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英雄気取りの三番目  作者: 工藤ミコト
第五章【使い魔召喚】
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55 使い魔召喚授業


 ひたすら続く黒の空間。

 窓も扉もない漆黒。この空間がどれだけの大きさで、天井がどのくらいの高さにあるのかもわからない。人工的に作られた照明の光さえも飲み込むほどの黒塗りの空間に彼らはいる。

 その空間の中央にあるのは円卓だった。囲むようにして十三の椅子があり、彼らは座っている。


「《賢者》、《四元帥》、ならびに隊長八名の出席を確認致しました。従って、イデア王国法第二十四条第三項に基づき、【アルテミス】緊急会議を執り行います」


 一番に口を開いたのは白いローブを羽織った人間だった。白は何者にも汚されない強さの象徴。王国の矛として在る元帥の証。《皇炎の支配者》の二つ名で通る、ロイ・ファルジオンだが、その素顔には仮面が着けられている。


「あら、ラムドさんと王族特務の方々がいらっしゃらないのでは?」

「そのことについて集まっていただきました。結論から申しますと、王族特務隊双隊長は欠席、そして三番隊隊長ラムド・エルドランが昨夜亡くなりました」

「どういうことだ?」


 【アルテミス】内部の秘匿空間『賢者の間』。ここに集まると言うことは、隊長以上の者達が集められるということ。すなわちそれは緊急の会議を開かなければならないと言うこと。ここは、そういう場所だ。


「昨夜遅くに発見されたとき、既にラムド隊長は殺害されていました。その遺体には何者かが故意につけたと見られる裂傷が確認されています」

「ラムドがねぇ……」


 隊長の一人が呟いた。隊長に選ばれるほどの実力を持つ彼が死ぬとは思えない。それはこの場にいる者達の総意だ。


「この件については現在調査中ですが、戦闘の形跡が残っていないことからも彼にとって親しい人物の犯行だと思われます」

「裏切り者でもいるということですか?」

「まだわかりません。操りの魔法、なりすましの魔法、幻覚魔法など、手段が多すぎますから」

「……“奴ら”だな」


 仮面と白ローブに身を包んだ男が一人口を開いた。途端にこの空間に漂う空気が冷たくなった。


「だとすると厄介ですね」

「奴らがどの程度の力を隠しているかがわからない以上ラムドの二の舞になりかねない」

「せめて情報さえ残してくれてたらな……」


 ここまで進んだところで、円卓には両手が叩きつけられた。


「何なんだよ! 一人死んでんだぞ! 《天使と悪魔》だか知らないが、呑気に顔隠して高みの見物でもしてるつもりかよ! あんたらがさっさと動いてりゃこうはならなかったはずだ!」


 寸前に喋った元帥《天使と悪魔》に食いかかったのは、黒ローブの女性だった。隊長の証を見にまとい激昂している。


「彼は勇敢な男だった。だからこそ彼を殺した奴らは憎いよ。だがな一番隊隊長、貴女は【アルテミス】を守護する存在だ。そしてそれは我らも変わらない。ここで立ち止まっている間にも王国は危機に瀕するのだ」

「けど……」

「まあまあ、やめなさい。まだ報告があるんじゃろ?」


 彼女は他の誰よりも、厳格で重厚な声を放つ老人になだめられる。

 その老人こそ、国が誇る【アルテミス】の最高責任者《賢者》として、さらに《人間国崩》として名を馳せる、ジオフェル・グラントハイツだ。


「はい、続けます。二つ目は “彼” のことです。現在覚醒状態はフェード2。まだ初期ですが、魔力量があり得ないほど上昇しています。恐らく、奴らが一連の騒動を起こしている理由もこれかと……」


 ロイは淡々と口にするが、それを聞く一同の顔はみるみるうちに険しくなっていった。


「『英雄気取りの三番目』は世界の希望だ。この件に関しては先手を打つつもりで動いてもらおう」


 そこで口を開いたのはジオフェルと並ぶほどの体躯の男性だった。白ローブに仮面といった元帥の証。《千年巨城》の二つ名を持つ者だ。


「今はまだ様子を見ても問題は無いじゃろう。各自元帥は個々の任務を継続。隊長達は管轄区域の警戒を引き上げよ。医療長及び空間機動隊隊長は、有事にいつでも対応出来るようにレベル1の準備をし、各隊の連携強化に努めよ」


 ジオフェルのその言葉のあと、その場にいた全員は一瞬にしてその場を去った。

 静寂に包まれた漆黒の空間に残されたのは、円卓と少しの明かり。不気味さが際立ったその空間にジオフェルは未だ残る。


「皮肉じゃのう『英雄気取りの三番目』とは……」


 ただ一人その場に残った《賢者》が静かに呟く。


 * * *


 計九日のうちに幕を下ろしたイデア王立アルティス魔法学園魔闘祭。リュウ達一学年のそれで起こった騒動に関しては徹底して情報規制が行われ、学園内で知るものはティナ達の一部に留められた。

 王国魔導軍隊【アルテミス】空間機動隊結界班のパフォーマンスという形で隠蔽され、学園長であるクロツグはリュウ達にも一切のお咎めを下さなかった。

 事件の当事者となってしまったネリルは、軍の尋問にかけられることとなったが、ネリルは今も意識不明のまま。彼女が目覚めるまで、この事件が解決することはない。こうして長く続く伝統ある魔闘祭は、お世辞にも無事とは言えない形で終了した。


