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英雄気取りの三番目  作者: 工藤ミコト
第四章【魔闘祭】
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47 決勝戦⑥


 イクトに向かってああは言ったものの、マリーは今更になって打ち砕かれていた。

 飛んでくるのは、小学生が投げる石ころのようにふざけた物ではない。魔力の塊とはいえそれは銃弾だ。たった一つの魔法弾の軌道をずらすだけで精一杯だというのに、そんな物が何発も来てしまっているのだ。

 やはり止めるなどということは不可能だった。既に二発の被弾を許し、旗を守る上級防御魔法には小さく亀裂が入っている。この防御魔法を壊されて旗を落としてしまったら、その時点で負けなのだ。


「ハァ……ハァ……」


 再び窮地に追いやられ始めるマリー。必死に打開策を模索するが、どこまでこの戦いを続ければいいのか、どうすればなにもせず楽になるのか、そればかりを考えてしまう。


(どうしよう……)


 今まで培ってきたすべての知識を、引っ張り出す。しかし、頭を働かせれば働かせる度に浮かぶ色々な人の顔。

 思えば魔闘祭での自分は、とても不安定だったとマリーは気付く。サシャの一言で簡単に崩れ、敗北。そのせいでイクトに迷惑を掛けてしまった。エリックにもそう言われ、皆に心配をかけさせてしまった。


(落ちこぼれか……)


 いつから言われ始めたのかはもう覚えていないが、気がついた頃にはこの言葉を投げられていた。

 貴族だからこそ実力が必要だ。だからこそマリーは力を欲した。勉強もした。そのお陰か、マリーの能力はそこらの学生と比べると頭一つ抜けている程だ。現にこの状況下でも頭は冷静に動いている。場馴れしている証拠だ。それでも、やはり足りない。貴族だから。

 ゆっくりと目を閉じたマリーは、ミルナの言葉を思い出す。


『う~ん、素材はいいんだけどねぇ。何か足りないのよ』


 人の胸を揉みながら何を言っているんだと思った。すぐに手を振りほどいて焦りに焦ったが、ミルナは笑っているだけだった。


『な、ななな……』

『マリーはそうねぇ、自信を持った方がいいんじゃない?』

『自信ですか?』

『せっかくこんなに立派になって魔法も上手なのに、そんなに世界が怖いかしら?』


 それは衝撃的だった。世界が怖いなど思いもよらなかった。しかし、今のマリーにしてみれば図星だった。どんなに努力してもたった一言で打ちのめされる、生まれによって求められる高水準な力を、持っていないがために。


『ウフフ、私ねマリーは頑張り過ぎてるだけなんだと思うの。キリンが空を飛ぼうとしてる感じ』

『え?』


 話の論点が見えてこなかった。


『まずは自分を知ることね。マリーには何が出来て何が出来ないのか。貴族だからとか平民だからとかではないの。人として出来ることを探すのよ』


 ミルナは一冊の魔導書を出した。古びたその魔導書は元は重厚な装丁がされていたものらしい。今ではボロボロだが、読み潰されたその本はとても安心できるようなものだった。


『魔法を授けるわ。これはきっとマリーのこれからを手助けしてくれる。そしてマリーととっても相性の良いものだと思うから』

『はぁ……』

『お姉さんが貴方なりのヤり方を教えてあげるわ』


 再び目を開けるマリー。先程とは視界に映るすべてのものが変わっている気がした。今できることくらい思い付く。


「……視力強化、最大限」


 簡単な肉体強化の魔法で動体視力を格段に上げる。流れ来る魔法弾の速度が遅く見えてくることを実感する。しかし、まだ終わりではない。


「“彼方より出づる紅蓮の王、漆黒より(あらわ)る黄金の姫。古びた海図と一筋の針。名を名乗れ、家宝の真髄。眠れ、宝石よ”」

知りたがりの繭レーダーズ・エレクトロン


 マリーは魔法陣を展開した。中級魔法であるそれは、マリーを中心として、円の形で広がっていく。直径五メートルほどになった魔法陣の中には、守るべき後ろの棒も入っている。

 この魔法の発動は、容易なものではない。年相応の力を秘めているマリーは、中級魔法自体発動させることに骨を折る。

 魔法陣の展開から三十秒。この時間がどうしても掛かってしまう。繊細なコントロール力を持つマリーだからこその短いラグなのだがそれでも不便なことに変わりはない。しかし、マリーにとってこの魔法は、それを容易に覆してしまうほど相性の良い魔法だった。


「あと十五」


 未だ向かい来る魔法弾をなんとか防ぎつつ、発動を待つ。ゆっくりと、しっかりと、撃ち落としながらマリーは勝機を掴みに行く。動体視力をあげたことで、先程よりも魔法弾の動きは終えるが、防ぐことはほぼ出来ない。


