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英雄気取りの三番目  作者: 工藤ミコト
第七章【時の支配者】
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75 担任のセンセイ


 * * *


 それからすぐに夏季休暇が明けた。

 その日は始業式の日だが、先ずは全員が教室へと集まるということになっている。朝のホームルームのうちに点呼をとってからの集会だ。しかし、そこに集まった生徒達の面持ちは暗く下がっていた。

 シエラの殉職、ネリルの殺害、【メガイラ】という組織の者達の侵攻と、この夏は事件が重なった。生徒達の情報網は凄まじく、既にほとんどの者が知っている。

 まだ始業のチャイムが鳴るまで五分とあるのに、1ーAの教室にはリュウも含む生徒全員が集まっていた。その全員が言葉を発しようとすらしていない。重苦しい空気が教室に充満し、いつもはお喋りの男子も、彼氏の自慢ばかりする女子も喋らない。喋ることができない。

 そうして、チャイムが鳴った。

 しかし、本来ならば来るはずのシエラは来ない。いつもは時間ピッタリに来るというのに、次に扉が開くまでに五分もの時間を要した。


「席につけ~」


 入ってきたのは男性だった。黒い髪の毛は寝癖なのかあらゆる方向に跳ねており、死んだ魚のように据えた目をしている。覇気の無い声で少し喋ってからその男は教壇に立つ。


「一年Aクラスの皆さんおはようございます。とりあえずまあ、……あ~、俺の名前はフェルマ・クオルト。本来はBクラスの担任を続ける予定だったが、訳あってこのクラスを受け持つことになりました。心にも思ってませんが、よろしく」


 次の声は気怠そうなそれだった。


「好きなものは酒とタバコ、担当は魔法史。あ、魔法史担当も前のヤツから俺に変わるんでそこんところよろしく」


 沈んだ空気をさらに悪くし、危機的状況にまで追い詰める。Aクラスの朝はこのような始まりではない。太陽の塊のようなリュウが朝に弱いと、その時だけはシエラが代わる。暑苦しいほどに優しい時間を提供してくれた。


「たくよぉ、なんで死んだ奴のクラスなんか持たなくちゃなんねえんだよ」


 直後、この一言がリュウ達に向けられた。吐き捨てるように、目一杯の気怠さの込もったそんな言葉。生徒達がピクリと反応した。


「ったく、問題児だらけじゃねえかよ」


 フェルマは尚もだらしなく立ちながらさらに続けてしまう。


「変に死にやがって、そんなことならいっそとっとと辞めときゃ良かったのにな」


 もう、我慢の限界だった。机を蹴り飛ばし、立ち上がったのはリュウ。


「テメーふざけてんじゃねーぞ! 何勝手なこと言ってんだよ!」


 教室にリュウの声が轟いた。今にも襲いかかりそうに、前のめりに蹴った机に足を置く。フェルマは教卓に置いた名簿を開き、そこに書いてある文字を静かに読む。


「リュウ・ブライト。お前か、問題児の中心は」


 ほおと勝手に納得し、直ぐに名簿を閉じリュウを見る。


「わかったから座れ」

「謝れ!」

「あ?」

「シエラに謝れって言ってんだよ!」

「ホームルームの最中に教師の言うことを無視するような奴の言うことを聞くとでも?」


 フェルマの目付きが変わる。死んだ魚のような目から、鋭く尖った剣のような目になってリュウを突き刺した。


「シエラはお前にバカにされるようなことは何一つしてねーぞ!」

「それはお前が決めることじゃねえんだよクソガキ」

「なに!?」

「ほら始業式だ、とっとと体育館向かうぞ」


 リュウの声などお構い無しにフェルマは事を進めていく。リュウの怒りは溜まるばかりであった。


「やってられるか! お前のクラスなんかこっちこそ御免だ!」


 そう言い残し、リュウは教室から出ていってしまった。この日、リュウは始業式を欠席した。


 * * *


 その次の日、休日。結局寮に戻ってしまったリュウは、現在軍から呼び出しが掛かりそこへ向かっている途中だった。考えていることと言えば、昨日のこと。


(うぜー)


 歩きながら、その不満をぶつけられずにいた。

 しかし、始業式をサボったことについては何のお咎めが無かった。普段ならば特別指導という形で反省文を書かされたりするのだが、今回は注意すらされなかった。何故フェルマの性格はあんななのか、何故始業式のことについて何も言われないのか。

 そんなことをあれこれ模索しているうちに、リュウは巨大な鉄門の前に立っていた。


「あ、お~い、こっちこっち!」


 ふと右を見るとそこには鮮やかな金色が。短めのさらさらした髪の毛と整った顔立ち、四元帥が一人《皇炎の支配者》の二つ名を持つロイ・ファルジオン。手を振りながら笑っている。とてつもなく眩しい笑顔だった。


