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英雄気取りの三番目  作者: 工藤ミコト
第六章【学園侵攻と英雄の謎】
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66 破壊者はシエラ


「落ちろ!」


 殴りあげる形で振られた棍棒は、そのまま宙に放られた。空中に飛ぶように躱した男はその棍棒に気をとられ、死角から迫ってきたシエラには気づかなかった。

 六トンもの棍棒を軽々と振れる腕力でシエラは殴り、真っ逆さまに学園の校庭へと男を落とした。さらに追撃するべく、棍棒を取り戻し一度下に降りた。まるで物語の中に入り込んだかのような戦闘を目の当たりにしていたリュウ達は、唖然としていた。

 そんな彼らには目もくれず、シエラは地面に埋まっている少女の右足首を掴み、同じく校庭へと投げ飛ばす。


「すまんがもう少し近くにいてくれ。緊急転送魔法陣には詠唱が必要なんだ。すっかり忘れてた」

「お、おう」


 こんな状況に置かれている中でも、シエラはやはりシエラだった。凛とした強気な女性の少しのドジ。その場の嫌な緊張感が薄まっていく。


「必ず隠れてろよ」


 そう言い残すと、シエラは校庭の方へと向かっていった。リュウ達はその場で今の状況を確認しようとするが、頭が追い付かない。分からないことだらけで、笑えてくるほどだった。


「シエラ先生の近くが一番安全ですね」


 イクトがそう呟いた。


「校庭の近くの部室棟の陰に隠れましょ。校庭に入るのはやめとこ。特にリュウは」


 ティナはその言葉の後すぐに動いた。リュウ達も黙ってついていく。

 校庭のすぐ手前に設置された運動部部室棟。様々な運動部の部室が集まったこの建物はコンクリートで造られており、強度は高い。隠れる所としては、まだ安全な方であった。

 リュウ達が到着し校庭を覗くと、既に対峙したシエラと男の姿があった。男のすぐ横では少女が倒れている。どちらも相当の魔力だ。近づきたくとも近づけない。


「広いとこに出たのは好都合だ。それはそうと……おい、早く起きろ。いつまでそうしてるつもりだ」


 男の言葉にピクリと反応したのは倒れていた少女。すぐに起き上がると、あどけない笑顔で大きく返事した。


「あ~あ。痛かった」


 少女の言葉にシエラは睨みで返す。少女もそれを見てか、顔を強張らせる。間の抜けたやり取り一つにも隙がない。


「捕らえる前に一つ聞きたい」

「だから捕まえるのは私達の方だよ~」


 シエラの言葉に、少女が不機嫌そうに答えた。


「お前たちは何者なんだ?」

「我等か……」


 男は続ける。


「私の名はロク。そして隣のこいつがヨン。【メガイラ】の者と言えば伝わるか」


 何の迷いもなくそう告げた。

 その言葉を聞いた直後、急激に高まった魔力があった。それは【メガイラ】と名乗ったロクとヨンでもなければ、相対するシエラでもない。

 イクトが急激に魔力を高めたのだった。

 それは、今まで見せたことのない荒々しい魔力。竜巻などまるで赤子として扱えるような恐ろしいものだった。思わずその場にいた四人は冷や汗を流し、同時にシエラや【メガイラ】と名乗る二人組にも気づかれた。


「い、イクト?」


 ティナが状況を確認しようとイクトに問い掛ける。しかし、据えた目で睨むイクトに、そのような言葉が届いているとは到底思えない。


【次元転送・笹貫】


 部室棟の影に隠れていたのに、いつのまにか相手から丸見えになってしまっているイクト。

 空間の歪みを作り出し、その中に仕舞われている刀を取り出す。鍛えられた美しい波紋のついた刃を鞘から抜き取り、切っ先を相手に向ける。

 本当に刺さるのではないかと思わせるような殺気を、全力で放つイクト。それでも、睨む先のメガイラ二人は微動だにしない。


「何あれ、殺していいの?」


 ヨンは首だけをイクトに向け、質問する。


「止めても聞かんだろう」


 ロクもそれに対し、素っ気なく答える。


「やった~!」

黒髪インセイン・カーネージ


 少女の漆黒の髪が徐々に伸び始める。少女の背丈をも軽く超え、広がっていく髪。闇のようなその髪は、一定のところまで伸びると、今度は一点に収束していく。

 まるで、ドリルの様な形に変化したかと思うと、その髪は一直線にイクトの方へと向かってきた。魔力を帯び、回転力も付加され威力を最大限にまで高めた髪。もはや本当にドリルだった。


「やべーって!」


 リュウがイクトの服を引っ張るがびくともしない。それどころか振り払う前に走りだしていた。向かっていく気だった。


「僕の知る“アイツ”では無いでしょう。しかし、死んでください」


 イクトの魔力は最大限にまで高まった。


「“匆々なる姫宮。幽玄の美を思う鉄の女王。歌うはこれに狂うもの。暮れに佇む悪しき者の語らい種が支配しよう。夢もなしの迷い子は憂いの中でもがくだろう。汝に刻みしこの良き日に”」

