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英雄気取りの三番目  作者: 工藤ミコト
第六章【学園侵攻と英雄の謎】
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68 後悔にさえ食らいつく


「シエラ!」

「う、うわあ!」


 一瞬で四人の視界が変わり、目の前に現れたのは輝く剣。見慣れた軍服に身をまとった男性とその剣が見えたことで、自分達が飛ばされた場所を確認する。何度も通った修行の場所。ここは【アルテミス】闘技場だった。


「あのう、不審者ですか?」


 軍専用の戦闘服に身を包んだ男性が、四人の目の前に刺さった剣を抜きながら話しかけてくる。


「って学園の制服だしそんなわけでも無さそうですね。それにそのゲートみたいなやつ、何なんで……あ、消えた」


 恐らく隊士であろうその男の言葉に、真っ先に反応したのはリュウだった。


「おい、嘘だろ……? なあ。おい!」


 訳が分からないといった様子の男性は首を傾げる。


「ちくしょう!」


 そんなこともお構い無しに、リュウはこの闘技場の出口へと走っていく。


「どこ行くのよ!」

「決まってんだろ、シエラん所だ! 早くしねーと間に合わない。お前らも何やってんだよ!」


 リュウは大きな闘技場全体にも響くような大声で、怒気のこもった言葉を放った。だが、その言葉を受けてリュウに着いていこうとするものはいなかった。


「すみません。僕は少し頭を冷やしてきます」


 イクトが不自然に出来た間を壊してどこかへ行ってしまった。荒れ狂うような魔力を肌で受けていた隊士の男は、その状況を重大だと言うことは理解した。


「何かあったのかい?」


 真剣な表情でリュウに問いかける。説明する時間も惜しいリュウは、ハッと何かを思い付いたように男に近づく。


「おい、アンタ転移出来るか?」


 鬼気迫るリュウの言葉に男はたじろぐ。それでも、


「僕はそんな難しい魔法出来ないよ……」


 ここで男が出来ると言ってしまえば、リュウは何をしてでも男に転移を使わせる。また、あの場所へ向かうことを辞めさせなければならなかったこの状況で、少し安堵していたティナ。だからと言って、彼女自身もシエラを諦めている訳ではなかった。


「あの、お願いです。すぐに今ここに居る一番偉い人に会わせてください!」

「は、はっ?」

「だから……その、そうだ! ゾット副隊長はいますか?」

「え、え?」


 ティナの元までやって来た【アルテミス】隊士には、学園で何が起こっているのか伝わっていない様子だった。防魔結界のせいで情報伝達が出来なく無理もないのだが、ティナにとっては早急の事態。ここからは穏やかにはいかない。


「ほんとドン臭いわね! 副隊長に会わせろっていってんのよ! 学園に転移出来ないからそういってんじゃない! こっちは命懸かってんの、さっさと取り次ぎなさいよボンクラ!」

「へ、へぁい!」


 隊士が大急ぎで闘技場から出ていく。見ていたリュウ達も、出ていった隊士と訓練をしていた数名の隊士達も皆固まっていた。活火山も顔負けの大噴火だった。


「学園? それって魔法学園に行ければいいのかな?」


 固まる隊士の後ろから現れる、訓練をしていたもう一人の隊士。中肉中背の彼は事の重大さに少なからず気づいているようだった。


「行けるんですか?」

「行けないことはないよ、僕は転移魔法使えるし」

「それが駄目なんです。防魔結界と幻覚結界が張られていて……。今までの騒ぎだって気づいてないようだし……」


 ティナの表情から緊急性を汲み取る。だからこそ、本来であれば行使の不可なそれを持ち出す。


「緊急転送魔法陣があるから大丈夫だよ。君達もそれでこっちに避難してきたんだろ? その話が本当ならすぐに非常事態宣言をしてもらわないと」


 聞きなれた単語にリュウも反応した。男が首にかけていたペンダントを外し、それを見せてくる。【アルテミス】の紋章と、男の名前らしき文字が書かれた銀色のペンダント。雫のような形をしたそれを開くと、中には見覚えのある小さな紙が入っていた。学園長室でシエラから貰った紙と全く同じだった。