 それから一週間後。


 異様なまでの回復力を発揮し、体力が戻ったリュウはいつものように普通の学園生活を満喫していた。【アルテミス】医療隊の治癒魔法のおかげで、傷の完治したティナ達でさえ、体力の回復はまだだった。何回か実技訓練の授業を見学していたティナ達は、ただの体力バカだとからかっていた。

 先の一件で少なからず思うところはあったはずのリュウだったが、何があったのか吹っ切れた様子で、またいつもの子供っぽい性格に戻っていた。そうして、時は流れていった。


「それでは、授業を始める!」


 場所は学園第三修練場。五つある修練場の中で一番の大きさを誇り、主に魔法を使った実践形式の授業を行う場所だ。

 シエラと共にやって来たリュウ達Aクラスの面々はその大きさに心打たれていた。声を出せば反響するようなここは、対魔法防御性能を軍と同等にまで上げている。『魔法戦闘学』の時間なのだから当然模擬戦をするものだと思っていたが、それでもこんな完璧な設備は必要ない。


「今日やるのは使い魔召喚だ」

「イエーイ!」

「キタキタキター!」

「待ってましたァー!」


 今日こそ、入学してから生徒の間で話題になっていた『使い魔召喚』の授業なのだ。新たな出会いの可能性にAクラスの面々は歓喜した。


「静かにしろ!」


 シエラの一喝で全員が静かになる。反響したシエラの声のみが周りをざわつかせた。


「今日は発動がしやすいように魔法陣を事前に書いておいた。詠唱の後に魔力と血を込めろ。それらを代償に空間を超えて魔物を喚び出すのが使い魔召喚だ」

「どんな奴らかな~仲良くなれるかな~」

「ならばリュウ、使い魔とは何だ?」


 唐突に問われる。


「んあ~、友達的な?」

「残念ながら不正解だ」


 シエラはきっぱりと跳ね返した。


「使い魔とは文字通り使役する魔物。そこに友情関係や信頼関係などは本来存在しない。それこそ喚び出した魔物は皆敵だと思った方がいい」

「え……?」

「自分達の勝手な都合によって喚び出されるのだ、当然ながら彼らは怒りを覚える。中には喚ばれた瞬間に殺しにかかる魔物もいる」


 シエラの話が進むにつれて、顔色を悪くしていく生徒達が目立ってきた。歓喜の授業から一転し、恐怖の授業と化していった。


「勘違いをするなよ。喚び出す魔物は未来のビジネスパートナーだ。まずはその関係を築き、契約を結ぶことでようやく対等関係になる。それ以前の段階では私達が圧倒的に下だ。例え自分よりも弱い魔物が出たとしても、お前達が好き勝手する権利はない」

「友達にはなれないのか?」

「契約後、あるいは契約内容によってはなれるかもしれない。私の知り合いにも使い魔と仲の良いやつはいるさ」


 シエラの瞳に宿ったのは今一度の覇気だった。


「この世界は魔法が全てだ。魔物の世界にもそれは適用する。これから先のお前達の人生の中で本当に使い魔が必要ならばどうにでもなる。運命とでも呼んでおこう」


 シエラは一言一句を語りかけるように言った。


「それでは始めよう。私が常に見張っているから安心して喚び出せ。ただし契約の条件に“戦闘”が入った場合にはすぐに止めさせてもらう」


 その一言を皮切りに生徒達は立ち上がった。

 出席番号通りに召喚することになり、すぐに一番目の少年が台の上に上がった。制服をがっちりと着たクラスでも優秀な少年は、事前に渡された針で指を刺し、血を一滴垂らした。そして、詠む。


「“異界に潜む魔の者。汝の天命を分けよ、汝の名を我に示せ。錆行く声の集う先、溜まりきるは花の蜜。歌うかこれを、結ぶかこれを。盟約結びし名乗りの業を解き放て”」


 比較的高い声で読まれた詠唱文。それに反応したのか、魔法陣は垂らされた血を吸い取っていく。何かが起こるのではないかと周りがざわつくが、結局何も起こらない。一瞬、静寂に包まれた。


「……出ない?」

「なんで?」

「もう一回とかやってみれば?」


 その後、すぐに皆から疑問の声が上がった。


「いやその必要はない、失敗だ。次のやつに変われ」

「いやいや、待ってくれよ。なんで出ないんだ?」


 シエラはそんな中でも淡々と進めていく。だが、さすがにリュウだけは、全員例外なくそうだが、疑問が解消されていなかった。


「言い忘れたっけか。使い魔を喚ぶためには生まれもった才能が必要なんだ。魔力量にも少し関わるが、それよりもやはり一番は才能だな。『召喚師』の才能が無いと厳しいだろうな」


 召喚師とはその名の通り、召喚系空間魔法を得意とする召喚のエキスパート。実力者の中には使い魔を何体も召喚したり、百の武器を次元転送で自在に使い分けたりする事が出来る者もいる。

 転移魔法とは別で少し特殊な役職なのが特徴だ。


「なんで喚ぶだけなのに出来ないんだよ~」

「使い魔を使役できる天性の才能がないと駄目なんだ。こればかりは仕方がない。かなりの実力者なら無理矢理喚べるなんてこともあるが、それはそれだ。それに、ポンポン喚べてたら、魔物の数が急激に減り、社会問題になってる筈だろ? そんな危ないこと授業で出来るか」

「ポンポンって……」


 よくわからない理由で無理やり説き伏せられたリュウは仕方なく黙る。また、使い魔召喚の授業は再開される。

 

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