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英雄気取りの三番目  作者: 工藤ミコト
第六章【学園侵攻と英雄の謎】
71/301

70 ソング・オブ・キャプティブ


 * * *


 ヨンと同様に魔法で飛ばされたロクは、先程自身が壊した元体育館の瓦礫の山に着地していた。

 用心深いロクは既に魔力探知を完了し、ヨンの居場所を捉えている。しかしそちらに駆け付けようという素振りは一切見せない。しないと言うことではなく、出来ないと言うこと。


「……とは言ったものの、やはり捕らえねばなあ」


 顎をさすりながら歩いてくる大柄な男を前に気軽に動けるほど、ロクに余裕は無かった。先程ロク自身に魔法を放ったゾットよりも、さらに質の高い魔力を持ち合わせているのだから当然だった。


「おお、そこにいたか」


 魔力探知を両者ともにしたではないかと、言いたくなったロク。


「見たところ筋肉が足りないようだ」


 ローブの上から勝手に体型審査が始まっていたので、それは堪えた。しかし、呑気なことを言っているがクロツグには隙が無い。捕獲任務が、ここまで骨が折れる仕事にすりかわってしまったことに、後悔と諦めを覚え魔力を高めるロク。


「手加減できんぞ?」

「無用だ。早くヨンの元へ行かねばならぬからな、手短に頼む」


 張りのあるクロツグの筋肉がより一層大きくなり、魔力を纏う。ロクもまた張り合おうとした。シエラの強化魔法を見たからなのか、少し物足りなく感じるがそれでも一流だ。ロクも足を強化しクロツグへと向かっていく。ロクは接近戦が得意ではない。

 まともに当たれば押し負けると直感し、少し右側へずれる。反撃しようと拳を振るったクロツグの下に入り込み、左脇腹に思いきり拳を叩き込む。唸りを小さくあげてその場から離れられてしまったが、あばら骨は何本か折ったはずだ、と。

 ロクは感じなかった手応えに不信感を抱きつつも、そう自分に語りかけた。


「悪くは無いが……」


 クロツグは攻撃を受けた左脇腹を手でおさえながら魔力を高める。


「貴様、それでも魔導師か!」


 折れてはいないことを確認してからロクへ向け咆哮する。


「なんだその拳は! 全然力が入ってないぞ! 踏み込みと重心移動が出来てないんだな。……よし、もう一度それを意識してやってみろ!」


 勝手に分析され、さらにもう一度の要求をしたクロツグ。ロクは不思議そうにただクロツグを見つめ固まっていた。


「どうした来ないのか? まったく、最近の若者はどうしてこうも貧弱なんだ」


 自分はそもそも若者ではない。クロツグも、それを語るにはもう少し人生を長く歩むべきだ、と。言いたいのだが言うだけ無駄であった。気持ち良いくらいにきっと話が噛み合わないだろうという直感に、自信を持つ。


「どうでも良い。喋りすぎは良くない」


 ロクは姿を消した。


「舌を噛むぞ」


 一瞬にしてクロツグの目の前に現れたロクは、顎に強烈な蹴りを入れた。上へと蹴り飛ばしたクロツグの腹に、さらに拳を叩き込む。だがそれでも、手応えを感じない。


「やはり、つまらんな。まだゾットと組手をするほうが燃えてくる」


 地面に着地し、口から出た血を拭いながらの一言だった。


「私の学園を壊した者がどれだけ強いのかと思えば……」


 頭を抱え、首を横に振ったクロツグ。手を離し殺気を向ける。空気よりも、それは大地に近いところの。流れが変わった瞬間だった。


「やはり、潰そう」

【次元転送・ソング・オブ・キャプティブ】


 異空間の穴を開け喚び出したのは、重厚な鉄枷であった。クロツグの手に持たれたそれは分厚い四つの鉄の輪を鎖で一つに繋いだだけの物だった。


「それで捕らえようとするか。ちっぽけな鎖だな」


 鎖の長さは一メートル強。加えてその鎖も鉄輪も古く草臥れている。とても実践に使えるようなものではなかった。


「あまり使いたくは無かったんだ。そう言うな」


 そう言いながら地面に鉄枷を投げるクロツグ。無造作に地面に投げつけるということに違和感はあるも、まだ魔力は高まらない。


「自分で喚び出したくせに直ぐに捨てる……わけないか」

「見せてやろう。醜き我が武器を。解放【操者の唄】」


 言葉がスイッチとなり、鉄枷は魔力を帯びはじめる。

 すると、それに反応した鉄枷が淡く光り始めた。徐々にカタカタと小刻みに揺れ始め、光が強くなったかと思うとすぐにその鉄枷は土の中へと姿を消してしまった。吸い込まれたようにも、自分から動いたようにも見えるものだった。