「学園の物は軍に、軍の物は学園に繋がってるんだ。緊急時には連携が大事だから」

「なんでそれを早く言わねーんだ!」


 銀色のペンダントを強引に奪い取るリュウ。すぐに中に入っている紙を取りだし魔法陣を確認する。小さく折り畳まれた紙にはしっかりと魔法陣が描かれていた。


「早くしねーと……」


 最後に見たあの顔を思い出し、さらに焦りが募る。すぐに皆と一歩離れた場所に移動した。


「とりあえず上官を呼ぶまでここにいてもらわないといけないんだけど……」

「ゾッちゃ……ゾット副隊長! 俺の名前出せばなんとかなるから!」


 そんなやり取りから焦燥感が限界までやって来る中、魔力を高める。その時間さえもどかしい。


「リュウ待って! 危ないよ!」


 魔力を高め始めたリュウの元に隊士も含める三人が走ってきた。


「なに言ってんだよ。シエラの方が危ねーだろ!」

「そうだけど……だけど、私達が行ったって足手まといになるだけよ」

「俺一人で行くから大丈夫だ!」

「もっと不安よ!」

「んだと?」


 言い合いをしている中で、魔力は転移するのに十分なほど高まった。魔法陣が光り出す。


「……だめだ」


 もう後少しという時、今度はアルが呟いた。高まったリュウの荒々しい魔力が周りに突風を起こす中でも、小さなその声は聞こえた。どこか悲しげな苦しげな想いが込もったその声に、リュウもティナも黙る。


「シエラ先生ですらあんなにも追い込まれる程の相手だ。しかも狙いはお前。敵の思う壺だろ」


 紡がれる度に強くなる語調。普段喋ることを極端に制限する彼から、必死の想いが溢れてくる。強くなる言葉とは対称的にどんどん顔は下を向き、揺れる綺麗な白髪すら霞んでしまったかのように見えなくなっていく。

 リュウは髪の毛を操りながら嫌らしく笑う少女の姿を思い出す。魔法を覚え強くなったはずなのに、殺気一つで足がすくんでしまった。


「で、でも──「だめだ!」


 闘技場全体に響いた咆哮。そして、鈍い音。

 普段のアルからは想像も出来ないほど大きな声が、辺りに伝わる。だがリュウはその声が聞こえる前に、地面に倒れ込んでいた。

 アルは一歩を全力で踏み、リュウを殴り飛ばしていた。

 思わずティナも、隊士でさえもが強ばった。誰にも手をあげないどころか、攻撃の意思を示した事のないアルが、リュウを殴り飛ばす。一瞬誰にも、その状況が理解できなかった。高まっていたリュウの魔力が収まると、アルは倒れたリュウを胸ぐらを掴み起こした。


「だめなんだ!」


 リュウと同じ青色の瞳。リュウなどよりも輝きの強いその瞳で睨み付ける。


「行っちゃだめだ! お前は、お前達は弱いんだ。思い上がるのもいい加減にしろ!」


 リュウの身体を揺らしながらどうにかして想いをぶつける。不器用ながらにようやく出た言葉だった。どんなに強く怒りをぶつけても、アルの青い瞳の奥には哀しみが詰まっているようだった。リュウはそれに気づいてしまった。


