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英雄気取りの三番目  作者: 工藤ミコト
第四章【魔闘祭】
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46 決勝戦⑤


「なるほどな、そういう狙いか……」


 光沢の美しい銀縁眼鏡を指で直し、吐き捨てるように呟くエリック。白い正方形の箱に囚われながらも、前に立つ赤髪の少年と、透き通った水色の髪を揺らす女子を、まるでごみ溜めを見るかのように見つめている。


「僕達を左右に分断し、さらに隔離。そこで動揺している隙を突く。そんなところか?」

「まあだいたい正解ね。アルの魔法で四対四から二対二にさせてもらったわ。ぶっちゃけそっちの方が戦いやすいからね」

「……やはり君たちは愚かだ。こんなことで動揺する僕らだと思っていたのか」

「だいたい正解って言ったでしょ? 私達は動揺を狙った訳じゃない。効率の問題なの」


 エリックは、向こうに見えるもう一つの箱を一瞥する。ティナはその目の動きをしっかりと見ていた。


「四対四だとね正直難しいのよ。狙撃、壁、そして君らの実力。最後はわからないけど、これで二つは解ったし阻止できたの。つまりチームワークを封じたの」

「何の話してんだよ……」

「ちょっと黙ってて、リュウ」


 黙れと言われたからには黙るしかないリュウ。仕方なく、自作の戦闘準備の舞を踊り出す。もちろん静かに、だ。ティナはそれを見て一瞬固まるが、また続ける。


「君は意外とすごい人よ。性格は冷酷で最低だけど、戦術は完璧。冷酷だけど自分以外の人の能力を活かし、冷酷だけど最高の戦術を組み立てることができる。だから、私達はこうするしかなかったの」

「くどいよ」


 ティナは、右手に隠した小さなメモをポケットにしまうと、一気に魔力を高める。


「まあ、私もよくわからないけどね!」


 * * *


「おいおいおい! 聞いてねーぜ! なんだよこれ!」


 辺りを白く囲まれたEクラスの生徒ドート・メインは楽しそうに叫ぶ。危機的状況、計画の破綻。そんな、自分にとって不利な状況を楽しめるタイプの人間だ。だからこそ残酷な戦闘を好み、そうして決勝まで勝ち上がってきた。


「どのくらいですか? これ」

「縦、横、高さ十メートル。これが限界だ」

「上出来です」


 しかし、ドートのハキハキとした叫びは誰にも届かない。謎めいた雰囲気しか纏っていないアルとイクトの二人には、届く筈もない。


「おい! テメェら! 俺の話を聞けェい!」

「あ、僕リュウに倒した後の事説明するの忘れていました」

「だいじょぶ。リュウは棒をちゃんと狙ってくれる。単純だから……」

「『勝った人から棒倒す作戦』完璧ですね」

「もう少し良い名前は無かったのか?」

「じゃあ、『棒倒すのは勝った人から、作戦』というのはどうでしょう」

「却下だろ」

「えぇー」


 ドートの声をことごとく無視する二人。それを見る当の本人は、とても悲しそうな目をしていた。虚しさが込み上げてくるような顔つきにまでなってしまっている。


「ちくしょー!」

「落ち着けよドート」


 慰められるが、それもまた悲しみを増幅させる。なんとも忙しい少年である。


「まあいいぜ、どっちみち俺らもこんな感じの作戦をやろうと思ってたからな!」


 斜め上を向いたドートから出る言葉に、イクトは小さくため息をつき返事をする。


「真似しないでくださいよ」


 冷徹な笑みを乗せて。


「よくわかんねえけど先手必勝!」

蛇暴砂(サンドスネーク)


 ドートが放った蛇を象った砂。下級魔法ではあるものの、一粒一粒の末端まで魔力は込められ、威力スピード共に優秀なその魔法は、一ヶ所に固まるアルとイクトに向かう。


瞬盾(プロテクション)


 咄嗟にアルは防御魔法を展開するも、不完全であるために押されてしまう。

 先の分断作戦で魔力をほとんど使ってしまったアルは、既にあと四回も魔法を使うことが出来ない状態になっていた。そのため、小さな魔法は極力自力で避け、大きな魔法のみ防御する作戦を実行している。


