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英雄気取りの三番目  作者: 工藤ミコト
第六章【学園侵攻と英雄の謎】
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62 Re:使い魔召喚


 海水浴事件から一週間。マリーの別荘での数日も良い思い出となり始めていた。

 うだるような暑さがいい加減飽き飽きとしているこの夏期休暇も半ばとなった頃、、まだまだ正午にすらならない時間。イデア王立アルティス魔法学園学生寮には一本の放送が流れた。


『一年Aクラス、リュウ・ブライト。至急魔法学園職員室に来るように。繰り返す。一年──』


 シエラの張りのある声に、寝ていたリュウは起こされた。

 それから五分と経たずして、リュウの部屋のインターホンはゲリラ豪雨など比べ物にならないほどに鳴り響いた。まだ寝惚けているリュウは、一度布団の中に戻り睡魔に意識を渡したのだが、ここまでの攻撃をされ目を覚ます。


「……んだよ」


 ゆっくり起き上がり、一つの欠伸。寝癖は気にせず、頭を掻く。未だ鳴り止まぬインターホン。眉間に皺を寄せリュウは戸を開けた。


「リュウ! 行こうよ!」


 何となく、リュウには想像できていた。透き通った水色の髪の毛を揺らすティナ。白い髪の毛の童顔少年アル。艶やかな黒髪に鋭い切れ目のイクト。マリーが抜けていること以外はいつも通りのメンバーだった。


「なんで休みの日に学校行かなくちゃなんねーんだよ」


 鋭く照りつける日射しに、文句を垂れるリュウだが全くの無意味。時間の無駄だと気づき静かになる。


「私は面白そうだから」

「僕もです」

「俺も」


 それぞれの理由を聞いたところで、リュウが行く理由にはならない。


「あれじゃない? リュウがこの前毛を召喚したやつ。あれが使い魔ってことになったのよ、プフフ……」


 ティナは笑いをこらえられなくなった。リュウが込めた魔力と血を使って喚び出せたのは銀色の毛が三本。才能以前に喚べたのか喚べていないのかもわからない状態だ。


「にしても、なんでこんな暑い日に呼ぶかな~」


 目を手で覆い、強い日射しを少し和らげながら太陽の方へ顔をやる。憎たらしい輝きは余計にリュウを温める。


「そういえばマリーは?」

「貴族同士の社交パーティーだって。二大貴族だからしょうがないね~」


 ティナはダンスをしている女性の真似をしながら説明していた。既に話を聞いていないリュウは、歩調を速めていた。数分後、リュウ達は学園職員室の扉の前へとやってきた。皆が心の準備を終えてゆっくり扉を開ける。


「遅い!」


 放たれた第一声は威圧感に満ちたシエラの怒声だった。

 数あるデスクの窓際の一番奥に座っているシエラ。入口から一番遠い筈なのにそれでもまるで間近にいるような感覚に陥ってしまう。

 シエラは入口を思い切り睨んでいた。今この学園にいるのが自分達だけなのか、他の使い魔召喚の成功者はこの場にはいない。つまり、シエラは自分達を睨んでいるのだと、誰もは理解した。夏期休業ということもあり、ほとんどの教師は学園には残っていない。そのため、職員室にはシエラ一人だ。

 いつもは沢山の教師が談笑しているデスクを通り過ぎ、リュウ達はシエラの所までやってきた。相も変わらず苛ついているシエラに、少し気圧される。


「……遅い」


 吐き捨てるように言うが、リュウ達は何も返さない。この場合の対処法は、「聞き流す」ことだとわかっていた。その方法が功を奏し、シエラの熱は次第に冷めていく。


「……まあいい。お前を呼んだ理由はわかっている通り使い魔に関してだ」


 シエラは真剣な面持ちでそう述べた。そして、さらに続ける。


「前回同様使い魔を喚び出してもらう。だが、その前にティナとイクトに喚び出してもらいたいんだが、今日は大丈夫か?」

「私は全然問題ないと思うけど……」

「僕もです」

「すまんな。喚べたかどうかわからないという例は初めてだから、向こう側の意見も聞きたいんだ。毛が三本しか出ないというのはどうなんだろうか」

「プフフ……毛が……三本って……」

「ちくしょーうるせーな!」


 ティナは体を震わせて笑っていた。リュウもそれに対して文句を言うのだが事実であることに変わりないのでそれ以降は抵抗できなかった。


「私の知り合いに使い魔召喚を得意とする奴がいるんだが、やはりわからなくてな。二人とも頼む」


 シエラの声と共にティナとイクトが動く。もらった針で一滴血を垂らし、彼方の魔物を喚び出す。


「スイ、ヒョウ!」

「お願いします、太郎坊」


 呼び掛けから数十秒。三つの魔法陣が空中に作られた。

 イクトの目の前に出来た魔法陣から出てきたのは、太郎坊と名の付いた天狗だった。鋭い眼光を放つ瞳と、何より高い鼻。赤い身体の上に派手な衣装を着込み、手には葉っぱを重ね作り上げた団扇のようなものを持っている。袴には太刀が差してあり、下駄の足音が威圧感を膨らませる。

 一方、ティナの目の前に現れた二つの魔法陣からも、使い魔が登場した。

 ティナから見て右側の妖精は、群青色の服を着てストライプの入った帽子を被っている、赤い瞳の妖精スイ。左側の妖精は白い服を着て水玉模様の付いたの帽子を被った、青色の瞳の妖精ヒョウだ。