「……せよ」


 リュウがアルの腕を掴む。


「離せよ。俺は強くなったんだ! だからシエラを助けて、アイツらぶん殴って戻ってきてやる!」

「『本当の強さ』すら見つけられない奴が偉そうな事を言ってんじゃないぞ! 現実を見ろ!」


 アルの強い言葉がリュウを射抜く。一瞬目を見開き固まったリュウだが、すぐに我に返る。アルの手を無理矢理引き剥がし、


「うるせー!」


 思いきり殴り飛ばす。


「アル!」


 起き上がったアルの口元からは血が垂れていた。あわてて駆け寄ったティナだったが、振り払われていた。【アルテミス】隊士はどうしたら良いのか分からないといった様子だ。


「俺は行く。『本当の強さ』を見つけたから」


 再び魔力を高める。


「俺は仲間を守るために強くなった」


 言葉が終わる前に、リュウは光に包まれていった。まばゆい光の中でも、リュウの姿ははっきりと分かる。赤く映える髪が揺れる中、ティナは叫ぶ。


「待って!」


 そんな、一人の少女の静止も虚しく、赤く怒りに満ちた少年はその場から消えた。後に残されたのはなんとも言えない虚無感と皆の胸を締め付ける不安感のみだった。


「アハハハハハハハハハハ!」


 一瞬の視界の変革。闘技場から学園長室まで渡ったリュウの青い瞳に最初に映ったのは、吹雪のように舞う鮮血だった。狂った女の笑い声も、小さなくぐもった女性の声も耳には入らない。黙って佇む男の姿も、乱舞する黒髪も見えてない。


「シエラ!」


 胸を貫通しているのは魔力で強化された髪の毛、手に持つ棍棒は既に柄の部分しか残されていない。ぐったりとし、動く気配のないその女性は誰が見ても分かるほどに死んでいた。


「あ、英雄君だ。よかった~、探しにいこうとしてたんだよね~」


 笑みを消そうとすらしない少女は、シエラを捨てて血を払い髪の毛を元の長さに戻す。シエラをぞんざいに扱う少女に怒りを覚えたが、そんなことはどうでもよかった。ピクリとも動かないシエラの元へと駆け寄ろうとする。


「動くな」


 しかし、放たれた殺気によって足を止められる。ただの言葉だというのに、そこには絶対的な何かが含まれている。クソ貴族ことエリック・ベルナルドの魔法武器にも似た効果を、ただの言葉で起こしてしまった。

 リュウは最初からわかっていた。圧倒的な力の差を。

 込み上げる恐怖は、他の一切の感情を寄せ付けない。迫り来た少女の髪の毛が自身の首に巻き付くまで、何にも反応することができなかった。


「がはっ……!」


 息苦しくなる中で、リュウは気づかされる。どこまで己が無力なのかを。怒り、憎しみ、後悔、恐怖、そのどれもが混ざりあい意識を奪っていく。

 意味がないというのに、涙ばかりが出てくる。キツく締め上げられる中で、それ以外には何も無かった。


「殺すなよ」

「わかってるって。気絶させるだけだよ~」


 きりきりと、首を絞める髪の毛の力が強くなっていった。薄れ行く意識の中で、それだけは聞こえた。それしか聞こえなかった。


(なんでだよ……なんで、こんな事になっちまうんだよ)


 呼吸も出来ず助けを呼ぶことすら叶わないこの状況で、思い立ったのは己の失態。


(結局これかよ。『本当の強さ』ってのは何かを守りたいって思う事じゃないのかよ……)


 自分自身に問い掛けてみたところで、帰ってくる返事など無い。現実ばかりが突きつけられる。遂には、走馬灯のような物まで見え始めた。

 大雨の中自分についての一切の記憶を失って、なぜか倒れていたあの日。そこで拾われたから、イデアにやって来た。そこで、アルに出会いティナと出会った。

 いつも三人一緒で、今までやって来た。小学生のころにはイタズラを、中学生のころには喧嘩を飽きるほどした。

 憧れの魔法学園に入学できた。徐々に強くなっていく中でマリーとイクトに出会った。

 ロイという人に『本当の強さ』とは何かと問われた。色んな人と話すなかでそれは「仲間」を守りたいと思う心の事だと思った。思い込んだ。勝手に一人で悩み、先程それを一人で見つけた。


(一人じゃ、何も出来ねーんだな)


 最終的には、そう感じた。一人という只の身勝手にやっと気づいたというのに、もう意識はほぼ無い。それでもまだ、意識は後悔に食らいつく。

 

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