「砂って案外斬れないものですね」


 アルの補助魔法が無い状況でも、イクトは呑気に砂に刀を当てるが、やはり無駄であった。ドートの出した砂の蛇は軟らかい。


「困りますよ。むさ苦しい男だけの空間で、更に砂まみれにならなければいけないだなんて」


 もう、作戦を立てるのやめただろ。アルはそう口にしようとしたが、喉の奥でその言葉を圧し殺す。気づいたからだ。イクトが、刀を鞘に戻したのを。攻撃の準備なのだと。


「神風流抜刀術弐ノ型【神楽歌】」


 イクトは刀を瞬時に居抜き、地を這わせる。それによって生じた石礫が砂の蛇を襲う。さらにイクトは砂の蛇へと攻めこむ。


天空戦刃(ブルーム・ウォルサー)


 イクトの起こした右へ左へと舞う風が、バラバラになった砂をさらに散らせ、これ以上の再形成を防いだ。纏う魔力も感じられない程に細かくなった砂達は、スタジアムに還っていく。


「ほんと、嫌になりますね。『これだから庶民は困るのだ』」

「似てない」

「あれ、自信あったんですけどね」


 砂を払いながらかましてくる、イクトの分かりにくいギャグをアルは冷静に対処しつつ、相手二人の分析を開始する。


「エリックさんはそんなんじゃねぇ!」

「こうやるんだよな。『実に愚かだ!』」

「フッ、やはり僕の方が上手いですよ」


 ドート達二人は、イクトの無意味なギャグに乗ってきてしまった。それに対しイクトも、相手二人の反撃に真っ向から対立してしまう。

 しかし、それも狙い通り。イクトが大変分かりにくいギャグをかまして “時間を稼いでいる” 中で、少しずつだが魔力が回復している。

 さらには次なる策まで思案する事も出来る。相手の単純な性格を巧みに利用した、イクトらしい策。

 イクトの隙の無さに感心しながらもしっかりと頭を働かせていたアルは、取り敢えずの勝利への近道を探し出した。


「コケッ、コケッ、コケーー!」

「似てるねドート!」

「まあ、まずまずと言った所ですかね」


 どうしてそうなった、と。またも、喉まで出かかった言葉を必死で圧し殺し、代わりにイクトの耳元で作戦を伝えるアルの顔には、敗北感など微塵も無かった。


「それじゃ、行きますよ」


 イクトは魔力を高める。しかし、それよりも一歩だけ早く、ドートの魔力は高まっていた。狙っていたのはドートもまた同じであった。


奈落(フォールアウト)


 出したのは魔闘祭準決勝でも見せた全てを飲み込む暗い沼。簡単に召喚してしまう実力の持ち主だとイクトは再び感心し、それと同時に倒すべき相手を倒す優先順位が決まった。二人は直ぐに脚を強化し飛ぼうとしたが、相手の魔法の方が先に完成していた。脱出できたは良いものの、飛ぶ瞬間に少し飲み込まれていたために、ジャンプの高さが足りていなかった。このままでは、すぐに沼に入ってしまう。


「受け身取ってくださいね!」

風撃(ウィンド)


 咄嗟の判断でイクトは自分達に向け風を吹かせた。沼があった位置からは離れたが、どちらもバランスを崩し地面に倒れ込む。


「どうだ! ビビったろ! そしてこの間にも俺達はどんどん攻めちゃうぜ~」


 ドートがありがたく次の手を説明し終わった直後に、その隣で詠唱を続けていた男子生徒も準備が完了した。


砂式砲塔(サンドバズーカ)


 ドート達の足下の土が崩れ始め、徐々に砂の塊となる。魔力をたっぷり含んだ砂の塊は幾つにも及び、ドート達の周りを浮遊している。

 正確には“していた”。十ある砂の塊は、一斉に照準を合わせたかのように動きを止めた。そして、豪快な砂煙を撒き散らしイクトとアルの方へと向かってきていた。


 * * *


【次元転送・アフラクラトル】


 相も変わらず、まるでゴミ箱に紙くずを投げ入れるかのように詠唱を吐き捨てるエリック・ベルナルド。彼の聞くだけでも不愉快な詠唱によって、空間は歪み目的のものが姿を現す。現れた何かの柄のようなものを手に取り、エリックはそれを大きく引き出した。

