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英雄気取りの三番目  作者: 工藤ミコト
第四章【魔闘祭】
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48 決勝戦⑦

 

 所々穴の空いた地面からは黒煙が上がり、思わず咳き込むような悪臭が蔓延していた。どちらのチームも、壁を壊す気は無いとはいえ、さすがにここまで密閉された空間を作られてしまうと参るのだ。


「ハァ……ハァ……」


 息は乱れ、両手に灯るリュウの炎は弱々しくなり、立つことすらままならない。ここまで膝を付けずに立っていたことが不思議なくらいだった。戦闘服は所々が破れ、少しの傷も目立ってきた。

 そんなリュウを見つめるティナとネリルは、どうしてもそちらを心配してしまう。

 エリックの槍さばきは喧嘩慣れしているリュウをも、容易に圧倒し難無くねじ伏せた。ネリルが心配し、魔法を放つのを躊躇しているからこそ、今まで持っているようなもの。

 リュウたちにとっては好都合だが、エリックにとってはこの上ない厄介者。足を引っ張る以前の問題だった。


「埒が明かないね」

「リュウ下がって。エリックは私が止めるから」

「うるせー。俺がやる」


 意地を張り、再び両手を構えるリュウ。脚を強化し間合いを詰め右ストレートを繰り出す。


「何度やっても同じさ」


 槍の柄の部分でそれを受け流し、よろけた所にすかさず蹴りを入れるエリック。さらに、槍でリュウを突き、ガードの開いた顔面に拳を入れる。切れた口内から血が吹き出る。

 ティナのいる場所へと飛ばすほど、強化魔法を集中させていた今のエリックの一撃。保護魔法のお陰で先の槍が刺さることは無かったが、リュウにとってはそれでも大きなダメージとなる。

 何度も槍を受け、止めの二つの攻撃。遂に立つことすらできなくなってしまった。


「リュウ!」

「君達は良くやったよ。愚民の癖にここまで僕に食らいつくなんてね。だがこれが現実だ。君と僕とでは、何から何まで、根本から違うのだから」

「うるせー!」


 リュウは震える両膝を抑えながら立ち上がろうとした。ぽたりと口から垂れる血も、みしみしと鳴ったどこかの骨も関係ない。しかし、崩れ落ちてしまった。


「もうやめなさいよ!」


 それでも立ち上がろうとするリュウに向かって、ネリルはついに叫んだ。


「もうアンタ達の負けで良いじゃない。どうしてそこまでして立つのよ! たかが魔闘祭じゃない!」


 ネリルは高めていた魔力を振り払い、リュウへ向け怒鳴った。それに、リュウは弱々しく答える。


「お前らがマリーをバカにしたんだ。友達をバカにしたんだ。一発殴らなきゃ気がすまねーんだよ!」


 リュウは身体中に巡らせていた微量の魔力を解いてしまう。体を保護する防護膜のように使っていた魔力だ。


「リュウ? 何してんの?」


 弱ったリュウへ、ティナは訳がわからないといった表情を向ける。

 魔導師同士の戦いにおいて絶対に必要な、魔力による防御。それをしないとどうなるかは二日前に見た試合からもわかる。生身で魔法を受ければ、下級魔法でもかなりのダメージを受ける。

 そんな無茶など戦闘中にすること自体あり得ない。他二人もティナと同じように唖然としていた。


「魔力のコントロールがすげー難しいんだ! 強化魔法はいらねー!」

「バカじゃないの?」

「はあ?」

「実に愚かだ……」


 三人の総突っ込みを正面から受けたリュウは少し落ち込む。だが、世界一を目指す者として、そんなのはすぐに振り払わねばならない。少なくともリュウは、そう思っている。真性の、バカなのだから。


「新技見せてやるよ。ティナ少し時間をくれ!」


 リュウは魔力を高め始めた。直ぐに高密度の魔力が辺りにも伝わる。大気を揺らし、熱気を帯びた魔力。防御を捨て攻撃に回す全ての魔力がひしひしと皆に伝わっていく。ティナもそれを感じ、やる気が出てくる。


「何するか知らないけど、ちょっとだけだからね!」

「……つまらないね。次に進もう」


 そんな最中に発せられた静かな皇帝の呟きは、誰にも聞こえることはなかった。槍型魔法武器『アフラクラトル』に集まる高密度の魔力は、リュウにも劣らない洗練されたもの。


「『アフラクラトル』第二解放。【絶対統制】」


 * * *


 音は聞こえないがくっきりと見える観客達は、皆様々な方法で互いのチームを応援していた。

 放送席でマイクに叫びかけている実況担当レイスも見える。相変わらず隣の司会進行リサはキャラの位置付けに苦労している様子だった。

 そして、なぜかゾットは警備員に怒られており、隣でミルナが苦笑いを浮かべている。警備員を口説いてしまったのだと、直感した。


(はしゃぎ過ぎたんだね……)


