこれだ」

「え? えっ?」

「イクト、一週間後にここへ集まろう」


 ニケはそう言い残して消えていった。


 * * *


「やあ諸君、集まったね」


 すぐに一週間の月日は流れた。相変わらずレイジー家のメイドは不自然な行動が目立ち、その余波はついにベルナルドにまで及んでいた。

 二大貴族の両家が昼夜問わず忙しなく動いているのだから、自然と近隣の領地にも影響が出ていた。

 その中で集まった情報はもちろんニケにも伝わっていた。むしろニケがこの一週間を無為に過ごすわけがなかった。


「やっぱりおかしいと思うの」


 マリーはニケに相談してみる。いつものように目を輝かせ、木の実をかじりながら話を聞くニケ。


「まさに謎だね」


 本当に幸せそうだ。


「何にせよマリーは知らなくてもいいことなんだろう。変人探偵も首を突っ込まない方が良い」


 エリックは興味無さげにそう呟くと、眼鏡を直し休憩所の椅子から立ち上がる。外へと足を動かすエリックを皆は目で追う。空を見上げた後、マリー達の方へとエリックは向き直った。その一連の動作には、不自然さがたっぷり詰まっていた。


「僕の家も同じだ。今日の下級魔法訓練も中止になった」


 エリックはマリーに目を合わせた。


「雨が降りそうだ。一度戻ろう」

「待って、なんでエリックのお家も皆バタバタしてるの?」

「分かるわけないだろう」

「それなんだけど、マリーの家に行ってみないかい?」


 手詰まりの二大貴族達に変わってニケが意見を出す。


「私のお家に?」

「うん」

「しかしニケは屋敷に入れません」


 イクトがそこに気づいている。何よりも、イクトはレイジー家に務めるボディーガードだ。例え友達だとしてもニケを入れるわけにはいかない。しかしニケの目は、この時になって一層輝いた。


「僕の魔法はこういう時の為にあるのかもしれないね」

「あ!」

「どうせなら、みんな共犯だ」


 ニケはマリーの腕を掴んで笑った。途端に、高まった魔力を感知できることもなく、ニケとマリーの姿が消えた。


「最近になってようやく安定してきたんだ。今なら俺が触れたものなら一緒に透明化することができるよ」


 腕を介せば、この魔法は他者にも使うことが出来ることが今判った。取り残されたイクトとエリックは声には出さずとも驚いた。


「こういう魔法は役に立つだろ?」


 次の瞬間現れたニケは今にも走り出しそうな勢いだった。


「ニケ、君はそういうことに関しては恐らく大人以上ですね」


 イクトの言葉に照れるニケは走り出した。ふんと鼻で笑うものの、イクトに続きエリックも走り出した。


「エリックも来るなんて意外ね! エリックもやっぱり男の子だったんだね!」

「マリーに言われるのは癪だ」


 目指す先はレイジー家邸宅。目的は二大貴族両家の異常の調査。そうして刻は直後まで進んでいく。

 

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