 現れたのは白銀に輝く槍だ。

 細く長い柄の倍以上の大きさの円錐が取り付けられた、刺突という攻撃に特化した槍だった。すべてを浄化し得る程の高貴な輝きを放つ、聖なる槍は、すぐにエリックの魔力に覆われる。

 間違いないと、ティナは小さく溢す。これで完全にそれは魔法武器だと確定した。


「随分綺麗な武器なのね。性格に合ってないじゃない」


 ティナが探りを入れるがエリックにとってはそのような心理戦など朝飯前。自分の武器のネタバレはしない。


「君達は本当に愚かだ。少し捻っただけの浅知恵をかましたくらいで勝った気になり、つけあがる」


 両手足を強化し、精一杯に踏み込む。右手に収まった白銀の槍に、渾身の魔力を込めて単調に突きを繰り出す。

 ただ流れるような単調なその攻撃は、言うほど単調ではなかった。槍を得意とするベルナルドの武術を扱うからには、その初期動作の重要性はしっかりと教え込まれている。

 故に速い。そして、重い。

 リュウの炎に包まれた拳でも、まともに力比べが出来ない程だった。槍と拳とがぶつかり合う最中にネリルも、魔力の塊を飛ばし攻める。


「つけあがってなんかねー!」


 リュウは向かってくる白銀の槍目掛け、目一杯に高めた豪炎を纏った拳を振り抜く。何百と突き極めた槍の初撃と、力任せでその場凌ぎの拳の迎撃。勝利を納めたのは勿論前者だった。小さな爆発を起こし炎の拳を砕かれたリュウは、元いた場所まで戻される。


「やはり愚かだ。安い挑発に乗ったあげく僕に一撃すら入れられない」

「ああもううるせーな! クドクドと何が言いてーんだよ!」

「君とは話すだけ無駄なようだな」

「むかつく野郎だな。マリーの事と言いよぉ!」

「ふん、知るものか……」


 エリックはこの言葉を最後に会話を打ち切る。そして再び魔力を纏った白銀の槍を突いてくる。リュウはストレートではなくフックで返す。狙いは、不本意ながらエリック本体ではなく、槍。それだけに、エリックは反応が少し遅れた。

 刺突にのみ特化された槍では今から対応することは叶わず、エリックの放った突きは地面へと向けられた。

 隙が出来たエリックにリュウは殴りかかるが、ネリルの魔法球によって、それは阻まれる。

 ティナが気づき応戦をするが、それは後の祭り。エリックは一瞬できた時間で体勢を直し終え、リュウに槍を向けた。


「何度も同じ手に引っ掛かるかよ!」


 向かってくる槍に、自分も向かいながらリュウは叫んだ。両手に炎を纏わせ拳を握り、右手を振るう。体制を低くしたことで、初撃を躱しながら槍に拳打を与える。直進していた槍は再び進路を変え、横から飛んできたネリルの魔力の塊と衝突。

 リュウは一瞬で二つの攻撃を躱した。すぐにリュウはバックステップで距離をとる。それは、絶好のチャンスなのだ。


「“聖なる炎よ、我が命に従い敵を討つ球となれ”」

「“聖なる水よ、我が命に従い敵を討つ球となれ”」


魔炎球(フレイム・スフィア)

魔水球(アクア・スフィア)


 ほぼ同時にリュウとティナは魔法を放った。二人ともタイミングは完璧なのだが、属性の相性は最悪だ。放たれた炎と、大きな水は、狙う場所が同じである故に互いにぶつかり合ってしまった。バシュッという蒸発音を出し、完璧な魔法が完全に掻き消えた。


「は?」

「え?」


 瞬時に状況を理解することができない二人。それを気遣ってか少しだけエリックは攻撃を止める。彼なりの優しさだった。


「何やってんのよ! 今は私の番でしょ!?」

「はあ? 別にいいだろどっちでも」

「良くないんですけど、チンケな炎とかいらないんですけど」

「知らねーよ、俺は今ムカついてんだよ!」

「それこそ知らないわよ!」


 いつもの不毛な争いが始まった。その争いを止めることはもう、目まぐるしく流れる時間以外には不可能となるまでに発展していた。

 

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