 それから数秒、土の中から現れたのは女性だった。台座に乗っているため、丁度クロツグと同じくらいの背丈だ。ザラザラとした見て分かるような質感に茶色の服と肌。

 おかしなことに、間違いなくその女性は土で出来ているのだ。目隠しをされ、台座に固定された女性の土像。腕と足には鎖で繋がった鉄輪が付けられている。クロツグが地面に投げ捨てそこに吸い込まれた『ソング・オブ・キャプティブ』だった。ドレスやパンプスなども付けられているが、所詮土なので傍目ではわからない。


「囚われの女性の像か。良い気はせんが、醜いと言うよりは美しいといった顔立ちの女性だな」

「そんな所はどうでもいいんだ。筋肉が無いというところに醜さがある。それ以外に求めるところは無い!」


 ロクはクロツグとこれ以上の会話は不可能だと悟った。女性に筋肉を求めるのは、例え悪者でもあり得ないと再度胸中で確認する。


「お前、よもや会話も成り立たぬ」


 ロクは駆け出した。クロツグの言われた通り。最高の一撃を目指して拳を振るう。

 しかし、クロツグは最早先頭の意思を示していなかった。身構える様子もなく、腕組をして仁王立ちを決め込むのみなのだ。そして耳から入る綺麗な歌声が、ロクの足を止めさせた。


「……これは、讃美歌か?」


 地面から出てきた。目を隠され手足を縛られた土の女性が歌い出していた。綺麗なソプラノの声だが、神を讃えるような雰囲気の歌では無かった。どこか不気味さを含んだ黒い歌だった。


「鎮魂歌に似てるかもしれんな」


 途端、周りの土が蠢き始めた。ロクの知る限り、ここまでの範囲の土を動かせる魔法など最上級でもあるかないかと言うところだ。

 あり得ないほど広大な範囲の土が動く。元体育館の瓦礫も動き始め、さらに範囲は広がっていく。まるで荒れた海の上にでも立っているかのような感覚にロクは陥った。


「無機物を操る私の魔法武器。土はもう私のものだ」


 一段と女性の声が澄んでいく。そして作られたのは土の拳。土の海の中から幾つも現れ、先がロクへ向く。

 四方を埋められ足場も少ない。ロクがそう悟った頃にはもう足が埋まっていた。クロツグがニヤリと視線を向けている。それでも、ロクには勝算があった。


底無しの胃袋(イビル・イーター)


 黒い球体を生み出す。口を開けノコギリ状の歯が嫌らしく目立つその魔法は、直ぐに拳へと食らいついた。

 しかし、一つを食いつくしてもまた次の拳が現れる。仕方ないと切り替えたロクは【底無しの胃袋(イビル・イーター)】を自分の足元へとやり、足を埋めている土を食わせる。


「何でも喰らう魔法か……いや、分解のまほうか。闇属性の中でも、あまり見かけぬ魔法だな」

「教える義理は無い」


 上手く脱出できたロクは器用に拳の表面に足をつけると、走ってクロツグの方へと向かった。クロツグの武器『ソング・オブ・キャプティブ』はさらに手を増やし、今度は捕らえようと掴もうとしていた。

 その手を走って躱し、魔法に喰らわせる。喰らわれた分だけその場の土を使い、新たな手を生み出す。そしてまた、踊り出す。辺りを縦横無尽に駆け回り逃れるロクに、止めようのない鉄枷の土像の手が迫る。咄嗟に逃げ道を探す。入り乱れる土の手で、最早視界の確保もままならない。


「喰らえ」


 しかしそれでも【底無しの胃袋(イビル・イーター)】が土の手を喰らう。力の差はそこにはあるというのに。黒い球体はそれ以降喰らうことも出来ず手に捕らえられる。いつのまにか、ロク自身もその手に捕まっていた。


「何か言い残すことはあるか?」


 近づいてきたクロツグが、言う。その隣でとてつもない魔力に包まれている土像を一瞥し、ロクは返す。やっと諦めた。


「ヨンだけは殺すな」

「……そのつもりだ」


 鉄枷を着けた女性の土像が、咽び泣く。辺りの土という土がロクを押し潰した。グラウンド全ての土を使い、ロクを圧死させる巨大な城が、造り上げられた瞬間だった。

 

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