『なんじゃなんじゃ、急に呼び出して!』


 安定感の欠片も無い太郎坊の声がイクトに向けられた。少し離れた位置で召喚されたスイとヒョウも同様に答えを求めるような顔をしている。


「お久しぶりです太郎坊。実は、僕の級友に変わった事が起こっていまして、助力願いたいのですが」

『ほう、大和八天狗(やまとはちてんぐ)の一人であるこの儂の知恵をのう』

「勿論急な呼び出しですので報酬はそれなりに……」

『ガッハッハ! そんなもん構わんよ。何せイクトは我が主。云わば家臣と殿の関係じゃ! それを儂が望んだのだから従おう。使い魔契約とはそういうものじゃ』


 その仲はたったの数日でも充分なもの。信頼というものがどこまであるかはわからないが、心配するようなものでもない。


『あんたもそういうかんじか?』


 そのやり取りを見ていた妖精ヒョウ。水玉模様の三角帽子を少しだけ揺らしたかと思えば、ふわりと浮遊しながらティナの目の前にやって来る。

 後ろで隠れるスイも同様に気になっている様子だった。


「うん。力を貸してほしいの」


 ティナは依然ミルナに教わった「上目遣い」という必殺技を使い、逆に聞き返した。清廉な顔立ちをしたティナの上目遣い。内に秘められた本音。まだ、幼い妖精達にとっての破壊力は底知れない。すぐに頬を真っ赤に染め上げた二人は、ティナから目を逸らしてしまう。


『し、しょうがねえな! あきたらやめるからな!』


 さっきまでとは違う大きな声でそう告げる。その言葉に喜んだティナは、二人に抱きついた。その突然の行動に、妖精二人はさらに顔を紅潮させていった。


「良い関係を築けているようで何よりだ」


 シエラの表情が柔らかくなったことで話は進んでいく。口火を切ったのは太郎坊だった。


『して、何用じゃ?』

「僕の級友リュウが使い魔召喚を行ったのですが、魔法陣が発光したのみで何も起こりませんでした。どうやら魔物のものと思わしき毛が三本あったのですが、その真意がわからないのです。例えば召喚時に魔物側がどういう対応をするのか知りたいのです」

『なるほどのう……』


 状況の確認の後、太郎坊は黙り込んでしまった。黙々と考え事をしているようにも思えた。


「スイとヒョウは召喚の時どうやって来たの?」

『あたまのなかにこえがひびくんだ』

「声?」

『そう。それにへんじをすると、まほうじんがめのまえにあらわれて、おれたちはそこへはいった』

「そしたら私のところに?」

『……ママがじぶんできめなさいって』


 ヒョウの言葉と、怯えながらも話すスイの言葉。それを補足するのは太郎坊の役目だった。


『我ら使い魔は強制的に喚び出されるわけではない。血と魔力を代償に選択を迫られ、それに応じたもののみ主人のもとへと現れる』

「なるほど」

『我らが魔法陣に向かわねば召喚はされないことになる。この妖精族の子らも、自ら選んだからここにおるのだ。しかし……』


 太郎坊の顔は少し険しいものになっていた。


『いかに人間を嫌う種族でも、形式的に顔は出すはずじゃ。気に入らなければ契約を破棄すればよい。むしろなんの音沙汰もせぬままの方が後々になってややこしくなる』


 太郎坊は後に「それが魔物界の掟だ」と述べた。


『リュウと申したな。魔物側にしてみればリュウの意思を断る意義はないはずじゃ。あるとすれば余程嫌われているか、あるいは出られぬわけがあるか。どちらにしても掟に背くほどの者、諦めるべきかもしれんのう』


 あの時リュウの魔法陣は大きく光り、なおかつ魔物の物とおぼしき毛も落ちていた。あの日魔法陣に込めた魔力は、エリートの集まりであるここアルティス魔法学園の三年生に匹敵するレベル。


『まあ、だからと言って悲観することもない。もう一度試してみればよいではないか』

「確かに一理あるかもしれんな。リュウの魔力は反応を示していた。前回と今回に差があるとするならば喚べる可能性も出てくる。魔物側の意見を聞けたのも大きいしな」

「……わかった。けどもしこれで出なかったら?」


 リュウがポツリと呟いた。それを聞き取った太郎坊とシエラはすぐに返す。


『諦めろ』

「諦めろ」


 だろうなと、リュウは肩をすくめた。


「ふう」


 どうしても出たくない使い魔などいるのかと疑問に思うリュウだったが、最後のチャンスを無駄にしないためにすぐに召喚の準備に取りかかった。


「では、始めろ」


 シエラの一言で周りは緊張に包まれる。リュウの覚悟は決まっていた。


「“異界に潜む魔の者。汝の天命を分けよ、汝の名を我に示せ。錆行く声の集う先、溜まりきるは花の蜜。歌うかこれを、結ぶかこれを。盟約結びし名乗りの業を解き放て”」


 詠唱を終えた刹那から、まるで竜巻が直撃しているかのような突風がリュウを中心に広がる。高密度に高まった魔力が大気を弾いたのだった。

 机に置いてある書類は吹き飛び、窓ガラスも揺れている。リュウの目の前の魔法陣は眩いほどに輝き、大きくなっていく。

 だが、そこからはやはり何もでない。高らかに吠える猛獣も、美しく舞う妖精も、出る気配すらない。


「……だ、駄目だったか。入学してからかなり魔力は成長してるんだがな」


 いつの間にか突風も収まり、シエラは記録用紙に書き込む。


(なんて魔力だ……)


 この時、職員室でやらなければよかったとシエラは後悔していた。後にはそれを体現するような冷たい空気が残った。


『……お主、何者だ?』


 唐突に冷たい空気を打ち破ったのは太郎坊。この場にいるすべての人間、妖精が、太郎坊の方へと体を向けた。真剣な面持ちで剣呑な瞳をリュウに向ける山の王は、魔力を少し乱していた。


『お主、本当に人間か?』


 太郎坊は声を微弱震わせ、問いかけた。この場の空気はさらに冷え込んだ。

 

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