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英雄気取りの三番目  作者: 工藤ミコト
第四章【魔闘祭】
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49 決勝戦⑧


 暴力的な風を受け、鎖は踊り狂う。光る鎖の乱舞は、捕らえるという鎖本来の目的から外れ、まるで鞭のようにあらゆるものを叩く。

 盾内部で起こるその狂乱は、見つめる観客達を黙らせ、手に汗を滲ませた。

 誰もが悲惨と口にしたその時、風が止む。土埃と鎖の動きも止み、視界が晴れる。審判である教師も盾内部を凝視した。直後、言う。


「Aクラス代表魔力切れ、Eクラス代表戦闘不能。よって両者一名ずつ、リタイア!」


 審判が簡易転送魔法陣を発動させ、防音防魔結界の外へと強制的に転送させる。防魔の結界を中和して、そのまま二人は消えてしまった。観客達全員はリタイアした者達に労いの拍手を送っていたのが、イクトには見えた。

 Aクラスの脱落者、アル・グリフィン。

 自身とイクトを風から守ったことにより、魔力を全て使い果たしリタイア。その風によって、Eクラスの男子生徒一人もリタイアしていた。そうして、スタジアム内に残ったのは八人となり、アルが作り出した鎖も、分断用の盾も消失する。


「うぇ。きもちわりぃ」


 咳き込みながらもなんとか立ち上がったドート。凄まじい風を直に受けたことが響き、まだ足元がおぼつかない様子だった。盾に守られていたもう一人の生還者イクトは、全くの無傷。すたすたと自身の刀を手に取る。


「よくリタイアしませんでしたね。僕の最大攻撃魔法なんですけど……」


 刀を構え隙を見せないよう注意しながら、イクトは喋りかける。


「はっ! あいつが使えないせいで少しダメージは喰らったが大したことねえぜ!」


 そう言いながら、ドートは気を失って濡れタオルを当てられている男子生徒を指差す。


「ほんと使えねえぜ。だから嫌だったんだよな~、ああいうのと組むの。ま、盾にはなったけどな」


 頭の後ろに手を回しドートは呆れた様子で文句をぶちまける。

 咄嗟にイクトは理解した。ドートが仲間であるはずの人間を、魔法を受ける盾として使用したのだということを。ドートという人間の本質を。それを知ってもイクトは無言だった。


「お前らもそんなもんだろ? あの白髪の奴、盾はまあまあだったけどよ、結局リタイアだぜ? 笑っちまうよ!」


 尚もイクトは口を開かない。


「まあおかげで、俺はてめえを倒して直ぐに棒を倒しに行けるけどな! アハハハハハ!」


 イクトは未だ黙っている。


「ほんと、クズだよな! あの赤髪もだぜ。ちょっと同じチームの女子を馬鹿にしただけだぜ? んなことで熱くなるなよなって感じ」


 イクトは何を聞いても、一言も返さなかった。少しの沈黙。それを狙ったかのように、急に言葉がスタジアム全体に響いた。


「無能な愚民のくせに! 未来も希望も無いくせに、調子に乗るな!」


 結界が無くなったことでリュウ達の会話が聞こえてしまう。エリックの虫酸が走るような言葉までも耳に届いてしまう。


「やっぱエリックさんは、言うことがでけーな」


 聞こえてきたエリックの言葉を聞き、笑みをこれでもかという程まで浮かべると、一気に魔力を高める。


【次元転送・イクスプロージア】


 ドートは金属特有の光沢を放つ巨大な武器を両手に取り付けた。

 肘まであるその武器。籠手のような物なのだが、それだけでなく、腕の向きと平行になるよう籠手に取り付けられた、円錐状の槍のような物も付いている。

 自分の出身国にもある武器、トンファーにも似た形だ。真っ直ぐ向いた拳と共にその刃先がイクトを睨む。


「そうだ、俺様も真似してやるよ。──準備は整った!」


 言葉と共に放たれたのは、左腕に取り付けられたその槍だった。後方部が燃え推進力が生まれているのか、一直線に向かってくる。


風撃(ウィンド)


 イクトはまず初めに前方に風を吹かせた。


落風(フォールダウン)


