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英雄気取りの三番目  作者: 工藤ミコト
第五章【使い魔召喚】
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57 双精と銀


 程よい緊張感に包まれながら階段を上がり、魔法陣の上で止まるティナ。リュウの応援や、シエラの鋭い視線を跳ね返し、血を垂らす。


「“異界に潜む魔の者。汝の天命を分けよ、汝の名を我に示せ。錆行く声の集う先、溜まりきるは花の蜜。歌うかこれを、結ぶかこれを。盟約結びし名乗りの業を解き放て”」


 魔力を込めて詠唱を終えると、魔法陣が大きく光り出した。光が弱まり、現れたのは二つの影。その姿を確認することが出来るようになると目の前に現れたのが妖精だということがわかった。

 どちらも同じ背丈で、被っている三角帽子を入れても五十センチメートル程しか無い。ティナから見て右側の妖精は、群青色の服を着てストライプの入った帽子を被っている。くりくりとした赤い目はビー玉のように輝いており、若干吊り目なのが特徴だ。

 もう一方の左側の妖精は白い服を着て水玉模様の付いたの帽子を被っている。群青色の妖精と同じくビー玉のような瞳は、青色だ。


「きゃー可愛い! ねえねえ、名前教えて? ねえ!」


 ティナは二人の姿を確認するやいなや、猛スピードで近付き話しかける。


『うわ!』


 思わず驚く群青色の服の妖精。人見知りなのか、白色の服を着ている妖精の後ろに隠れてしまった。匿っている側の白色の服を着た妖精は、何故か胸を張ってティナの事をじっと見ている。


「ねえねえ、名前は!?」

『おまえが、オレたちをよんだのか?』

「もしかして双子?」

『よくふたりもよべたな!』


 暴投だらけの言葉のキャッチボールが延々と続くかのように思われたその時、ナイスキャッチをした者がいた。


『スイ』


 おどおどしながら呟く群青色の服を着た妖精。隠れながらも目と目を合わせようと顔をのぞかせていた。二人とも浮いているので、目線の高さは合った。


「青いのがスイちゃんね! 私はティナ・ローズ。あなた達、私の使い魔になってほしいの!」

『ど、どうする? ヒョウ』


 ティナの言葉を聞き、スイは白色の服を着ている妖精──ヒョウに訊く。


『どうするもなにも、とりあえず「しけん」しなくちゃな』

「試験?」


 ティナが首を傾げると、ヒョウはうんうんと何度も頷いた。後ろのスイは相変わらず怖がっているのか恥ずかしがっているのか、前に出ようとしない。


『オレたちのつくった「くうかん」にはいれ!』


 そう言うと、白く清く輝く三角帽子を揺らしながら、ヒョウは目の前に人が一人入れる白い丸い門を作り出した。ティナは、空間転送のためのゲートだと瞬時に悟る。

 直後、シエラの方へと視線を向けた。シエラが大きく一度頷いたのを確認した後、その中へと足を伸ばした。

 それは。

 たったの数分間の出来事。お湯を注ぎ作る即席ラーメンすらまだ出来上がらないという程の短い時間で、三人は空間から抜け出た。

 一人は気持ちの良い快晴の日を思わせる程の笑顔で。

 一人はバケツをひっくり返したかのような日を思わせる涙を流しながら。

 一人は前の二人の顔からは想像できない程の、青ざめた表情で。

 生きとし生けるものが為す全く共通店の無い表情を浮かべた三人は台の上に、舞い戻った。


「さて、契約してくれる?」


 ティナは普段も見せない満面の笑みで訊く。顔は笑っているのだが、これはそんな優しいものではない。脅しにも見えなくはないが、脅しでもない。これは、一方的な「命令」または「絶対服従勧告」だ。

 二人の妖精スイとヒョウは首の筋肉が耐えうる最高速度で大きく頷く。


「ほんとに? よかった~」


 召喚出来たこと、契約できたこと、どれもに喜ぶティナは直ぐ様シエラの元へと向かった。

 何が起こったのか分からないシエラは、適当に書類に記入をし、リュウ達の元へとティナを戻した。ティナの後ろで『もうお嫁さん貰えない』等と溢した妖精など、視界に入れない。

 まだ自分達の居場所へ戻らぬ妖精達を引き連れ、ティナは軽快なステップを踏みながら戻ってきた。


「やった。私の使い魔だあ!」

「お帰りなさい。何があったんですか?」


 先の状況からは何が起こったのか分からないマリーは、ティナに質問した。長く一緒にいたはずのリュウとアルですらその質問の答えに耳を傾けていた。それにティナは笑顔で答える。