靡き懺悔の謳い文句シャダー・プレステール・カーテン


 詠唱しながらヨンの髪の毛を躱し、固まっている二人の方へと魔力を送る。

 ヨンとロクの真上に現れたのは綺麗な風のカーテンだった。一見するとオーロラのようにも見えたが、吹き荒れる心地よい風の音がプラスされていることからそれは否定された。


「きれ~い」


 ヨンが正直にそう言うと、ロクと共に空中に浮き上がった。魔法の効果に驚いたヨンとロクは、魔力を高めようとした。


「ってやば~い。これ上級魔法じゃん!」


 イクトが用いたのは上級魔法。一学年ではティナでさえも扱えない高位の魔法。


「魔力が……」


 空中に浮かせられ身動きの取れなくなったヨンは、髪の毛を地面に垂らしバランスを取ろうとした。しかし、上手く髪の毛が操れない。気づくのが遅かったのだ。


「上昇気流で身体を浮かせ身動きを取れなくさせる魔法です。風属性の僕の魔力によってあなたの魔力も乱しています」


 ヨンが後悔をし始めた頃、イクトは直ぐにヨンの目の前まで移動していた。振りかぶっているのは悲しそうに鈍色に輝く『笹貫』だ。

 そこまでの全てにおいて、イクトの技は美しかった。舞うような足さばきに流れるような詠唱。爪先から剣先までに伝わる思いが、狂気じみた美しさをまとっている。しかしそれは、悲しみに溢れている。

 見守るリュウ達は言葉が出なかった。


「あれあれ~?」


 悲しさの込められた一刀。しかしイクトはそれを振るわなかった。ヨンの前で制止したまま動かなかったのだ。


「殺す覚悟も無いのに来てんじゃねえよ」


 ヨンの髪の毛はある程度の距離ならば動かせる。目の前数センチの所にいるイクトまでならば容易に操れる。瞳から光を消して、髪の毛を鋭利に形作る。その渾身の攻撃は結果として当たらなかった。

 その髪を止めたのがシエラだったからだ。間に入ったシエラの右手に掴まれた全ての髪が、その手の中で萎れていく。

 イクトの上級魔法も消え、地に降りた瞬間分かった。芯の通った立ち振舞い。相手を睨むシエラは、見える背中のみでもリュウには分かる。沸点はとっくに超えていた。


「夏休み中だから人が居ないんだ。こっちはそんな中で休みを削って働く。貴様ら、それを承知の上でこんな事をしているんだな? 私の教え子に殺意をもって攻撃したんだな?」


 ふう、とため息をついたシエラ。直後その場が凍る。


「もう、死んで侘びるしかないな」


 言葉だけを置き去りにしたシエラ。髪の毛の束を掴んだまま移動し、いつの間にかロクの方を殴り付けていた。それも見えるような鈍さではない。

 一気に距離を詰め殴り、クレーターの様なものを生み出す。

 ロクも反撃をしようと魔力を掌に集める。しかしシエラは、手に持っていた髪の毛ごとヨンを引っ張るとロクへとぶつけた。咄嗟の判断で魔力を消したロクと体を丸め受け身をとろうとするヨン。その隙を突き、もう一度異空間に戻していた六トンもの棍棒を降り下ろす。地面は抉れ、地は轟き、まさに粉砕だった。


「まさか上級魔法を使えるとはなイクト。確かにすごい事だが、とりあえず下がってろ」


 ほとんどシエラのせいで作られるグラウンドの損傷部分。どちらが悪者か分からなくなりそうだったが、それがリュウ達にとっての最大の安心だった。イクトも少しの落ち着きを取り戻す。

 殴る。蹴る。踵落とし。たまに棍棒。全てが規格外の威力を誇るシエラの技は、実に見事なものだった。


「なんだありゃ」


 行き過ぎた破壊に、若干引き気味のリュウだったが見惚れる様なシエラの技に見とれることに変わりはない。

 だが、押しているばかりではなかった。相手も戦闘慣れしているのか、徐々に威力と攻撃のクセに対応してきている。髪を使っての防御、魔力を球として飛ばす攻撃。二対一という数のハンデが出始めた。


「あっ!」


 そうして、ついに当たってしまった。魔法球に当たり吹き飛ばされるシエラ。咄嗟に相手の頭上に次元転送の魔法陣を展開しており、六トンの棍棒をロクたち目掛け落とす。

 そのお陰か、それ以上の追撃は無かったがシエラは地面に膝をついてしまった。それでも直ぐに体勢を立て直し、また攻撃を始める。息が切れ始め、何より余裕のない戦闘で疲労が募っていく。ロクが殴りシエラが躱し、そして、その言葉が放たれた。


「その馬鹿力、まさか『鉄の一族』か?」


 シエラの瞳が一瞬揺らいだことをリュウ達は見逃さなかった。

 

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