 続いて下降気流を起こす下級魔法で対処する。飛んでくる槍は見事地へ伏し、回避できたかに思えた。しかし、ドートは笑みを浮かべていたことに直前で気づいてしまった。


「どーん!」


 ドートの声に呼応して、地面に刺さったはずの槍は膨らみ始めた。そして、爆発した。

 その威力は生半可なものではなかった。爆音と共に生まれた風がそれを物語る。反応に遅れたイクトは防御魔法など出せずに、ただ飛ばされるのみとなってしまう。


「アハハハハ!」


 盾が消えたことにより、スタジアム全体にドートの笑い声が響く。砂煙のせいで審判は勝敗の判定が付けられない。しかし、ドートの嫌な高笑いが響く中で、イクトは魔力を高めていた。受け身を取ったことにより大ダメージは避けられたが、それでもまだドートの右手にはもう一本の槍がついている。


「どうした! もう終わりか! っても、降参なんかさせねーけど、な!」


 ドートの咆哮に呼応するかのように、砂煙を掻き分け勢い良くもう一つの槍が迫ってきた。だが、それでもイクトは冷静だった。心の中で覚悟を決めていたのだ。


「耐えろ『笹貫』。解放……」


 走りながら語りかけ、イクトは手に持った『笹貫』を思いきり左へと投げた。


「はっ! なんだよ、諦めたのかよ! なら望み通りブッ飛ばしてやるよ!」


 槍は空中にいながらも、膨張し始めた。イクトにとってはその爆発は誤算だった。地面に刺さる事が起爆の初動ではなかった。まだ早いのだが、それでもなお冷静だ。

 ロイとの修行で得たもの。それはどんなに劣勢でも揺るがない精神力。それ故に働く指揮能力。生憎一人での戦闘だが冷静な一方と、熱くなりすぎている一方との勝ち負けは、火を見るよりも明らかだ。思わず笑みをこぼした。


「【吸花擘柳(すいかはくりゅう)】」


 イクトは諦めてなどいない。刀へと向かう空気の流れに、ドートは気づいていなかった。

 徐々に槍の動きは遅くなり、刀に吸い寄せられていく。魔力の操作はしっかりと行えているだけに、ドートの顔は険しくなるばかり。膨張し続ける槍は遂に進路を強制的に変えられてしまっていた。


「な、なんだ? 何やってんだよ! 奴を狙えよ!」


 声など届かない。ほぼ全魔力を込めた刀の力を前に無力となった槍だが、まだそれも終わっていない。直後、刀を間近にしたところで膨張は限界へと達した。そのまま、槍を中心に刀を巻き込み爆発した。


「は! 刀捨てちまっ──「僕の刀はあの程度で壊れるほどヤワな造りではないんですよ」


 ドートは突如として聴こえた後ろからの声に反応する。振り向いたときには後の祭りだった。


「神風流無刀術(よん)ノ型【神語り】」


 ドートは何も抵抗出来ぬまま、地に伏した。足を払われたのかも知れぬし、腕を引っ張られたのかも分からない。まるで、神が乗り移ったかのように体が勝手に動き、気づけば視界一面は土となっていた。

 身体中に広がる痛みよりも、疑問が頭に残る。だがそれも気を失う前の一瞬に過ぎなかった。


「すみません。リュウと競争中なので、早く終わらせたかったんです」


 気絶し、外へ転送されたドートに届くことの無い謝罪をするイクトは、土煙が晴れ愛刀の姿を確認すると直ぐにそれを拾い上げ鞘に戻した。


「さてと……」


 残しておいた最後の魔力を限界まで高める。見つめる先の、高い棒が少しだけ傾いていた。


(リタイアが先か、棒倒しが先か……)


 痛めてしまった左腕の痛み。ようやく和らいでいた。感覚がなくなっただけだが、それは都合が良いだけだ。

 イクトは、既に限界に達していた魔力を絞り出すようにして高める。一つ一つ手元に集まってくる魔力、霞んでいく視界。それでも、諦めることはしなかった。


「リュウに負けるのは癪ですからね!」


 そのまま、風を押し出した。直後、視界は黒く染まり、地面に倒れ込んだのだと気づいた頃には、意識を失っていた。

 

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