 くすっと笑ったマリーは一秒もかからずに、視線を元に戻す。

 そこでマリーの視界に広がったのは、黄色く火花を散らしている網目状の雷のドームだ。まるで、果物を包むスチロール性の網ネットを思わせるような形状。

 もし、これが単に魔法弾を防ぐものならば、網目にはしない。網目が大きく、奥にそびえるアルの密閉用防御魔法もよく見える。

 旗の上辺りギリギリまでの高さを持つそのドームこそミルナ直伝の魔法【知りたがりの繭レーダーズ・エレクトロン】だ。

 視力も強化したマリーは、離れた位置にいる相手をしっかりと確認する。唐突に現れたこのドームに驚いている様子だった。ゆえに、彼はライフルで魔法弾を乱射する。それを見たマリーは、小さく微笑む。


「本来、ライフルは狙撃用の長距離射程の銃なの。魔力を装填して弾にするとはいえ、そんな使い方はよくないよ」


 ドームを超え飛んできた魔法弾。マリーはそれを撃ち落とした。今まで、やっとのことで魔法弾を“受け流していた”マリーは、初めて相手の魔法弾を完璧に“撃ち落とした”。花火のように火花が散る。

 それを見ていた観客は、今の出来事に対して、「偶然だ」「まぐれだ」と溢していたが、マリーに聞こえないため勘違いが進んでいく。


「F-24、G-11、L-05」


 自分に言い聞かせるように呟くマリーは、その動作と同時に魔法弾を撃ち落とした。

 すべて、消滅。

 撃ち出し続けていた相手は、あまりの驚きに銃の乱射を止めてしまう。軽く二十を越える数の魔法弾を完璧に消滅させたのは、まぐれなどではない。

 展開する雷のドーム。それは、云わば『高感度索敵レーダー』だ。網目状に展開させたドームの、網目一つ一つに座標値を割り振る。

 編目それぞれの座標を通った異物を感知し、それをほぼ光速でマリーへと伝える。瞬時にマリーは強化した動体視力でそれを捕らえ、消滅させる。

 レーダーシステムの維持と、動体視力強化の維持の二つを同時に行わなければならない高難易度の魔法だが、マリーにはそれを成功させ得る《才能》があった。

 しかし、そうは言ってもやはり学生。この魔法は持って五分だ。それ以上は魔力が足りない。マリーが一息つき、再び視力を強化すると、雨のように魔法弾が飛んでくるのが見えてしまった。

 先程までそれは、全てを飲み込む大洪水のような、全てを破壊する大竜巻のようにも見えていた。しかし今ではもう、そうは見えない。せいぜい蒸し暑さだけを残していく、夏の前の小雨程度だ。


「Q-05、C-16、N-33、J-21、I-22」


 侵入した魔法弾を寸分の狂いなく撃ち落とす。

 そうして、撃ち撃たれの攻防がさらに激化するかと思われた瞬間、想像よりも速くそれは来た。何発も撃ち込まれていた魔法弾は止み、静寂が近づいてくる。

 不自然に思い相手チームの方を見やったマリー。茶色いライフルを持つ生徒は、魔力切れを起こしていた。


(今だ!)


 急いで城壁まで戻ろうとふらつく足を精一杯動かしていた相手を、マリーは『メルキオール』の魔法弾で転ばせた。雷属性を付与させ、痺れ効果まで付ける。

 黄金に輝くリボルバー式の短銃は銃身から煙をふかし、悠然と在る。鋭い眼差しをむけるマリーの小さな両手にしっかりと収まるその銃は、達成感に満ちているようにも思えた。


(皆が勇気付けてくれた。私を友達だっていってくれた)


 戦いの最中だというのに、マリーは幸福感にも似た複雑な気持ちになっていく。


(私は、弱い。あのリュウ君よりも)


 心の中で現れるリュウの表情は必ず笑顔だった。どんな人よりも笑う彼は、どこか昔の友人を思わせる。


「でも、だからって逃げちゃいけない。私がリュウ君に言ったように、皆がいるんだから。仲間がいるんだから!」


 相手チームの旗を視界に入れる。そうして、狙いを定め引き金を引いた。直ぐに激突音が届くが、威力が足りない。それでもマリーは止めようとはしなかった。

 少しでも、仲間の役に立ちたい。そんな少女のちっぽけな想いが旗へとぶつかっていった。


「私はもう、《落ちこぼれ》なんかじゃない!」


 マリーの想いが徐々に棒を押していく。旗を狙っていたのだが、先に棒が倒れ始めた。


(あと、少し……)


 魔力も視力も、限界は超えていた。勝利への執念だけが、そびえ立つ棒へと向かっていく。

 

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