「あと五秒……──ッ!!!!」


 相手の撃ってくる魔法弾の数が急激に増えた。流れ来るスピードは変わらないが数が多い。全てを撃ち落とすことは不可能かもしれない。


「あと少しなのに……」


 それでもマリーは歯を食いしばり、引き金を引くスピードを上げる。一つ、また一つと、神業を披露するマリー。辛うじて見える影を頼って魔法弾を撃ち落とす。

 そんなマリーの頑張りに応えるかのように、魔法陣は強く光り始めた。


「来た!」


 少女の声と共に、それは展開した。


 * * *


蛇腹点線(スネーク・ドット)


 波打ち、地を泳ぐ砂の蛇。完璧に動きを読み切り、イクトはその蛇に向け刀を振るう。その直後、ドートの後ろにいた男子生徒は炎の球を飛ばしてくる。狙いがアルなだけに、そこまで行かせないようイクトが刀で防いだ。


「……ゴメン」

「お互い様です」


 動き回っていたイクトは座って魔力を高めているアルの所まで戻り、刀を中段で構え、敵を見つめながらアルに礼を言う。それに対してアルは、指を三本立て合図をする。それを見たイクトは頷き、再び駆け出した。


(……三分ですか)


 アルがこの試合で使った魔法は、棒を守ったときの魔法、分断に使った二つの盾、そして分断した後の数回。

 それに加えて今現在も発動中の治癒魔法。イクト自身の痛みが引いていく感覚と、アルの微妙な魔力の動きが何よりの証拠だった。

 魔力切れが迫っているのだ。イクトの考えた策を実行するには、三分間の魔力を高める時間が必要だった。そして、その三分が成功したとしても、魔力を使いきれば副作用で気を失ってしまうかもしれない。そうすれば、リタイアとなり外へ転送されてしまう。イクトの頭はさらに回転する。


土撃(ロック)


 気づけば、ドートの手から下級魔法が放たれていた。鋭利な石を飛ばす下級魔法だが熟練度が高い。下級魔法には見えなかった。回避不可能なスピードで来るそれをイクトは刀で防ぎ、同時に風の魔法で攻撃する。

 難なく防ぐことに成功したイクトは直後に間合いを詰め、ドートともう一人の男子生徒目掛け刀を薙ぐ。

 咄嗟にドートは土で盾を作ったが、もう一人の男子生徒には当たった。保護魔法のおかげで、傷がつくことはなかったがそれでも中々の打撃。男子生徒はその場にうずくまった。

 イクトはその隙を見逃さず、瞬時に右足で蹴りを入れた。上手くクリーンヒットし、男子生徒は後方に飛ばされる。そんな味方には目もくれず、ドートは向かってきた


(そろそろ三分、ですかね)


 イクトは刀の峰でドートの攻撃を止め、後ろに引いた。当然ドートも追ってくるが関係ない。先にアルの元へと着くのは自分なのだから。アルの元へと合流することに成功したイクト。ニヤリと笑うアル。その直後魔力は高まった。


「“我が魔力、其は罪人を捕らえる鎖となる”」

懺悔連鎖(ディバイン・チェーン)


 イクトとアル、更には近づいていたドートにまで届く巨大な魔法陣が、アルを中心に地面に現れた。そして、その巨大な魔法陣から続いて出てくる鎖こそが、真の能力だ。


「……行け」


 アルの声に反応するかのように魔法陣が光る。すると、幾つもの細い鎖が、魔法陣から飛び出てきた。五十を容易に超す鎖は勢い弱まることを知らず、飛び出てきた速度のまま盾の内壁に当たる。

 アルの魔力で作られた分断用の盾、そして勢いよく飛び出してきた鎖。両者は共存し、反射した。無数の鎖が無数に反射し、辺りは鎖だらけとなる。

 まるで、ジャングルの中の蔦のようだと、イクトは小声。現れた無数の鎖にドートも驚いていると、目の前には刀が光っていた。ずば抜けた反応スピードで刀を躱し、距離を取る。だが、すぐに鎖にぶつかった。


「邪魔だな、ちくしょう!」

「それは、大変ですね」


 更にイクトは刀を振った。ドートも二度目はさすがに防げず、攻撃を喰らってしまった。


「準備は整いました。あとは撃つだけ」

「てめえらなんかにゃ俺は倒せねえよ!」

「ああ、そうですか」


 興味が無くなった。イクトの放った言葉は無気力だった。鎖が、ジャングルの蔦のように張り巡らされたことで、この密閉空間内での身動きはとりにくくなっている。そして、張り巡らされた鎖は、別に固定されてなど居ないのだ。

 刀を地に指し、魔力を高め、詠唱も終える。


暴風大回転(ボアーン・テンペスタ)


 修行の時とは違う。まるで、自然災害のように猛烈な風が刀を中心に吹き荒れる。荒ぶる風は、動きを封じられたこの空間で大いに暴れる。

 敵も味方も関係ない。

 鎖を引きちぎり、その魔力の塊は砕け暴れ、鞭のようにも破片のようにも姿を変えながら、ただ破壊の限りを尽くすのみだった。

 

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