「遅いねリュウ。とっくに皆集まってるらしいよ?」

「それについては、俺の目覚まし時計に……」

「ふうん、師匠に言い訳するんだ……」

「な、いや、だからそれは!」


 話を切り替えるのは、ロイの方。


「俺には時間が無いから手短に話すね。今から行く場所、【アルデバラン】は知っての通り最高のギルドだ」


 魔導師ギルド【アルデバラン】。

 イデアの首都アルティスに存在する魔導師ギルドの中でも、最高の実績を持つギルドだ。ギルドと言うだけあり、個人の魔導師を連携させ民間の依頼をこなしていくことが目的である。

 主な仕事内容としては、魔物退治から道端のゴミ拾いまで様々なのだが、高い信頼と実績を持つ【アルデバラン】の所属者は軍の依頼を受けることもある。

 ギルドマスターが仕事を仲介し、その了承の下に仕事を行うことが一般的なギルドの体系でありそれは【アルデバラン】にも当てはまるが、少しここは特殊なギルドであった。


「さあ、ここだよ」


 ロイに連れられてやって来たのはアルティス西に位置する大きな酒場だった。

 扉は取り付けておらず、解放感の溢れる入り口。入ると、何十とある木製のテーブルを囲って朝からお酒を片手に踊る人達。奥にはバーのカウンターがあるだけの、普通の酒場だ。

 一つ変わっていることと言えば、空中を飛び回る文字があること。一つ一つが仕事の依頼で、ギルド内を徘徊している。気に入った仕事があれば、持っている紙に焼き付けられるようになっている。

 とてもお洒落なギルドだった。


「あ、いたいた」


 ロイが先導しカウンターの方まで向かう。そこにはお馴染みの四人の姿があった。ギクシャクした関係になってしまったアルもいることが妙に嬉しい。マリーの前に積まれた皿の数を数えながら、リュウもカウンターの椅子に座る。


「マスター。彼らの登録書を持ってきましたよ」


 ロイが五枚の紙をカウンターに置いた。一人だけ、カウンターの中でグラスを磨いている人がいる。バーテンダーの格好をしたその男性は五枚の紙を奥の部屋に持っていってしまった。

 てっきりリュウは、その人がマスターなのだと思っていた。しかし、全く此方には見向きもしていなかった。不思議そうに、いつの間にか置いてあったオレンジジュースを一口飲む。


『ヘイ待たせたネ! こいつらがあの噂の学生カイ? 若いネ~!』


 瞬間、目の前に現れたのはカウボーイの格好をしたおじさん。格好良く決めポーズをしている。しかし、そのおじさんは時折ノイズでもかかったかのように、体に線が入っていた。


「彼が……っていうより、この“映像”がギルドマスターだよ。名前とかが無いからマスターって呼んであげてね」


 所謂ホログラム。それがギルドマスターの正体であった。


「すっげー!」


 つい口に出していた。どんなに重くのし掛かるような出来事があったとしても、やはりそこは男の子。リュウはリュウだ。


『HAHAHA! そこまで誉められるなんてナ~、良いね兄ちゃん気に入っタ!』


 マスターはくるくると回りながら笑う。一応機械なのでちゃんとした感情があるのかは分からないが、それでも楽しそう。

 その時、マスターっぽい風貌で人間であるバーテンダーが奥の部屋から戻ってきた。その手には五枚のカードがある。


『これが“ギルドカード”サ! 学生だって言うからレッドカードだぜィ!』


 バーテンダーからカードが手渡された。それぞれの名前と年齢、使える属性とギルドナンバー。赤く輝く綺麗なカードだった。


「赤じゃん! かっけー!」


 リュウは自分の好きな色である赤のカードに喜んだ。しかし、他の皆はそこまで喜ぶことは無かった。好きな色ではないというのもあったが、理由はちゃんとある。


「君達はこれでEランク魔導師になった。おめでとう」

「サンキュー、ロイさ……ん? Eランク?」


 ロイのEランクという言葉にリュウは反応した。ランクという言葉とアルファベットとの関連性については、意外にも知っていた。


「赤はEランクの印だ。下から順に赤、青、緑、銀、金、黒。まあ学生だししょうがないね」


 Sからのランクがなんとなく分かったリュウは、複雑な気持ちに陥っていく。好きな色だが、Eランク。Eランクだが、好きな色。


『リュウ! おめえならすぐにSランクまで行けるゼ! 頑張んナ!』


 マスターがくるくると回り、最後にグーサインを出し励ます。清々しいまでのその機械の行動に、自分の悩みが馬鹿らしくなった瞬間であった。そしてこの瞬間から、リュウ・ブライトの物語はまた一つ進んでいく。

 

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