「ええ~。ひみつ!」


 答えは完全に迷宮入りとなってしまった。

 こうしてティナは自分の使い魔、青いスイと白いヒョウを仲間とした。この後すぐにスイとヒョウは元の場所へ帰っていき、次々と使い魔召喚の授業は進んでいった。

 既に召喚が終わっているイクト、マリー、アル、ティナの四人と、まだ終わらぬリュウは修練場の隅で賑やかに談笑していた。

 シエラはついにリュウの番となったのを記入用紙を見て、確認するとリュウを呼びつけた。既に飽きていたリュウは話を止め、何かのスイッチが入ったかのようにテンションを上げて、台の上まで走る。


「遂に来たァー!」


 台の上に乗るや否や、天井へ向けとりあえず叫ぶ。リュウの一連の行動に慣れているシエラは、さっさと始めろと言わんばかりに無言で椅子に座りながら睨んでいた。顔を下ろしそれに気づいたリュウは魔力を高め始めた。

 受け取った針で親指を突き、血を一滴魔法陣の上に垂らす。リュウはここに上がってくるまでに、病室で寝ている筈のネリルのことを考えていた。

 “暴走”した少女を止めるために“暴走”し、そのネリルすら破壊してしまう所だった。未だにそれを引きずるリュウの心は、少なからず揺れていた。


「ぜってー喚んでやる」


 それを無理に吹き飛ばし、高らかにそれは詠まれる。


「“異界に潜む魔の者。汝の天命を分けよ、汝の名を我に示せ。錆行く声の集う先、溜まりきるは花の蜜。歌うかこれを、結ぶかこれを。盟約結びし名乗りの業を解き放て”」


 リュウは、ただ強くなりたいと願った。その思いを全身全霊、魔力に込める。まるで呼応するかのように、リュウが元々持つ魔力のほぼ全ては魔法陣に集まった。


(すごいな……。魔力だけなら既に三年レベルか)


 シエラもその召喚をただただ見つめる。リュウの魔力にあてられた魔法陣は、この日一番に白く輝いた。

 辺りを眩しく照らし、皆が顔を手で覆う。その光も収まり、リュウは何かを察知した。リュウやシエラにさえ説明は出来ないが、異次元空間の穴が開いたような、別世界がやって来たような感覚がリュウを襲っていた。

 必ずなにか来る。クラスの全員でさえそれを感じた。しかし、光も収まりしんとなった台の上には魔物のまの字も存在していなかった。


「あれ?」


 絶対の自信があったリュウは、思わず間の抜けた声が飛び出た。少しの沈黙の後、シエラが歩み寄った。


「使い魔召喚なんてそんなものだ。諦めろ」


 この日、召喚に成功したのは結局イクトとティナの二人だけだった。


「なんだよ。本当に何も出てないの?」

「ああ。諦めろ」


 往生際の悪いリュウは、台から下りることを拒否し、それどころか台の上に何か手掛かりがないかと、這いつくばって調査を始めた。「やっぱりリュウだな」、「なんだ、ただ魔力が多いだけか」、そんな野次が飛ばされる中、リュウは己を信じて手掛かりを探した。

 降りろと、シエラが声を掛けたとき、リュウは何かを見つけた。


「見ろ見ろ! これ、使い魔のじゃね?」


 手に持っていたのは、白と言うよりは銀色の三本の毛だった。束とさえ呼べない埃のような毛の塊。

 大人の人間の中指程の長さだが、人間のものでは無いとすぐにわかる。太さもそれなりでしっかりとしたその毛を、台に近づいたシエラはまじまじと眺めた。


「確かに魔物の物のように見えるが、肝心の本体がいないとなんとも言えんな」

「これは成功だろ!」

「どう見ても違うぞリュウ」

「いんや、これは俺の使い魔だ!」

「毛三本が使い魔か。お前がそれで良いならそう付けとくが?」

「良いわけねーだろ!」


 鬱陶しくなったのか、リュウを払うように手を振りシエラは紙に記録を取り始めた。


「では、授業を終了する。使い魔を召喚出来たものは後日学園長から呼び出しがかかるかもしれないからな。覚えておけ」


 予鈴が鳴り、授業は終了した。


──大天狗の試練をこなしたイクト、二体もの妖精を喚んだティナ、毛束三本のリュウ。使い魔という異界のモノをこの日喚んだことで、運命の木が、ゆっくり枝別れる。進む先に待つ本当の喪失を、彼らはまだ知りもしない。


「三番目の英雄だと? 相変わらずの寝ぼけようだな」


 漆黒に彩られたその声は、闇の中へと溶け込んでいった。


「ボクの作った世界は全部間違いなんだね」


 白に染められた空間で、誰にとも向けられない声が響く。

 

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